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第1話 プロローグ

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「お疲れ様。あなた」と美しく透き通った声を聞いた年老いた男は、椅子に座りながら太陽の光が射し込む部屋で、笑顔で静かに息を引き取った。
この物語は、幸せそうに息を引き取った一人の男と可愛らしいナノマシン......ナノとのなが~いなが~い人生を描いたものである。





汚い四畳半アパートで、今日も不貞腐れている川口湊《かわぐちみなと》という男は、今年で40歳を迎えるザ・オッサンである。

こんな汚いアパートで、何故不貞腐れているかというと、暴言ばかりの元上司とそれに媚びを売る女、そのことをバカにする元同僚や元部下を考えながらヤケ酒をしていた。

「いかんいかん。また高血圧で倒れるとこだった。それよりもだ。少し冷静になって俺がどういうやつか紹介しよう。ん?誰に言ってるかって?知らん!独り言でも言わないと、精神が崩壊しそうなんだよ。もし、誰か見てるなら最後まで聞いてくれ」

湊は、寝癖でボサボサになった髪をボリボリ掻きながら、湊しかいない空間に話しかけていた。

「俺の容姿は、頭は波○さんのようにハゲ上がり、身長160㎝ 体重90㌔のブヨブヨの可愛らしい体型だ。これでも学生時代は、キックボクシングをやっていたんだぜ。まぁ今や面影すらないけどな......」

湊は、誰に紹介をしてるかわからないが、自分で言っていて情けなくなり、頭を抱えてうずくまった。だが、突然立ち上がって大声で叫ぶ。

「チクショ~!はぁはぁはぁ。それから、もちろん結婚なんて夢のまた夢だ。だからって、べ、別に結婚なんかしたくないんだからね。なんで、こんなに胸がズキスギ痛むんだろうか」

禿げ上がったおじさんが、本心とは裏腹なことを言って、ツンデレなことを語り、更に情けなくなっていると、壁からドンッと大きな音が鳴る。

「うっせい!何時だと思ってんだ!静かにしやがれ!殺すぞ」

ボロアパートなので、壁が薄く隣に丸聞こえだったようだ。しかも、時計は深夜2時を回っていた。
湊は、急に現実に戻されたかのように息を潜めて布団に潜り込んだ。
そして、怒鳴り声を聞いたせいで、会社で起こったことが頭を過る。
周りより少し成績が悪く、部長がみんなの前で怒鳴り始めたのが始まりで、それ以後毎日のように説教をされるようになる。それが、当たり前のようになってしまったのもあり、周りからも『能無し』『クズ』『社会のゴミ』『キモデブ』などとイジメの対象となった。それから、見返す為に努力をした湊であったが、成績を上げてもイジメはエスカレートするばかりで、しまいには花瓶が置かれた窓際の席に追いやられた。それでも、諦めなかった賢治は、努力をして成績を上げていたのだが、その全ての努力を部長の成果として報告されており、本日無情にもクビを言い渡されてしまったのだ。

「はぁ~明日からどうすっかなぁ。会社を訴えるか?って証拠もないしなぁ。とりあえず考えても仕方ないし、一旦寝るか......はぁ、生まれ変わりたい」

【その願い聞いてやらんこともないが、ずっと話を聞いてりゃ情けないやつだな!お前、今すぐ俺のとこに来い!根性を叩き直してやる】

湊は、誰もいないはずの空間から急に声がしてビクッとなり驚く。辺りを見渡すが誰もいない。変わった様子もない。見えるのは鏡に映った自分の醜い姿だった。

「はぁ~とうとう精神的におかしくなったんだな。低身長のデブでハゲてて、精神的におかしくなったやつとか、本格的に人生終わってるわ」

【精神は正常だ。まぁ醜い体だがな。どうすんだデブ!強くなりてぇのか?このまま醜いままがいいのか?選べ】

湊は、またしても聞こえた声にあたふたして周りを見渡す。だが、誰もいない。しかし、幻聴だとしてもあまりにも言い過ぎたと言い返したくなるが、何故か急に冷静になり、強くなりたい見返してやりたいという欲望が生まれた。そして、気付くと誰にも負けない心と肉体がほしいと願っていた。

【まだ幻聴とかほざいてやがるのか!今すぐ神界に送ってやる。それに、願望も聞き届けた。俺様がその弛んだ腹と根性を叩き直して強くしてやるよ】

「えぇぇぇ!幻聴じゃな.....うわぁ!なんだか景色が歪んでいく」

湊は、精神崩壊を起こしたものだとばかり思っていたが、視界の歪みから現実だったのだと悟って変なことをあげた。

『その願い叶えてあげますよ。くっくっくっ!スサノオには悪いですが、私の実験体になって頂きましょう』

湊が、ボロアパートの一室から姿を消すと、先程とは別の人物の声が部屋に響いたのだった。





試験管やフラスコや実験に使うであろう器具が、あちこちに散乱している場所に湊は横たわっていた。

『私の最高傑作にしてあげましょう』

白衣を着た人物は、寝ている湊の首に注射針を刺して何かを注入した。その直後、湊は痛みでのたうち回り、獣のような声を上げてぶっ倒れる。

『ん~?今回もまた失敗でしょうか?あらあら、これは、素晴らしい!ふっふっふっ!ついについに、成功しましたよ。あ~なんと美しい体。特製のナノマシンも正常に体を巡っていますね。こうしちゃいられません。彼を早くあの世界に送らなければ。私の最高傑作がどのように生きていくのか。楽しみでなりませんね』

白衣の男は、横たわる湊を見ながら歓喜する。湊からは、グギッグチョグギギギと鳴ってはいけない音が響いているのであった。
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