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20.淑女教育
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「お茶会はただお茶を飲んでお菓子を食べてお喋りするだけではございませんのよ」
招かれた家の使用人たちの様子・会場の調度品・出てくる茶葉や菓子類からその家の経済状況を推察しなければなりません。招かれているメンバーから派閥やその家の立ち位置を推し量り、なぜこのメンバーが選ばれているのか招待主の意図を読み解くことも必要です。そうすることでその家と今後どう付き合っていくかを判断するのです。
話題となる一見くだらない自慢話の裏にどんな情報が隠されているのかを見抜き、それを己の領地や夫の仕事にどう役立つのかを判断することも重要です。まぁ、偶に愚かな方もいて本当に単純な自慢話の場合もございますが、それもそれでマウントの取り合いですから、気分を害さぬ程度でマウント取り返さねば舐められる結果となります。
そう説明するとメアリーは大きな目を更に大きくして唖然としています。
「うそっ、お茶会ってそんな意味があるの」
ええ、ございますのよ。勿論他愛のないお喋りも致します。気の置けない友人たちののお茶会もございますわ。
「男爵家が公爵や侯爵、王家に招かれることはほぼございませんから、今まではお判りにならなかったかもしれませんけれど。学院のお茶会でも凄まじい情報戦が繰り広げられておりましてよ」
そう告げるわたくしにメアリーは沈黙を返します。そうですわね、あなたを招待するお茶会は殆どございませんでしたわ。
「あなたが招かれないのはマナーが全く出来ておらず不快になるからというのが最大の理由です。そして、交流を持っても何の得にもならないと侮られた結果ですわね」
そう告げるとメアリーは悔しそうに唇を噛みます。悔しさを覚えるのは大切ですわ。それは正しく作用すれば自分を磨く原動力となりますもの。
「メアリーさん、学院のフィーバー先生に個人的なご指導を願いなさい。あの方は長く王宮女官を務められた方です。あなたに必要な知識をお持ちですわ」
「あのばあちゃん、そうなんだ……。道理で厳しいと思った」
「今までの振舞いを反省して淑女として相応しくなりたいと申し出れば可能な限りお力添えいただけるはずです」
フィーバー夫人は何を隠そうわたくしの淑女教育を担当なさった方です。その頃は女官を退かれたばかりでしたわね。本当に厳しくて何度泣かされたことか。けれどあの方のおかげで同年代では最高の貴婦人と呼ばれるようになりましたのよ。
「淑女教育ってさ、表情殺すっていうでしょ。それだと私の取柄の天真爛漫がなくなるんじゃない? 無表情な私とか有り得ないってー」
「お黙りなさいな。あなたのわざとらしく作った天真爛漫さなんて一部のおバカなお花畑子息にしか通用しておりませんわよ。それに、淑女教育で表情をなくすなんて馬鹿なことをおっしゃらないで。それって乙女ゲームやラノベ由来の間違った知識ですわよ」
「え? だってよく婚約破棄のときに言われてるじゃん。無表情とか表情を変えないとか笑わないとか」
ええ、よくございますわね。淑女教育、王妃教育を受けて無表情になったとか。表情を変えない婚約者と天真爛漫で表情をコロコロ変えるヒロインを比べるとか。全て誤情報ですわよ。
「淑女教育で学ぶのは感情の制御と表情のコントロールですわよ。感情のままに振舞うことははしたないと言われますけれど、違います。負の感情を表に出さないということを学ぶのです。そして表情を使い分けることもね」
基本的に表情は微笑がデフォルトですわ。そのうえで喜怒哀楽の表情をその場に合わせて使い分けるようにするのが淑女教育で学ぶ表情コントロールですわ。つまり、たとえ悲しくても微笑みを浮かべる。たとえ嬉しくても怒りに表情を浮かべて叱責する。そういった感情と表情の制御を学ぶのです。
「王妃が無表情では外交問題になりましてよ。例えば友好国の王族の婚儀に招かれて無表情だったら『何かこの結婚に文句があるのか?』となりかねませんわ。そこは穏やかに嬉しそうに微笑んでいなければなりませんでしょ」
孤児院や養護院に慰問に行くときに無表情だったら本当は慰問なんて嫌なんだと誤解されますし、子供に怯えられてしまいますわ。そんなときは母親の慈愛に似た笑みを浮かべるべきですし、子供からプレゼントを貰えば喜びはしゃぐことだってございますわ。
「えーと……じゃあ、あんた、じゃなくてブランシュ様もそうしてるってこと?」
「そうですわよ。いつも微笑んでいて胡散臭いとでも思っていらした?」
「う……まぁ」
正直ですわね。でも恐らく平民の方だとそう思っている方も少なくはないでしょうね。お花畑な子息たち(元メアリーの取り巻き)からも思われていそうですわ。
「学院内は半ば公の場ですからね。次期王太子妃として行動せねばなりませんもの。でも友人といるときや我が家の中ではそうではありませんわよ。殿下と喧嘩して泣かせたり泣かされたり怒鳴りあったりすることだってございますのよ」
殿下と喧嘩するということにも泣かせたり泣かされたりということにも驚いていますわね。まぁ、お互いに幼いころの話ですけれど。
「淑女というものに対して間違った認識をお持ちのようですけれど、それも修正して差し上げますわ。きっとあなたなら本物の淑女にもなれましてよ」
なってもらわなければわたくしも困りますもの。
