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第三章
魔法発動の条件
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クロスボウの訓練は順調だった。
二人の娘達はその扱い方をすぐに覚え、その日のうちに普通に戦闘参加出来る程度にはなっていた。
素人でも扱える武器として作ったのだから、当然と言えば当然かも知れない。
特にプリムの上達には目を見張るものがあった。
「プリムちゃんすごいです!」
「今晩は肉料理にありつけるな」
「おいしく食べられるように臭みが取れる野草を探してこないとね!」
彼女はまだ訓練を始めたばかりなのに、自力で野うさぎを仕留めて来たのだ。
すこしぼーっとした印象のプリムだが、物覚えが速く、そして器用だ。
「えへへへ」
彼女は照れながらも誇らしげだった。
「わたしも頑張らないと……」
友人の成果を目の当たりにして、決意を新たにするニーヴ。
「ニーヴ。そんなに気張らなくてもいいぞ。あさってあたりからは魔法詠唱にチャレンジしようかと思っているし」
「魔法、ですか……」
やはりそうだ。
ニーヴは魔法に対して、何かネガティブな感情を持っている。
それがなんなのかはもちろんわからない。
訓練を本格的に始める前に確認しておかなければなるまい。
「勘違いなら申し訳ないんだが、ニーヴは魔法が嫌いか?」
「いいえっ。そんな事はありません!」
「俺の気のせいかもしれないが、魔法の話をするとニーヴはいつも少しトーンが下がる印象があってな」
ニーヴは少しため息を漏らしながら続けた。
「ヒースさんには本当に隠し事なんか出来ないですね。実は私は奴隷になる前、魔法を教わっていた事があるのです」
「魔法を教わるとは、魔法学校とやらに通っていたのか?」
セレナは剣術にしか興味が無いと思っていたが、そうでも無いらしい。
しかし魔法学校なんてものがあるとは……
ダンケルドではティネの私塾くらいしか魔法を教える場所は無かった。
魔法学校と言うのは多分、大都市や王都にしかない教育機関なのだろう。
「いえ。魔法学校の入学条件に満たなかったので、学校には入れませんでした」
「条件なんてものがあるのか?」
「はい。魔法学校に入る為には、最低でも精霊魔法……つまり攻撃魔法をどれか一つ使える必要があります。だから貴族達は子息を魔法学校に入学させる為に、家庭教師を付けてまで勉強させるのです」
ニーヴは魔法学校に入れなかった。
それが家庭教師を付けてまで勉強した結果だとすると……
「でも私はどの精霊魔法も扱えませんでした。親はかなり著名な先生を家庭教師に付けてくれたのですが、どんなに練習しても発動しなくて、先生からは『才能が無いので諦めてください』と言われて……」
「その教師、最悪ですっ!」
まるで自分が言われたかのようにベァナが憤る。
「魔法の学習はとても費用がかかります。うちもそれなりに裕福な家庭ではありましたが、それでもかなりの出費だったに違いありません。それなのに……私は……」
ニーヴはそう言って、顔を手で覆った。
親の期待に応えられなかった罪悪感。
そのせいで、魔法に対してネガティブなイメージを持ってしまったのだろう。
小刻みに揺れるニーヴの肩を、ベァナが優しく抱きしめる。
全く同じ状況ではなかったが、ベァナも似たような境遇にいたのだ。
ニーヴの気持ちは身に染みてわかるのだろう。
しかし魔法に関して、俺には確信している事があった。
「ニーヴ、嫌な思い出を話させて悪かった。そして話してくれてありがとう。ただ、慰めの言葉というわけでは無いのだが、多分その教師より俺のほうが、間違いなく正しい魔法体系を知っている」
「えっ?」
ベァナが俺の言葉に反応する。
「俺はこの世界の人々の魔法に対する認識が間違っていると考えているのだ」
「認識、ですか?」
「ああ。簡単に言うと、魔法を使うために『才能』なんてものは全く必要無い。あるのは単なるいくつかの『条件』だけだ」
「そうだったら本当に嬉しいのですが……魔法は実際に使える人と使えない人で差がはっきり出ます」
