上 下
31 / 73

第三十一話……ドラゴンスレイヤー

しおりを挟む
――ズオォォォオ!



 灼熱のブレスを受け止める盾の表面が、熱でジンワリ赤く光る。

 盾を持っている手も熱い。





「我が姿、その強固な影の中に隠したまえ! シャドウ・シェル!」



 マリーの魔法により、ポココとマリーは私の影の中へ逃げ込む。

 これで防御一辺倒の体勢から脱出できた。





「でやぁ!」



 私は隙を見て、盾を投げ捨てると、ドラゴンへ向かって飛び掛かり、その首に剣を突き刺す。





――ガキッ



 しかし、鱗が硬く、歯が十分には通らない。





「出でよ! 我が地獄の勇者たち!」



 ドラゴンが私の方へ注意を引いている間に、スコットさんが地中より骸骨剣士を4体召喚した。





――ズオォォォオ!



 すぐさまドラゴンが、スコットさんの方向へ向き直り、灼熱のブレスで骸骨剣士を焼き払う。





「ああ……、ジムにパールが……」



 ……てか、スコットさん。

 骸骨剣士に名前つけていたのか。





「炎の精霊サラマンダーよ、我が剣にその力授け給え! エンチャント・フレイムウェポン!」



 スコットさんの骸骨剣士がやられている間に、私は攻撃力強化に成功。

 愛剣に炎の魔法を付与した。





「でやぁ!」



 二度目に飛び掛かかり、一度目の亀裂めがけて、剣を突き立てる。

 手ごたえがある。



 ……すぐさま、二度、三度と全力で斬りかかった。





――ギャォオオ!



 10mほどある中型のドラゴンは、各所から鮮血を迸らせ、自らの炎に焼かれながら断末魔の咆哮を轟かせた。





「これで、旦那様もドラゴンスレイヤーですな!」



「……ええ? そうなるの?」



 確かに、用意した大型の盾は熱でベコベコになっている。

 この盾がなければ、相当にヤバかった相手だっただろう。





「あ~、大きな魔石GET!」



「大きいポコ!」



 ドラゴンから出た魔石は、紫色の光を出す特大品だった。

 魔石の他にも、焼け残った鱗や、牙などを袋に詰め込んだ。





「旦那様! こういう時の魔法羊皮紙ですぞ!」



「え?」



 スコットさんが魔法羊皮紙を拡げ、魔法を詠唱する。





「この姿、その強固な影に隠し給え! シャドウ・シェル!」



 詠唱すると、沢山の物品が、魔法の羊皮紙の中に吸い込まれた。

 ……どうやら、マリーが使う影の魔法の応用版の様だ。





「凄いね、スコットさん!」



「……ですがね、重さはそのままなんです」



 たしかに、魔法羊皮紙を巻いたスクロールがズッシリと重い。

 ……でも、嵩張らないだけ大変にありがたかった。



 荷物をいれた魔法のスクロールは、ドラゴの背中に括り付けて運ぶことにする。

 我々はドラゴンの亡骸の後ろにあった通路を、さらに奥へと進むことにした。







☆★☆★☆



――その後。

 同じようなドラゴンに二回遭遇。



 魔法の羊皮紙も駆使しながら、討伐に成功し、さらに洞窟を奥地に進んだ。





「ここは大きな部屋ポコね!」



 長い通路を突きあたった扉を、静かに慎重に開けると、そこは高さが30mもありそうな、立派な石造りの空間があった。





「……し、静かに! 旦那様、何か気配がしますぞ!」



 スコットさんに言われて、警戒して前進していくと、目の間には大きな祭壇があり、複数の祭司のような人々がいた。

 彼等は儀式に忙しい様で、こちらに気づいていないようだ。



 ……しかし、彼らが伯爵の令嬢を浚ったとみて、間違いはなさそうだ。

 確証はないが、そんな気がした。





――ズッ!



「何奴!?」



 弓矢で二人ほど倒した辺りで気づかれる。

 こいつらも例の文字の描かれたフードを被っていた。





「そこの女、名を名乗れ!」



「!?」



 松明をマリーに持ってもらっていたので、逆光の都合上、相手にはマリーだけしか見えていないようだった。





「古の業火よ! 今甦れ! ファイアウォール!」



「地獄の勇者ども、我が戦士として集え!」



 スコットさんが、火炎魔法を詠唱する間に、私は骸骨剣士を8体召喚。

 数的優位も作り出すべく奔走する。





「火炎魔法だけでなく、死霊召喚だと!? 貴様は何者だ!?」



 ……相手は焦っているようだ。

 しかし、相変わらずマリーの方向しか見ていない。





「ふふふ……、私は大魔法使いマリー様よ!」



「ポ、ポコ!?」



 こちらの優勢を確認するや否や、マリーが名乗りをあげてしまった。

 ……まぁ、名乗ったところで、デメリットも特にないが。





「伯爵様のご令嬢をおとなしく返しなさい! さもなくば我が下僕たちが貴方達を焼き尽くすわよ!」



 ……えっ、下僕!?

 どうやら今回のマリー劇場は、私も下僕の設定らしい。





「大魔法使いマリーだと!? 我々の儀式を邪魔したからには生きては返さんぞ!」



「風の聖霊よ、我々を地上に返し給え! イクジット!」



 ……しかし、謎の司祭たちは、地上への瞬間移動魔法を唱え、どこかへ逃げ去ってしまう。





「……ふっふっふ、他愛もない!」



 マリーが調子に乗っていると、謎の司祭たちが崇めていた石像が、突然に崩れ出す。





「……あれは何ポコ!?」



「き、気持ち悪い!」



 崩れた石像の中から現れたのは、沢山の種類の魔物の死体で構成された、巨大なフレッシュゴーレムだった。



 ……で、デカい。

 高さも25mはありそうな巨体だった。





「旦那様! き、気持ち悪い相手ですな!」



 ……まぁ、スコットさん自体、死霊なんだけどね。

 かつ、こちらの前衛は骸骨剣士たちだ。

 この場の人間はマリーしかいない。



 ……多分、傍目から見れば、悪役VS悪役の戦いだった。
しおりを挟む

処理中です...