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10.攻略状況
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攻略対象の誰とも結ばれない友情エンド、所謂ノーマルエンドを目指して欲しいと願っておりましたが、そうは参りません。やはりヒロイン──メアリーは乙女ゲーム脳の転生者だったらしく、ゲームイベントを起こそうと奮戦しておりました。
各対象者との好感度アップイベントが起こる場所をうろついておりましたわね。イベントのために、どこかから子猫を強奪してきて木に登ったり。その後母猫に報復されたのか顔に引っかき傷を作り、数日顔を腫らしておりました。
殿下とお兄様のイベントはほぼ失敗に終わっておりましたわ。そもそもイベント発生に至るフラグを2人とも立てさせませんでしたし。殿下は5年前の宣言通り学院内ではずっとわたくしと一緒に過ごしてくださいましたもの。離れるのは御不浄のときだけで、そのときでも殿下もわたくしも1人きりにはならず、必ず護衛がついておりましたわ。
メアリーがイベントを起こそうと殿下に近づいても必ず隣にはわたくしがいるので、メアリーはいつも舌打ちして悔しそうにしておりました。そして次の瞬間にはまさにヒロインな笑顔を浮かべて話しかけようとするのですけれど、殿下はスルー。
知り合いでも何でもありませんから、そんな下位貴族から声をかけられても無視するのは貴族社会では何の問題もない常識でございます。クラスメイトになる2年生であれば無視はなさらなかったと思いますけれど。
「お花畑乙女ゲーム脳というのはここまで非常識になるんだね。私のことを許しもなくリック様だって。ブランですら人目があるときには殿下と呼ぶのにね」
殿下は不愉快そうに眉を顰められます。殿下と知り合って10年、婚約して5年。わたくしが『リック様』とお呼びするのは2人きりのときか、気心の知れた幼馴染たちといるときだけ。それくらい『愛称で呼ぶ』というのは特別なことですの。知り合い未満である下位貴族の庶子が簡単に呼んで良いものではございません。
ですので、メアリーが殿下をはじめお兄様やわたくしたちに無礼な愛称呼びをするたびに護衛たちが男爵家に厳重注意を申し渡しておりますの。まだ学生であり、平民の男爵家庶子ということで大目に見て、王家や公爵家からの抗議ではなく、王家の護衛騎士や公爵家の護衛騎士からの厳重注意で済ませているのです。公式なものではなく非公式・私的な注意勧告でございますわね。尤もメアリーは一向に改善されませんけれど。
殿下やお兄様の攻略は全く進んではおりませんが、他の3人はそれなりに進んでいるようです。侯爵家のエドワード、騎士団長子息のトマス、子爵家のヘンリーに関しては時折2人でいるところや4人でいるところを見ますわ。その分、側近候補であるはずの彼らが殿下のお側を離れるという有り得ないことが起きておりますけれど。
わたくしは学院内で最も高位の筆頭公爵家の令嬢として、未来の王太子妃・王妃として、側近候補の彼らの婚約者ともそれなりに交流がございます。定期的にお茶会を開き、彼女たちの話を聞き交流するのです。そして、メアリーが攻略対象と親しくなるに従って、お茶会では彼女たちからの愚痴を聞くことも多くなってまいりました。
ですが、彼女たちの愚痴はウェブ小説によくある展開とは違っております。ウェブ小説ではヒロインに対しての愚痴や批判非難がメインですけれど、彼女たちの場合それは少ないのです。精々『男爵家に引き取られて1年以上経つのですから、そろそろ貴族の常識を身に着けていただきたいものですわ』という程度でございます。メアリーへの批判や愚痴はゲームには登場しない令嬢方からのほうが多ございますわね。
専ら婚約者たちの愚痴は、明らかに作られた天真爛漫さにコロっと転がされ貴族としては有り得ない振舞いを始めた婚約者たちの情けなさについてでございました。
王太子の側近候補ということは、将来の国王の側近候補です。騎士志望のトマスに至っては護衛騎士候補でもあります。
その彼らが身分が低く側室にもなれない、礼儀と常識を知らない女性を王太子に近づけようとしているのです。きちんと貴族としての役割を理解し実行している彼女たちにしてみれば、婚約者の言動は有り得ないし情けないの一言に尽きるのでございます。
ですから、彼女たちは既に婚約解消及び次の婚約者選びに動き出していらっしゃいます。簡単にハニートラップに引っかかるような者に嫁いでも将来が不安でしかございません。しかもこの3人、全員婿養子予定ですもの。全員嫡男ではなく三男ですからね。
但し、エドワードはちょっと特殊ですわね。きちんと婚約者とその家族に『婚約者が卒業するまでの遊びです。庶子を作るような愚かなことは致しませんので、暫くの間お目こぼしください』と許可を取ったそうでございます。まぁ、婿養子に入ったら愛人を作るなんてこと出来ませんから、それまではヘマはしないから遊ばせてほしいとある意味潔く許可を求めたそうでございます。
なお、殿下の側近候補のうち確定しているのはお兄様だけです。エドワードは保留で、トマスとヘンリーは既に別の方がその地位にいらっしゃいます。彼らは既に側近候補ではございませんの。本人たちは知らないようですけれど。
