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【第二章】赤い地球
第九十一話……ジョー・ウハン星系の悲劇
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――ジョー・ウハン星系。
カリバーン帝国から一度グングニル共和国に寝返った地方星系であり、再びカリバーン帝国に身を寄せようとしていた。
そもそも、勢力圏境の星系は戦略的な緩衝地帯とされることも多く、絶えず有利な立場を得るべく身を処す必要があったのである。
カリバーン帝国のリーゼンフェルト大将は、ジョー・ウハン星系に20年間の租税免除と兵役免除を約束していた。
リーゼンフェルト大将が率いる100隻余の艦隊は、グングニル共和国との国境を越え、ジョー・ウハン星系外縁に到達。
……これを待ち構えていた共和国艦隊80余隻と相対しようとしていた。
☆★☆★☆
「諸君! 共和国艦隊に初戦を優勢に戦えば、当星系はすぐに降伏するだろう!」
「……半ば勝ったような戦だが、油断せぬように!」
リーゼンフェルト大将の訓示が終わる。
ハンニバルのスタッフは装甲服を着て、臨戦態勢に備えていた。
――情報士官より知らせが届く。
「敵、捕捉! 位置はP-281地点です!」
「砲撃戦用意!」
「予定通りだな」
「……ですわね」
今回、敵星系から事前に情報が得られていた。
敵の陣容や布陣もほぼわかっていたのだ。
私の率いる第六戦隊は艦隊右翼の一部を任せられていた。
ハンニバル以下、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、ミサイル艦2隻、ビーム砲艦2隻の小艦隊だった。
「全艦、砲撃開始!」
「全砲門開けポコ!」
タヌキ砲術長の命令一下、存在の限界まで白熱した円柱が漆黒の宇宙を切り裂く。
大口径の砲身から、悪魔の化身である大量のガンマ線が吐き出された。
「初弾命中!」
「敵巡洋艦大破!」
「次弾装填急げ!」
「了解!」
準備周到な物資の補給作戦が敷かれ、敵の情報もあったので我が戦隊は優位に立っていた。
開戦わずか30分で、ハンニバルは2隻の敵艦を沈め、さらに3隻を大破させる戦果を挙げていた。
「総司令部から伝達、『右翼部隊は包囲網を拡げろ!』、とのことです!」
「了解!」
我が第六戦隊は本隊より距離をとり、翼端を伸ばして敵の側面に回り込もうとしていた。
……しかし、
「敵艦隊、撤退していきます!」
敵は不利を感じ取り、あっさりと星系内の小惑星帯に引き籠ってしまった。
こちらも慎重になり、追撃は行われなかった……。
「ジョー・ウハン星系より通信、『ワレ降伏ス!』とのことです!」
星系降伏の連絡が入る。
総司令部は歓声に包まれた。
「お、終わったポコ?」
「……さぁねぇ?」
……私は懐疑的だった。
上手くいきすぎているというのが理由であって、おおよそ論理的ではないのであるが……。
我々は小惑星に隠れる敵艦隊をけん制しながら、ジョー・ウハン星系の各惑星の制圧にかかる。
降伏していたので、ほとんど手間はかからない。
私はハンニバルの艦橋から、惑星に降下する陸戦部隊を眺めていた。
……事件は起こる。
「大出量エネルギー確認!」
「電磁障壁出力最大!!」
「全艦、回避行動!」
大質量を伴った熱光子線は、帝国艦隊ではなくジョー・ウハン星系の各惑星に降り注いだ。
☆★☆★☆
――星間交戦法第6条。
抗戦の意思のない惑星に対する、宇宙空間からの砲撃を一切禁止する。
とくに熱線を生じさせるものは厳にこれを禁止する。
人類が9割以上の人口と耕作面積を焼き失った、星系間熱核戦争の反省からの条約が、あっさりと破られた。
惑星に降り立ったカリバーン帝国の惑星地上軍もろとも、惑星の地表は高温の爆風にて吹き飛んだ……。
「!?」
