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【第一章】青い地球

第三十七話……ルドミラ教国誕生

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「我々に真の平和が訪れようとしている!」



「貧しきものが存在しない唯一無二の絶対平和国家の建設!」



「全宇宙の民よ! ルドミラ様を崇めよ!」





 帝国の公営放送の臨時ニュースがモニターに映る。

 二日前に起こった、共和国での大規模な独立運動の映像が流れていた。





 映像内で、手を天に掲げて演説しているのは、ルドミラ教団の神官だった。



 この神官は、貧しき者がいない平和社会の成立を掲げている。



 どの世界でも、人々は『平等』や『平和』を掲げるが、未だに成立していない。



 富めるものは貧しきものを忌嫌い、貧しきものは富めるものを憎んだ。

 人々が口でいうほど皆が『平等』なユートピアの成立は簡単ではなかったのだ。



 また、自分に被害がない紛争や戦争は、関係ないと人は思う。

 しかしそれは、大体において、貿易や資源権利において加害者の側なのだ。



 ……そんな今までの文明発展に飽いた人々が、願ってやまない世界の誕生だったのかもしれない。







 以前より支配階級にも信者を増やしていたルドミラ教団は、最近の共和国の経済不況によって勢力を急速に拡大。

 史上まれに見る、一大政治勢力となっていた。



 今回、グングニル共和国に存在する85の星系の内、実に39個の星系が教団に同調して独立を表明する。

 さらに、共和国軍の一部はそれに伴い蜂起。よって部隊内で反乱が次々に勃発。

 共和国艦隊の泊地内でも、同士討ちが連鎖的に起こっていた。





 ……私はきっと、このユートピアを目指す勢力が起こした事変によって助けられたのだ。



 この二日後、正式にルドミラ教国が誕生した。







☆★☆★☆



 衛星アトラスの宇宙港のドックには、傷ついたハンニバルがいた。

 直撃弾は少なかったものの、大きな破片などが装甲版に突き刺さっていた。

 しばらくの間、入院といったところだった。





「……悲しいかね?」



 シャルンホルストさんに聞かれる。





「ええ、もう愛着がわきましたので……」



「いいことだ、船も大切にするのだぞ!」



「はい、わかりました」



 シャルンホルストさんは結局、軍に戻ることになっていた。

 戻ると言っても、エールパ星系の参謀長として。

 つまるところ、隣の惑星リーリヤへの赴任である。



 私達はその見送りに、宇宙港に来ていたのだ。





「元気でクマー!!」

「おう、達者でやれよ!」



 クマ殿と老将が涙目で抱擁し合う。

 ……実は、すぐ会えるくらいご近所なのだが。

 まぁ、仲が良いのは良いことだ。





 老将が乗ったシャトル定期便は空高く昇って行った。







☆★☆★☆



 私は久しぶりにリアルの世界に戻る。

 ゲームに慣れたため、向こうで過ごす時間が長くなっている。

 ちなみに、むこうと此方は同じ時間は刻まない為、こちらではさほど日数はたっていない。



 熱いシャワーを浴びた後。

 部屋の押入れを開く。



 中にはカップ麺やレトルト食品が沢山貯蔵している。

 ゲームに集中する為に買いだめしてあるのだ。



 お気に入りの銘柄のカップ麺をとりだす。

 台所でやかんを火にかけ、PCの前で胡坐をかく。



 ……ハンニバルの改修用の設計図を描くのだ。





 ハンニバルは映画に出てくるようなカッコイイ流線形をしている船ではない。

 各種モジュールパーツを組み上げた、かなり実用的な姿をしていた。



 いちいち特注品を作っては、コストがかさむ。

 修理時のことも考えて、今回も比較的汎用的なパーツで設計していた。



 戦闘で破損したら、その区画ごと置換できるようにしてある。

 ちなみに、オムライスやジンギスカンとも多くの共通区画がある。

 同じものを使うことで、より沢山の戦闘データを共有。

 防御戦術へのフィードバックができた。



 蛮王様のところの造船所も、同じ規格で船を作っている。

 しかし、帝国も共和国も独創的な船が多く見られ、効率の観点では悪く感じる。

 戦争とは、究極の効率を追い求める競争社会だと思うのだが……。





 ……まぁ、ゲームの世界だし、いつかはカッコイイ流線形の船を造ってみたいものである。

 表面を美しく鏡面加工してみたりと夢は膨らんだ。







☆★☆★☆



 この文明宇宙において、もっとも勢力が大きいのは未だにグングニル共和国であった。



 ルドミラ教国が分離独立しても、その支配星系は46個を数える。

 さらにはホーウッド自治領もあわせると62個の強大な勢力だった。



 今までの共和国軍は、情報組織を駆使した戦略で、帝国軍を苦しめていた。

 しかし、ルドミラ教国の分離独立により、その情報組織も瓦解してしまった。



 分離独立以後。共和国は以前の栄華をとりもどすために焦り始める。

 支配星系の民衆の支持を得るべく、共和国の政治家たちは目先の勝ちを急いだ。



 その圧力を受けた共和国軍総司令部は、兵士に朝ごはんも食べさせず攻撃命令を発したり、寒冷惑星で越冬装備が届いていないのに地上戦を開始するような、悲惨な様相を呈した。



 そのため、今まで劣勢だった帝国軍は各地で息を吹き返す。



 戦線によっては帝国軍は反撃に転じた。

 それは主に、裏切者が支配するホーウッド自治領めがけて反攻ののろしを上げたのだ。



 そのため帝国は、ホーウッド自治領周辺の戦線に、大量の軍事物資を必要としていた。

 軍隊には糧食が、各種兵器には燃料や弾薬が必要だった……。





――後日、修理を終えたハンニバルに、その輸送任務が与えられたのだった。







☆★☆★☆



・グングニル共和国……支配星系62 (内、ホーウッド自治領16、飛び地1)



・ルドミラ教国……支配星系39



・カリバーン帝国……支配星系24



・神聖レオナルド王国……不明
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