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5話
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「八雲、話がある」
御影に呼び出されたのは、八雲が晴人ウォッチングを楽しんでいるその最中だった。
「はい!なんでしょう?」
内心はらわたを煮え繰り返すも晴人の前だ、にこやかに「東雲八雲」を演じる。いつもならここでいじってくるはずの御影が何も言わずに思いつめた表情をしているのに気がつくまでは。
「……先輩?」
「二人で話がしたい。付いてきてくれるか」
御影はいつもと違い真剣な表情で八雲を見据えた。
「……囮になれ、ですか?」
「あぁ」
今は使われていない空き教室、そこで御影は言いづらそうに話し出した。
「……女子生徒の暴行の件、犯人のおおよその検討はついた。完全なα至上主義者、それに前々からΩ差別の傾向があって、素行不良の奴が一人だけいるんだ。親が金持ちだから揉み消してるって噂だが犯罪歴もあるらしい」
短期間でよくそこまで、と御影の能力にただ感心する。流石この学園を仕切っているだけのことはある。
「だが、俺たちは警察じゃない。令状だってないし現行犯でしか処罰できないんだ」
「だから俺に囮になれと?」
「お前の経歴を考えれば酷な話だが……、転校生でΩと言う噂が流れている上、自衛が出来るお前しか適任がいない」
確かに、生徒会の中でΩは一人しかいない。それに、会長との噂が広まっている以上ほぼ全生徒に自分の第二性は知れ渡っているのだろう。それに加えて自衛ができる人間となれば、会長を一発でαと見抜いて背負い投げまでした自分しかいないと言うのは理にかなっている。
だけど精神的な問題は別だ。
自分は叶以外のαなんて触りたくもないし、それ以上の事なんて想像するだけで吐き気がする。
それに。
(…………)
レイプされかけた日のことを思い出す。
いきなり手を掴まれて、暗い部屋に連れ込まれて、怖くて、やめてって言ってもやめてくれなくて。ただただ気持ち悪くて。
自分に力がなければと思うとゾッとする。
だが、自分がやらなければこれ以上被害が出るかもしれない。
自分のような思いをする人間をこれ以上増やしたくない。
それは八雲の心からの願いだった。
「……わかりました。やります。詳しいことを教えてもらっても?」
「……感謝する。幸い、お前は一般生徒には『可愛くてひ弱そうな転校生のΩ』だと思われてる」
「あ?」
「キレるな。で、俺と常に一緒に居るのはデキてるからだと。バックに俺が居るとは言え、女子より華奢で内気そうなお前が人気のないところにいれば、あとはわかるな?」
「そんなにうまくいきますかね」
「相手は頭に精子詰まってるα至上主義者だぞ。「そうなるように」整えておくなんて俺様にかかれば朝飯前だ。クラスが同じなのも運が良かったな」
何が、とは聞かない。きっと彼の中では既に色々な事が組み立てられているのだろう。
「任せておけ。大事があったとしても俺が守る」
「俺に投げられた人が?」
「受け身取れたから無傷なんだぞ?俺はお前と同じかそれ以上に強い!なんたって俺様だからな!」
「ふふ、期待してますよ。会長」
(なんだ、やっぱりいい人じゃないか)
αは嫌いだ。晴人の恋人である御影は大嫌いだ。
だけどそれらを除いてしまえば、御影は珍しく好感の持てるαかもしれない。
(怖いけど……、この人を信じてみよう)
八雲の中では御影に対する小さな信頼の芽が芽生え始めていた。ほんの小さな芽ではあったけれど、きっとこれは宝物になると八雲はそう思ったのだった。
御影に呼び出されたのは、八雲が晴人ウォッチングを楽しんでいるその最中だった。
「はい!なんでしょう?」
内心はらわたを煮え繰り返すも晴人の前だ、にこやかに「東雲八雲」を演じる。いつもならここでいじってくるはずの御影が何も言わずに思いつめた表情をしているのに気がつくまでは。
「……先輩?」
「二人で話がしたい。付いてきてくれるか」
御影はいつもと違い真剣な表情で八雲を見据えた。
「……囮になれ、ですか?」
「あぁ」
今は使われていない空き教室、そこで御影は言いづらそうに話し出した。
「……女子生徒の暴行の件、犯人のおおよその検討はついた。完全なα至上主義者、それに前々からΩ差別の傾向があって、素行不良の奴が一人だけいるんだ。親が金持ちだから揉み消してるって噂だが犯罪歴もあるらしい」
短期間でよくそこまで、と御影の能力にただ感心する。流石この学園を仕切っているだけのことはある。
「だが、俺たちは警察じゃない。令状だってないし現行犯でしか処罰できないんだ」
「だから俺に囮になれと?」
「お前の経歴を考えれば酷な話だが……、転校生でΩと言う噂が流れている上、自衛が出来るお前しか適任がいない」
確かに、生徒会の中でΩは一人しかいない。それに、会長との噂が広まっている以上ほぼ全生徒に自分の第二性は知れ渡っているのだろう。それに加えて自衛ができる人間となれば、会長を一発でαと見抜いて背負い投げまでした自分しかいないと言うのは理にかなっている。
だけど精神的な問題は別だ。
自分は叶以外のαなんて触りたくもないし、それ以上の事なんて想像するだけで吐き気がする。
それに。
(…………)
レイプされかけた日のことを思い出す。
いきなり手を掴まれて、暗い部屋に連れ込まれて、怖くて、やめてって言ってもやめてくれなくて。ただただ気持ち悪くて。
自分に力がなければと思うとゾッとする。
だが、自分がやらなければこれ以上被害が出るかもしれない。
自分のような思いをする人間をこれ以上増やしたくない。
それは八雲の心からの願いだった。
「……わかりました。やります。詳しいことを教えてもらっても?」
「……感謝する。幸い、お前は一般生徒には『可愛くてひ弱そうな転校生のΩ』だと思われてる」
「あ?」
「キレるな。で、俺と常に一緒に居るのはデキてるからだと。バックに俺が居るとは言え、女子より華奢で内気そうなお前が人気のないところにいれば、あとはわかるな?」
「そんなにうまくいきますかね」
「相手は頭に精子詰まってるα至上主義者だぞ。「そうなるように」整えておくなんて俺様にかかれば朝飯前だ。クラスが同じなのも運が良かったな」
何が、とは聞かない。きっと彼の中では既に色々な事が組み立てられているのだろう。
「任せておけ。大事があったとしても俺が守る」
「俺に投げられた人が?」
「受け身取れたから無傷なんだぞ?俺はお前と同じかそれ以上に強い!なんたって俺様だからな!」
「ふふ、期待してますよ。会長」
(なんだ、やっぱりいい人じゃないか)
αは嫌いだ。晴人の恋人である御影は大嫌いだ。
だけどそれらを除いてしまえば、御影は珍しく好感の持てるαかもしれない。
(怖いけど……、この人を信じてみよう)
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