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【第二章】赤い地球

第百七話……自由と権利 ~クリームヒルト自治領~

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「ゴホゴホ……」

「提督大丈夫ですか?」



 副官殿がオデコとオデコを当ててくれる。

 副官殿のオデコが冷たく感じる。



 ……ということは私が熱いのだろう。





「熱がおありですわね……、今日はお休みになってください」

「はい」



 そうえいば最近、働き詰めだったかもしれない。

 お布団が温かくて気持ちいい。

 ……お布団の中ってどの世界でも幸せだ。



 副官殿が部屋を出ていった後、扉が開く。





「艦長、風邪ひいたポコ?」

「うん」



 タヌキ砲術長がやってきた。



「お見舞いに珈琲いれてあげるポコ!」

「ありがとう」



 ……といっても毎朝入れてくれるのだが。





「どぞ、ポコ」

「ありがとう」



 今日はホイップ入りのウインナーコーヒーだった。

 彼なりの優しさかもしれない。



 タヌキ砲術長が退室して、少し経ったあと。





「風邪ひいたニャ?」



 猫人のマルガレータ嬢がやってきた。





「これをあげるから、元気になるニャ!」

「ありがとう」



 くれたのは小さな銀貨だ。

 彼女はお金が何よりも好きなのだ。

 最高位の思いやりかもしれない……。



 マルガレーテ嬢が退室する。





 ……天井を眺め、ぼんやりする。

 自分がいなくなっても、今日も開発公社もハンニバルも上手く回っている。

 いなくて困ると言われることもない……。



 なんだか寂しい気持ちもあるが、それがまともな組織というものだろう。

 いれてもらったウインナーコーヒーを啜り、横になったあと、ゆっくりと瞼を閉じた。





 ……しばらく寝ていたのだろうか。

 時計の針が進んでいる。



 傍らを見ると、副官殿が椅子に座っていた。





「どうしたの? 何か用?」



「用がなければ、居てはいけませんか?」



「風邪がうつるよ?」



「ふふふっ」



 ……温かい表情になり、笑われる。

 私は何かおかしいことを言ったのだろうか?





「以前、ルドミラ教国にお逃がしになったアンドロイドたちのことを覚えてらっしゃいます?」

「……ああ、あれからどうなったの?」



「全員、地球という楽園に行ったとのことです」

「そこは楽園なの?」



 そう問うと、副官どのは物憂げな表情になり、





「わかりませんけど、私達アンドロイドはどこへ行っても差別されますわ」

「……すまない」



「ここでは、差別されていませんわよ?」

「そうかな?」



「そうですわ、自信をおもちになってください」

「……うん」



 そもそも、それが当たり前のことで、自信を持つようなことでもないと知っているのだが、優しく褒めてもらうことが嬉しかった。





 加湿の為にストーブの上にやかんがおいてある。

 白い靄が辺りを温かく包む。





「クリームヒルトさんって、夢とかあるの?」

「提督は?」



「……ない。しいて言えば今のままが良いかな?」

「それは贅沢ですわね」



「あはは……手痛いな」

「クリームヒルトさんは?」



「もしあったら、叶えてくださいますか?」

「……え?」



 彼女は私の布団に潜り込んできた。





「私も今日はサボりますわ♪」

「うん、サボろうサボろう♪」



 ……二人でお布団の中でヌクヌクした。

 世界や宇宙は広いが、自分の望みは小さいことを改めて実感する。



 明日元気になったら、お仕事かぁ……。

 なんだか、明日も同じようにサボりたい私だった。







☆★☆★☆



(……次の日)



 私は元気になった。

 ハンニバルの第二会議室兼、居間に向かう。



 ここは既に我が家だ。

 ゲーム機も据え置きであって、いろいろと皆の私物で散らかっていた。





「おはようございます!」

「おはようポコ!」



 タヌキ砲術長が朝の珈琲をいれてくれる。





「いただきますニャ!」

「いただきます!」



 皆といつものようにテーブルで朝食をとる。

 今日は目玉焼きとパンとサラダだ。



「クリームヒルトさんは?」

「あ、いないポコね……」



「どうしたニャ?」



 副官殿の私室に皆で尋ねると、風邪で寝込んでいた。





「誰かのせいニャ!」

「風邪がうつったポコ!」



「……すいません」



 ……風邪は他人に移すと治るらしいよね。



 その後、副官殿にレトルトを温めたお粥を持っていく。





「提督」

「なんでしょう?」



「食べさせてください♪」



「……ぇ?」



 ねだられると気恥ずかしかったが、頑張ってみた。

 上手に口に入れるのが意外と難しい。





「提督……、私の夢を叶えてくださいます?」

「……どんな夢でしょう?」



「……それは、……えっと」



 彼女が差し出した資料は、アンドロイドたちが暮らせる街の構想だった。

 彼女は今までの自分のためたお金で、惑星カイの土地を買うという。



「お金はいらないよ!」

「いえ、払いますわ」



 彼女が言うには、自由や権利は無料ではダメらしい。

 ……それなりの代償がいるのが普通であると。



 心が痛いね。

 私は今まで自由は無料であると思っていたし、これからもそうであるべきだと思っているが、お金は受け取ってヨハンさんに預けた。



 ……彼らアンドロイドの将来の為にこっそり貯金しておくようにと。







☆★☆★☆



 後日、副官殿に土地の権利書を渡すと、元気になった彼女はとても感謝してくれた。



 いいことした気分に、少しなった。

 とてもささやかであったけれども……。





 その後、惑星カイの土地の一角はクリームヒルト自治領となり、自治権が発生した独立地となった。

 領主の私も一切関与しない、彼女だけの土地だ。

 きっと、アンドロイドたちの本当の楽園になるといいと願った。





 ……ハンニバルは今日もお小遣い稼ぎの為、資源探査に宇宙を駆け巡っていた。







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