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プロローグ

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 こうなるんじゃなかった。
 俺はただ平和に暮らしたいだけだった。なぜ、なぜなのだ。俺の何がいけなかった? 俺は何でこんなに無力なんだ?

 激しく痛む胸部を押さえる。濡れた感触がして手を見てみると、俺の手は赤く染まっていた。さびた鉄のような匂いが鼻を刺す。咳をすると、胸の中から押し寄せてきた鮮血が地面に飛び散った。

「くそ……」

 覚束ない足取りで俺は立ち上がって敵と向き合う。
 魔神。
 人間のありとあらゆる負の感情から形成されている化け物。
 前には俺を庇うようにして友人二人が立ちはだかる。
 眼鏡をかけた癖毛の少年、さくが振り返る。俺の服からにじみ出ている血を見て、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

「……大丈夫か?」
「う、うん……何とかなる……」

 何とかならないかもしれない。俺はこのまま死ぬのかもしれない。
 助からないかもしれない、という恐怖が俺の全身を駆ける。痛い。怖い。苦しい。
 傷を負っているのは俺だけだ。友人は二人とも無傷。でも、彼らにも同じことが起きてしまうのではないのか。俺のせいで……

 ぽた、ぽた、と音を立てて鮮やかな赤の液体がしたたり落ちる。殴られたような痛みというレベルじゃない。刃物で血肉を切り裂いて傷口に塩を塗ったといった具合である。

 空を覆うようにして伸びる木の葉と、立ち込める暗雲のせいで昼間なのに辺りは薄暗い。加えて人気の少ない雑木林。ここで助けを求めても、魔神との戦闘能力がない人間が巻き込まれるだけだ。

「どうすればいいんだよ……」

 マッシュの黒髪とエメラルドグリーンの瞳の少年こと、晴輝はるきが落ち着いた声で俺に問いかける。

結斗ゆいと、もうちょっと我慢できる?」

 流石、普段から戦闘時に落ち着きを払う練習をしている晴輝だ。冷静な判断が必要な今、藁にも縋るような思いで俺は助けを求めた。

「もう無理かもしれない……」

 視界がぼやけ、俺は立っているのか倒れているのか分からなくなる。周りがほとんど白く見える。考えることもままならない。

「晴輝、今から一か八かで——」

 朔の言葉が途中で切れる。否、俺にはもう何も聞こえない。どうにか意識を保とうとするが、ここで終わりかもしれない。
 俺は死を自覚した。それは静かに俺を見据えて待っている。受け入れたくない。まだ俺は……
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