「そうだね。多くの人間は魔法を使えていない」
「魔法協会に伝わる話の中には『魔法は神が授けた技』という表現が出てきますし、それこそが精霊の祝福であり、魔法の才能だという話なのですが」
「俺もその話は協会職員から聞いた。しかしそれだけでは『授けた技=精霊の祝福』であるという証拠にはならないと思う」
「魔法を使える人はその民族によって大きく偏りがあります。風魔法を使える人は多くの地域にいますが、土魔法を使える人は山に住む民族に多いそうです」
「それも聞いたことがある。そして水魔法を使える民も平地より山のほうが多い。火魔法を使える者は少ないが、どこかの民から使える者が比較的多く出るとか」
「はい。ですから受けている精霊の祝福が民族毎に異なるため、才能に差が出る、と一般的には言われています。実際そうなっていると思うのですが」
物理学や気象学の発展していないこの世界ではそう考えるのも仕方が無いか。
しかしそこで少し疑問が沸いた。
「それについて、ティネ先生は何か言ってなかったか?」
「ティネ先生も魔法協会の話をしていました。でもそう言えば『あくまで一番多く知られている一般的な説』を話す、とおっしゃってました。結局他の説についてはお聞き出来ませんでしたが」
やはり魔導士ティネは、魔法に関する研究をし、何らかの結果を得ている。
だからこそ敢えて『一般的な説』という枕詞を付けたのだ。
彼女ならば、俺の話が通じそうだ。
「俺の考えだと使える魔法に差があるのは、『民族』ではなく『環境』だ。これについては実は既にまだ一例だが、証明した実例が一つある」
「もしかしてメアちゃんですか?」
「そうだ。メアラは今までずっと土魔法が使えなかったが、ある事実を見せただけで使えるようになった」
「えっと……マーカスさんの工房?」
「そう。あの時はみんな一緒に居たからわかると思うが、熱でドロドロに溶ける鉱石を実際に見た後、メアラは長年発動出来ずにいた土魔法を発動出来るようになった」
「そう言えば私は土魔法の詠唱を止められていましたよね……」
ベァナが頬を膨らませて俺に抗議する。
「ああ悪い。それにもちゃんとした理由があるので後で説明する。まずメアラが土魔法を発動出来なかった原因は簡単で、詠唱時に必要な『イメージ』が間違っていたからなんだ」
「そうなんですか!? でも教えていたティネ師匠はちゃんと土魔法を使えていましたし、他の生徒でも何人か使えた子がいましたよ?」
「メアラが教わったイメージは『土が溶ける』というものだったそうだ。その表現は決して間違ってはいない。ただし情報が足りなかった」
「何が足りなかったのですか?」
「メアラはずっと森で過ごしていたせいか、土が高熱で溶ける様子を一度も見たことが無かったのだ。故郷には鍛冶師もいない。だから『土が溶ける』という言葉から、正しいイメージを連想できなかったのだろう」
「あれ、私は先生からちゃんと『熱で土が溶ける』って話を聞いた記憶があるのですが……」
「だとしたらメアラが話を聞きはぐっていたか、または先入観によるものだろうな。たった一つの言葉から見た事の無いものを想像するのは難しいんだ」
百聞は一見に如かず、とは本当に良く言ったものだ。
「だから土魔法を使える人間に『山』出身者が多いのは単なる山ではなく、きっと火山近くで溶岩を見たことがあったり、鉱山出身で普段から金属精錬の様子を見ていたからこそ、正しいイメージをする事が出来たからだろうと推測している」
「そうなのですね……でも私は土魔法を使えませんでした。私の持っていた土魔法のイメージは多分正しかったと思います。アラーニ村の近くに火山はありませんでしたが、ジェイコブさんの工房で鉱石が溶ける様子は見たことがありますし」
「そう。それこそがいくつかある条件の一つ。多分『神が与えた』という部分に関係するものだ」
「神が与えた……」
ベァナは論理的な考えが出来ると同時に、信心深さも兼ね備えている。
このような厳しい世界であれば、何かにすがるのは当然の帰結かも知れない。
だが俺個人は、神などという存在を信じてはいない。
信じてはいないが、少なくとも神に相当する何かがこの世界にあるのは確かだ。
