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~Main story~
05.あの日
しおりを挟む本当に偶然だった。兎野がいつも行くサロンにカットの予約を入れて、店の前まで来ると、見覚えのある影ともうひとつ。
――誰…?
前回のようにチャラい男じゃなく、今回は洒落た雰囲気の美男と、仲良くしている葵の顔がキラキラして見えて、嫌だと感じた。だから、その男から引き剥した。
「お前、なに?」
そう言いながら口を尖らせる葵の顔を見て、一体何をしているのか、兎野も自分の行動が分からなくなった――――。
あの日…、面倒臭くて学校は休んだが、生物のセミナーだけは行っておきたかった。
「颯太? あなた、また学校休んだのね」
「あー、面倒臭くて、けど明日は行くよ」
「そう、ちゃんと行きなさいよ」
「分かってる」
家を出て何時ものように地下鉄に乗った。近頃は何をするのも面倒で仕方がなかった。自分の人生には既にレールが敷かれており、医大に入り医者になることが最終目標で目的だった。
親の稼業を継ぐと言うよりは、意地のようなもので、医者の息子が医者になれないのは恥だと言われれば、負けず嫌いな自分には効果てきめんな言葉だった。
別に、親の定めたレールでいいと思う。反抗心など起きないし、他の選択など考えた事無い。
――反抗したところで得る物もない…
目的地にたどり着くまで、ぼんやりとそんなことを考えながら、乗降客を眺めた。不意に見た事あるヤボったい男が電車に乗って来る。
直ぐにうちの学校の教師だと気が付いた。いい意味であんなヤボったい男、見間違えるわけがない。
――同じ駅で降りるのか…。
セミナーのある駅で降りると、その教師は辺りをキョロキョロ見回し、挙動不審な様子を見せる。葵だっけ?と教師の名前を思い出し、何故か笑みが零れて来るのが自分でも分かった。それは、ただの直感だった。何となく面白いことが起こる予感。
葵がトイレに駆け込み、しばらくして出て来た時は少し驚いた。眼鏡を外し、ボサボサの前髪を上げていると、意外と可愛い顔をしていると思った。頬を蒸気させ何処かへ急ぐ姿を見て一瞬で理解した。
――なーんだ…、ただのデート?
全然面白くないと思いながらも、葵の後を付いて行った。
実際は男と待ち合わせだった。初めは友人なのかと思ったが、相手の男がチャラ男過ぎて違和感を感じた。
ズンズン歩いて行くのを一定の距離で付いて行くと、ホテルが立ち並ぶ路地で二人が立ち止まるのを見て、そういう関係なのかと思った。
けど、少し様子がおかしい、どうみても葵は嫌がっているように見え、ホテルの前で揉めているのを見て、仕方なく助けに入った。
相手の男は逃げて行ったが、葵は怯えて震えている。
同意じゃなく無理矢理だったのか…、状況がよく分からない。取りあえず大丈夫かと声をかけると、兎野を見つめ直ぐに目を伏せ頷いた。その瞬間、周りが見えなくなる感覚に襲われた。
――…従わせたい…。
一目でそう思った。可愛く震える様子を見て自分だけのために、震えて泣いて欲しいと思った。喉がコクっと鳴る。おかしな感情が思考を埋め尽くし始めた。
――変だ…。
逃げるように立ち去った葵を見て、熱を帯びる自分の身体に違和感を感じる。股の間で膨らんだソレは確実に、葵を求めていると思った。
こんな所で放出するわけにもいかず、路地裏に設置してある自販機で缶コーヒーを買い、熱が冷めるまで待った――――。
翌日、学校へ行くと化学の授業が無くて残念だったが、これからは毎日学校へ登校しようと思った。
今日は葵に会えるチャンスが無いと分かり、帰ろうと腰を上げると、女子に声をかけられ、これは面倒なことが始まりそうだと感じたが、どうせ今日断っても明日に引き伸ばしになるだけだと思い、面倒だが呼び出しに応じた。
「ねえ、付き合って?」
「ごめん、俺、好きな子いるから」
――好きな子…。
兎野も自分で言っておきながら、誰だ?と思ったが、浮かんだのは葵の顔だった。怯える姿を思い出すと身体が熱を帯びる。
ふと、女子の目が兎野の背後に動き、凄い形相になったを見て、誰かが来たのだと感じ、丁度良かったと思い振り返った。
「……」
会いたかった人に会えた瞬間の喜びを初めて知った。一度だって、誰かの顔を見ることが出来て、嬉しいなんて思ったことは無かったのに、心に明かりが灯るように、ふわっと温かい気持ちが広がる。
「あー、もう帰宅時間だぞ~…」
そうは言ったが、女子生徒の眼光の方が強かったのか、葵は女子に睨まれて顔を引き攣らせ逃げるように科学室に入っていった。
兎野も先生に用事があると言い女子から離れ、化学室のドアを少し開け、葵が中にいるのを確認した。室内に入ると、考え事をしているのか、兎野の気配に気が付かない。葵は、ぼーっと窓の外を見つめていた。
