上 下
30 / 56

第三十話……生き残る権利

しおりを挟む
 クリシュナは再び、アーバレストの赤く乾いた大地に降り立つ。
 逆噴射で舞う赤い土ぼこりに、フロントヘビーな艦影が埋もれる。


「カーヴ、おかえりなさい!」

 久しぶりにセーラさんがお迎えに来てくれた。
 薄桃色の羽帽子を被り、白いワンピースにサンダル姿であった。


「ただいまです、ご領主様!」

 彼女の持つバスケットには、4人分のサンドイッチが詰め込まれていた。
 ブルーとレイは自分の分を受け取り、素早くクリシュナの整備に付く。

 正直、私とブルーは弾薬と燃料さえあれば動くバイオロイドなのだが……。
 大変に嬉しいもてなしである。
 そして、小高い丘で、セーラさんと二人で昼食をとる。


「カーヴ、私ね……」

「は、はい?」

 私は焦ってサンドイッチをお茶で胃に詰め込む。


「……私は今回のカーヴの選択、良かったと思うの。やはり正しくない為政者はダメ。みんなの為にならないもの!」

「……あはは、逃げ帰って来ただけですよ!」

 私は照れ隠しで頭をかく。


「そうじゃないの! 世の中には間違っていることと、正しいことがあって、私たち人間が正しくないとマーダと戦う権利がないと思うの!」

「……はぁ」

「やっぱり正しくなきゃ、生き残っちゃダメなのよ!」

 彼女は力強く力説した。
 確かにマーダと人間、どちらかしか生き残れないかもしれない。
 そうなれば、正しい方が生き残る方が真理かもしれない。

 乾いた穏やかな風が吹く中。
 私は再び頭をかきかき、二人で楽しく会話を繋げたのであった。



☆★☆★☆

――宇宙暦882年

 アルーシャ星域B-865C宙域にて、解放同盟軍とマーダ連邦は一大決戦を行った。

 未だ人類は、異星人マーダと大規模な会戦は経験がない。
 何故なら、マーダは神出鬼没。
 人類側が多数で追い回しても、上手に逃げられることが多かったのだ。

 又、過去に人々の尊崇を一身に集めた王家は、少数のマーダの奇襲によって撃滅されていた。
 それ以来人類は、報復の一大機会を、ここ10年間ひたすらに待ったのだった。


――開戦時の戦力。

【解放同盟軍】……艦艇1600隻余、艦載機2万機以上。防御用大型要塞2基。
【マーダ連邦】……艦艇1000隻余、艦載機及び小型舟艇1万以上。

 攻め寄せるマーダの艦隊に際して、人類の代表でもある解放同盟軍は、要塞を中心とした密集隊形で臨む。
 それに対して、攻撃側のマーダ連邦は両翼の布陣を厚くした包囲陣で襲い掛かった。


「……ふふふ、寡兵で鶴翼とは笑止!」
「全艦、砲撃戦用意!」

 この時の人類側の首席参謀リッケンドルはマーダの布陣をあざ笑った。
 確かに寡兵にて両翼を伸ばすのは、兵法者のうちでは悪手と言われていたのだ。

 しかし、マーダが人類の射程外から放った特殊ミサイル群は、人類の迎撃システムを無力化させ、あっという間に解放同盟軍の小型艦艇を破壊せしめた。

 残った大型艦艇も、スズメバチに襲われた獣のようにのたうち回り、次第に鋼鉄と複合セラミックで出来た屍となっていった。


「いかん! 全艦回頭! 全速離脱せよ!」

 解放同盟軍の総司令官であるマーシャル侯爵は、戦況を見て撤退を指示。
 それは遅きに失し、人類側の艦艇の8割は、数え方が単なる宇宙のゴミへと置き換わった。
 人類は再び大敗北の憂き目を見たのであった。

 ……しかし、二基の防衛用大型要塞は陥落せず、人類の生存圏の崩壊にはまだ猶予が残された形となった。



☆★☆★☆


「この戦況、カーヴ殿はどう思うかね?」

 ライス伯爵家の執務室で、家宰たるフランツさんに問われる。


「はっ、技術力の差が露呈したものかと……」

 私はデータを見て答えた。


「人類がマーダに対して劣っていたと?」

「それもありますが、人類はお互いの技術を共有しないのです。よく見てください。艦艇の形がバラバラです。なぜなら、ライス家ならライス家独自の技術を他家に渡しません。それに比べ、マーダの艦艇は技術的に一致した形状をしているのです」


「……ふむ、しかしな……」

 腕組みしたフランツさんが言いたいことは、大体に見当がついていた。
 人類は王家を中心とするも、それは貴族家勢力の地方軍閥の集合体であり、その地方勢力どうしが切磋琢磨してきた。
 彼等は友邦であるも、又、言い方を変えればライバル関係にあったのだった。
 技術を他家に渡すなどそうそう出来ることでは無かった。

