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⑦二人の話

26話(最終回)

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6.二人の話
「もう隠す必要はないと思うけどな。というか、まつりさんは気が付いている気がする」
「いや、まだ『あ~知ってた』みたいな反応される覚悟が出来てなくてですね……」
「時にはあきらめも大事だぞ」
 西京と篠原は、あの誘拐事件からしばらく、それこそ十何年前から関係している。あまりにしつこい西京に篠原が折れた形になるのだが、まつりが成人するまでは隠しておこうと口合わせしていたのだ。最も、まつりは年頃には気づいていたと思う。それでもまだ言えないのは、世間の目からが大きい。
「オレ達も良い年なのだからいい加減覚悟を決めてもいいと思うのだが。まつりさんだって周りの反対振り切って父親とほとんど同じ歳の男と結婚したぞ」
「あの子は貴方に似て自由に育ちすぎたんです……。こんなはずでは……」
 まつりは一時期こそまともに話せないくらいだったが、男親二人の内、あまり似てほしくない方に振り切って似てしまった。
「まあ、そうだなあ」
 西京はベランダの方を見ながら息を吐く。
「十何年もなあなあでやってきたけど、やっぱりオレの気持ちは変わらないよ」
 ベランダにはもう引っ越し業者も、中野の車もない。ひとりの子供を育てて、送り出して残ったのは二人だけ。
「好きだよ。海くん」
 出会ったころより皺の増えた顔で、西京は二人の時しか呼ばない篠原の名前を呼ぶ。
「そろそろ根負けしてくれないだろうか?」
「え? 付き合ってるじゃないですか」
「オレ達も結婚しようと言う話だ」
 思わずため息がこぼれてしまう。
「……まつりには悟られないようにしてましたけど。してるつもりだったんですけど。こっちは」
「……え、それ、どういうことだ!?」
「さあ、どうでしょうね」
 娘を送る日にぴったりの快晴。そんな日くらいは素直になってもいいだろう。
「今更でいいなら役所に出しますか? 婚姻届け。ウチの区なら受け入れてくれますよ」
 笑ってそう言うと、西京は「そういうとこだぞ」と頭を抱えた。
 一人の少女が巣立って、残されたのは二人。
だけど、自分たちが確かに家族だったのは離れていても変わらない。
 彼女が辛い時、嬉しい時、何でもないとき、いつでも帰ってこれる場所を作れればいいと思う。変わらないものはないけれど、この十五年間、三人は確かに幸せで、それだけは変化しながらも、形を変えて存在していた。
 例え全部がカッコウの托卵の様に本物で無いものに塗られていたとしても。
 自分達は家族で、ずっと繋がっている。
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