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パターンC:妹ならばそれに相応しく教育いたしましょう

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 まぁ、色々とございましたけれど、テンプレな関係でございますから、端折ってお話しいたしますわね。

 夫とは政略結婚でございます。まぁ珍しいことではございませんわね。

 夫は伯爵家の唯一子で跡取り息子、わたくしは子爵家の長女で兄2人、妹3人の6人兄妹でございました。

 爵位は夫のほうが上ではございましたが、我が家は代々王家の教育係を務めておりまして、家格と力関係は我が家のほうが上でした。

 何しろ国王陛下は祖父の教え子、王太子殿下は父の教え子、王太子殿下の第一王子の教師は兄が務めることが内定しております。

 更に母は王妃殿下の腹心にて王太子妃殿下の妃教育の教師を務めております。わたくしもその助手として次代の妃教育係としての研鑽を積んでまいりました。

 つまり、我が家の後ろ盾は王家そのもの。教え子たる王族の方々の信頼は分厚いものでございますわ。

 そんなわたくしが嫁いだ伯爵家には居候がおりました。夫の幼馴染で没落した男爵家令嬢。幼いころに夫の家に引き取られ妹同然に過ごしていたとか。

 わたくしの2番目の妹と同じ年ではございますが、なんと申しますか、伯爵家の義母は一体何を教育していたのでしょう。引き取って娘同然に扱っているならば、教育を施し、それなりの家に嫁がせるのが当然の責任ではないでしょうか。

 どうやら幼馴染の御令嬢は夫と結婚し伯爵夫人をなる野望を抱いていたようです。

 可憐な容姿と病弱を利用して、夫の厚い庇護を受けお姫様扱いされておりました。まぁ、病弱なのは仮病ですけれど。

 新婚初夜こそ邪魔されませんでしたが、事あるごとに少女はわたくしに対してマウントを取ろうと致します。鬱陶しいことこのうえもございません。

 夫も何かと少女を優先いたしますので、わたくしがもしかして彼女は愛人なのではないかと疑念を抱いたとしても当然ではないでしょうか。

 幸いなことに使用人たちは常識と良識を持っており、わたくしを若奥様として立ててくれました。

 わたくしが妃教育にも係わっていることを知った彼女たちは、仕事外の時間にマナー教育をしていただきたい、勿論少なくて申し訳ないが謝礼も支払うとまで言ってくれましたの。

 わたくし、勿論受けましたわ。使用人の質の向上は伯爵家のためにもなることですので、仕事の一環として教えることにいたしました。当然、謝礼はお断りしました。

 そんな風に使用人たちと良好な関係を築いていくと、幼馴染の少女は焦ったのでしょうね。

 これまで使用人たちは主である伯爵一家を慮って少女をお姫様扱いしていました。伯爵一家、特に女主人である伯爵夫人と次期伯爵である子息がそれを望んでいましたから。

 尤も分不相応な少女の要求は窘めたりしていたようですが、そのたびに夫からは理不尽な叱責を受けていたようで、そんな不満の愚痴も使用人たちは零してくれました。

「若奥様が頼りでございます」

 祖父の年齢に近い執事長に頭を下げられたときにはどうしようかと思いましたわ。

 なので、少女が夫に対してのマウントを取ってくるたび、夫がわたくしよりも少女を優先するたびにに燻っていた不満をついに夫にぶちまけたのです。反応を予測したうえで。

 案の定、わたくしの『彼女はあなたの愛人ではないのですか』というわたくしの詰問に夫は『彼女とはそんな関係ではない。妹のようなものだ』と宣いやがりました。

 夫から『妹だ』との言質を取ったわたくしは『であれば、わたくしも彼女を妹として遇しますわ』と宣言しました。それに夫は安堵したようです。巧く誤魔化せたと思ったのでしょうね。

 真っ赤な嘘であることは重々承知。夫は彼女を愛人にしたがっています。

 尤も、彼女はそんな夫の気持ちを知ったうえで決して体の関係を結ばずに夫を手玉に取っておりました。彼女の狙いは正妻です。簡単に体を許しては愛人に据え置かれてしまいますものね。

 幼いころに極貧生活を送った彼女は中々にシビアで強かでした。お坊ちゃま育ちの夫では相手になりませんわ。

 夫に宣言いたしました通り、わたくしは少女に『あなたを実の妹と思って接することにいたしました。よろしければお姉様と呼んでくださる?』とにこやかに申し出ました。

 少女はわたくしが自分に屈したとでも思ったのか、無邪気を装って頷きましたわ。かかりましたわね。

 それからはわたくしは実の妹に接するかの如く、彼女に対しました。

 そう、我が妹たちに施すのと同じ令嬢教育を彼女に叩き込むことにしたのです。

 だって、彼女、余りにもマナーも礼儀作法もなっておりませんし、常識が欠けておりますもの。折角愛らしい顔立ちをしているのに勿体ない! まだ14歳でデビュタント前なのですから、今なら間に合いますわ!