 私はフランツさんの発言を最後まで聞いた後に、言を繋げた。


「……ですから、ライス家が単体で、王家に取り替わるほどの力を得るのです!」

「なんだと!? そのようなこと!」

 フランツさんは机の上のティーカップのお茶が波立つほど、語気と肩を震わせる。
 それだけ私の返答が意外だったのであろう。


「それくらいの気概なしには、マーダに勝てません! 他家と技術を共有するか、それとも抜きんでた力を持つかです!」

 私は珍しく、語気を強めた。
 物議をかもす発言な為、自分を鼓舞する意味合いもあったのだ。


「……わ、分かった。明日にでも、お嬢様や閣僚たちと相談してくる。それまでA-22基地で待っていてくれ!」

「はっ!」

 私は敬礼して執務室を出る。
 自分で言ってみたはいいが、それはそれで間違っているような気もして、後ろめたい気持ちで伯爵邸を出たのであった。

 ……生き残るのはマーダかそして人類か。

 マーダと人間、どちらかしか生き残れないかもしれない。
 セーラさんの言葉が、私には背中に突き刺さった刃物の様であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷
ファンタジー
目覚めるとそこは異世界で、俺は道端でお布団にくるまっていた 思わぬ″状態″で、異世界転生してしまった俺こと倉井礼二。 だがしかし! そう、俺には″お布団″がある。 いや、お布団″しか″ねーじゃん! と思っていたら、とあるスキルと組み合わせる事で とんだチートアイテムになると気づき、 しかも一緒に寝た相手にもその効果が発生すると判明してしまい…。 スキル次第で何者にでもなれる世界で、 ファンタジー好きの”元おじさん”が、 ①個性的な住人たちと紡ぐ平穏(?)な日々 ②生活費の為に、お仕事を頑張る日々 ③お布団と睡眠スキルを駆使して経験値稼ぎの日々 ④たしなむ程度の冒険者としての日々 ⑤元おじさんの成長 等を綴っていきます。 そんな物語です。 (※カクヨムにて重複掲載中です)

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

【完結】転生したのは俺だけじゃないらしい。〜同時に異世界転生した全く知らない4人組でこの世界を生き抜きます(ヒキニートは俺だけ)〜

カツラノエース
ファンタジー
「お、おい......これはどういうことだ......?」 痩せ型ヒキニートの伊吹冬馬は、今自分が居る場所に酷く混乱していた。 それもそのはず、冬馬は先程まで新作エロゲを買いに行っている途中だったからだ。 なのに今居る場所は広大な大地が広がる草原......そして目の前には倒れている3人の美少女。 すると、たちまちそんな美少女たち3人は目を覚まし、冬馬に対して「ここに誘拐してきたのか!」と、犯罪者扱い。 しかし、そんな4人にはある共通点があった。 それは、全員がさっき死ぬような体験をしたという事。 「まさか......ここ、異世界?」 見た目も性格も全然違う4人の異世界転生スローライフが今始まる。 完結まで書いたので、連続で投稿致します。

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪
SF
 毎日の仕事で疲れる主人公が、『楽な仕事』と誘われた宇宙ジャンルのVRゲームの世界に飛び込みます。  ゲームの中での姿は一つ目のギガース巨人族。  最初はゲームの中でも辛酸を舐めますが、とある惑星の占い師との出会いにより能力が急浮上!?  乗艦であるハンニバルは鈍重な装甲型。しかし、だんだんと改良が加えられ……。  更に突如現れるワームホール。  その向こうに見えたのは驚愕の世界だった……!?  ……さらには、主人公に隠された使命とは!?  様々な事案を解決しながら、ちっちゃいタヌキの砲術長と、トランジスタグラマーなアンドロイドの副官を連れて、主人公は銀河有史史上最も誉れ高いS級宇宙提督へと躍進していきます。 〇主要データ 【艦名】……装甲戦艦ハンニバル 【主砲】……20.6cm連装レーザービーム砲3基 【装備】……各種ミサイルVLS16基 【防御】……重力波シールド 【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基 (以上、第四話時点) 【通貨】……1帝国ドルは現状100円位の想定レート。 『備考』  SF設定は甘々。社会で役に立つ度は0(笑)  残虐描写とエロ描写は控えておりますが、陰鬱な描写はございます。気分がすぐれないとき等はお気を付けください ><。  メンドクサイのがお嫌いな方は3話目からお読みいただいても結構です (*´▽`*) 【お知らせ】……小説家になろう様とノベリズム様にも掲載。 表紙は、秋の桜子様に頂きました(2021/01/21)

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界の錬金術師 〜数百年後のゲームの世界で目覚めた僕は、最強の女の子として頑張ります〜

フユリカス
ファンタジー
『レベルが999になりました』――アルケミスト・オンライン、通称『AOL』と呼ばれるフルダイブ型のMMORPGでいつものように遊んでいた僕の元に、レベルカンストの報酬として『転生玉』が送られてきた。 倉庫代わりに使ってるサブキャラの『ソーコ』に送ってログアウトすると……。 目が覚めると、なんとそこはゲームの世界! しかも僕は女キャラのソーコになっていて、数百年過ぎてるから錬金術師が誰もいない!? これは数百年後のゲームの世界に入ってしまった、たったひとりの錬金術師の少女?の物語です。 ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。小説家になろうでは先行投稿しています。

処理中です...