40 / 156
第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第38話 魔女への条件といじけるサーニャ
しおりを挟むもう何度目かの問いかけ、その具体的な内容に切り込んで尋ねるとアライアは少し考える素振りを見せてからそれに答える。
「うーん……ルーコちゃんは魔法使いだから目指すのは私と同じ〝魔女〟なんだけど……そこに至るまでの方法は二つ、下から一つずつ上げていくか、互いの合意の上、正式な場で〝魔女〟を倒す、もしくは殺す、そのどちらかだね」
「……殺すなんてずいぶんと物騒ですね」
下から上げるというのは分かるが、まさかそんな血生臭い方法があるなんて思いもしなかった。
「……そうだね。とはいえ、その方法で〝魔女〟になったのは一人だけだから、実質、下から一つずつ上げていく方法の一つだけになるかな」
「……一人はいるんですか」
〝魔女〟という存在の強さはさっき身を持って知ったばかりだ。
もちろん、〝魔女〟全員がアライア程の強さを持っているとは限らないが、それでも〝魔女〟という位を冠した魔法使いを倒すないし、殺してその称号を得た人がいるというのには驚くほかない。
「まあ、その一人は例外みたいなものだし、気にしなくてもいいよ。それで肝心の具体的な方法なんだけど━━」
「あ、それは私から説明しますよ」
アライアがそこまで言いかけると、言葉を遮るように会話に入ってきたサーニャが説明を引き継ぐ。
「まず一番下の三等級は申請して登録すれば誰でもなれるからいいとして、そこから二等級に上がるには依頼をいくつかこなしてから試験を受けないといけないの」
「試験……?」
なるほど、二等級が一人前という認識なら、きちんと依頼をこなせるのかを見てから試験でそれを直接確かめるというのは妥当な方法だ。
「うん、試験の内容はその時の試験官が決めるからまちまちだけど、そこまで難しいものはないから大丈夫だと思う。で、その次、一等級に上がる方法も基本的には二等級の時と同じなんだ」
「え、同じ……?」
一等級が天才という評価で、なおかつそれを得るのが難しいと言われているのに、昇級方法が二等級と同じというのはどういう事なのだろうか。
「そう、依頼をこなして試験を受けて合格すると晴れて一等級の仲間入り……なんだけど、問題はその試験が物凄く難しいって事なの」
「……サーニャも今までに二回落ちてるしね」
やけに実感のこもった口ぶりでそう言うサーニャの後に続いてアライアがぼそりと呟く。
「……そうなんですか?」
「うっ……それは……うん……そうだよ。私は一等級魔法使いの試験に二回落ちてるんだ。だからその難しさを嫌という程知ってるの」
試験の事を思い出しているのか、げんなりとした表情を浮かべるサーニャ。
まだ会ったばかりでサーニャの実力を知らないからなんとも言えないが、それでも二回落ちているという事実から、その試験が一筋縄ではいかない事が窺える。
「一等級は確かに二等級と同じ昇級方法だけど、二等級の時と違って試験の内容が決まっているんだ」
今度はアライアがげんなりとしたサーニャに代わって説明を続けた。
「?決まってるならそれに合わせて対策できたりするんじゃ……」
私の至極もっともな疑問にアライアは首を振ってそれを否定する。
「そういうわけにもいかないんだよ。何せその試験内容は一等級以上の資格を持つ試験官との模擬戦なんだから」
「……それは確かに対策のしようがありませんね」
事前に相手が分かるなら調べようもあるが、試験というからにはそれが分からないよう配慮してあるだろうし、そんな中で格上である一等級以上の人と模擬戦をするというのだから、確かにそれは難しい。
「まあ、必ずしも試験官に勝つ必要があるわけじゃないからね。一等級に相応しい実力があると示せれば合格できるよ」
「……じゃあそれに二度も落ちてる私は二等級がお似合いって事ですか」
半ばいじけたようにそう呟くサーニャにアライアが苦笑いを浮かべる。
「そんなに自分を卑下する事はないよ。サーニャの年で二等級になれる人なんてそうはいないし、次は一等級の資格も取れるさ」
