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第二章 エルフのルーコと人間の魔女

第41話 歓迎会とウィルソンの豪華な料理

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 紆余曲折あったが、無事に三人からの自己紹介が終わり、最後に私の番が回ってきた。

「━━改めまして倒れていたところを助けて頂きありがとうございます。私はエルフのルルロラ。集落ではルーコと呼ばれていました。これからよろしくお願いします」

 私は今までで一番丁寧、かつ改まった言葉遣いで頭を下げ、お礼と自己紹介をする。アライアとサーニャからそんな畏まらなくてもいいのにという視線を向けられるが、ここは譲れない。

 これからぱーてぃとして過ごすのだから、礼儀を尽くすのは当たり前だ。

 まして私の事を気に入らない人がいるなら尚更こういう部分はちゃんとすべきだろう。

「おう、じゃあ俺もルーコの嬢ちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「私もそうさせてもらうわねルーコちゃん」
「…………」

 約一名を除いて好反応だった事に安堵し、胸を撫で下ろす。正直、その一名に関しては私がどう言ったところで同じ反応だっただろうけど。

「━━よし、それじゃあお互いに自己紹介も終わった事だし、ルーコちゃんの歓迎会をやろうか」
「へ……?」
「ですね!一人不貞腐れてるバカ兄は放っておいてみんなでやりましょう」
「なっ、誰が……」
「そうね、トーラスはご飯抜きでいいんじゃないかしら」
「だな、折角いつもより豪勢な料理を作ったんだが、歓迎会に歓迎してない奴を参加させるわけにはいかないしな」

 突然の展開に戸惑う私とサーニャの一言で生まれた流れから省られるトーラス。

 奇しくも認める認めないで揉めている二人が似た反応を示した現状、半分は冗談だろうが、それでもこの流れはトーラスにある程度の譲歩ないし、歩み寄りがなければ本当に歓迎会への参加が出来なくなってしまうだろう。

「ぐっ…………ま、まあ、アライアさんがパーティ入りを許した以上は僕にそれをひっくり返す権利はないからな。ひとまず、歓迎はしよう」
「……日和ひよったな」
「……日和ひよったわね」
「……最低」

 なおもぶつけられる厳しい言葉と視線に罰の悪そうな表情を浮かべるトーラスを流石に見ていられなくなったのか、アライアが仕方がないといった顔をしながら救いの手を差し伸べる。