「ば……、馬鹿な!?」
私は思わず声を荒げる。
ここの星系は防御衛星などを伴っていなかった。
つまり丸腰である。
……わずか数時間前までの味方の星系を無残に焼き殺したのだ。
眼下の惑星が赤く染まっていた。
地上の悲劇は言うまでもない……。
「第七師団全滅! ハインツ師団長戦死!」
「第六連隊司令部応答なし!」
「生き残っている地上部隊を探し出せ!」
第六戦隊はハンニバル以下全艦で救助活動を開始した。
……我々占領軍は油断していた。
まさか、非武装惑星に敵艦隊が遠距離射撃してくるとは、思うだにしなかったのだ……。
この日の帝国軍の惑星地上軍の被害は、死傷者19万という前代未聞の数字にのぼった。
この人たちの家族を含めると、信じられない数の悲劇が産まれたのだった。
……民間の死傷者は数えたくもない惨状である。
☆★☆★☆
その後、共和国艦隊はすぐに撤退。
長距離跳躍にて姿を消した。
後に残った帝国軍の艦艇はほぼ無傷だったが、この作戦に参加した地上部隊はほぼ全壊してしまった。
カリバーン帝国軍は、惑星地上で作戦行動のできる部隊の約25%を喪失。
組織の人員の25%を一度に失うということは、その組織の壊滅を意味している。
防御戦力も考えると25%という数字がいかに大きいかが判るだろう。
☆★☆★☆
確かに、帝国軍は勝利した。
但し、得られたのは、病院が一杯となる凄まじい数の負傷兵と、廃墟と化した飢える民衆溢れる星系だったのだが……。
後日、カリバーン帝国のリーゼンフェルト提督はTVでの記者会見を開き、艦隊戦に勝利し、敵星系を奪取することに成功したと大々的に発表した。
それは、全く嘘では無かったのだが……。
同時に、関係者に被害に関する緘口令も布かれた。
報道に帝国民は歓喜し、戦勝パレードも各地で行われた。
併せて、飲食店や商店街は非常に活気があふれた。
……しかし、この悲劇により、星系の裏切り行為は、星系側にも高くつくと認識されるようになった。
星系の自主独立やデモに対しても厳しい時代が訪れようとしていた。
カリバーン帝国から一度グングニル共和国に寝返った地方星系であり、再びカリバーン帝国に身を寄せようとしていた。
そもそも、勢力圏境の星系は戦略的な緩衝地帯とされることも多く、絶えず有利な立場を得るべく身を処す必要があったのである。
カリバーン帝国のリーゼンフェルト大将は、ジョー・ウハン星系に20年間の租税免除と兵役免除を約束していた。
リーゼンフェルト大将が率いる100隻余の艦隊は、グングニル共和国との国境を越え、ジョー・ウハン星系外縁に到達。
……これを待ち構えていた共和国艦隊80余隻と相対しようとしていた。
☆★☆★☆
「諸君! 共和国艦隊に初戦を優勢に戦えば、当星系はすぐに降伏するだろう!」
「……半ば勝ったような戦だが、油断せぬように!」
リーゼンフェルト大将の訓示が終わる。
ハンニバルのスタッフは装甲服を着て、臨戦態勢に備えていた。
――情報士官より知らせが届く。
「敵、捕捉! 位置はP-281地点です!」
「砲撃戦用意!」
「予定通りだな」
「……ですわね」
今回、敵星系から事前に情報が得られていた。
敵の陣容や布陣もほぼわかっていたのだ。
私の率いる第六戦隊は艦隊右翼の一部を任せられていた。
ハンニバル以下、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、ミサイル艦2隻、ビーム砲艦2隻の小艦隊だった。
「全艦、砲撃開始!」
「全砲門開けポコ!」
タヌキ砲術長の命令一下、存在の限界まで白熱した円柱が漆黒の宇宙を切り裂く。
大口径の砲身から、悪魔の化身である大量のガンマ線が吐き出された。
「初弾命中!」
「敵巡洋艦大破!」
「次弾装填急げ!」
「了解!」
準備周到な物資の補給作戦が敷かれ、敵の情報もあったので我が戦隊は優位に立っていた。