だから全面的な否定はしない。
心の拠り所をどこに持つかなど、個人の自由だからだ。
「実際に神が与えたかどうかは俺にもわからない。しかしそれを実際に確認する方法は……ある」
「そうなのですか?」
「ああ。しかもそれは俺達全員がそれぞれ持っているものだ」
魔法の技を伝えるのが神であるならば……
神の言葉を伝える魔法協会がそれに関係ないはずがない。
俺は一枚のカードを取り出す。
「これだ」
「冒険者カード!?」
「ああ。メアラがくれた本に、とある魔法が記されていた。それを今から使う」
魔法協会内でのみ使われているとされる魔法。
「この魔法については他言無用だ。英知魔法と言うのだが、公にされておらず、魔法協会内でしか使われない魔法らしい。一般人の俺達が知っているとなると、何かと面倒に巻き込まれる可能性があるからな」
「そんな魔法を、メアちゃんが発見したのですか?」
「君の師匠であるティネが独自調査で発見したらしい」
「やっぱりティネ先生ですか。それなら納得です」
話によると研究ばかりしていたそうなので、きっと学者気質の人なのだろう。
「それじゃ始めよう」
俺は左手にカードを持った状態で、エンクエリという英知魔法を唱えた。
この魔法は、自分自身の情報をカードに表示させるものだ。
── ᛈᛋᛞᚨ ᛞᛖ ᛚᚨ ᛢᛚᛞᚨ ᛚᚨ ᛈᛚᛁᚷ ᚨᛚ ᚳᛁ ──
詠唱終了後、一瞬何も変化が無いように見えた。
しかし直にカードに変化が訪れる。
カード全体がうっすらと光り、そこに古代語が浮かび上がってきたのだ。
「こんな仕組みがあったなんて……」
ニーヴの表情からは既に哀しみは消え、今は好奇心に満ちていた。
本来はきっと、魔法の事をもっと知りたかったに違いない。
彼女の視線は、目の前で起きている未知の現象に釘付けだった。
表示されているのは基本的に古代文字と数字で、数字に関してはこの世界で一般的に使われているものと同じだ。
項目が多いせいか、何も操作しなくても自動でスクロール表示されている。
まるでスマホアプリのようだ。
そしてそれらの文字は、暫くするとはスっと消えていった。
「あっ」
「ある程度の時間が経つと自動で消えるようだ。もう一度詠唱すればまた見る事が出来るが、みんなに説明する為に事前に書き写しておいた」
俺は事前に書き留めていた自分の情報を皆に見せる。
ᛈᚱᛖᛗᛁᛟ ᛈᚢᚾᚲᛏ 101,520 ᛈᛈ
ᛞᚢᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᛏᚱᛁᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᚷᛖᚾᛖᚱᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᚨᚱᛗᛁᛚᛟ 1 ᛚᛁᚷ
ᛋᛖᚲᚢᚱᚨ 3 ᛚᛁᚷ
ᚣᛁᚣᛟ 3 ᛚᛁᚷ
ᚲᛟᚾᛋᛏᛟ 4 ᛚᛁᚷ
ᚣᛖᛏᛖᚱᛟ 2 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
「なにがなんだかわからないです」
「大丈夫。最初は俺もそんな感じだったけど、メアラに借りた本のお陰でかなり解読する事が出来た。それでみんなにちょっとお願いがあるのだが……」
「私に出来る事でしたら是非!」
ニーヴが積極的に申し出る。
「そんなに難しい事じゃない。みんなにも同じ事をやって欲しいんだ」
「それは問題無いが、私は魔法など一切使った事が無いし、使えないぞ?」
「セレナ、だからこそ確認したいんだ。魔法を使う前と使った後で、表示がどう変わるのかという事を」
「それの表示からは、何がわかるのでしょう?」
ベァナの疑問はもっともだ。
「そうだな。色々な事がわかるんだが、使える魔法の難易度ははっきりとわかるな。それと……使えない魔法がなぜ使えないのか。その理由をある程度推測できる」
「魔法を使えない理由……」
「ああ。つまりさっきも言ったのだが、魔法を使うのに必要なのは才能ではなく条件だ。その条件の一つがそこに書かれている」
俺が推測する魔法の発動条件はたった三つしかない。
