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【コラム②】川中島の戦い……背後の事情の考察

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 ……川中島の戦いは何故起こったのか?



 よく小説に描かれるのは、信玄に負けた信濃の豪族が、上杉謙信に助けを求めた形が多いです。

 現実的に、それは嘘ではありません。



 しかし、主要な要因でもないのも事実なのです。





 豊臣秀吉が成したのは、天下統一ではなく、天下一統であるという言い方があります。

 これは東国が他の日本とは違う独立国という考え方であり、秀吉が日本史上初めて、東国も西国も併せて征服したという発想です。



 当時、西国(関東以外のこと)の支配者は、室町公方たる足利将軍家でした。

 翻って、東国である関東の支配者は、鎌倉公方足利氏であるという見方があります。



 この関東の支配者である鎌倉公方の第一の家臣が、関東管領上杉氏なのです。



 しかし、この鎌倉公方も関東管領上杉氏もお互い二派に分かれて勢力争いをして、その勢力を弱めます。

 そこにやってきたのが、北条早雲でした。



 北条早雲の孫である氏康の代になると、関東管領上杉氏は、越後に追いやられます。



 この時の越後の支配者である長尾家の当主が、当時の長尾景虎。のちの上杉謙信です。

 関東管領上杉氏は、北条氏を討伐する見返りに、長尾景虎に関東の名門である上杉氏を襲名させたのです。



 ちなみに越後の長尾氏は、関東管領上杉氏の家臣筋にあたります。

 ややこしいことですが、長尾氏は源氏であり、上杉氏は平氏らしいです。

 当時の謙信は、源氏から平氏に鞍替えしたことになります。



 ……まぁ、それはさておいて、関東管領になったからには、上杉謙信は度々山を越えて関東に出兵するのです。

 日本海側から遠路、ご苦労なことですね。





 軍神と謳われるほど戦争に強い上杉謙信に関東に乗り込まれ、関東の支配が怪しくなった北条氏は、当時同盟関係にあった武田氏に支援を求めます。

 これに応じて、武田氏が越後南西部にある謙信の本拠地、春日山城近くの川中島に大軍を繰り出すので、必然的に睨みあったのが中島の地なのです。



 あくまで両軍とも、お互いへの牽制の意味合いが大きいのですが、結果的に偶発的な激戦になってしまったのが真相の様です。



 多分、お互い本音は戦いたくなかったのじゃないかと……。

 何故なら実は、第四次川中島以外、上杉と武田は直接的には戦ってないのです。





 ちなみに、信玄の最初の妻は、関東の名門である上杉朝興の娘です。

 むしろ、昔からややこしい関係にあったのです。



 信玄は謙信の関東管領就任に対して、京都に働きかけて信濃守護職の地位を手に入れます。

 一般に言われるよりも、戦国時代は大義名分も大切だったのですね。
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