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第十二話……長篠・設楽ヶ原の戦い【前編】
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「ふっふっふ、馬鹿な奴らよの!」
織田信長は笑っていた。
愚かにも数に劣る武田勢がノコノコと出てきたのだ。
しめしめといったところだった。
「さては、佐久間様の計略が当たりましたかな?」
家臣が信長に問う。
「あはは、信盛が裏切る訳がなかろう! 馬鹿な武田勢を根切りしてしまえ!」
織田勢は3万の内訳は、三重の柵の後ろに布陣する諸隊。
その後ろに控える予備隊である信忠隊。
さらにその後ろの総予備として、信長本隊が控えていたのだ。
凄まじいまでの重厚な布陣。
よって、信長自身が前線の戦慄を覚える距離では無かったのだ。
☆★☆★☆
反して武田勢左翼に対して布陣する徳川家康は様子が違った。
何しろ戦線の半分を担当するのに対し、徳川勢の総数はわずか五千。
武田勢が狙うなら、この五千の徳川勢のはずだったのだ。
「敵襲! 敵の馬印は白桔梗。山県隊です!」
「くそっ!」
家康は歯噛みする。
山県隊は赤一色に装備を統一した赤備えで有名な武田家中最強の部隊だったのだ。
これを知らない周辺勢力はいない。
しかも、徳川勢は先の三方ヶ原で、山県隊の強さと恐ろしさが骨身に染みていたのだ。
「鉄砲放て!」
――ダダーン
徳川勢右翼の大久保隊が山県隊に鉄砲で応戦。
しかし、山県隊を前に士気はとても低かった。
対する山県隊は、鉄砲除けの竹束を持った徒武者たちがじわじわと進む。
その竹束の後ろから、武田の鉄砲隊の反撃もあった。
「柵を引き倒せ!」
山県隊は徳川勢にたやすく接近。
逃げ腰になる徳川勢をよそに、次々に柵を引き倒しにかかった。
「大久保隊を助けよ!」
徳川勢中央の榊原隊が、山県隊の側面を突こうとするも、武田側の原昌胤の隊が接近したために頓挫。
家康が最も頼りにする本多隊には、内藤昌豊の隊が襲い掛かっていた。
「いかん、予備隊を回せ!」
「はっ!」
家康は堪らず旗本隊の一部を大久保隊の救援に向かわせる。
……が、それは少し遅かった。
「掛かれ!」
山県隊は柵を引き倒すと見せて、実はその後ろで山県昌景直卒の騎馬武者たちが柵を迂回。
徳川勢の右翼側面に襲い掛かった。
「殲滅せよ! 掛かれ、掛かれ!」
「助けてくれ!」
山県隊の騎馬武者の姿を見て、逃げまどう徳川勢の足軽たち。
彼等には家で家族が待っていたのだ。
噂に聞く深紅の赤備えの武者たちと戦うのは、まっぴらごめんだったのだ。
「逃げるな! 戦え!」
一気に崩されるかに見えた徳川勢だが、家康が全ての旗本部隊と予備隊を右翼の援軍に投入。
この乾坤一擲の家康の采配は吉と出た。
徳川勢は一度目の山県隊の突撃を、甚大な被害の末になんとか阻止。
一旦は追い払うことに成功したのだった。
☆★☆★☆
「掛かれ!」
武田勢最右翼の馬場隊は、織田軍の最左翼の佐久間隊に突撃。
ここは山の上に築かれた砦であった。
――ダダーン
織田勢から降りしきる銃弾の数は、徳川勢の比ではない。
「慌てることは無いぞ!」
老練な馬場信春は、誰もが認める戦巧者であった。
巧妙な戦術で佐久間隊を翻弄。
接近し次々に柵をなぎ倒すと、当初の予定通り、佐久間隊は抵抗せずに後退した。
「追撃しますか?」
与力の武者が馬場信春に問う。
「いや、佐久間信盛の動きを見るとしよう!」
馬場隊は丸山砦を難なく占拠。
その知らせは勝頼に届いた。
「やはり、佐久間信盛に戦意は無いと見た!」
「好機ぞ! 中央隊を押し出せい!」
後世の関ケ原に見るように、裏切りを約束しても、当時は途中までは様子を見るケースは多い。
完全に裏切らせるためには、あくまでも優位に戦っているように見せねばならなかったのだ。
☆★☆★☆
「掛かれい!」
「押し出せ!」
――ドンドンドン
本陣からの押し太鼓に合わせ、武田勢中央先鋒隊の信濃先方衆が前進する。
彼等の将は、今は亡き謀将、真田幸隆の嫡男である真田信綱であった。
更には、御親類衆の一条信竜の隊、武田信廉の隊も次々に前進していった。
「鉄砲放て!」
武田勢もまずは鉄砲を撃ちかける。
しかし、その火力は到底織田勢には及ばない。
武田方も鉄砲を用意していたのだが、実は長篠城への攻撃で多くの弾薬を使ってしまっていたのだ。
よって、弓などで支援しながら、早く優位な接近戦に持ち込む必要があったのだ。
「柵を押し倒せ!」
しかし、武田勢は最強と謳われる猛者。
数のみを頼みにする織田勢は、到底勇猛で鳴る武田勢の勢いが止められない。
「退け! 退け!」
精鋭ぞろいの真田隊の猛攻の前に、遂に織田勢は最前列の柵を放棄してしまった。
「馬鹿な! 何をやっておるか!」
これを知り、烈火のごとく怒る信長。
