チート薬学で成り上がり！ 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました！

第3章 アレクを狙って

第667話 爺さんと爺さんが親友になった日！

おやっさんは、朝早くから酒樽を背負って街を歩いていた。
目指す場所は、平屋の一軒家である。
そして、おやっさんは一軒家に着くと、引き戸を勢いよく開ける。すると、そこには裸の男が立っていたのだ。

「......だ、誰じゃ！あんたは！？」

おやっさんは、目をぱちくりさせて一瞬固まったあと、誰なのかと聞く。

「何を言っているんじゃ。ワシじゃ、ワシじゃ」

「ん？ん？ワシじゃワシじゃ？わかるわけ......まさか、その声はマンテ爺か！？」

目の前の男は、名前すら言わないので、誰なのかさっぱりわからなかったが、聞き覚えのある声に驚いてしまうのだ。

「そうじゃ！だから、さっきからワシじゃと言っとるじゃろ？」

「見た目が、変わり過ぎてわからんわい！ハァ～、この街は本当に飽きんわい。とりあえず、服を着ろ。話はそれからじゃ」

おやっさんは、頭に手をやって呆れながらも、魔物の街の日常をおもしろいと思っている。

「確かに、そうじゃった！人型になっておったわい。ちょっと、待っとくれ。ん～！？こうかのぅ」

マンテ爺は、何やら集中すると、人の形からいつものマンティコアの姿に戻ったのである。
しかし、毛並みは前よりもよくなり、何やら少し凛々しさも増しているのだ。

「自由自在なんじゃな。それに、ただのマンティコアから逸脱したオーラ......ワシは、慣れたからよいが、ワシ以外が見たら腰を抜かしておるじゃろう。それより、酒でも飲みながら話を聞かせてくれんか？」

魔物の街の住人以外が、今の光景を見てしまったら、言葉をなくして死を待つのみとなっていただろうと思うのだ。

「ワシはワシじゃ！なんも変わっとらんぞい。おやっさんの酒なら喜んで飲ませて貰おうかのぅ。好きなとこに座ってくれんか」

「じゃあ、遠慮なく座らせて貰おうかのぅ。今日は、長くなりそうじゃわい」

おやっさんは、最近元気のなかったマンテ爺と酒を飲みながらワイワイして気晴らしになればいいかと思っていたが、まさかの出来事が起こっていて、腰を据えてゆっくり話そうと思うのだ。

「ならまずは、乾杯といこうかのぅ。ほれ、この街一番の酒じゃ。乾杯」

「乾杯」

グラスに注がれた酒を、マンテ爺は器用に掴んで、おやっさんのグラスにコツンと当てる。
そして、二人はグビグビと勢いよく飲み干すのだ。

「ぷはぁ～、う、うまい......味がしっかりとわかるわい。これが、アレクの言っておった味というやつかのぅ」

マンテ爺は、今まで人間の食べ物でおいしいと感じたことがなく、初めて味覚とは何なのかを理解した。

「なんじゃ？味がわかるようになったのか？こりゃ、ええわい！次からは、人の姿で飲み明かせるというわけじゃな」

おやっさんからすると、マンテ爺が味覚を手に入れたよりも、飲み仲間が増えたことが嬉しいのだ。

「こんなうまい酒ならいつでも付き合ってやるわい。もう一杯注いでくれんか？」

「いくらでも注いでやるわい。今日は、とことん飲み明かすぞい」

マンテ爺は、人間を食べる以上に、うまいという感覚を味わって、酒以外の物も口にしたいと思うようになった。
そして、おやっさんもマンテ爺の飲みっぷりの良さを見て気を良くしたのか、飲むスピードが早くなって、あっという間に二人で酒樽を空にしたのである。

「ブッハハハハ、全然足りんのぅ。そうじゃ、服を持ってきてやるから待っとれ。女将の店へ飲み直しに行くぞい」

マンテ爺が、飯も食いたいと言ったので、おやっさんはオークの女将が経営する料理屋に連れて行って飲み直しを提案する。

「行ってみたいわい。すまんが、服を頼めるかのぅ」

「気にするでないわい。もうワシとお前さんは、友じゃ！すぐ帰ってくるから待っとれよ」

本来の目的であるマンテ爺の近況などは、どうでもよくなったおやっさんは、意気揚々とマンテ爺の服を探しに行く。
今日は、どうやら爺さんと爺さんの交友が生まれた日となったのだった。