一つ目は手続き。これは詠唱呪文だったり秘薬やイメージといったものだ。
魔法の種類によって必要な手続きは変わって来るが、基本誰にでも準備出来る。
二つ目はマナ。魔法を発動する為のエネルギー源である。
これに関しては個人差があるので、そういう意味ではこのマナ量こそが『才能』に当たるのかも知れない。
しかし消費量が極端に少なく誰にでも使える魔法がある。
先程唱えた「エンクエリ」等がそのいい例だ。
だからマナ量が少ないせいで魔法を全く使えないという理屈は通らない。
また微々たるものらしいが、魔法利用をするうちにマナの保有限界はある程度鍛えられるという事もわかっている。
そして三つ目。
この条件は魔法協会の装置か、この冒険者カードによってしか知り得ない情報だ。
その情報とは……
魔法種別ごとの『認可』情報。
俺が現在、精霊魔法の殆どを使えない理由が、まさにここにあった。
冒険者カードに照会した情報によると、俺は過去に全種類の精霊魔法を使えていたらしい。
そしておそらくこれは、ベァナやニーヴが魔法を使えない理由に繋がっている。
魔法の『認可』
こんな事を出来る存在がいるとすれば……
認めたくはない。
だがそれこそが即ち、神と呼べる存在なのかも知れない。
二人の娘達はその扱い方をすぐに覚え、その日のうちに普通に戦闘参加出来る程度にはなっていた。
素人でも扱える武器として作ったのだから、当然と言えば当然かも知れない。
特にプリムの上達には目を見張るものがあった。
「プリムちゃんすごいです!」
「今晩は肉料理にありつけるな」
「おいしく食べられるように臭みが取れる野草を探してこないとね!」
彼女はまだ訓練を始めたばかりなのに、自力で野うさぎを仕留めて来たのだ。
すこしぼーっとした印象のプリムだが、物覚えが速く、そして器用だ。
「えへへへ」
彼女は照れながらも誇らしげだった。
「わたしも頑張らないと……」
友人の成果を目の当たりにして、決意を新たにするニーヴ。
「ニーヴ。そんなに気張らなくてもいいぞ。あさってあたりからは魔法詠唱にチャレンジしようかと思っているし」
「魔法、ですか……」
やはりそうだ。
ニーヴは魔法に対して、何かネガティブな感情を持っている。
それがなんなのかはもちろんわからない。
訓練を本格的に始める前に確認しておかなければなるまい。
「勘違いなら申し訳ないんだが、ニーヴは魔法が嫌いか?」
「いいえっ。そんな事はありません!」
「俺の気のせいかもしれないが、魔法の話をするとニーヴはいつも少しトーンが下がる印象があってな」
ニーヴは少しため息を漏らしながら続けた。
「ヒースさんには本当に隠し事なんか出来ないですね。実は私は奴隷になる前、魔法を教わっていた事があるのです」
「魔法を教わるとは、魔法学校とやらに通っていたのか?」
セレナは剣術にしか興味が無いと思っていたが、そうでも無いらしい。
しかし魔法学校なんてものがあるとは……
ダンケルドではティネの私塾くらいしか魔法を教える場所は無かった。
魔法学校と言うのは多分、大都市や王都にしかない教育機関なのだろう。
「いえ。魔法学校の入学条件に満たなかったので、学校には入れませんでした」
「条件なんてものがあるのか?」
「はい。魔法学校に入る為には、最低でも精霊魔法……つまり攻撃魔法をどれか一つ使える必要があります。だから貴族達は子息を魔法学校に入学させる為に、家庭教師を付けてまで勉強させるのです」
ニーヴは魔法学校に入れなかった。
それが家庭教師を付けてまで勉強した結果だとすると……
「でも私はどの精霊魔法も扱えませんでした。親はかなり著名な先生を家庭教師に付けてくれたのですが、どんなに練習しても発動しなくて、先生からは『才能が無いので諦めてください』と言われて……」
「その教師、最悪ですっ!」
まるで自分が言われたかのようにベァナが憤る。
「魔法の学習はとても費用がかかります。うちもそれなりに裕福な家庭ではありましたが、それでもかなりの出費だったに違いありません。それなのに……私は……」
ニーヴはそう言って、顔を手で覆った。
親の期待に応えられなかった罪悪感。