この時点では、武田方が圧倒的に優位に戦いを進めていた。
……が、勝頼の元に急報が入ったのはそのころだった。
織田信長は笑っていた。
愚かにも数に劣る武田勢がノコノコと出てきたのだ。
しめしめといったところだった。
「さては、佐久間様の計略が当たりましたかな?」
家臣が信長に問う。
「あはは、信盛が裏切る訳がなかろう! 馬鹿な武田勢を根切りしてしまえ!」
織田勢は3万の内訳は、三重の柵の後ろに布陣する諸隊。
その後ろに控える予備隊である信忠隊。
さらにその後ろの総予備として、信長本隊が控えていたのだ。
凄まじいまでの重厚な布陣。
よって、信長自身が前線の戦慄を覚える距離では無かったのだ。
☆★☆★☆
反して武田勢左翼に対して布陣する徳川家康は様子が違った。
何しろ戦線の半分を担当するのに対し、徳川勢の総数はわずか五千。
武田勢が狙うなら、この五千の徳川勢のはずだったのだ。
「敵襲! 敵の馬印は白桔梗。山県隊です!」
「くそっ!」
家康は歯噛みする。
山県隊は赤一色に装備を統一した赤備えで有名な武田家中最強の部隊だったのだ。
これを知らない周辺勢力はいない。
しかも、徳川勢は先の三方ヶ原で、山県隊の強さと恐ろしさが骨身に染みていたのだ。
「鉄砲放て!」
――ダダーン
徳川勢右翼の大久保隊が山県隊に鉄砲で応戦。
しかし、山県隊を前に士気はとても低かった。
対する山県隊は、鉄砲除けの竹束を持った徒武者たちがじわじわと進む。
その竹束の後ろから、武田の鉄砲隊の反撃もあった。
「柵を引き倒せ!」
山県隊は徳川勢にたやすく接近。
逃げ腰になる徳川勢をよそに、次々に柵を引き倒しにかかった。
「大久保隊を助けよ!」
徳川勢中央の榊原隊が、山県隊の側面を突こうとするも、武田側の原昌胤の隊が接近したために頓挫。
家康が最も頼りにする本多隊には、内藤昌豊の隊が襲い掛かっていた。
「いかん、予備隊を回せ!」
「はっ!」
家康は堪らず旗本隊の一部を大久保隊の救援に向かわせる。
……が、それは少し遅かった。
「掛かれ!」
山県隊は柵を引き倒すと見せて、実はその後ろで山県昌景直卒の騎馬武者たちが柵を迂回。
徳川勢の右翼側面に襲い掛かった。
「殲滅せよ! 掛かれ、掛かれ!」
「助けてくれ!」
山県隊の騎馬武者の姿を見て、逃げまどう徳川勢の足軽たち。
彼等には家で家族が待っていたのだ。
噂に聞く深紅の赤備えの武者たちと戦うのは、まっぴらごめんだったのだ。
「逃げるな! 戦え!」
一気に崩されるかに見えた徳川勢だが、家康が全ての旗本部隊と予備隊を右翼の援軍に投入。
この乾坤一擲の家康の采配は吉と出た。
徳川勢は一度目の山県隊の突撃を、甚大な被害の末になんとか阻止。
一旦は追い払うことに成功したのだった。
☆★☆★☆
「掛かれ!」
武田勢最右翼の馬場隊は、織田軍の最左翼の佐久間隊に突撃。
ここは山の上に築かれた砦であった。
――ダダーン
織田勢から降りしきる銃弾の数は、徳川勢の比ではない。
「慌てることは無いぞ!」
老練な馬場信春は、誰もが認める戦巧者であった。
巧妙な戦術で佐久間隊を翻弄。
接近し次々に柵をなぎ倒すと、当初の予定通り、佐久間隊は抵抗せずに後退した。
「追撃しますか?」
与力の武者が馬場信春に問う。
「いや、佐久間信盛の動きを見るとしよう!」
馬場隊は丸山砦を難なく占拠。
その知らせは勝頼に届いた。
「やはり、佐久間信盛に戦意は無いと見た!」
「好機ぞ! 中央隊を押し出せい!」
後世の関ケ原に見るように、裏切りを約束しても、当時は途中までは様子を見るケースは多い。
完全に裏切らせるためには、あくまでも優位に戦っているように見せねばならなかったのだ。
☆★☆★☆
「掛かれい!」
「押し出せ!」
――ドンドンドン
本陣からの押し太鼓に合わせ、武田勢中央先鋒隊の信濃先方衆が前進する。
彼等の将は、今は亡き謀将、真田幸隆の嫡男である真田信綱であった。
更には、御親類衆の一条信竜の隊、武田信廉の隊も次々に前進していった。
「鉄砲放て!」
武田勢もまずは鉄砲を撃ちかける。
しかし、その火力は到底織田勢には及ばない。
武田方も鉄砲を用意していたのだが、実は長篠城への攻撃で多くの弾薬を使ってしまっていたのだ。
よって、弓などで支援しながら、早く優位な接近戦に持ち込む必要があったのだ。
「柵を押し倒せ!」
しかし、武田勢は最強と謳われる猛者。
数のみを頼みにする織田勢は、到底勇猛で鳴る武田勢の勢いが止められない。
「退け! 退け!」
精鋭ぞろいの真田隊の猛攻の前に、遂に織田勢は最前列の柵を放棄してしまった。
「馬鹿な! 何をやっておるか!」
これを知り、烈火のごとく怒る信長。
この時点では、武田方が圧倒的に優位に戦いを進めていた。
……が、勝頼の元に急報が入ったのはそのころだった。
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