「まあまあ、みんなその辺にしてあげなよ。トーラスも歓迎するとは言ってるんだから、ね?」
「……アライアさんがそう言うなら」

 半分冗談めかしていた二人と違い、どうやら本気でトーラスを放っておくつもりだったらしいサーニャは少し不満げながらも、一応は納得を見せた。

「ごめんね。ルーコちゃんもこれでいい?」
「え、あ、はい。私は別に……」

 その物言いに対しては思うところがあったものの、元々そこまで怒っていた訳でもない。一応とはいえ、全員が納得したなら私には何も言う事はなかった。


 部屋での一悶着を終え、この建物の中でも一際広い大広間のような場所へ案内された私は目の前に広がる豪華な料理達に目を奪われていた。

「わぁ……全部見た事ない料理だけど、凄い美味しそう……」

 その光景を前にした私は外聞を忘れて思わず素直に感嘆の声を漏らしてしまう。

料理の一つ一つから複雑だけど良い匂いがして、嗅いでいるだけでお腹が減ってきた……。

 エルフの集落では採れる材料や調味料が限られているため、作れる料理の幅にも限界があった。

 そんな中でも姉の料理は飽きないよう工夫が凝らされていて美味しかったが、目の前に並ぶ料理達は根本的に私の食べてきたものとは違う気がする。

「みんな席に着いて。あ、ルーコちゃんはサーニャの隣ね」

 促されるままに各々が席に着いたところで、アライアが全員を見回し、こほんと咳払いしてから口を開く。

「それじゃあ折角の料理が冷めちゃうとあれだから、細かい事は抜きにして早速ルーコちゃんの歓迎会を始めようか」

 アライアの一声を合図にサーニャ達が手を合わせたのを見て、私もそれに習い手を合わせる。

「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「い、いただきます……?」

 戸惑い遅れながらも、サーニャ達に合わせていただきますの言葉を口にする。

 集落にいた頃は食べる前に何かを言うなんて事はなかったため、おそらくこの食べる前に手を合わせていただきますと言うのは人間達特有の文化なのだろう。

 そんな事を考えつつ、目の前に置かれた料理をすくい、口に運ぶと、今まで味わった事のない複雑かつ、旨味に溢れた味わいに思わず目を見開いた。

「美味しい……!これは何の料理なんだろ……」
「おう、それはグレイバッファローから絞った乳から作ったチーズをふんだんに使ったグラタンだ。美味いだろ」

 私の反応に料理を作ったらしいウィルソンが嬉しそうに説明してくれる。

 正直、分からない単語がいっぱいあって説明されても理解できない部分が多いのだが、それでも理屈抜きに美味しいのは確かなので頷き、きちんとその旨を伝えて返す。

「ウィルソンの腕前はプロの料理人にも引けを取らないよ。これを食べたら他の人の料理が物足りなくなってくるからね」
「本当にそうよね。正直、冒険者やるよりもお店を開いた方が稼げると思う」

 ぷろという言葉の意味は分からないが、確かにこの料理ならお店を開いた方が稼げるというのも納得の美味しさだ。私が初めてこういう複雑な料理を食べたという事を差し引いても、その腕前は疑いようもないだろう。

「……褒められるのは嬉しいんだが、それを理由に料理当番を俺に任せっきりな事には思うところがない訳じゃないぞ?」
「……いや~本当にウィルソンの料理は美味しいね」
「……本当、本当、どれも絶品よね」

 ウィルソンから抗議の言葉を受けてあからさまに話と視線を逸らすアライアとノルン。どうやらこのぱーてぃの料理はウィルソンに頼りきりらしい。

「……私は料理が苦手だから」
「……ぼ、僕も料理は専門外で」
「…………ったくどいつもこいつも」

 残りの二人、サーニャとトーラスの兄妹に関しても揃って料理が出来ないようで、ウィルソンが呆れ混じりのため息を吐く。

「……その、私も料理の経験が多い方じゃなくて、それでも良ければお手伝いさせてください」
「おお、そりゃありがたい。そんな事を言ってくれるのはルーコの嬢ちゃんだけだよ。ほら遠慮せずにどんどん食いな」

 手伝うという言葉に気を良くしたのか、ウィルソンが私の前に色々な料理を盛った皿を持ってくる。

……お世話になる以上は料理を手伝うくらい当たり前だと思って言っただけなんだけど……まさかここまで喜ばれるなんて。

 次々と目の前に並べられていく皿を前にそんな事を考えながらこんなに食べられるだろうかという心配をしつつ、料理に舌鼓を打つ。

 量は多くとも、料理全てがとても美味しく、気付けばお腹がはち切れそうになるまで食べ進めていた。

「ふー美味しかった……」
「もう食べられない……」

 それはこの場にいる全員が同じだったらしく、それぞれ満足気な表情を浮かべている。

「……正直、作り過ぎちまったと思ったんだが、まさか綺麗に全部なくなるなんてな」
「それだけウィルソンさんの料理が美味しかったって事ですよ」

 最初に食べたぐらたんもそうだが、私にとっては全部が未知で、満腹感に気付かないくらい夢中になるほど美味しいものばかりだった。

元来、小食な私でもウィルソンさんの料理ならそれこそはち切れるまで食べたいと思える。

「……ま、美味しかったってんならそれでいいさ。さて、じゃあぼちぼち片付けを始めるとするかな」
「あ、それなら私も手伝います」

 皿を重ねて片付けようとするウィルソンに習って私も食器を固めてその手伝いをしようとするも、横から伸びてきたサーニャの手によって止められてしまう。

「だーめ、ルーコちゃんは今日の主役なんだからゆっくりしてて?片付けは私達がやっとくから」
「え、でも……」

 手伝うと言った手前、そういうわけにはいかないと食い下がろうとする私の背中を押して無理矢理立たせ、扉の方に向かわせてくる。

「いいからいいから。アライアさん、ルーコちゃんを連れてってください」
「ん、了解。丁度話したかった事もあるし」
「それなら僕も同席━━」
「はいはい、バカ兄はこっちで片付けを手伝う!」

 席を立ち、部屋を出ようとするアライアに続こうとしたトーラスの首根っこを掴み、サーニャが無理矢理引き摺って連れていった。
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