そのせいで、魔法に対してネガティブなイメージを持ってしまったのだろう。
小刻みに揺れるニーヴの肩を、ベァナが優しく抱きしめる。
全く同じ状況ではなかったが、ベァナも似たような境遇にいたのだ。
ニーヴの気持ちは身に染みてわかるのだろう。
しかし魔法に関して、俺には確信している事があった。
「ニーヴ、嫌な思い出を話させて悪かった。そして話してくれてありがとう。ただ、慰めの言葉というわけでは無いのだが、多分その教師より俺のほうが、間違いなく正しい魔法体系を知っている」
「えっ?」
ベァナが俺の言葉に反応する。
「俺はこの世界の人々の魔法に対する認識が間違っていると考えているのだ」
「認識、ですか?」
「ああ。簡単に言うと、魔法を使うために『才能』なんてものは全く必要無い。あるのは単なるいくつかの『条件』だけだ」
「そうだったら本当に嬉しいのですが……魔法は実際に使える人と使えない人で差がはっきり出ます」
「そうだね。多くの人間は魔法を使えていない」
「魔法協会に伝わる話の中には『魔法は神が授けた技』という表現が出てきますし、それこそが精霊の祝福であり、魔法の才能だという話なのですが」
「俺もその話は協会職員から聞いた。しかしそれだけでは『授けた技=精霊の祝福』であるという証拠にはならないと思う」
「魔法を使える人はその民族によって大きく偏りがあります。風魔法を使える人は多くの地域にいますが、土魔法を使える人は山に住む民族に多いそうです」
「それも聞いたことがある。そして水魔法を使える民も平地より山のほうが多い。火魔法を使える者は少ないが、どこかの民から使える者が比較的多く出るとか」
「はい。ですから受けている精霊の祝福が民族毎に異なるため、才能に差が出る、と一般的には言われています。実際そうなっていると思うのですが」
物理学や気象学の発展していないこの世界ではそう考えるのも仕方が無いか。
しかしそこで少し疑問が沸いた。
「それについて、ティネ先生は何か言ってなかったか?」
「ティネ先生も魔法協会の話をしていました。でもそう言えば『あくまで一番多く知られている一般的な説』を話す、とおっしゃってました。結局他の説についてはお聞き出来ませんでしたが」
やはり魔導士ティネは、魔法に関する研究をし、何らかの結果を得ている。
だからこそ敢えて『一般的な説』という枕詞を付けたのだ。
彼女ならば、俺の話が通じそうだ。
「俺の考えだと使える魔法に差があるのは、『民族』ではなく『環境』だ。これについては実は既にまだ一例だが、証明した実例が一つある」
「もしかしてメアちゃんですか?」
「そうだ。メアラは今までずっと土魔法が使えなかったが、ある事実を見せただけで使えるようになった」
「えっと……マーカスさんの工房?」
「そう。あの時はみんな一緒に居たからわかると思うが、熱でドロドロに溶ける鉱石を実際に見た後、メアラは長年発動出来ずにいた土魔法を発動出来るようになった」
「そう言えば私は土魔法の詠唱を止められていましたよね……」
ベァナが頬を膨らませて俺に抗議する。
「ああ悪い。それにもちゃんとした理由があるので後で説明する。まずメアラが土魔法を発動出来なかった原因は簡単で、詠唱時に必要な『イメージ』が間違っていたからなんだ」
「そうなんですか!? でも教えていたティネ師匠はちゃんと土魔法を使えていましたし、他の生徒でも何人か使えた子がいましたよ?」
「メアラが教わったイメージは『土が溶ける』というものだったそうだ。その表現は決して間違ってはいない。ただし情報が足りなかった」
「何が足りなかったのですか?」
「メアラはずっと森で過ごしていたせいか、土が高熱で溶ける様子を一度も見たことが無かったのだ。故郷には鍛冶師もいない。だから『土が溶ける』という言葉から、正しいイメージを連想できなかったのだろう」
「あれ、私は先生からちゃんと『熱で土が溶ける』って話を聞いた記憶があるのですが……」
「だとしたらメアラが話を聞きはぐっていたか、または先入観によるものだろうな。たった一つの言葉から見た事の無いものを想像するのは難しいんだ」
百聞は一見に如かず、とは本当に良く言ったものだ。