こうして自称ヒロインだったメアリーはこれまでの自分と決別することを決意してくれたのでございます。
招かれた家の使用人たちの様子・会場の調度品・出てくる茶葉や菓子類からその家の経済状況を推察しなければなりません。招かれているメンバーから派閥やその家の立ち位置を推し量り、なぜこのメンバーが選ばれているのか招待主の意図を読み解くことも必要です。そうすることでその家と今後どう付き合っていくかを判断するのです。
話題となる一見くだらない自慢話の裏にどんな情報が隠されているのかを見抜き、それを己の領地や夫の仕事にどう役立つのかを判断することも重要です。まぁ、偶に愚かな方もいて本当に単純な自慢話の場合もございますが、それもそれでマウントの取り合いですから、気分を害さぬ程度でマウント取り返さねば舐められる結果となります。
そう説明するとメアリーは大きな目を更に大きくして唖然としています。
「うそっ、お茶会ってそんな意味があるの」
ええ、ございますのよ。勿論他愛のないお喋りも致します。気の置けない友人たちののお茶会もございますわ。
「男爵家が公爵や侯爵、王家に招かれることはほぼございませんから、今まではお判りにならなかったかもしれませんけれど。学院のお茶会でも凄まじい情報戦が繰り広げられておりましてよ」
そう告げるわたくしにメアリーは沈黙を返します。そうですわね、あなたを招待するお茶会は殆どございませんでしたわ。
「あなたが招かれないのはマナーが全く出来ておらず不快になるからというのが最大の理由です。そして、交流を持っても何の得にもならないと侮られた結果ですわね」
そう告げるとメアリーは悔しそうに唇を噛みます。悔しさを覚えるのは大切ですわ。それは正しく作用すれば自分を磨く原動力となりますもの。
「メアリーさん、学院のフィーバー先生に個人的なご指導を願いなさい。あの方は長く王宮女官を務められた方です。あなたに必要な知識をお持ちですわ」
「あのばあちゃん、そうなんだ……。道理で厳しいと思った」
「今までの振舞いを反省して淑女として相応しくなりたいと申し出れば可能な限りお力添えいただけるはずです」
フィーバー夫人は何を隠そうわたくしの淑女教育を担当なさった方です。その頃は女官を退かれたばかりでしたわね。本当に厳しくて何度泣かされたことか。けれどあの方のおかげで同年代では最高の貴婦人と呼ばれるようになりましたのよ。
「淑女教育ってさ、表情殺すっていうでしょ。それだと私の取柄の天真爛漫がなくなるんじゃない? 無表情な私とか有り得ないってー」
「お黙りなさいな。あなたのわざとらしく作った天真爛漫さなんて一部のおバカなお花畑子息にしか通用しておりませんわよ。それに、淑女教育で表情をなくすなんて馬鹿なことをおっしゃらないで。それって乙女ゲームやラノベ由来の間違った知識ですわよ」
「え? だってよく婚約破棄のときに言われてるじゃん。無表情とか表情を変えないとか笑わないとか」
ええ、よくございますわね。淑女教育、王妃教育を受けて無表情になったとか。表情を変えない婚約者と天真爛漫で表情をコロコロ変えるヒロインを比べるとか。全て誤情報ですわよ。
「淑女教育で学ぶのは感情の制御と表情のコントロールですわよ。感情のままに振舞うことははしたないと言われますけれど、違います。負の感情を表に出さないということを学ぶのです。そして表情を使い分けることもね」
基本的に表情は微笑がデフォルトですわ。そのうえで喜怒哀楽の表情をその場に合わせて使い分けるようにするのが淑女教育で学ぶ表情コントロールですわ。つまり、たとえ悲しくても微笑みを浮かべる。たとえ嬉しくても怒りに表情を浮かべて叱責する。そういった感情と表情の制御を学ぶのです。
「王妃が無表情では外交問題になりましてよ。例えば友好国の王族の婚儀に招かれて無表情だったら『何かこの結婚に文句があるのか?』となりかねませんわ。そこは穏やかに嬉しそうに微笑んでいなければなりませんでしょ」
孤児院や養護院に慰問に行くときに無表情だったら本当は慰問なんて嫌なんだと誤解されますし、子供に怯えられてしまいますわ。そんなときは母親の慈愛に似た笑みを浮かべるべきですし、子供からプレゼントを貰えば喜びはしゃぐことだってございますわ。
「えーと……じゃあ、あんた、じゃなくてブランシュ様もそうしてるってこと?」
「そうですわよ。いつも微笑んでいて胡散臭いとでも思っていらした?」
「う……まぁ」
正直ですわね。でも恐らく平民の方だとそう思っている方も少なくはないでしょうね。お花畑な子息たち(元メアリーの取り巻き)からも思われていそうですわ。
「学院内は半ば公の場ですからね。次期王太子妃として行動せねばなりませんもの。でも友人といるときや我が家の中ではそうではありませんわよ。殿下と喧嘩して泣かせたり泣かされたり怒鳴りあったりすることだってございますのよ」
殿下と喧嘩するということにも泣かせたり泣かされたりということにも驚いていますわね。まぁ、お互いに幼いころの話ですけれど。
「淑女というものに対して間違った認識をお持ちのようですけれど、それも修正して差し上げますわ。きっとあなたなら本物の淑女にもなれましてよ」
なってもらわなければわたくしも困りますもの。
こうして自称ヒロインだったメアリーはこれまでの自分と決別することを決意してくれたのでございます。
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