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第3章 アレクを狙って

第760話 薬学神と聖女とヴァロワ子爵の未来!

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聖女と薬学神は、夕食を終えて向かい合いながらお茶をしていた。

「一時はどうなることかとヒヤヒヤさせられたが、今となっては暗殺者が何人来ようとも容易く倒せるようになったな。本当に、よくやった」

「ありがとうございます!まさか何も出来なかった私がここまで成長出来るとは思っていませんでした。本当に感謝しています」

長い月日はかかったが、基礎訓練2をやり遂げてバトル聖女に成長することができた。
薬学神は、もっと早く聖女を一人前にする予定だったのだが、聖女と関わることで、本来の人間の成長速度と肉体強度を知ることが出来て無謀過ぎたと反省している。

「フフッ、お前が頑張ったからだ。自分を誇ればいい。それより、明日から神力の訓練に入る。そこで、聖女には選択肢を与えたい。今から話す内容で決めてくれ」

薬学神は、神力を訓練するに当たって、やり方だけを教えて聖女一人で訓練をするか、薬学神と共に旅に出て訓練をするかだ。

「決まってます!薬学神様に最後までついて行きます!ですが、薬学神様はこの領域から外に出ることが出来ないのではないですか?」

薬学神が、外に出てしまうと一時的に神力を抑える薬を飲み続けない限り創造神に見つかって連れ戻されてしまう。

「私は、この薬で普通の人間になろうと思っている。だから、神力を無くした元神についてきてもお前の学べるものはないぞ。それでもいいのか?」

「はい!私も、色々この世界を見て回りたかったですし、信頼出来る薬学神様とご一緒出来るなら、是非行きたいです。それに、普通の人間になるなら私が守らなきゃいけないでしょ?」

理由や生い立ちは違えど、薬学神も聖女も外の世界を知らない二人なのだ。だからこそ、聖女は薬学神と共に旅をしたいと思った。そして、薬学神のことを一番信頼出来、良き理解でもあるので、人間になろうとも運命を共にしたいと感じた。

「偉そうに言う口はこれか!人間になろうが、己の身くらい自分でどうにか出来る。だが、世界を一周するくらいの時間ならお前と共にしてもいいだろう......まさか聖女と世界を回ることになるとはな」

薬学神は、聖女の唇をつねって引っ張る。
そして、最後に聞こえないくらいの声で、「フッ」と笑いながら呟いて、人生何があるかわからないなと思う。

「ん、ん、痛いですよ~!って、薬学神様何か言いましたか?」

「なんでもない!よし!明日には、ここを出ていくんだ。準備をするぞ」

聖女は、薬学神の顔から好意的なことは感じ取れだが、何を思い何を発言したのか分からず問いかけた。
だが、薬学神は答えようとはせず、荷物をまとめに奥の部屋へと向かうのだった。





ヴァロワ子爵は、王城に召還されてアンデクス男爵が起こした襲撃事件の一部始終を聞かされた。
ヴァロワ子爵は、もしあの時に、自分も加担していたと考えると恐ろしくなり、選択を誤らなくてよかったと胸を撫で下ろした。

「貴方が裏切らなくてよかったです。今後は、もう一人のご子息を立派に育て上げてください」

アントンと話し終わって部屋から出てきた所をパスクが呼び止めた。
ヴァロワ子爵には、まだキィルより二歳下の今年学園に入学した息子がいる。

「はい。ハシモト伯爵のお陰で、賠償責任を問われずに済ました。ありがとうございます。それから、宰相様に領地を返還したいと申し出て、息子と時間を過ごすために王都で暮らしたいとお願いしてきました」

パスクに対して、感謝の言葉を述べたあと頭を下げる。
そして、同じ過ちを繰り返さないためにも、息子と話す時間を増やすために領地を返還することを希望した。

「お気になさらず。お約束でしたから。う~ん?王都にですか......ヴァロワ子爵は、それで楽しいのですか?調べたところ、領内では平民からの支持率も高く、領地経営に長けているという印象を受けたのですが」

パスクは、確信めいた話をするのではなく、遠回しな言い方をヴァロワにした。

「楽しさですか......結婚してからはありませんでしたからね。散財する妻の予算と領地経営に必要な予算の捻出に追われる毎日でした。私は、元々準男爵の家系で婿養子になった身でしたから、何も言う権限がなかったのです。今更、楽しみなど......」

妻の父が、ヴァロワの優秀さを認めて婿養子として迎えたが、父親が亡くなってからは妻の独壇場となって、キィルもヴァロワの言うことを聞かず、母親の言う事をばかりを鵜呑みにするようになった。
その結果、散々な毎日を送ることになったヴァロワ子爵だったが、そこで染み付いた生き抜く力のお陰で、今回間違った決断をすることなく、パスクの言うことに従ってうまくいった。

「全て調べて知っております。ご子息のライくんは、キィルくんと違い領民に慕われて平民を差別するような考えではないと報告を受けています。そこで提案なのですが、魔物の街に来ませんか?貴方いやヴァロワ子爵の領地経営の手腕を振ってみませんか?」

パスクは、しがらみのなくなったヴァロワ子爵がどれ程の力を振るうのか気になってスカウトした。正直、王都に来て埋もれてしまうには惜しい人材だと思ったからだ。

「今発展が著しい魔物の街に!?私にとって魅力的な提案ではあります。しかし、息子のことを考えると......側にいてやりたいと思ってしまうのです。申し訳ございませんが、お断りさせてください」

ヴァロワ子爵は、今から更に大きくなるであろう街の発展に関われるのならどれだけ有意義な時間を過ごせるだろうと考えるが、どうしても子供のことを優先的に考えてしまう。

「魔物の街にも学校が出来ました。正直、王都にある学園よりも優秀な先生が揃っています。それに、普通では学べない魔法や剣術、そして色々な種族との関係性も築けます。一度、ライくんと話してみて、興味があれば魔物の街を見にきませんか?」

パスクからしても、王都にいるより子供の教育の場としては、学ぶことの多さや精神的にも魔物の街の方が優れていると思っているので、見学に来ることを提案した。

「ふぅ~、伯爵からここまで言われてしまっては興味がそそられてしまいます。わかりました。息子にご提案頂いた話を相談して、ご返事させてもらいます。ご連絡する際は、どのようにすればよろしいですか?」

「こちらの通信用魔道具で連絡をください。良いお返事を期待しています」

ヴァロワ子爵は、ここまで必要とされたのは、先代の子爵以来であったので、力になりたい欲が掻き立てられた。
そして、連絡用に通信の魔道具を渡したのだが、見たこともない物にヴァロワ子爵は驚いてしまう。しかし、パスクはそんなヴァロワ子爵をよそに、笑顔のままその場を立ち去るのだった。
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