「先生、何してるんですか?」
はっとしたように葵は振り返り、兎野の存在にやっと気が付いたようだった。忘れ物を取りに来たと言いながら、立ち上がると申し訳なさそうに、さっきは邪魔して悪かったと言われ、何故かイラ立った。だからつい…。
「ねぇ…、先生って男が好きなんだ?」
「な、ん…?」
本当は言う気は無かったけど、少しだけ癪だった。
それはホテルで連れ込まれそうになっている所を、兎野が助けたという事実に気が付いて無いことも含めてだったと思う。逃げるように立ち去ろうとする葵を抑え込むと眼鏡を奪った。
――怯えて…可愛く震えて…。
けれど、葵は怯えなかった。残念だと思う反面、逆に良かったと思った。あんな顔されたら、きっと抱きしめるだけでは済まない気がして、一体、自分はこの男にどうなって欲しいのだろう?そこまで考えて、思考を閉じた。
葵の前髪を上げると、あの日見た顔が見える。瞳は少しだけ動揺し、瞳孔が開いており、心理状態は相手に対して興味があると目が訴えていた。ゲイなのか確認したが違うと言われ、急につまらなくなった。
「お前、名前は?」
「兎野 颯太」
「ああ…、お前が三年のトップか…、嫌味なヤツだな」
何が嫌味なのか? 分からないが、帰れと言われ帰宅することにした――――。
家に戻り自分の部屋で少し考えた。自分は葵のことが好きになったのだろうか? だから気になって執着している。
――…震えてた顔が可愛かった…。
助けてもらえて安堵した表情を見せながら、頬を染め少し涙ぐんでいた。
身体が震えている様子に、守ってあげたいような、愛でたいような、泣かせてしまいたいような、不思議な感情が湧き出ると、トクトクと胸がざわつく、葵の身体に触れたら、あの真面目な顔が蕩けそうな表情に変わるのだろうか?
次第に下半身に熱が集まるのを感じ、膨らむ性器をズボン越しに擦った。
――あの人…何歳だっけ…
ふと、葵の後ろに立った時のことを思い出した。細い首筋に舌を這わせたなら、プルっと肩を震わせるだろう。その白い肢体が熱を帯びればピンクに蒸気し始める…。
コクっと喉を鳴らし、兎野はズボンのファスナーを下げ、下着から性器を取り出した。しっかりと勃ったモノをじっと見つめ上下に擦る。
「……」
望んだ快感が走り体が熱くなる。淫らな場面などいくらでも想像できる。自分の性器を舐めながら、口にゆっくりと咥え込む葵の姿を想像すれば、あっと言う間に先端から蜜がにじみ出た。
「…っ…ぅ…」
吐精した精液をさらに捏ね、根元まで滑らせた。クチクチと小さな粘り気のある厭らしい音が、更に想像を膨らませた。
――これを挿れる…。
一度、吐精し充血した性器は、まだ脈を打っていた。触ればくすぐったくて腰がヒク付くが、脳に集まるドーパミンはそれすら麻痺させているようだった。葵の体に挿れ、仰け反る姿を想像しぞくぞくしてくる。
手にベッタリと張り付く液で滑りが良くなった性器を擦り、葵の身体に自分の昂った熱を放出させることを想像した。
瞼を閉じ、あの時の顔を思い出し、あんな風に怯えて泣いて、気持ちがいいと泣き叫んで欲しい。それは、たまらなく淫らで切なくも感じ、今まで妄想したどんな映像よりも興奮出来た。
――……い、く……っ
二度目の吐精には時間がかかったが、それでも激しく鼓動する胸と痺れる身体が、今の自慰にどれだけ興奮していたか分かる。
「ふっ、……変だ…俺…」
自分でも分かっている。葵は何処からどう見ても男で、そして本人はゲイじゃないと言うし、自分だってゲイじゃない。今まではそうだったが、これからはどうなんだろう?
――また会って確認しないと…。
汚れた手と下着を処理し、机に向かった――――。
翌日、葵は明らかに意識していた。その態度にそわそわさせられて、別に教えて欲しくも無い勉強を教えて欲しいと伝えた。
「そんなに意識しなくてもいいのに」
「お前が何に興味を持ったのか知らないが、別に言いたければ言えばいいぞ」
そんな風に投げやりに言われて悲しいと思えた。ツンっと目頭が熱くなり胸がきゅと泣く、新に不思議な感情が芽生えた。
葵と話をすると初めての出来事が増えて行く、これが何なのか理解しないと先に進めない。
「兎野、そろそろ次の授業が始まる」
「あ、そうだね、じゃあ放課後に教えて」
「…いい加減にしてくれ」
明らかに、葵はうんざりした顔を見せたが、放課後に職員室の相談スペースなら良いと言われた。仕方なくそれに承諾し、職員室へ顔を出した。
あの日、葵が男とホテルに入るかも知れないという衝撃的な現場を見たせいで、少し興味が湧いただけ、性的興奮を掻き立てられた。それだけだと思ったのに――――。
「もう…、お前は何がしたいんだ?」
葵に腕を振り払われて、我に返った――――。
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