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第3章 アレクを狙って

第710話 拳と拳のぶつかり合いとヴァンドームの想い!

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「武器も地獄の力も使うことなしに、己の肉体のみで決闘だ!全てを俺にぶつけろ」

ヴァンドームとヴィドインは、訓練場で決闘をすることになった。
ヴァンドームは、上半身裸となり、布を手に巻いて拳を握る。ヴィドインも、同じように上半身裸となり、ウォルターから渡された布を手に巻いて拳を握る。

「これでいいのか?我は、元々格闘に秀でたスキルを有していた。これでは、我に有利なるぞ」

「フッ、地獄に落ちた時点で、魔法もスキルも奪われるからな。今は、五分と五分だ。それに、第1位階の時の方が、洗礼された肉体に感じたがな」

地獄に来た時点で、ペナルティーとして魔法とスキルを奪われてしまう。トリーが、何故魔法を使えたかは、精霊神の羽を手に入れたからだ。
そして、指摘されたヴィドインの肉体だが、傍から見る分には、しなやかで洗礼された肉体なのだが、ヴァンドームからは、そうは見えないようだ。

「スキルがなくとも、我の格闘技術が劣ることはない。どこからでも掛かってこい」

「言われなくても、そのつもりだ」

ヴィドインは、引け目を感じていたが、武器も地獄の力もなし、更にはヴィドインが得意とする格闘での決闘を挑まれて、そこまで馬鹿にされる筋合いはないと怒りを覚えた。
ヴァンドームは、ヴィドインの言葉が、終わるか終わらないかのタイミングで距離を詰めて、拳を顔面に放つ。
しかし、当たる瀬戸際で、ヴィドインは首を倒して避ける。

「流石だな。この拳を躱すとは。更に、速くしてみるか」

「その程度の拳をいくら放とうが、当たることはない。我との力の差を思い知れ」

先程の拳を躱したにも関わらず、頬を軽く切り裂いて血が少し流れた。そしてヴィドインは、口ではこのように言っているが、ここまで洗礼された突きは生きていた時にも見たことがなかったので、正直驚いている。

「クッ、やるな。一撃一撃が、ここまで重いとはな。だが、これならどうだ?」

「チッ、地獄の力なく、ここまで強いとか反則だろ」

ヴィドインは、前世の技術を使って、体に捻りを加えて体全体の力を有効に使って殴る。しかし、ヴァンドームは一切ガードしようとはせず、全てを受け切って、すぐさま反撃をする。
ヴィドインは、うまくガードをしながら躱すを繰り返して、ヒットアンドアウェイに持ち込むが、ヴァンドームは拳をもろともせず、突っ込んでくるので作戦がうまく機能しない。

「オラオラオラ、どうした!前世の格闘とは、そんな小手先の技術に頼る貧弱なものか!情けないぞ、ヴィドイン」

ヴァンドームは、わざと煽るように、この日最速の拳をヴィドインに放ち続けながら話す。
ヴィドインは、避けることも出来ずにガード一辺倒になる。しかも、ヴァンドームの力強い拳を受け続けてきたので、腕を上げるのが精一杯になるほどに赤紫色になり腫れ上がってしまった。

「黙れ!この一撃で決めてやる」

ヴィドインは、ガードをわざと下げて顔面へと誘導する。ヴァンドームは、手の腫れを見て腕が上がらないのかと勘違いをして、左頬に本気の拳を打ち込む。そして、ヴィドインは仰け反るような形となり、顔面に強烈な一撃が当たったのだろうという音が響く。

「どうだ?自分の弱さが......ぐはぁ、どうやって耐えたんだ?」

これで、終わっただろうと思っていたのだが、気付けば拳が迫っており、ヴァンドームの顎を捉えていた。

「クソ、それで倒れないなら我の負けだな。降参だ」

ヴィドインは、顔面に拳が当たる瞬間に、わざと首を捻ってヴァンドームの拳の力を軽減させた。そして、相手が油断している隙に、渾身の一撃を顎に入れたのだが、平然と立っているヴァンドームを見て勝てないと判断して諦めた。

「最後のは、効いたぞ!まだ脳が揺れて、膝が少しガクつくからな。よし、回復しながらでいい。座って話を聞け」

思いっきりまともに顎へパンチが入ったにも関わらず、軽い脳震盪と少し踏ん張りが効かなくなる程度で済んでいることに、改めて化け物だと感じる。
そして、二人は地獄の力を解放して、体を回復させる。

「俺が、なんでお前を次期大王に選んだかというと、俺が面倒になったとか次にお前が強いからは、些細なことでしかない。本当の理由を話してやるから聞く気はあるか?」

すでに回復を終えた二人は、あぐらをかいて面と向かって座る。

「あぁ、教えてくれ」

ヴィドインは、真剣な顔をするヴァンドームを見て、からかっているわけではないことを知って、言葉少なく伝える。

「俺は、強さで牛耳ってきた。確かに、統率は取れていたが、荒れ果てた地になり、数多くの優秀な魂が消滅していった。餓死だ。だが、ヴィドインの治める地では餓死がなかったんだ......」

「何を言ってる!餓死したからと言って死んだやつらが、どんどんくるだろ?すぐに強く育てられるお前には関係ないだろ?何故、それで俺が選ばれることに繋がる」

ヴァンドームの話が終わる前に、ヴィドインが割って入る。当時のヴァンドームを見ていると、仲間を使い捨ての駒のように扱っているように見えたので、餓死しようが関係ないと思ったからだ。

「まぁ、話を聞け!俺は、家臣の大切さをヴィドインから学んだ。唯一、ヴィドインの地からは裏切りや王位簒奪を狙う者がいなかった。それに、皆が幸せに過ごして笑顔で召される瞬間を何度も見た。他はどうだったか知ってるか?」

「毎日が争いだったな。その影響で、毎日のように俺達の領土を狙いにくるか、侵入者がいたな。しかも、皆が痩せ細っていた。だが、そろそろ真意を話してくれないか?」

何故か、死んでいるにも関わらず腹を満たさなければ魂が消えてなくなる。これは、スキルや魔法が使えないことと関係している地獄だからこそのペナルティーなのだ。

「俺と違ったやり方で導いて欲しかったんだ。地獄の者としておかしいが、当たり前の世界を作って欲しかったんだ。俺が成し得ることの出来ない笑い合える地獄をな」

ヴァンドームは、殺伐とした地獄も嫌いではないが、大事な仲間を失うような状況を良しとはしていなかった。更に、ヴィドインの領土は他の領土に比べて幸福度が高いせいか、魂が浄化されて召されるスピードが早かった。それを見ていたヴァンドームは、ヴィドインなら新しい地獄を作り、導いてくれるのではと考えたのである。

「少し待ってくれ」

ヴィドインは、そのまま寝転がって、目を瞑り何かを考えるのだった。
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