お后たちの宮廷革命

章槻雅希

文字の大きさ
上 下
2 / 8

断罪茶番劇の後始末

しおりを挟む
「フィーリャ公爵令嬢、皇太子が申し訳ないことをしたわね」

 レジーナ皇后は目の前に座る何れ義娘となるはずのフィーリャに詫びた。

 盆暗息子のプリンチペ皇太子が学院在学中に平民の阿婆擦れ娘アーヘラとの『真実の愛』に目覚めたとのたまい、あろうことか夜会の場で婚約破棄宣言をし、フィーリャにアーヘラを苛めたなどと冤罪を吹っ掛けたのだ。

「いいえ……皇后陛下が謝罪なさることではございませんわ。こうなることは覚悟しておりましたし。何しろ……」

「そうであるな。3世代続いての茶番ゆえなぁ……」

 フィーリャの言葉を引き取ったのはモナルカ皇太后である。

 そう、ここに集うレジーナ皇后もモナルカ皇太后も同じような茶番を現在の夫との間で経験しているのだ。

 勿論、そうならないように対策は取った。しっかり教育をしたし、婚約者と仲良く信頼関係を築けるようにもサポートした。

 茶番の切っ掛けとなる『ピンク頭(物理的にも中身的にも)の平民・元平民の下位貴族』を学園から排除もした。なのに、どこからか湧いてくる。それまでピンク頭(物理的にも中身的にも)じゃなかったはずの娘がいつの間にか染髪しているのだ。

 そうしてそれまでそれなりに優秀だったはずの皇子は盆暗へとなり下がる。

 魔法や洗脳の可能性も高いと防御魔法や護符・浄化などを試みるが、それも効果はなかった。結局、決まりきった運命でもあるかのように皇子は阿婆擦れに篭絡され冤罪断罪茶番劇を繰り広げ、婚約者とその協力者によって論破プギャーされるのがお約束になっている。

「この国に呪いでもかかっているのかと疑いたくなります」

 頭痛が痛いという顔をして、ミニストロ宰相が呟く。疑いたくなるではなく、実際に疑った。高名な神官や聖職者を他国から招聘して、解呪や呪い返しも試してもらった。尤も神官たちは『呪いはないっすねー』とも言っていたが。

「プリンチペは廃嫡します。王籍を剥奪し、去勢を施した後、アーヘラと婚姻させましょう。個人資産を持ち出すことは許可しますが……」

 そうきっぱりとレジーナ皇后は言う。個人資産の持ち出しを許すとは寛大な措置に聞こえる。何せプリンチペは皇太子だったのだ。当然それなりの資産を持つ。

 だが、これが『寛大な措置』ではないことをここに集う全員が知っている。

 皇太子の身に着ける衣服に宝石、佩剣は何れも高価なものだが、所有権はプリンチペではなく皇室にある。個人資産ではないから、プリンチペはパンツ1枚ハンカチ1枚持ち出せない。

 潤沢にあったはずのお小遣いという名の資産はアーヘラへの贈り物やら遊びやらで使い切っている。皇太子であるうちはお小遣いの他に『皇太子諸費』という名目で予算が組まれ、自由に使える。尤も本来皇太子諸費は社交や政治活動に使うための費用で、愛人とのデートや贈り物に使うものではないのだが。

 しかし、それだけでは足りなかったらしく、プリンチペは『皇太子妃予備費』という皇太子の婚約者に使うための金にまで手を付けた。

 余りに予備費の支出が頻繁(何しろアーヘラと出会う前の10倍)だったため、財務省が調べた結果、婚約者であるフィーリャには一切使われていないことが判明した。ゆえにプリンチペはその返還を求められている。つまり借金である。

 そして、借金も資産と見なされるのだ。つまり、プリンチペは無一文の上に巨額の借金を負って王家を追放となるわけである。なお、流石にスッポンポンで放逐するわけにはいかないので簡素な衣服と下着と靴は与えられる。

 アーヘラに贈った宝石やドレスを売却すれば一部は返済できるだろうが、中古品は新品より安くなる。買取は通常は売値の10分の1以下だ。つまり、プリンチペの借金は10分の1も返せないことになる。

 そのため、プリンチペとアーヘラは借金奴隷となって、完済するまで強制労働させられることになるのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は良いのですが、貴方が自慢げに見せているそれは国家機密ですわよ?

はぐれメタボ
ファンタジー
突然始まった婚約破棄。 その当事者である私は呆れて物も言えなかった。 それだけならまだしも、数日後に誰の耳目げ有るかも分からない場所で元婚約者が取り出したのは国家機密。 あーあ、それは不味いですよ殿下。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

冷徹だと噂の公爵様は、妹君を溺愛してる

下菊みこと
ファンタジー
シスコンな兄様に愛されている公爵家の姫君のお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 恋愛方面には行かない。 ざまぁは添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...