64 / 100
~友愛編~
第六十四話……【モロゾフ将軍記⑥】 ──新月の疲弊攻防戦──
しおりを挟む如何なる戦士も心が砕けるとただの人となる。
如何なる時も心が砕けぬ人を皆は勇者と称える。
(古の大魔法使いサマミ・フツザワ)
──ズズズゥゥゥーン
スメルズ男爵は仕方なく兵糧攻めをあきらめ、攻勢に取り掛かった。
まずはボロンフ辺境伯爵を通して王都に大金を献じ、広範囲大魔法を使える魔法使いを招聘した。
広範囲大魔法とは、大変に詠唱時間がかかるものである。
しかしながら今回の相手は城の中でじっとしているので、いくら詠唱に時間がかかっても問題はなかった。
ちなみに、この広範囲大魔法と定義される類の魔法は意外と威力がない。
相手の敷設している防御結界魔法のせいもあるが、さほどの打撃力はないのだ。
もし大打撃の与えられる広範囲大魔法が使える大魔法使いが存在するなら、世界は彼に膝まづき、広く民衆に平和が届けられるはずであった。
まぁ……偉大な魔法使いが真の平和主義者であるという前提であるが。
スメルズ男爵の狙いは大魔法が奏でる大きな音にあった。
威力はともかくとして、轟音が鳴り響けば、相手は眠ることが出来ず疲弊する。そうすれば早晩降伏だろうとの思惑だった。
更には、投石器やバリスタなども製作出来次第次々に前線に投入された。ありとあらゆる物量が、この小さな帝国第113要塞に殺到していったのだった。
──
「ダース司令!どこにおられる!?」
疲労困憊でひきつった顔の中年の下級指揮官が、城の地下にある指令室に入ってきた。
彼は部屋の扉を開けるなりびっくりする。
彼の上司であるダース司令は椅子にくつろぎ寝息をたてていたのだ。その安らかなる寝息は逆に中年指揮官を激高させた。
「なぜ寝てるんだ!?」
ダース司令は、中年の下級指揮官に胸倉をつかまれ、揺り起こされた。
「ん? もう夜かね?」
「まだ昼だ! この腐れ司令官め!!」
指令室から聞こえる怒声に驚いた衛士たちが駆け付け、中年指揮官は取り押さえられた。
「彼に休息を取らせなさい」
ダース司令は傍にいた魔法使いに、睡眠魔法を掛けるように命じた。
──その晩。
城の地下室でたっぷりと休息を取っていた100名の者を引き連れ、ダース司令は夜分に静かに城を出た。
なにも轟音に迷惑しているのは城方だけではなかった。
スメルズ男爵は、日ごろから夜襲に気を付けるよう厳命していた。が、疲労とえん戦気分の部下たちには説得力が乏しかった。
人は概ね感情で動く動物である。感情を支配しきれる人間はもはや神に近い存在言っても差し支えない存在かも知れない。
もはやスメルズ男爵の前線哨戒部隊は、幕舎で酒を飲み、博打にうつつを抜かしている体たらくだった。
頃合いよくダース司令は、攻撃側の哨戒網を次々に突破。
彼ら100名は今日のような新月の夜に備えた漆黒の防寒着に身を包んでいた。
彼らは音をたてず、より深く進入を果たした。
彼はこの日の作戦を『陰のように、影のように……』と教示していたと伝わる。
彼は防御の厚いスメルズ男爵の幕舎をも迂回し、さらに浸透していった。
──翌朝。
スメルズ男爵は、王都から招へいした広範囲大魔法使いが暗殺されたことを知った。証言によれば、近くの村で色恋沙汰に及んでいたのを殺害されたらしかった。
男爵はすぐに緘口令を敷いたが、すぐに兵士たちの噂になった。
更には、敵方ダースにより補給線が襲われたの、右翼総大将ボロンフ辺境伯爵が殺害されただの色々な噂が飛び交った。
男爵は部下たちの顔をみると、疲労がたまり何もかも諦めたくなった表情を見せていた。日頃の勇壮なそれとはまったく異なっていた。
その晩、夕飯を食べた兵たちが多数腹痛を訴えた旨の報告を受け、スメルズは敗北を確信した。
……毒だった。
──
ブタたちはリーリヤを伴い、最近ウサが見つけた薄汚れた海岸で潮干狩りをした。
生き物はとてもきれいなところにはあまり棲まない。むしろあまりにも自然に水が澄んでいた場合は、猛毒を警戒した方が良いと多くの冒険者は語っている。
近くの崖で、竹のような植物で編んだカニ籠に餌をいれ、海中に仕掛けた。
仕掛けたそれは、潮干狩りを楽しんだ後に回収し、ブタ達が中を覗くと大きなズワイガニがはいっていた。
満面の笑顔で丸太小屋に帰ってきたブタ達であったが、鬼のような形相の老騎士が待ち構えていた。
「殿! お話がありまする!!」
危険を察したウサたちは逃亡。ブタだけが取り残される。
……(´・ω・`)
「殿! 皆に内緒で妾をとるとは何事ですか!?」
老騎士は怒鳴る。
「なんのことブヒ? 落ち着いてほしいブヒ」
主君であるブタに指摘され、少し落ち着いた老騎士はブタと話をした。
……既に村中は『領主さまのお妾』の話で持ちきりだった。
ブタは懸命に無実を訴えたが、老騎士は『村民の事実と領主の事実は別』と取り合わなかった。
「そ……そうですな! ここは力業で解決いたしますか!?」
すこし違う方面へ期待したブタだったが、期待は見事に裏切られた。
「10日後に、リーリヤ姫と正式に結婚式ということで」
「ブヒィ!?」
「お嫌かな?」
ニヤリとした老騎士に、ブタはただひたすらにウンウンと無言で頷き続けたのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる