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【第三章】燃え盛るカリバーン帝国

第百十二話……忠臣パルツア―少将!

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(……とある密室)



「皇帝パウリーネはまだ見つからんのか?」



「……はっ、未だにご遺体もご生存も確認できません」





「アーベラインの奴も見つからんのか?」



「はっ! 申し訳ありません」





「共和国との戦況もひっ迫している。いち早くこのクーデターを成功させるのだ!」



 そう部下にいい放ち、暗闇の中で男は机を叩いた。



「……早く、せねば……」







☆★☆★☆



 私は焦っていた。

 もし、今回の皇帝暗殺を企んだ者がクレーメンス公爵元帥などの軍部であった場合、それに対抗しうる戦力の構築が急務だった。



 幸いにも、レオナルド星系、ドラグニル星系、フェーン星系、ラム星系は我が第10艦隊の直轄地であった。

 しかし、肝心の蛮王様のエールパ星系には、星系防衛艦隊が別途配属されていた。

 この戦力を味方に引き入れることができるかどうかが、とても大きかったのだ。





「……どういたしましょう?」



 今まさに、この件を副官殿に聞かれている。





「とりあえず、会って話すしかあるまい」

「危険では?」



「いや、危険はもとより承知。会ってみる!」



 言葉とは裏腹に、私の足は少し震えていた……。







☆★☆★☆



 私はエールパ星系に足を運び、エールパ星系の防衛艦隊司令部にアポをとる。

 どうやら、新任の防衛艦隊の司令官は女性らしい。





「中将! お待たせしました! エールパ星系防衛艦隊司令官パルツアー少将であります!」



 応接室で待っていると、件の司令官が現れた。

 褐色肌の長身のモデル体型。ワイン色の髪は肩の上までに短くまとめられており、ある種逞しそうな風貌の女性将官だった。





「ああ、初めまして、よろしく」

「よろしくお願いします!」



 ああ、私が上官なのか……、なんだか慣れないな。





「かけてくださいな」

「はっ!」



 パルツアー少将は私の真正面の席に座る。



 端麗な顔つきから、厳しそうな表情が伺える。

 こういう怖そうな女性は苦手なんだよなぁ……、って、今は関係ないか。





「パルツアー少将! 君は今の情勢をどう考える?」



 探りを入れたいが、どう聞いて良いかわからない。





「はっ! いち早く皇帝陛下を探し出し、ご無事を確認したく存じます!」



「……」



 本心から言っているのだろうか?

 表情はいたって真面目。

 しかし表情だけでは分からない。





――【邪眼】を発動しますか?

 変な声が脳に直接に響く。



 意味が分からないが『YES』と念じた。



 目の前が真っ赤になる。

 眼前に赤いフィルターを下ろされた感じだ。





 【DATE】……『この女は真実を語っている』

 眼の前にそう表示された。





 【邪眼】とはそういうスキルなようだった。

 すぐに眼前は元に戻るが、目がひどく疲れ、軽く眩暈がした。





「ヴェロヴェマ中将! 大丈夫ですか!?」

「……ああ、ありがとう」



 ……信じてみるか。



 それから、彼女と本題について話した。

 彼女は私が思うより、もっと実直な忠臣だった。

 というか、本来帝国軍人はこうあらねばならないのかもしれない……。





「皇帝陛下はご無事なのですか!?」



 彼女は目をむき、大変に驚く。





「ああ、ご無事だ。しかし声が大きいぞ!」



「失礼しました」



 その後。

 彼女を皇帝陛下と謁見されることを前提に、彼女は内密に私の麾下に入ってくれると約束してくれた……。







 その後、彼女をレオナルド星系に連れていき、皇帝陛下に謁見してもらう。

 彼女は泣いて感激し、皇帝陛下の手をとって喜んだ……。



 ……その姿を見て、侍従や侍女たちも感極まり、泣き崩れていった。



 私はなんだかとても良い光景を見た気がする。



 本来、私はこの世界の住人ではないので、皇帝陛下にそれほどまでの親しみや忠誠心は持ち合わせていなかったのだ……。







☆★☆★☆



 パルツアー少将にはエールパ星系に戻ってもらい、情報収集に努めてもらうことにした。

 だれが皇帝暗殺に加担したか調べてもらう手はずだった。



 しかし、そう簡単には相手も尻尾は出さないだろうが……。





 現在、カリバーン帝国の主力艦隊はグングニル共和国艦隊と交戦中だった。

 よくもまぁ、そんなにしょっちゅう戦争できるものだと感心する。



 その分が、造船景気に火を付けているのは間違いないのだが。

 ……心境は複雑だった。



 帝国軍への輸送艦納品の利益で、私は私設艦隊の戦力増強に日々務めた。

 子爵として、ラム星系防衛の戦力を持つことは公認されていたのだ。



 ……が、過度な装備は目につくので、宇宙空母【ドラグニル】などは商船に偽装させていた。







――それから三か月後。



 いつも通り忙しなく訓練をこなしていると、一通の通知がきた。



『重大な緊急議案があるので、帝都バルバロッサに参集せよ!』



 総司令部からの各星間艦隊司令官への通達だった。





 私はハンニバルに乗り、帝都バルバロッサがあるツエルベルク星系に向かった。

 多分重大な議案とは、皇帝陛下のことだろうことは、容易に想像がついていたのだが……。







☆★☆★☆



 帝都バルバロッサの会議室には、私を含め10名の星間艦隊司令官と惑星地上軍団長が席についていた。

 議長はクレーメンス公爵元帥。



 司会進行役のリーゼンフェルト大将が口を開く。



「我々は早急に、新たな最高司令官を必要としている!」





 各星間艦隊司令官は一応に『やはり、そうきたか!』という顔つきになる。



 ……カリバーン帝国にとって、真の意味の最高司令官とは、皇帝陛下そのものを表していたのだった。

 そして、誰がどちら側に着くかという、きな臭い政治的才覚が発揮されようとしていた。

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