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第十話……雨天の軍議
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「本隊は山の陰に隠れよ! 決して武田勢に悟られるな!」
「各諸隊は計画のとおり、陣地を構築せよ!」
織田勢と徳川勢は雨の中、長篠城付近の設楽ヶ原に着陣。
主力部隊を山の陰に隠したまま、陣地の構築を始めた。
持ってきた木材を縄で結び、連吾川沿いに長大な柵を築いていたのだ。
この柵の工事だけは大規模で、すぐに武田勢の知るところとなった。
――
その日の夕方の軍議。
「なぜ、敵は此方まで来ず、左様なことをしておる?」
勝頼が疑問に思うのも当然であった。
敵方の長篠城は風前の灯。
すぐに援軍に来るのが筋であって、謎の陣地構築は腑に落ちなかったのだ。
「ご陣代様、今は雨季。野戦では鉄砲は使えませぬゆえ、さほど恐れることはありますまい」
ご親類衆の総意として、武田信廉が発言する。
が、これに対して異を唱えたのは、亡き真田幸隆の三男昌幸であった。
「此度は野戦にて徳川勢を叩くが本題。陣城など作られては厄介です。今晩のうちに夜襲して破壊しては如何でしょう?」
「それは良い策だ。夜は織田軍自慢の鉄砲も使えぬ!」
「すわ、某にご命令を!」
賛意を示す、馬場信春と山県昌景。
譜代の諸将たちもこの夜襲案に前向きだった。
しかし、この夜襲案には、穴山信君など御親族衆が猛反対する。
「夜襲では我が騎馬隊も同士討ちする恐れもある。我が軍も鳶の巣山をはじめてとして砦を築いておるのじゃ、危険を冒す必要はないではないか?」
勝頼の前で、御親類衆と譜代家臣の意見が真っ二つに割れた。
ここで再び、亡き信玄の弟である武田信廉が口を開く。
「まぁまぁ、皆様方、そう熱くなられるな。敵は織田徳川勢ですぞ! ここは一度様子を見られるのも悪くありますまい」
御親類衆筆頭格の武田信廉は、家中でも温厚派として知られていた。
彼の仲裁案に、双方とも言を控え、とりあえずは夜襲案は棚上げとなったのだった。
――
翌日の軍議。
「敵は野戦をご所望の模様。数は我が方と同じくらいとお見受けいたす。ここは我が方から出向いて一蹴しては?」
昨日とうって変わり、積極策を展開する御親類衆の筆頭格である穴山信君。
彼は信玄の姉を母に持ち、信玄死後の武田家での発言力は絶大であった。
「穴山殿! 昨日は様子を見ると申したのではなかったのか!」
西上野郡代の内藤昌豊が声を荒げる。
物見の報告によれば、織田徳川連合軍の陣地は、ほぼ出来上がっているとのことだったのだ。
「明るいうちに戦うのなら、万が一にも負けることはありますまい!」
「そうですぞ! 我が最強の武田軍団が正面から戦って負けるわけがありますまい」
御親類衆のみならず、勝頼の側近たちも、昼間の正面決戦には肯定的だった。
勝頼が譜代衆の顔色を窺おうとすると、
「ご陣代殿は、臆病風に吹かれましたかな?」
「なんだと!?」
御親類衆の挑発に、血気盛んな若い勝頼は乗ってしまう。
こうして、突如軍議は決した。
――
「御旗盾無、御照覧あれ!」
家宝盾無しの鎧に、勝頼を始め武田の諸将は、此度の野戦での必勝を祈願した。
この鎧に誓ったことは、先代の信玄でも覆せない重いものとなる。
それは即ち、誰もがこの織田徳川勢との野戦を、一切否定することが出来なくなった瞬間であった。
「各諸隊は計画のとおり、陣地を構築せよ!」
織田勢と徳川勢は雨の中、長篠城付近の設楽ヶ原に着陣。
主力部隊を山の陰に隠したまま、陣地の構築を始めた。
持ってきた木材を縄で結び、連吾川沿いに長大な柵を築いていたのだ。
この柵の工事だけは大規模で、すぐに武田勢の知るところとなった。
――
その日の夕方の軍議。
「なぜ、敵は此方まで来ず、左様なことをしておる?」
勝頼が疑問に思うのも当然であった。
敵方の長篠城は風前の灯。
すぐに援軍に来るのが筋であって、謎の陣地構築は腑に落ちなかったのだ。
「ご陣代様、今は雨季。野戦では鉄砲は使えませぬゆえ、さほど恐れることはありますまい」
ご親類衆の総意として、武田信廉が発言する。
が、これに対して異を唱えたのは、亡き真田幸隆の三男昌幸であった。
「此度は野戦にて徳川勢を叩くが本題。陣城など作られては厄介です。今晩のうちに夜襲して破壊しては如何でしょう?」
「それは良い策だ。夜は織田軍自慢の鉄砲も使えぬ!」
「すわ、某にご命令を!」
賛意を示す、馬場信春と山県昌景。
譜代の諸将たちもこの夜襲案に前向きだった。
しかし、この夜襲案には、穴山信君など御親族衆が猛反対する。
「夜襲では我が騎馬隊も同士討ちする恐れもある。我が軍も鳶の巣山をはじめてとして砦を築いておるのじゃ、危険を冒す必要はないではないか?」
勝頼の前で、御親類衆と譜代家臣の意見が真っ二つに割れた。
ここで再び、亡き信玄の弟である武田信廉が口を開く。
「まぁまぁ、皆様方、そう熱くなられるな。敵は織田徳川勢ですぞ! ここは一度様子を見られるのも悪くありますまい」
御親類衆筆頭格の武田信廉は、家中でも温厚派として知られていた。
彼の仲裁案に、双方とも言を控え、とりあえずは夜襲案は棚上げとなったのだった。
――
翌日の軍議。
「敵は野戦をご所望の模様。数は我が方と同じくらいとお見受けいたす。ここは我が方から出向いて一蹴しては?」
昨日とうって変わり、積極策を展開する御親類衆の筆頭格である穴山信君。
彼は信玄の姉を母に持ち、信玄死後の武田家での発言力は絶大であった。
「穴山殿! 昨日は様子を見ると申したのではなかったのか!」
西上野郡代の内藤昌豊が声を荒げる。
物見の報告によれば、織田徳川連合軍の陣地は、ほぼ出来上がっているとのことだったのだ。
「明るいうちに戦うのなら、万が一にも負けることはありますまい!」
「そうですぞ! 我が最強の武田軍団が正面から戦って負けるわけがありますまい」
御親類衆のみならず、勝頼の側近たちも、昼間の正面決戦には肯定的だった。
勝頼が譜代衆の顔色を窺おうとすると、
「ご陣代殿は、臆病風に吹かれましたかな?」
「なんだと!?」
御親類衆の挑発に、血気盛んな若い勝頼は乗ってしまう。
こうして、突如軍議は決した。
――
「御旗盾無、御照覧あれ!」
家宝盾無しの鎧に、勝頼を始め武田の諸将は、此度の野戦での必勝を祈願した。
この鎧に誓ったことは、先代の信玄でも覆せない重いものとなる。
それは即ち、誰もがこの織田徳川勢との野戦を、一切否定することが出来なくなった瞬間であった。
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