陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪

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第五話……巨獣落つ

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 三方ヶ原での寒空がこたえたのか、信玄の病は再び重くなってしまう。



 無敵の武田軍団は、三河へと進撃。

 金堀衆などを駆使して、野田城を攻略した。



 遂に尾張の織田信長との決戦と思われたが、それ以上の進軍はなかった。

 実は、それだけ信玄が重篤だったのだ。





「父上、もはやそのお体では無理でございます」



 重臣たちが居並ぶ中、勝頼が病床の父を労わる。





「ならぬ! 明日にも京へと武田の旗を立てるのだ! ゴホッゴホッ……」



「御館様、これ以上はもう……」



 医師の御宿監物が口を挟んだところで、信玄は意識を失う。

 信玄は度重なる高熱と喀血で、体力が蝕まれていたのだ。





 ……信玄の容態は更に悪化。

 結局、武田軍は古府中へと撤退ということになった。



 数々の苦しい戦が合っても、必ず躑躅が崎館に戻ってきた信玄。

 しかし、今回それは叶わなかった。





元亀4年(1573年)4月12日



 戦国の巨獣は、甲斐に帰ることなく没した。

 ここに西上作戦は潰えることになる。

 そして、その死は敵味方問わず伏せられることとなった。





『我が死を3年伏せよ。その間むやみに戦をしてはならぬ』



『次の当主は信勝、勝頼は陣代として信勝を支えよ』



 この二つが信玄の遺言であった。

 この遺言こそが、信玄の最大の失策であり、勝頼の行く手を大きく縛っていくのである。







 また、信玄の西への侵攻が止まったことにより、信長は信玄の病が重いことを察する。



「信玄坊主め……、さては死んだか?」



 これ幸いと、信長は軍を大量動員。

 長嶋願正寺や北畠具教への攻勢を強める。



 武田の元へは早く西への攻撃を再開させるよう、悲鳴にも似た矢のような催促が届いた。

 ……が、武田は動くことは無い。



 信玄の死を確信した信長は、二条城に立て籠もる足利義昭をも攻撃。

 降伏開城させることに成功した。



 こうして、信長包囲網は完全に瓦解。

 信長は最大の窮地を脱することに成功したのだった。





☆★☆★☆



 人物コラム『馬場信春』



武田四名臣の一人。

信玄の父、信虎の代から3代にわたり武田家に仕える。

40数年の間、70回を越える戦闘に参加し、長篠の戦いまでかすり傷一つ負わなかったということから、『不死身の鬼美濃』と恐れられる。

野戦巧者であるのみならず、築城も山本勘助に習い得意であったと伝わる。

長篠の戦で戦死。
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