「だから土魔法を使える人間に『山』出身者が多いのは単なる山ではなく、きっと火山近くで溶岩を見たことがあったり、鉱山出身で普段から金属精錬の様子を見ていたからこそ、正しいイメージをする事が出来たからだろうと推測している」
「そうなのですね……でも私は土魔法を使えませんでした。私の持っていた土魔法のイメージは多分正しかったと思います。アラーニ村の近くに火山はありませんでしたが、ジェイコブさんの工房で鉱石が溶ける様子は見たことがありますし」
「そう。それこそがいくつかある条件の一つ。多分『神が与えた』という部分に関係するものだ」
「神が与えた……」
ベァナは論理的な考えが出来ると同時に、信心深さも兼ね備えている。
このような厳しい世界であれば、何かにすがるのは当然の帰結かも知れない。
だが俺個人は、神などという存在を信じてはいない。
信じてはいないが、少なくとも神に相当する何かがこの世界にあるのは確かだ。
だから全面的な否定はしない。
心の拠り所をどこに持つかなど、個人の自由だからだ。
「実際に神が与えたかどうかは俺にもわからない。しかしそれを実際に確認する方法は……ある」
「そうなのですか?」
「ああ。しかもそれは俺達全員がそれぞれ持っているものだ」
魔法の技を伝えるのが神であるならば……
神の言葉を伝える魔法協会がそれに関係ないはずがない。
俺は一枚のカードを取り出す。
「これだ」
「冒険者カード!?」
「ああ。メアラがくれた本に、とある魔法が記されていた。それを今から使う」
魔法協会内でのみ使われているとされる魔法。
「この魔法については他言無用だ。英知魔法と言うのだが、公にされておらず、魔法協会内でしか使われない魔法らしい。一般人の俺達が知っているとなると、何かと面倒に巻き込まれる可能性があるからな」
「そんな魔法を、メアちゃんが発見したのですか?」
「君の師匠であるティネが独自調査で発見したらしい」
「やっぱりティネ先生ですか。それなら納得です」
話によると研究ばかりしていたそうなので、きっと学者気質の人なのだろう。
「それじゃ始めよう」
俺は左手にカードを持った状態で、エンクエリという英知魔法を唱えた。
この魔法は、自分自身の情報をカードに表示させるものだ。
── ᛈᛋᛞᚨ ᛞᛖ ᛚᚨ ᛢᛚᛞᚨ ᛚᚨ ᛈᛚᛁᚷ ᚨᛚ ᚳᛁ ──
詠唱終了後、一瞬何も変化が無いように見えた。
しかし直にカードに変化が訪れる。
カード全体がうっすらと光り、そこに古代語が浮かび上がってきたのだ。
「こんな仕組みがあったなんて……」
ニーヴの表情からは既に哀しみは消え、今は好奇心に満ちていた。
本来はきっと、魔法の事をもっと知りたかったに違いない。
彼女の視線は、目の前で起きている未知の現象に釘付けだった。
表示されているのは基本的に古代文字と数字で、数字に関してはこの世界で一般的に使われているものと同じだ。
項目が多いせいか、何も操作しなくても自動でスクロール表示されている。
まるでスマホアプリのようだ。
そしてそれらの文字は、暫くするとはスっと消えていった。
「あっ」
「ある程度の時間が経つと自動で消えるようだ。もう一度詠唱すればまた見る事が出来るが、みんなに説明する為に事前に書き写しておいた」
俺は事前に書き留めていた自分の情報を皆に見せる。
ᛈᚱᛖᛗᛁᛟ ᛈᚢᚾᚲᛏ 101,520 ᛈᛈ
ᛞᚢᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᛏᚱᛁᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᚷᛖᚾᛖᚱᚨ 3 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
ᚨᚱᛗᛁᛚᛟ 1 ᛚᛁᚷ
ᛋᛖᚲᚢᚱᚨ 3 ᛚᛁᚷ
ᚣᛁᚣᛟ 3 ᛚᛁᚷ
ᚲᛟᚾᛋᛏᛟ 4 ᛚᛁᚷ
ᚣᛖᛏᛖᚱᛟ 2 ᚾᛖ ᛚᛁᚷ
「なにがなんだかわからないです」
「大丈夫。最初は俺もそんな感じだったけど、メアラに借りた本のお陰でかなり解読する事が出来た。それでみんなにちょっとお願いがあるのだが……」
