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第五十話……公爵就任と、小さな龍族のお願い事。

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「やっぱり、魔王選出会議で選ばれた魔王は特別なのですよ!」



 岩石王は誇らしげに語る。

 彼も長い間、投票できる有力な魔族として君臨しているそうだ。





「ほぉ」



 やはり、有力な魔族の投票を経た正式な魔王は特別らしい。





「……では、アトラス氏は投票の信任を受けてないのですね?」



「受けてないんですがね、アトラスは会議に選ばれた魔王のみもつ魔剣シュバルツシュルトを持っているんですよ」



「へぇ」



 つまるところ、みんなに選ばれたのはベリアルだが、選ばれた証をもっているのはアトラスらしい。

 ……盗まれでもしたんだろうか?





「それはそうとベルンシュタイン殿、我が領地に一度来てみませんか?」



 岩石王に誘われてしまった。

 悪い気はしないので行くことにする。



 ……が、帰るのが遅くなるのを伝えるため、スコットさんに先に古城に帰ってもらうことした。







☆★☆★☆



 会議の会場から移動する事、三週間。

 岩石王の領地は、ズン王国領東端にあった。



 平原と森を突っ切った向こうにある岩が多い荒れ地だった。

 領民の殆どは、硬い岩肌をもつ魔物だった。

 主産業は、やはり鉱業らしい。



 主食は石炭などの鉱石。

 ……岩食とでもいうのだろうか?





「さあさあ、どうぞ!」



 岩石王の居城にお邪魔して、歓待を受ける。

 流石に供された料理は石炭ではない。

 肉や魚、野菜に果物、そして酒だった。





「いただきます!」



「頂くぽこ~」



 美味しく食事を頂くと、岩石王の奥さんも上機嫌だ。





「ベルンシュタイン様は、今回のことで公爵におなりになったのですよね?」



「ええ、お陰様で」



 奥さんの話の後に、岩石王が少し真面目な顔になり、





「公爵! よろしければ、我が岩石一族と同盟を結んでいただけまいか?」



「ええ、構いませんよ!」



 ……即答してしまった。

 ひょっとして、不味かったのだろうか?

 スコットさんがいないのが辛い。





「でも、なんで同盟なんて要るのです?」



「先の話でも言ったように、魔王が二人もいますとな、魔族としてもめごとが多くなるのですよ。しかも、我が岩石族は人口も少ない。が、パール伯を倒したベルンシュタイン殿と懇意にしておけば、うかつに他勢力に攻められることもありますまい」



「なるほど」



 なるほどとか言ってしまったが、あまり頼りにされても困るんだよなぁ。





「まぁ、堅い話はここでにして、大いに飲んでやってください!」



 岩石王とその奥さんは、屈託のない笑顔が素敵な楽しい人たちだった。

 なんだか、そういう温かい環境に弱い私であった。





 ……食後、



「この地の良質の石炭を探してみせましょうか?」



「おお、なにか方法がありますかな?」



 私の領地は鉱石開発が主力。

 そのための魔法も磨いてきた。



 岩石王の為に、良質の石炭探知の魔法を沢山使い、大いに喜ばれて古城への帰路についたのだった。



 また、同盟の一環として、鉱石を買い入れる商談も結んだ。

 買い入れた鉱石を古城で精錬し製品にするのだ。



 また、同盟とは片方だけが守ってもらうこともないはずだ。

 私が岩石王に守ってもらう日も、きっとくるだろう。







☆★☆★☆



「儀仗兵整列!」



 私が古城に帰って数日後。

 魔王ベリアルや岩石王臨席のもと、公爵叙任式を執り行った。





「おめでとうございます!」



「有難うございます!」



 式典後のパーティー会場で、果実酒片手に知らない魔族からも祝福を受ける。

 人が多すぎて、誰が誰やら分からない。



 今回、立食パーティー形式。

 私はルカニに、料理だけは切らさないよう厳命していた。



 前世の立食パーティーで、料理の切れる気不味さと言ったら無い。

 参加者には存分に食べて欲しかった。





「これは美味しいですな!」



「お褒め頂き恐縮です!」



 中でも、特産品候補のサーモンの刺身や、魔法処理したイノシシ肉は、高位の魔物たちにも大好評だった。



 現在、領内製造の醤油や味噌、マヨネーズやソースの類も量産体制が完了しており、販売に向けて準備を整えていた。



 外交において、上等な料理でおもてなしをすることは大切だと、前世での書籍にて教わっていたのだ。





「マリー様、今度この料理の作り方をお教え頂けて?」



「もちろんですわ!」



 マリーもお客である上流魔族の御婦人方の受けが良い。

 とてもいいことだった。



 私というより、古城改めベルンシュタイン城の皆が祝福を受けた感じとなっていた。

 多分一族だと思われたのだろう。

 実は親戚どころか、配偶者や子供さえもいないのだが……。





 お祝いの宴会が終わり、お見送りをした後、片付けに入る。

 お客が沢山来たので、片付けも大変だ。





「旦那様、迷子のお客様がいらっしゃいます!」



「え!?」



 バルガスに案内してもらうと、小さな龍族の女の子がいた。





「一緒に来た人たちは帰ったの?」



 かがんでそう尋ねると、





「違うの……、ベルンシュタイン公爵にお願いがあって残らせて頂きました」



「……へぇ、お願いって何でしょう?」



 あまったお菓子でも欲しいのかな、と考えていると。





「私のお爺ちゃんを倒してください! お礼は……、わ、私の体を差し上げます……」



 唐突なお願いだった。
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