ハニートラップに引っかかった上にその女を主君に近づけようとするなんて、将来に不安しかございませんからね。ですから、エドワードも確定ではなく、保留なのですわ。
各対象者との好感度アップイベントが起こる場所をうろついておりましたわね。イベントのために、どこかから子猫を強奪してきて木に登ったり。その後母猫に報復されたのか顔に引っかき傷を作り、数日顔を腫らしておりました。
殿下とお兄様のイベントはほぼ失敗に終わっておりましたわ。そもそもイベント発生に至るフラグを2人とも立てさせませんでしたし。殿下は5年前の宣言通り学院内ではずっとわたくしと一緒に過ごしてくださいましたもの。離れるのは御不浄のときだけで、そのときでも殿下もわたくしも1人きりにはならず、必ず護衛がついておりましたわ。
メアリーがイベントを起こそうと殿下に近づいても必ず隣にはわたくしがいるので、メアリーはいつも舌打ちして悔しそうにしておりました。そして次の瞬間にはまさにヒロインな笑顔を浮かべて話しかけようとするのですけれど、殿下はスルー。
知り合いでも何でもありませんから、そんな下位貴族から声をかけられても無視するのは貴族社会では何の問題もない常識でございます。クラスメイトになる2年生であれば無視はなさらなかったと思いますけれど。
「お花畑乙女ゲーム脳というのはここまで非常識になるんだね。私のことを許しもなくリック様だって。ブランですら人目があるときには殿下と呼ぶのにね」
殿下は不愉快そうに眉を顰められます。殿下と知り合って10年、婚約して5年。わたくしが『リック様』とお呼びするのは2人きりのときか、気心の知れた幼馴染たちといるときだけ。それくらい『愛称で呼ぶ』というのは特別なことですの。知り合い未満である下位貴族の庶子が簡単に呼んで良いものではございません。
ですので、メアリーが殿下をはじめお兄様やわたくしたちに無礼な愛称呼びをするたびに護衛たちが男爵家に厳重注意を申し渡しておりますの。まだ学生であり、平民の男爵家庶子ということで大目に見て、王家や公爵家からの抗議ではなく、王家の護衛騎士や公爵家の護衛騎士からの厳重注意で済ませているのです。公式なものではなく非公式・私的な注意勧告でございますわね。尤もメアリーは一向に改善されませんけれど。
殿下やお兄様の攻略は全く進んではおりませんが、他の3人はそれなりに進んでいるようです。侯爵家のエドワード、騎士団長子息のトマス、子爵家のヘンリーに関しては時折2人でいるところや4人でいるところを見ますわ。その分、側近候補であるはずの彼らが殿下のお側を離れるという有り得ないことが起きておりますけれど。
わたくしは学院内で最も高位の筆頭公爵家の令嬢として、未来の王太子妃・王妃として、側近候補の彼らの婚約者ともそれなりに交流がございます。定期的にお茶会を開き、彼女たちの話を聞き交流するのです。そして、メアリーが攻略対象と親しくなるに従って、お茶会では彼女たちからの愚痴を聞くことも多くなってまいりました。
ですが、彼女たちの愚痴はウェブ小説によくある展開とは違っております。ウェブ小説ではヒロインに対しての愚痴や批判非難がメインですけれど、彼女たちの場合それは少ないのです。精々『男爵家に引き取られて1年以上経つのですから、そろそろ貴族の常識を身に着けていただきたいものですわ』という程度でございます。メアリーへの批判や愚痴はゲームには登場しない令嬢方からのほうが多ございますわね。
専ら婚約者たちの愚痴は、明らかに作られた天真爛漫さにコロっと転がされ貴族としては有り得ない振舞いを始めた婚約者たちの情けなさについてでございました。
王太子の側近候補ということは、将来の国王の側近候補です。騎士志望のトマスに至っては護衛騎士候補でもあります。
その彼らが身分が低く側室にもなれない、礼儀と常識を知らない女性を王太子に近づけようとしているのです。きちんと貴族としての役割を理解し実行している彼女たちにしてみれば、婚約者の言動は有り得ないし情けないの一言に尽きるのでございます。
ですから、彼女たちは既に婚約解消及び次の婚約者選びに動き出していらっしゃいます。簡単にハニートラップに引っかかるような者に嫁いでも将来が不安でしかございません。しかもこの3人、全員婿養子予定ですもの。全員嫡男ではなく三男ですからね。
但し、エドワードはちょっと特殊ですわね。きちんと婚約者とその家族に『婚約者が卒業するまでの遊びです。庶子を作るような愚かなことは致しませんので、暫くの間お目こぼしください』と許可を取ったそうでございます。まぁ、婿養子に入ったら愛人を作るなんてこと出来ませんから、それまではヘマはしないから遊ばせてほしいとある意味潔く許可を求めたそうでございます。
なお、殿下の側近候補のうち確定しているのはお兄様だけです。エドワードは保留で、トマスとヘンリーは既に別の方がその地位にいらっしゃいます。彼らは既に側近候補ではございませんの。本人たちは知らないようですけれど。
ハニートラップに引っかかった上にその女を主君に近づけようとするなんて、将来に不安しかございませんからね。ですから、エドワードも確定ではなく、保留なのですわ。
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