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まず、リゼが気が付いたのは身体に違和感がないことだ。鉛のように重く感じていた身体も、針を刺すような皮膚の痛みもない。視界が暗くもないし、なんだか人間に戻ったような。そこまで考えて、リゼは自分の身体が人間に——元に戻っていることに気が付いた。
「人間に……、戻ってます! お父様っ!」
父であるアリステルに明るい声でそう言うとアリステルは『……湖を見てみろ』と顎で指した。なんだろうと湖を覗き込もうとするが、両脇を男聖に掴まれていることに気が付いた。
「あ、あの」
「ああ、すまん。病み上がりはちょっと心配だな、これで見えるか?」
そのまま男聖に抱えられたまま湖のほとりまで連れていかれると自分の姿が鏡の如く水面に映る。その姿を見てうんざりした。長い白髪に丸い大きな瞳。それを縁取る長いまつげ。体格はこのように成人男性になら抱えられてしまうくらい小柄だし、「あの男」が言うように女の子と間違えられても何も言えない。せめて髪の毛は切ってしまいたいのだが、父はリゼが伴侶を見つけるまで男らしくするのを良しとしないのだ。リゼはΩだが、Ω性でも男、しかも父が気に入るような——選択肢は多い方がいい。多くの男に気に入られるよう身なりだけでも、と、女のようにと髪を伸ばしていたがそれが原因の逆恨みで呪いをかけられて死にかけたら元も子もないだろう。
「きみの元の姿は知らないがちゃんと治ったか?」
抱えてくれている男聖が申し訳なさそうに言う。そういえばわざわざ異世界から呼び出したうえ、無理やりキスまでさせたのにお礼すら言っていない。リゼは自分の身勝手さに落ち込んだが、すぐに持ち直して「おろしていただけますか?」と言って彼と向き合った。
「遥々この世界に来ていただいた上、助けてくださってありがとうございました。えっと」
「トモだ。如月トモ」
「トモ様……」
彼は顔を見るためにリゼが見上げてしまうくらいの長身の男で、整った身体と顔をしていた。無造作で長い前髪に隠れているが、切れ長の目はクールで色っぽく、異国のシンプルで飾らない服装がセクシーさを助長させている。どこか愁いを帯びたアンニュイな表情も素敵だ。正直に言おう。彼はリゼの恋愛対象の好みとしてドストライクだった。元々Ω性なこともあるからか男性の方が好きなリゼだったが、言い寄ってくるのは「あの男」のようなイロモノばかり。せめてまともなαを……。と思っているところにこれだ。リゼはこれから出産適齢期と言われる年代になる。本当にはっきり言ってしまえば番になってほしい。
「父親になることを前提にセックスしていただけませんか?」
「悪い俺勃起しないんだ」
口から勝手に出た言葉は彼のはっきりした一言によって撃沈した。
「人間に……、戻ってます! お父様っ!」
父であるアリステルに明るい声でそう言うとアリステルは『……湖を見てみろ』と顎で指した。なんだろうと湖を覗き込もうとするが、両脇を男聖に掴まれていることに気が付いた。
「あ、あの」
「ああ、すまん。病み上がりはちょっと心配だな、これで見えるか?」
そのまま男聖に抱えられたまま湖のほとりまで連れていかれると自分の姿が鏡の如く水面に映る。その姿を見てうんざりした。長い白髪に丸い大きな瞳。それを縁取る長いまつげ。体格はこのように成人男性になら抱えられてしまうくらい小柄だし、「あの男」が言うように女の子と間違えられても何も言えない。せめて髪の毛は切ってしまいたいのだが、父はリゼが伴侶を見つけるまで男らしくするのを良しとしないのだ。リゼはΩだが、Ω性でも男、しかも父が気に入るような——選択肢は多い方がいい。多くの男に気に入られるよう身なりだけでも、と、女のようにと髪を伸ばしていたがそれが原因の逆恨みで呪いをかけられて死にかけたら元も子もないだろう。
「きみの元の姿は知らないがちゃんと治ったか?」
抱えてくれている男聖が申し訳なさそうに言う。そういえばわざわざ異世界から呼び出したうえ、無理やりキスまでさせたのにお礼すら言っていない。リゼは自分の身勝手さに落ち込んだが、すぐに持ち直して「おろしていただけますか?」と言って彼と向き合った。
「遥々この世界に来ていただいた上、助けてくださってありがとうございました。えっと」
「トモだ。如月トモ」
「トモ様……」
彼は顔を見るためにリゼが見上げてしまうくらいの長身の男で、整った身体と顔をしていた。無造作で長い前髪に隠れているが、切れ長の目はクールで色っぽく、異国のシンプルで飾らない服装がセクシーさを助長させている。どこか愁いを帯びたアンニュイな表情も素敵だ。正直に言おう。彼はリゼの恋愛対象の好みとしてドストライクだった。元々Ω性なこともあるからか男性の方が好きなリゼだったが、言い寄ってくるのは「あの男」のようなイロモノばかり。せめてまともなαを……。と思っているところにこれだ。リゼはこれから出産適齢期と言われる年代になる。本当にはっきり言ってしまえば番になってほしい。
「父親になることを前提にセックスしていただけませんか?」
「悪い俺勃起しないんだ」
口から勝手に出た言葉は彼のはっきりした一言によって撃沈した。
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