 ……14歳を愛人にしようとしている夫、有り得ませんわ……。20歳を過ぎるまで婚姻していなかったのはもしかして幼女趣味があったのでしょうか。

 ともあれ、今の彼女のマナーや礼儀作法では社交界には出せませんわ。折角の美貌が宝の持ち腐れになって、それこそ夫のような阿呆の愛人になるしかありません。

 ですので、妃教育係の助手としてのプライドにかけて、わたくしは彼女を貴婦人に育てあげることにいたしましたの。

 勿論、彼女は夫に泣きつきました。苛められると。当然、夫はわたくしを叱責いたします。

 けれど、わたくしだって貴婦人の端くれ。感情とは別にいくらでも涙をこぼすことはできますのよ。

『わたくしは彼女を実の妹のように思っておりますわ。ですから、妹たちが受けているのと同じく最高の貴婦人教育を施しておりますのに……』

 そうやって涙をこぼせば、夫は慌てて謝ってきました。強く言い過ぎたと。

 それとなく、夫に将来の愛人として相応しい教育を施していると思わせましたわ。彼女とならば一生仲良くやっていけそうだとか、本当の妹以上に可愛らしいとか、一生共に暮らせたら幸せだとか。

 夫は簡単に騙されて、少女を宥めすかしていました。少女が義両親に泣きついても、義両親はこれまで真面な教育を受けさせていなかった負い目もあり、少女を宥め、教育を受けるように告げていました。

 令嬢教育を受け始めて半年もすると、彼女も変わりました。これまでの伯爵家に疑問を持つようになったのです。

 教育の一環として次兄や従弟にダンスレッスンと称して本当の紳士がどのようなものかを見せたのも一因でしょう。夫への疑問を持つようになりました。

「ねぇ、あなた、夫の正妻の座を狙っていたのよね? でも無理よ。夫はあなたを愛人にするつもりだわ。わたくしとは絶対に離婚しないでしょう。だってわたくしは王家とのパイプですもの。父は王太子の教育係、兄は王太子の親友でその息子の教育係、母は王妃殿下の腹心で王太子妃の教育係、わたくしは王太子妃殿下の腹心で姫が生まれればその教育係になる。王家の信頼厚い我が一族との縁を切るはずないでしょう」

 そう告げれば少女は納得していました。

 ですので、ほとんどの教育が終わった後、妃殿下に願い出て、行儀見習いとして妃殿下の侍女に取り立てていただきましたわ。

 貴族の令嬢が行儀見習いとして1年程度王宮の侍女になることは珍しいことではございません。義両親も夫も少女のいい箔付けになると賛同してくれました。

 そして、そこで彼女は自分の力で良縁を見つけ出しました。王太子殿下の近衛騎士、身分は低く男爵家の三男ではございますが、なかなかの好青年です。将来的には騎士爵を得る予定で、かなりの好物件ですわ。

 夫は愛人にするつもりだったことから反対いたしましたが、義両親は大賛成。少女の幸福を心から喜んでおりました。

 しかも王太子妃殿下のみならず、王太子殿下からもこの縁組を祝福され、夫は反対できなくなりました。

 そうして、少女は自らの力で幸福をつかみ取り、嫁いで行きました。わたくしは『姉』として、彼女が嫁ぐ準備を整え、彼女を送り出しましたの。





 その後、でございますか?

 ああ、わたくしは夫との間に男児を無事に儲け後継者を得るという役目を果たしました。

 そして、数々の不貞(愛人を複数囲っておりましたし、囲わない愛人も含めれば両手の数では足りませんでしたわ)とそれに伴う領地収入の横領を理由に、夫を領地に幽閉いたしました。まぁ、表向きは不治の病による療養ですけれど。嘘は言ってませんわ。浮気癖は不治の病ですもの。

 義父は夫の横領を見抜けなかった責任を取り、孫である我が息子に爵位を譲りました。まだ幼子ではありますが、わたくしと爵位を継いで伯爵に陞爵した長兄が後見人となりましたので問題ございません。表に出ない後見人には王妃となられたかつての王太子妃殿下がなってくださってますし。

 少女とは今でも交流がございますわ。彼女、下位貴族ながら社交界の華となり、頑張っておりますのよ。彼女の手腕によって彼女の旦那様が陞爵することもあるかもしれませんわね。
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