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【第一章】青い地球

第四十六話……『聖騎士の行軍』作戦 ――前編――

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 衛星アトラスに停泊するハンニバルは、急ピッチで荷物を積み込んでいた。

 貨物クレーンが忙しなく動いている。





「物資詰め込んだポコ!」

「倉庫区画一杯ですわ!」



「詰め込みすぎは良くないメェ!」

「船が壊れるクマ!」



「わかったよ、了解!」



 私はみんなにブツクサ言われつつも、物資を満載してエールパ星系を飛び立つ。







 ……4日後にはアルデンヌ星系に到達。





 ここが我がエールパ星系艦隊の防衛責任地域である。

 そして、私の秘蔵の物資を展開する。



 まずは、簡易宇宙トーチカを敷設。



 超硬質コンクリートを使い、そのまわりに対艦載機用の超硬鋼線ネットを張り巡らせる。

 対艦レーザー銃座も配置した後に、ガス状機雷も多数ばら撒いた。



 さらに、共和国軍の新兵器対策。

 対光学迷彩艇探信儀ブイをばら撒く。



 光学迷彩艇とはレーダージャミングを強力にした船に、コウイカやヒラメのような特技を持つ光学迷彩生命体を表面装甲に設置したもので、恐ろしい隠蔽能力を持っていた。



 この艦が知らずに近くにいると、敵の長距離砲に好きなように撃たれる可能性があったのだ。

 よって対策は必要だと考えたのだ。





「防備が凄い量ポコね……」

「こんなところに敵はきませんわ!」



「ガス状機雷は跡片付けがめんどうニャ」



 過剰ともいえる防御設備は、皆に総スカンだった。



 私は聞いてないふりを決めこみ、臨時に雇った工兵隊に頑張ってもらって、アルデンヌ星系に一大防衛陣地を築いたのだった。





「敵よ、来るなら来い!」

「だからここには来ないポコよ!」



「……」







☆★☆★☆



「支援砲撃開始!」

「「「了解!」」」



 パウルス上級大将の号令の下、帝国軍艦艇の主砲は一斉に火を噴いた。





――カリバーン帝国暦851年11月。

 ついに『聖騎士の行軍』作戦は開始した。



 以前より共和国との小競り合いが続いていた正面戦線G-889地域に、長距離レーザー砲の射撃が降り注ぎ、大型ミサイルがイナゴの大群のように襲い来る。



 なにしろ帝国は、この作戦に稼働できるほぼすべての星間航行艦艇を動員していた。





「砲撃開始!」

「まかせろポコ!」



 この砲撃作戦には、一時的にハンニバルも参加していた。



 この大規模な支援砲撃の下、帝国軍のミサイル艦やレーザー砲艦などの小艦艇が突撃した。





 この攻撃作戦は苛烈で、共和国軍の小型防御要塞は次々に沈黙。

 宇宙機雷は掃討され、艦載機防塞ネットも破られ、短距離跳躍阻害ブイまで叩き壊された。



 わずか8時間で、共和国軍のG-889地域前線陣地は完全に崩壊した。



 そのために共和国軍の艦艇は急ぎこの宙域に援軍に来るようになるのである。

 局地的とは言え、食い破られた陣地はほっとくわけにいかなかったのだ。







「ハンニバル発進!」

「長距離跳躍用意!」



 実はハンニバルは支援射撃を行うだけで、すぐに元いたアルデンヌ星系に転進。



 この地域の作戦に参加したほとんどの帝国艦隊は、潮が引く様に任地へ散っていった。

 陽動作戦だったのである。







☆★☆★☆



 ハンニバルはアルデンヌ星系の防御陣地にいた。

 麾下の艦隊15隻も配置についている。



 エールパ星系にはシャルンホルストさんが残りの留守艦隊を率いて待機中である。





「……こんなに要らないポコ!」

「めんどくさい提督メェ!」



 皆にブウブウ言われながらも、陣地の更なる敷設にまい進する私。

 かなりの量の超硬質セメントが使われ、ハンニバルの船倉もかなり空いてきた。



 確かにこのアルデンヌ星系に隣接するルドミラ教国は、共和国と敵対しており、我が帝国を攻めて来る可能性は低かった。

 帝国の作戦部も、この地域にルドミラ教国が攻めてくる可能性は低いとみている。





 ……が、



 『女神ルドミラを崇める連中にとっては、ここは聖地でな……』



 以前シャルンホルストさんから聞いたこの言葉が、私を更なる防衛陣地の増設に向かわせていた。







 ……しかし、肝心の敵は何時まで経ってもやってきそうになかった。



 皮肉にも、ハンニバルの窓から見る星の海は今日も奇麗であった。







☆★☆★☆



 クレーメンス公爵元帥は帝国軍主力部隊を率いて、共和国軍の想定予想会敵ポイントを大きく迂回して進軍していた。



 以前に帝国は共和国軍に戦線の裏側から攻撃されたのである。

 それを二回り大きくした意趣返しだった。



 今回クレーメンス公爵元帥が率いる艦隊は、比較的大きな星間航行艦だけで150隻を数えた。

 補給や整備の面を考えると、帝国が攻撃に動員できる最大の艦艇数規模だった。





 ……その20日後、帝国軍主力艦隊は共和国の索敵網をかいくぐり、戦線の裏側に出ることに成功する。



 星系警備艇しかいない共和国辺境星域を次々に急襲し、連戦連勝を飾った。

 帝国の惑星地上軍の将軍達も勇戦し、制圧した有人惑星は10を数えた。



 そして更に、共和国の勢力圏奥地にまで攻め入ったのだった。







「元帥閣下! 当初の占領予定星域を超えておりますぞ!」

「わかっておる、しかし目の前を見よ!」



 クレーメンス公爵元帥は本国の作戦参謀たちの意見具申を阻み、画像データを本国に転送した。

 元帥率いる帝国艦隊は、共和国最大の商都であるラヘル星系外縁にまで到達していたのだ。





 ……その情報に帝国の作戦参謀たちも息をのんだ。



 ここを占領できなくとも一撃を加えることが出来れば、共和国は帝国に有利な条件で講和条約を結ばざるを得なくなる。

 政治的判断も加わり、本国の作戦部も公爵元帥のラヘル星域の攻撃計画を追認。



 攻勢は決定的となった。



 しかし、流石にここまでくると敵主力が援軍にかけつけて来る恐れがあった。

 公爵元帥率いる主力がラヘル星系を落とすまで、敵の援軍を抑える部隊が必要だったのである。





「元帥閣下! そのお役目某に!」

「おう、リーゼンフェルト中将か! 敵主力部隊阻止は君に託す」



「有難き幸せ」

「うむ、のちに祝杯を挙げようぞ!」



 リーゼンフェルト中将はクレーメンス公爵元帥の後釜に期待された俊英だった。

 彼は公爵元帥の娘婿でもある。

 少し短気なことで有名だったが、連勝中の公爵元帥の人事に口をはさむものはいなかった。



 結局、敵の援軍想定経路にリーゼンフェルト中将の別動隊を向かわせて、公爵元帥率いる主力艦隊はラヘル星域に一気に攻め込むことに決定した。







 グングニル共和国のみならず、この銀河で最大の経済中心地が、初めて戦場になろうとしていた。

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