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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

第136話 見えた希望と始まる検証

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 私のためにアライアが用意してくれた銃型の杖。二対で一つと思われるそれを両手にとって構えてみると、思いの外、手に馴染んでしっくりくる。

「……意外と軽いんですね。もっと重いものかと思ってました」

 手に持った二対の銃杖は鉄の塊とは思えないほど軽い。これなら戦闘時でも邪魔にならないし、携帯にも便利だ。

「そりゃルーコちゃん専用の銃杖だからね。戦闘の支障にならないよう比重は軽くしてあるんだよ。普通の銃だったらもっと重くて扱いづらいんじゃないかな」
「私専用……あれ?でもそういうのって受注から生産までに時間が掛かるんじゃ…………」

 本の知識でしか知らないけど、普通に考えてこの手のものを作るのなら最低でも一か月は必要……少なくとも、私が後遺症を負ってから注文してからじゃ間に合わないと思う。

「うん、だからこの銃杖の製作は結構な時間が掛かってるよ。元々はルーコちゃんの昇級祝いとして用意してたものだからね」
「……昇級祝いなんて用意してくれてたんですね……その、なんというか、ありがとうございます」

 きっと私が昇級試験に受かり、晴れて一級魔法使いになったら渡すつもりだったものなのだろう。

 仕方がないとはいえ、今、受け取ってしまう事への申し訳なさを感じながらも、お礼を口にすると、アライアは頬を掻きつつ、困ったような笑みを浮かべた。

「……えっと、何を考えてるか、なんとなく想像つくけど、気にしなくていいからね。どのみちルーコちゃんに渡す予定だったし、それが早まったところでどうって事もないからさ」

 気にするな、と言われてもたぶん、私はどうしたって気にしてしまう。だからまあ、申し訳なさを抱きつつも、渡されたこの銃杖に見合うよう、努力していくしかない。

「…………分かりました。それじゃあ遠慮なく使わせてもらいますね。それじゃあまずは…………どうしたらいいですか?」

 気持ちを呑み込み、いざ試そうと思ったのだが、いまいち何をどうすればいいか分からない。

 まさか単純に引き金を引けばいいというわけでもないだろう。

「うーん……そうだね……私も銃に魔力を込めた事はないから感覚は分からないけど、まあ、こう、手足の延長だと思って強化魔法を乗せるみたいな感じ……かな?」
「は、はあ……?ええと、銃を手足だと思って強化魔法を使う……うーん…………」

 抽象的なアライアの説明に困惑しながらも、どうにかやってみようとするが、いまいち上手くいかない。いっそ、引き金を引いてみるのはどうかと恐る恐る指先を掛けてみる。

「あ、そういえば魔力を込めないまま引き金を引くと普通に弾が出ちゃうらしいから注意してね」
「へ――――っ!?」

 その瞬間、アライアの言葉に気を取られた私は思わず引き金に掛けた指を引いてしまい、撃鉄が打ち鳴らされ、凄まじい衝撃と共に身体ごと後ろに吹き飛ばされてしまった。

「……おいおい、気をつけろよ?強化魔法があれば致命傷にはならないといっても、無防備なところに弾が当たれば、ただじゃ済まないからな」

 予想外な暴発で吹き飛ばされた私にレイズが呆れた様子で注意する。これに関しては事故の側面が強いとはいえ、私が悪いので何も言い返す事はできない。

「……ルーコちゃん大丈夫?」
「はい……大丈夫です。すいません、私の不注意で…………」
「まあ、仕方ないっスよ。渡してから注意したアライアサンも悪いっスから」

 心配して声を掛け、手を差し伸べてくれたノルンとリオーレンにお礼を言いつつ、立ち上がり、熱を持った銃身に目をやる。

これが銃……凄い反動だったけど、強化魔法を使えば耐えられそう……でも、普通に撃つだけじゃ何の意味もない。魔力を込めて撃てるようにならないと……

 再び暴発させないよう、したとしても危険が周囲に及ばないように気を付け、銃口を何もないところに向けて目を瞑り、魔力の流れを意識して集中する。

アライアさんの言葉を参考にするなら感覚的には目に魔力を集めて強化するのが近いかな……ならそれを銃杖に置き換えて…………

 視力強化の応用を使い、魔力の流れを意識しながら全身……そして両の手に握った銃杖へと巡らせていく。

何だろうこの感覚…………少ない魔力なのにいつも以上に力が出せるような……これなら――――

 不思議な感覚と共に魔力を循環させたまま身を任せると、両手に持った銃杖が淡く発光し始めた。

「これは…………」
「銃杖が魔力に反応してる……?」

 目に見えて現れた変化に周りが驚く中、私は銃杖へと流れた魔力を魔法に変えようと試みる。

頭に浮かべるのは風……難しい魔法じゃなくていい……できるだけ単純な……それでいて使い慣れているもの…………

 使う魔法を決めた私は魔力を練り上げながら銃杖へと込めてその呪文を口にし、引き金を引いた。

「――――『風を生む掌ウェンバフム』っ!?」

 瞬間、両の銃口から小さな風の塊が射出され、その予想外な威力に私の身体は再度、後方へと派手に吹き飛ばされてしまう。

「魔法が…………使えた……?」

 吹き飛ばされた衝撃で尻もちをついてしまい、じんじんと鈍い痛みが走るが、それよりも私は魔法が使えた驚きの方が大きく、呆然と両の手の銃杖を見つめる。

今の魔法……私はいつもと同じくらいの魔力を込めただけなのに、倍以上の威力が出てた……これが杖の力…………?

 これなら今の私でも前と同じか、それ以上に戦えるかもしれない。

 そんな予感に私は期待を膨らませ、もう一度、試してみようと立ち上がり、誰もいない方向に銃杖を構え、呪文を口にしようとする。

「――――はい、ルーコちゃんちょっと待ってね」
「っ……?」

 構える私の手を押さえ、魔法の行使を止めるアライア。まだ魔力には余裕があるし、身体の調子も悪くない。

 だから別に止められる要素はないはずなのにという疑問と抗議を込めてアライアの方を向く。

「魔法を使えて興奮してるのは分かるけど、落ち着いて。闇雲に試すんじゃなく、何ができて、何ができないのかを検証していかないと」
「…………そう、ですね。すいません、ちょっと夢中になり過ぎてました」

 アライアの言う通り、私の魔力量じゃ一日に使える魔法は限られているのだから、きちんと考えないと、検証だけで何日も使ってしまう羽目になるだろう。

「分かったならよろしい。それじゃ、まずは風を中心に各属性魔法をためしてみよっか――――」

 結局、その日は残った時間と魔力を全て検証に回し、今の私ができることを見つけていく事に費やすのだった。
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