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第二十九話……王都の魔法道具屋

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 長く続く街道を、私とマリーは歩く。





「ガウ、あそこを見て!」



 マリーに指差された遠くに見える村は、私には懐かしい風景だった。

 以前、私達が暮らしたマーズ村である。

 今も無事に存続しているようだった。





「ガウ、寄っていく?」



「……ん? いや、道を急ごう!」



 楽しい思い出もあったマーズ村だが、やはり追い出されたところに、わざわざ行く気にはならなかった。





 私達はさらに三つの村と一つの町を通り過ぎ、やっとのことで王都が見えるところまで来た。





「城壁が立派だねぇ」



「奇麗な城壁ポコ!」



 マリーやポココが言うように、王都は美しい石材の城壁に囲まれていたのだ。

 濠にかかる橋も、石造りの立派なものだった。





「街に入りたいのですが……」



 立派な石造りの門を守る衛士に、通行の許可を求める。





「よそ者か! 今日はもう陽が暮れる。明日改めて来い!」



 通行証は持っていたが、閉門の時間に近いので入れて貰えなかった。



 その後、皆で王都が見渡せる丘に登り、夕日が沈む大きな街並みを眺めた。

 城壁に囲まれた街並みの中心には、ひと際高くそびえる王城も見えた。





「大きな街ポコ!」



「明日が楽しみだね!」



 その日は、城外で野宿して、翌日に無事、王都の中に入ることが出来た。





「お店がいっぱいあるポコ」



「美味しいものも売っていそうね!」



 マリーもポココも、賑やかな王都の街並みにご満悦の様だった。

 街を巡りたいところだが、用事を先にせねばならない。



 街の人に尋ねながら、王都の騎士団の詰所に着いた。





「すいません、依頼があってきたものですが……」



「紹介状を見せろ!」



 入口の衛士に声を掛け、紹介状を見せると中に入れてくれた。



 流石は王都の騎士団の詰所。

 領都の騎士団のそれより遥かに立派な建物だった。





「どうぞ、こちらでお待ちください」



 立派な絨毯が敷かれた部屋に通される。



 机には紅茶と、美味しそうなお菓子がおかれていた。

 それを見たマリーとポココの眼が、早速ハートマークになっている。







☆★☆★☆



「ようこそ、私がこの騎士団の副団長であるバーリモントだ」



「ライアン傭兵団で、小隊長をしているガウと申します」



 立ち上がって挨拶をしたが、すぐに座るよう言われる。





「君たちは手練れと聞いている。よって今回の要人救出に期待している」



「……その前に、質問をしてもいいですか?」



「なんだろうか?」



 私は騎士団という立派な組織があるのに、わざわざライアン傭兵団に依頼した理由を聞いてみた。





「あはは、痛い所を突いてくるね……、実は部隊を派遣したのだが、逃げ帰ってきたのだよ」



「騎士様が逃げる相手ですか?」



 そんな相手、勝てるわけがないと思ったのだが、聞いてみると要人を誘拐した犯人は、山の中の洞窟に逃げ込んでいるとのことだった。

 しかも、その洞窟は魔物が出るらしい。

 魔物相手ならライアン傭兵団がいいとの噂で、今回我々が呼ばれたらしかった。





「他にも理由があってね、攫われた方の立場上、大っぴらに大人数で救出という訳にもいかぬ」

「君たちは、お金さえ払えば、秘密裏にやってくれるのだろう?」



「ええ、もちろん。そういう商売ですので……」



「ありがとう」



 説明を聞くには、攫われたのは王都では有名な伯爵家の御令嬢らしい。

 犯人側からの要求は、今のところなし。

 噂になる前に、さっさと救出して欲しいとのことだった。





「……さて、成功報酬は金貨500枚でどうだろう?」



「はい、その額で結構です。できるだけ早く救出して見せます」



 向こうからすれば、こちらのメンバーは二人に見えるだろうから、金貨500枚の報酬は十分な額だった。







☆★☆★☆



「旦那様! 魔法用の羊皮紙を買いに行きませんか?」



 王都の宿の部屋についたあと、スコットさんが買い物に誘ってきた。





「行ってもいいけど、何に使うの?」



「王都の魔法道具屋は、楽しいものが沢山うっていますぞ!」



 部屋の中で、日光が入らないため、スコットさんは部屋の中で、ふわふわと浮きながら、楽しそうにしゃべる。

 買う理由は後でわかるといった感じだった。





「楽しいなら行きたいポコ!」



「マリーはどうする?」



「私は少し疲れたから、お留守番してるね!」



 ……ということで、ポココを連れて魔法道具屋に出向く。

 マリーは長旅で少し疲れたのだろう。







☆★☆★☆



「いらっしゃいませ!」



 魔法道具屋に着くと、それっぽい老婆の店員さんが出迎えてくれた。

 明らかに妖しい薬も売っていそうな雰囲気の店だった。





「あの、魔法用の羊皮紙ってあります?」



「もちろんあるよ、で、書き込まれている方かい? それとも白紙のほうかい?」



 店員の老婆が言うには、魔法の羊皮紙に既に魔法が描き込まれているものと、今から利用者が描き込む白紙のものの二種類があるらしい。





「……旦那様、白紙の方でお願いします」



 小声でスコットさんが、カバンの中から囁く。





「あ、白紙の方をください!」



「まいどあり!」



 魔法の羊皮紙は、一枚銀貨5枚という価格だった。

 結局20枚ほど買うことにした。



 他にも、外傷用のポーションや、魔力回復用のポーションも買った。



 ポココはもう少し色々なものを見たそうだったが、任務が終わったらマリーも誘ってもう一度来るということで、その日は魔法道具屋を後にしたのだった。
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