上 下
5 / 22

5話

しおりを挟む
「八雲、話がある」

御影に呼び出されたのは、八雲が晴人ウォッチングを楽しんでいるその最中だった。

「はい!なんでしょう?」

内心はらわたを煮え繰り返すも晴人の前だ、にこやかに「東雲八雲」を演じる。いつもならここでいじってくるはずの御影が何も言わずに思いつめた表情をしているのに気がつくまでは。

「……先輩?」
「二人で話がしたい。付いてきてくれるか」

御影はいつもと違い真剣な表情で八雲を見据えた。



「……囮になれ、ですか?」
「あぁ」 

今は使われていない空き教室、そこで御影は言いづらそうに話し出した。

「……女子生徒の暴行の件、犯人のおおよその検討はついた。完全なα至上主義者、それに前々からΩ差別の傾向があって、素行不良の奴が一人だけいるんだ。親が金持ちだから揉み消してるって噂だが犯罪歴もあるらしい」

短期間でよくそこまで、と御影の能力にただ感心する。流石この学園を仕切っているだけのことはある。

「だが、俺たちは警察じゃない。令状だってないし現行犯でしか処罰できないんだ」
「だから俺に囮になれと?」
「お前の経歴を考えれば酷な話だが……、転校生でΩと言う噂が流れている上、自衛が出来るお前しか適任がいない」

確かに、生徒会の中でΩは一人しかいない。それに、会長との噂が広まっている以上ほぼ全生徒に自分の第二性は知れ渡っているのだろう。それに加えて自衛ができる人間となれば、会長を一発でαと見抜いて背負い投げまでした自分しかいないと言うのは理にかなっている。
だけど精神的な問題は別だ。
自分は叶以外のαなんて触りたくもないし、それ以上の事なんて想像するだけで吐き気がする。
それに。

(…………)

レイプされかけた日のことを思い出す。
いきなり手を掴まれて、暗い部屋に連れ込まれて、怖くて、やめてって言ってもやめてくれなくて。ただただ気持ち悪くて。

自分に力がなければと思うとゾッとする。

だが、自分がやらなければこれ以上被害が出るかもしれない。
自分のような思いをする人間をこれ以上増やしたくない。
それは八雲の心からの願いだった。

「……わかりました。やります。詳しいことを教えてもらっても?」
「……感謝する。幸い、お前は一般生徒には『可愛くてひ弱そうな転校生のΩ』だと思われてる」
「あ?」
「キレるな。で、俺と常に一緒に居るのはデキてるからだと。バックに俺が居るとは言え、女子より華奢で内気そうなお前が人気のないところにいれば、あとはわかるな?」
「そんなにうまくいきますかね」
「相手は頭に精子詰まってるα至上主義者だぞ。「そうなるように」整えておくなんて俺様にかかれば朝飯前だ。クラスが同じなのも運が良かったな」

何が、とは聞かない。きっと彼の中では既に色々な事が組み立てられているのだろう。 

「任せておけ。大事があったとしても俺が守る」
「俺に投げられた人が?」
「受け身取れたから無傷なんだぞ?俺はお前と同じかそれ以上に強い!なんたって俺様だからな!」
「ふふ、期待してますよ。会長」

(なんだ、やっぱりいい人じゃないか)

αは嫌いだ。晴人の恋人である御影は大嫌いだ。
だけどそれらを除いてしまえば、御影は珍しく好感の持てるαかもしれない。

(怖いけど……、この人を信じてみよう)

八雲の中では御影に対する小さな信頼の芽が芽生え始めていた。ほんの小さな芽ではあったけれど、きっとこれは宝物になると八雲はそう思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩にお持ち帰りされて両想いになるまで快楽責めされる話

辻河
BL
・卒業を間近に控えた憧れの先輩のお願いを聞いたら、お持ち帰りされて媚薬や玩具も使われて前後不覚になるまで犯される大学生の話 ・執着心の強い先輩(柊木修一/ひいらぎしゅういち)×健気な後輩(佐倉優希/さくらゆうき) ・♡喘ぎ、濁点喘ぎ、淫語、媚薬、玩具責め、尿道責め、結腸責めの要素が含まれます。 ※2024.3.29追記 続編を追加いたしました。 お互い社会人になった二人がとろとろぐずぐずの同棲生活を送る話です。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

旦那とご無沙汰のドスケベ妻♂が宅配配達員と浮気セックスを楽しむ話

さくた
BL
寝取りもののつもりで書いてたけどあんまり寝取り感でなかったな

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

爽やか優等生の生徒会長は全校生徒の中出しオナホール

おさかな
BL
とある男子高校の生徒会長、南陽己(みなみはるき)は爽やかで柔和な顔立ちの美少年生徒会長だが、校内では特注のエロ制服を身に纏う全校生徒のためのオナホールだった。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

【完結】巨人族に二人ががりで溺愛されている俺は淫乱天使さまらしいです

浅葱
BL
異世界に召喚された社会人が、二人の巨人族に買われてどろどろに愛される物語です。 愛とかわいいエロが満載。 男しかいない世界にトリップした俺。それから五年、その世界で俺は冒険者として身を立てていた。パーティーメンバーにも恵まれ、順風満帆だと思われたが、その関係は三十歳の誕生日に激変する。俺がまだ童貞だと知ったパーティーメンバーは、あろうことか俺を奴隷商人に売ったのだった。 この世界では30歳まで童貞だと、男たちに抱かれなければ死んでしまう存在「天使」に変わってしまうのだという。 失意の内に売られた先で巨人族に抱かれ、その巨人族に買い取られた後は毎日二人の巨人族に溺愛される。 そんな生活の中、初恋の人に出会ったことで俺は気力を取り戻した。 エロテクを学ぶ為に巨人族たちを心から受け入れる俺。 そんな大きいの入んない! って思うのに抱かれたらめちゃくちゃ気持ちいい。 体格差のある3P/二輪挿しが基本です(ぉぃ)/二輪挿しではなくても巨根でヤられます。 乳首責め、尿道責め、結腸責め、複数Hあり。巨人族以外にも抱かれます。(触手族混血等) 一部かなり最後の方でリバありでふ。 ハッピーエンド保証。 「冴えないサラリーマンの僕が異世界トリップしたら王様に!?」「イケメンだけど短小な俺が異世界に召喚されたら」のスピンオフですが、読まなくてもお楽しみいただけます。 天使さまの生態についてfujossyに設定を載せています。 「天使さまの愛で方」https://fujossy.jp/books/17868

処理中です...