開戦わずか30分で、ハンニバルは2隻の敵艦を沈め、さらに3隻を大破させる戦果を挙げていた。
「総司令部から伝達、『右翼部隊は包囲網を拡げろ!』、とのことです!」
「了解!」
我が第六戦隊は本隊より距離をとり、翼端を伸ばして敵の側面に回り込もうとしていた。
……しかし、
「敵艦隊、撤退していきます!」
敵は不利を感じ取り、あっさりと星系内の小惑星帯に引き籠ってしまった。
こちらも慎重になり、追撃は行われなかった……。
「ジョー・ウハン星系より通信、『ワレ降伏ス!』とのことです!」
星系降伏の連絡が入る。
総司令部は歓声に包まれた。
「お、終わったポコ?」
「……さぁねぇ?」
……私は懐疑的だった。
上手くいきすぎているというのが理由であって、おおよそ論理的ではないのであるが……。
我々は小惑星に隠れる敵艦隊をけん制しながら、ジョー・ウハン星系の各惑星の制圧にかかる。
降伏していたので、ほとんど手間はかからない。
私はハンニバルの艦橋から、惑星に降下する陸戦部隊を眺めていた。
……事件は起こる。
「大出量エネルギー確認!」
「電磁障壁出力最大!!」
「全艦、回避行動!」
大質量を伴った熱光子線は、帝国艦隊ではなくジョー・ウハン星系の各惑星に降り注いだ。
☆★☆★☆
――星間交戦法第6条。
抗戦の意思のない惑星に対する、宇宙空間からの砲撃を一切禁止する。
とくに熱線を生じさせるものは厳にこれを禁止する。
人類が9割以上の人口と耕作面積を焼き失った、星系間熱核戦争の反省からの条約が、あっさりと破られた。
惑星に降り立ったカリバーン帝国の惑星地上軍もろとも、惑星の地表は高温の爆風にて吹き飛んだ……。
「!?」
「ば……、馬鹿な!?」
私は思わず声を荒げる。
ここの星系は防御衛星などを伴っていなかった。
つまり丸腰である。
……わずか数時間前までの味方の星系を無残に焼き殺したのだ。
眼下の惑星が赤く染まっていた。
地上の悲劇は言うまでもない……。
「第七師団全滅! ハインツ師団長戦死!」
「第六連隊司令部応答なし!」
「生き残っている地上部隊を探し出せ!」
第六戦隊はハンニバル以下全艦で救助活動を開始した。
……我々占領軍は油断していた。
まさか、非武装惑星に敵艦隊が遠距離射撃してくるとは、思うだにしなかったのだ……。
この日の帝国軍の惑星地上軍の被害は、死傷者19万という前代未聞の数字にのぼった。
この人たちの家族を含めると、信じられない数の悲劇が産まれたのだった。
……民間の死傷者は数えたくもない惨状である。
☆★☆★☆
その後、共和国艦隊はすぐに撤退。
長距離跳躍にて姿を消した。
後に残った帝国軍の艦艇はほぼ無傷だったが、この作戦に参加した地上部隊はほぼ全壊してしまった。
カリバーン帝国軍は、惑星地上で作戦行動のできる部隊の約25%を喪失。
組織の人員の25%を一度に失うということは、その組織の壊滅を意味している。
防御戦力も考えると25%という数字がいかに大きいかが判るだろう。
☆★☆★☆
確かに、帝国軍は勝利した。
但し、得られたのは、病院が一杯となる凄まじい数の負傷兵と、廃墟と化した飢える民衆溢れる星系だったのだが……。
後日、カリバーン帝国のリーゼンフェルト提督はTVでの記者会見を開き、艦隊戦に勝利し、敵星系を奪取することに成功したと大々的に発表した。
それは、全く嘘では無かったのだが……。
同時に、関係者に被害に関する緘口令も布かれた。
報道に帝国民は歓喜し、戦勝パレードも各地で行われた。
併せて、飲食店や商店街は非常に活気があふれた。
……しかし、この悲劇により、星系の裏切り行為は、星系側にも高くつくと認識されるようになった。
星系の自主独立やデモに対しても厳しい時代が訪れようとしていた。
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