「私に出来る事でしたら是非!」
ニーヴが積極的に申し出る。
「そんなに難しい事じゃない。みんなにも同じ事をやって欲しいんだ」
「それは問題無いが、私は魔法など一切使った事が無いし、使えないぞ?」
「セレナ、だからこそ確認したいんだ。魔法を使う前と使った後で、表示がどう変わるのかという事を」
「それの表示からは、何がわかるのでしょう?」
ベァナの疑問はもっともだ。
「そうだな。色々な事がわかるんだが、使える魔法の難易度ははっきりとわかるな。それと……使えない魔法がなぜ使えないのか。その理由をある程度推測できる」
「魔法を使えない理由……」
「ああ。つまりさっきも言ったのだが、魔法を使うのに必要なのは才能ではなく条件だ。その条件の一つがそこに書かれている」
俺が推測する魔法の発動条件はたった三つしかない。
一つ目は手続き。これは詠唱呪文だったり秘薬やイメージといったものだ。
魔法の種類によって必要な手続きは変わって来るが、基本誰にでも準備出来る。
二つ目はマナ。魔法を発動する為のエネルギー源である。
これに関しては個人差があるので、そういう意味ではこのマナ量こそが『才能』に当たるのかも知れない。
しかし消費量が極端に少なく誰にでも使える魔法がある。
先程唱えた「エンクエリ」等がそのいい例だ。
だからマナ量が少ないせいで魔法を全く使えないという理屈は通らない。
また微々たるものらしいが、魔法利用をするうちにマナの保有限界はある程度鍛えられるという事もわかっている。
そして三つ目。
この条件は魔法協会の装置か、この冒険者カードによってしか知り得ない情報だ。
その情報とは……
魔法種別ごとの『認可』情報。
俺が現在、精霊魔法の殆どを使えない理由が、まさにここにあった。
冒険者カードに照会した情報によると、俺は過去に全種類の精霊魔法を使えていたらしい。
そしておそらくこれは、ベァナやニーヴが魔法を使えない理由に繋がっている。
魔法の『認可』
こんな事を出来る存在がいるとすれば……
認めたくはない。
だがそれこそが即ち、神と呼べる存在なのかも知れない。
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そう言われて異世界と地球を管理するそれぞれの神様によって依頼されて送り込まれた先は神が作った異世界。魔法が存在し、文化や技術の差が著しく異なる国同士がひしめき合う箱庭のようなどことなく地球と似た文化や文明が存在する不思議な世界だった……
これは異世界各地を渡り歩き、世界を管理する神に代わって異世界の危機を解決する冒険物語。
銃と剣、火薬と魔法、謀略と正義、人々と神々の思惑が交錯する物語である。
デボルト辺境伯邸の奴隷。
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シリアルキラーとして捕えられた青年は,処刑当日、物好きな辺境伯に救われ奴隷として仕える事となる。
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亜人の残党を魔術によって処分するために、あちこちに出張へと赴く彼は、久々に戻った自分の領地の広場で、大罪人の処刑を目にする。
少女とも、少年ともつかない、端麗な顔つきに、真っ赤な血染めのドレス。
今から処刑されると言うのに、そんな事はどうでもいいようで、何気ない仕草で、眩しい陽の光を手で遮る。
真っ黒な髪の隙間から、強い日差しでも照らし出せない闇夜のような瞳が覗く。
その瞳に感情が写ったら、どれほど美しいだろうか、そう考えてしまった時、自分は既に逃れられないほど、君を愛していた。
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BLコンテスト、応募用作品として作成致しました。応援して頂けますと幸いです。
皇国の復讐者 〜国を出た無能力者は、復讐を胸に魔境を生きる。そして数年後〜
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