そもそも二等級の資格を持つのが一人前なら、サーニャの年齢でそれを持っている事が凄いというのは、人間の世界に明るくない私でも分かる。
それに大半の人が二等級で終わると言われる中、すでに一等級の試験に二回も挑んでいる時点で優秀なのは明らかだ。
「……でもルーコちゃんは私よりもちっちゃいのに凄く強いですよ?」
「それは彼女がそういう環境に身を置いてたからだよ。あとはルーコちゃんに魔法を教えた人の教え方が上手かったからというのもあるだろうけどね」
なおも拗ねた様子のサーニャに対してアライアがそう言い含めた。
確かにアライアの言っている事は正しい。
アライアに実力を見るという意図があったとはいえ、姉からの特訓を受ける前の私だったら、それこそ何も出来ずに模擬戦は終わっていただろう。
いや、それ以前の問題かもしれない。たぶん姉からの特訓がなければ私は道中で魔物に殺されていた筈だ。
「その理屈だとアライアさんの教え方が下手くそって事になりません?」
「……サーニャって時々、無意識に毒を吐くよね。それもかなり的確な」
言葉を選ばないサーニャに呆れ混じりのため息を吐きつつ、アライアは肩を竦める。
「教え方が下手くそっていうのは耳の痛い話だけど、そもそもサーニャは私が教えようとすると逃げるでしょ?」
「う……だ、だってアライアさんの特訓は厳しいから……」
気まずそうにアライアから目を逸らすサーニャ。正直、その気持ちが分からなくはないだけに、同情を禁じ得ない。
「あ、あー……えっと、あの、それで一等級より上に上がるにはどうしたらいいんですか?」
困っているサーニャに自分を重ねて見ていてられなくなり、助けを出すような形でアライアに質問をぶつける。
「ん、ああ、ごめん。少し話が逸れたね」
元はと言えば話を逸らす要因を作ったのはサーニャなので、アライアが謝る必要はないのだが、そこをつつくと話がややこしくなるためあえて触れないでおく。
「えーと、一等級から上に上がる方法はそれぞれの役割で異なるんだけど、魔法使いの場合に必要な条件は二つあるの」
「二つ……もしかしてまた実績と試験ですか?」
それぞれ異なると言っても、二等級、一等級の延長線上にあるのならその可能性もなくはないと踏んで尋ね返すもアライアは首を横に振る。
「実績があるに越した事はないんだけど、それは最低条件。本当に必要なのは一つ以上の魔術を使える事と〝魔女〟からの指導を受ける事の二つなの」
「魔術に〝魔女〟の指導……?」
魔術を使える事が条件なのは分かるが、〝魔女〟からの指導を受けるというのはどういう事なのだろうか。
「うん、あ、その前に魔術がどんなものなのかの説明は必要かな?」
「……五小節以上の文節で区切られた強力な魔法の総称ですよね。さっきアライアさんか使ったものみたいに」
人間の世界での分類がどうなっているかは知らないし、集落にある資料は古いので合っているかは分からないが、少なくとも私の読んだ本にはそう記されていた。
「その通り。使えればそれだけで魔法使いとして称賛にされ、それと同時に魔法使いの二つ名としても刻まれる魔法……それが魔術」
つまりアライアの二つ名である〝創造〟というのは模擬戦で見た魔術が由来だという事だ。だとすると、あの魔術の効果もなんとなく見えてきたような気がする。
「で、その魔術を使える事が一つ、そしてもう一つの〝魔女〟の指導を受けるっていうのはまあ、言葉通り、〝魔女〟の元で教えを乞うって事だね」
「教えを乞う……あれ?でもその条件だと最初に〝魔女〟になった人は一体……」
指導が条件になっている以上、後にも先にも〝魔女〟という存在は欠かせない。けれど、最初に〝魔女〟となった人にはそれがいないため、その条件は満たせない筈だ。
「ああ、この指導を受けるっていう条件は後から追加されたものだからね。これが適用されるより前に資格を得た人もいるんだよ」
「そうだったんですか……」
わざわざ後から条件を追加したという事は、何か指導が必要になると思わせられるような事があったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる