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第三章
備えあれば憂いなし
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新たな仲間と共に旅を再開して二日目。
俺はこの先の危険に対応出来るよう、仲間達の資質を確認する事にした。
この世界にはあらゆる土地に魔物が棲息している。
そして多くの人命が、魔物により失われる世界でもある。
それらの魔物と、いつ、どこで出会うかは誰にも予測し得ない。
だから戦う術を持つ事は、何よりも優先して行われるべき危機対策だ。
「ベァナはクロスボウ、セレナは剣での実戦経験があるので、当面は今まで通りの対応をしてもらうとして……急ぐべきはニーヴとプリムの得物だな」
「なんでもがんばる!」
プリムからの元気な返事。
ニーヴもプリムも、仲間の役に立ちたいという思いが強いらしく、なんでも積極的にチャレンジしようとする。
彼女達の今までの境遇を考えれば、それは当然なのかも知れない。
特にニーヴの意気込みには鬼気迫る物がある。
前回の薬草採取の依頼でも、その点が顕著に現れていた。
ただ人には向き不向きがある。
苦手なもの、嫌な事を続けても決して大成しない。
それに危機に対応する方法は、決して一つだけではない
まずは本人たちの適性を把握するべきだろう。
「戦う、と言ってもその形は様々だ。例えば罠。使い方によっては何十人もの騎士以上の働きをする。そうだよな、ベァナ?」
「はい。アラーニ村で使った落石トラップは、一度に何十体ものゴブリンを倒して、その倍以上のゴブリンを足止めしました」
「計略や策略という類のものですね」
ニーヴは町で入手した紙に何かメモしていく。
どうやらベァナが以前そうしていたのを見て、真似するようになったらしい。
なんだか微笑ましく感じる。
「あとは武器と言えば剣や槍、弓のような物理的な攻撃方法もあるし、この世界には魔法もある。まぁ俺の考えでは魔法ですら物理攻撃の一種だと思っているのだが」
「そうなのですか?」
ニーヴは元々、かなり裕福な家のお嬢様だったらしい。
それについては奴隷から解放された日に、本人の口からも語られていた。
読み書きも堪能なので、しっかりとした教育を受けて育ったのだろう。
「前にマーカスさんの工房で熱と風の話をしたと思うが、あの話に繋がる理論だな。まぁ俺が勝手に考えたものなのでこの世界の魔法体系とは全然違うものだと思う。その点については、魔法訓練をする時にまた話をしよう」
プリムがきょとんとした顔で話を聞いていた。
別につまらなそうにしていたわけではない。
彼女は俺の話を一旦ありのまま聞き心に留め、実践する中でその意味を理解していくタイプである。
おとなしく話を聞いてはいるが、きっと心の中では早くやってみたいという気持ちで一杯なのだろう。
一方ニーヴはというと……
もちろん話を熱心に聞く姿勢に変わりはない。
ただなんとなくだが、魔法関連の話になるとほんの少しだけトーンが下がる。
これは何かあるのかも知れない。少し心に留めておこう。
「先程も話した通り戦う方法は幾通りもあるが、暫くはクロスボウの扱について練習しようと思う。ある程度慣れたら魔法にチャレンジするつもりだ」
「剣はつかわないですか?」
プリムはどうやら剣を使ってみたいらしい。
「そこは少し悩んだのだが、君たちの体格だと一般的な剣を扱うのはちょっと難しいと思うんだ。技術を磨くのに時間もかかるだろう。そもそも戦闘に慣れていない状態でいきなり前衛を任せるのは危険だからね」
「剣、つかえないですか……」
確かにクロスボウや魔法に比べると、とてもわかり易い武器だ。
しかし攻撃方法としてはシンプルではあるものの、扱いが簡単なわけではない。
とは言え頭ごなしに否定するのは良くないだろう。
何事もやってみないとわからないものだ。
「そうだな……クロスボウか魔法がある程度扱えるようになったら、合間を見てセレナに剣術を教えてもらうようにしようか」
「はいです!!」
「ベァナはクロスボウの扱い方を二人に教えて欲しい。頼めるか?」
「わかりました。大丈夫です!」
クロスボウは技術提供のお礼として、マーカスから数張り譲り受けている。
襲ってくる敵はこちらの都合になんて合わせてくれない。
ホブゴブリンのように熟練した技能が無いと直接対峙するのが難しい敵もいるし、ハーピーや飛竜等、空を飛ぶ魔物もいるようだ。
その点クロスボウならば、手にしたその日から実戦参加が可能だ。
メンテナンスや補修に少し知識が必要な以外は、とても優秀な飛び道具である。
ただ遭遇戦になった場合、射手に敵が近づかないよう、盾役が必要である。
現状は俺とセレナの二人で前衛を務めれば良いのだが……
俺はクロスボウの訓練をベァナに任せ、セレナの元に歩いて行った。
「セレナ。頼みがある」
彼女はクロスボウの練習チームから少し離れた場所で、剣の手入れを行っていた。
「おおヒース殿、どうされましたか?」
「俺に剣術を教えて欲しい」
彼女は俺のセリフを聞き違えたかのように、驚きの表情を見せる。
「ええと、教わるとしたら私のほうだと思うのだが……もし私をからかっているのなら、いくら相手がヒース殿でも少し不愉快に感じますぞ」
「冗談でもふざけているわけでも無い。俺に剣術の基本を教えて欲しいのだ」
少し不機嫌そうな表情をしていたセレナだったが、俺が真顔なのを見て態度を軟化させる。
「何か事情があるのですな。お聞きしても宜しいか?」
◆ ◇ ◇
「なるほど。記憶を失ってしまったが故に、知識としての剣術は無いと」
「そうなんだ。今までうまく戦えて来たのは多分、記憶を無くす前の俺がかなりの実戦経験を積んでいたからだと思う」
「つまり、体で覚えていると?」
「多分な。記憶を無くした後に何度か魔物と戦ってきたのだが、相手の動きに集中していると、感覚というのかな、敵の動きに合わせて体が勝手に反応する。だから俺はその感覚を信じて、そのまま体を動かしているだけに過ぎん」
「それはもはやなんというか……達人の域ですぞ」
一時見せていた不機嫌な表情も消え、むしろ呆れた様子で話を聞いていた。
「しかし現状ちゃんと戦えているのだから、今のままで宜しいのでは?」
「ある動作を無意識に出来るようになるには、同じ動きを意識的に何度も行う必要があるよな?」
「そうだな。無意識で体が動くようになるには、かなりの鍛錬や実戦経験が必要だ」
「だから俺が現状、無意識でもこれだけの動きが出来るという事は、記憶を無くす前の自分が、とんでもない難敵達と沢山戦っていたからだと思うのだ」
「そう言えばヒース殿は、何者かに追われているとおっしゃっていましたな」
マラスの言葉を思い出す。
彼によると『王妃』と呼ばれる者の部下が俺を追っているらしい。
「ああ。正体はまだ解らないが、とある女性に追われているらしい」
「とある女性? ヒース殿はつくづく女子にモテるのだな」
モテるとか言う問題ではない。
その敵は俺のマナを目当てで捕まえようとしているのだ。
どんな実験をさせられるか分かったものじゃない。
「いやいや。そんな甘い話じゃない。結構厄介な相手だ」
「なるほど……念のため確認だが、その追手は斬ってしまって良い相手か?」
俺は当初、以前のヒースが何か悪い事をしでかしたせいで、何者かに追われているのかも知れないと思っていた。
しかし俺は自分を追っていたのが外道の集まりだと知り、心底安堵した。
少なくとも善良な人々と敵対していたわけでは無かったからだ。
「前にも話をしたと思うが、魔神信奉者の一味らしい」
「それならば安心だな。全力で斬れる」
俺は一瞬、身震いを感じた。
セレナが微かに微笑んでいるように見えたからだ。
彼女は決して好戦的なタイプでは無いが、きっと自分の腕を試す良い機会だとでも思っているのだろう。
しかしそれもこの世界では至極当然なこと。
ここは日本ではない。
殺らなければ自分が殺られる世界。
俺もそろそろ腹を括らないといけないだろう。
「以前の俺はきっとそういった危機へ対応するために、普段から鍛錬を怠らなかったんだと思う。もし今の動きで満足しているようでは、きっと腕が鈍ってしまう」
「なるほど。一理あるな」
「今の俺は過去に蓄えた財産を食い潰すだけの、ただの穀潰しに過ぎぬ」
「はは、穀潰しか! わたしも姉妹からそう言われていた時期があったな」
彼女は大農場主アーネストの娘であり、三人姉妹の次女である。
他の二人の姉妹、シンシアとベリンダは確かに従業員としては確かに優秀だった。
シンシアは頭が良く豊かな発想の持ち主だったし、ベリンダは農作物の知識が豊富で調理も得意だ。
そして二人とも性格こそ違うものの人当たりが良く、接客向きだった。
もちろんセレナも農作業などの手伝いは積極的に行っていたそうだが、商売や経営については性に合わなかったらしい。
中でも接客が一番苦手だと言う。
理由が容易に想像出来た。
そのせいもあり、剣術を習ってからは衛兵の詰め所にばかり通っていたそうだ。
本人曰く、実の父より断然、団長のシュヘイムを尊敬しているとの事。
アーネストもなかなか尊敬に値する人物だと思うのだが。
だから家業を手伝わない次女に対し、他の二人から不満が出ていたのだろう。
もっともそんな不満も、ゴブリン襲撃以降は一切言われなくなったそうだ。
「今でも気になるか?」
「いや全然。確かに以前は息が詰まる事もあったが、今ではこうして自分の居場所を見つける事が出来た。ヒース殿には本当に感謝している」
「それは俺のセリフだ。セレナが居なかったら旅立つ事も出来なかったのだからな」
彼女は俺の事情を一通り察したようだ。
笑顔でその場に立ち上がる。
「ヒース殿が困っているのなら、全力で手助けしよう。まぁ既に体のほうが覚えているのだから、難しい事は何もなかろう!」
こうして俺はセレナの空き時間を分けて貰い、改めて剣術修業をする事になった。
確かに今のままでも十分戦えている。
戦えてはいるが、俺が今まで対峙してきたその殆どは魔物だ。
魔物は動きも単純で、戦闘技術なんてものは持ち合わせていない。
しかしもし相手が人間だとしたら?
こんな世界だから盗賊やごろつきに遭遇する事はあるだろう。
魔術師のマラスでさえ、優れた短剣使いだった。
本職の剣士との戦いで、俺はまともに戦えるのか?
今の俺には全く予想も出来ない。
だからこそセレナとの修業から得るものは大きい。
備えあれば憂いなし。
不測の事態が起こる前に、出来るだけ準備をしておくべきだ。
俺はこの先の危険に対応出来るよう、仲間達の資質を確認する事にした。
この世界にはあらゆる土地に魔物が棲息している。
そして多くの人命が、魔物により失われる世界でもある。
それらの魔物と、いつ、どこで出会うかは誰にも予測し得ない。
だから戦う術を持つ事は、何よりも優先して行われるべき危機対策だ。
「ベァナはクロスボウ、セレナは剣での実戦経験があるので、当面は今まで通りの対応をしてもらうとして……急ぐべきはニーヴとプリムの得物だな」
「なんでもがんばる!」
プリムからの元気な返事。
ニーヴもプリムも、仲間の役に立ちたいという思いが強いらしく、なんでも積極的にチャレンジしようとする。
彼女達の今までの境遇を考えれば、それは当然なのかも知れない。
特にニーヴの意気込みには鬼気迫る物がある。
前回の薬草採取の依頼でも、その点が顕著に現れていた。
ただ人には向き不向きがある。
苦手なもの、嫌な事を続けても決して大成しない。
それに危機に対応する方法は、決して一つだけではない
まずは本人たちの適性を把握するべきだろう。
「戦う、と言ってもその形は様々だ。例えば罠。使い方によっては何十人もの騎士以上の働きをする。そうだよな、ベァナ?」
「はい。アラーニ村で使った落石トラップは、一度に何十体ものゴブリンを倒して、その倍以上のゴブリンを足止めしました」
「計略や策略という類のものですね」
ニーヴは町で入手した紙に何かメモしていく。
どうやらベァナが以前そうしていたのを見て、真似するようになったらしい。
なんだか微笑ましく感じる。
「あとは武器と言えば剣や槍、弓のような物理的な攻撃方法もあるし、この世界には魔法もある。まぁ俺の考えでは魔法ですら物理攻撃の一種だと思っているのだが」
「そうなのですか?」
ニーヴは元々、かなり裕福な家のお嬢様だったらしい。
それについては奴隷から解放された日に、本人の口からも語られていた。
読み書きも堪能なので、しっかりとした教育を受けて育ったのだろう。
「前にマーカスさんの工房で熱と風の話をしたと思うが、あの話に繋がる理論だな。まぁ俺が勝手に考えたものなのでこの世界の魔法体系とは全然違うものだと思う。その点については、魔法訓練をする時にまた話をしよう」
プリムがきょとんとした顔で話を聞いていた。
別につまらなそうにしていたわけではない。
彼女は俺の話を一旦ありのまま聞き心に留め、実践する中でその意味を理解していくタイプである。
おとなしく話を聞いてはいるが、きっと心の中では早くやってみたいという気持ちで一杯なのだろう。
一方ニーヴはというと……
もちろん話を熱心に聞く姿勢に変わりはない。
ただなんとなくだが、魔法関連の話になるとほんの少しだけトーンが下がる。
これは何かあるのかも知れない。少し心に留めておこう。
「先程も話した通り戦う方法は幾通りもあるが、暫くはクロスボウの扱について練習しようと思う。ある程度慣れたら魔法にチャレンジするつもりだ」
「剣はつかわないですか?」
プリムはどうやら剣を使ってみたいらしい。
「そこは少し悩んだのだが、君たちの体格だと一般的な剣を扱うのはちょっと難しいと思うんだ。技術を磨くのに時間もかかるだろう。そもそも戦闘に慣れていない状態でいきなり前衛を任せるのは危険だからね」
「剣、つかえないですか……」
確かにクロスボウや魔法に比べると、とてもわかり易い武器だ。
しかし攻撃方法としてはシンプルではあるものの、扱いが簡単なわけではない。
とは言え頭ごなしに否定するのは良くないだろう。
何事もやってみないとわからないものだ。
「そうだな……クロスボウか魔法がある程度扱えるようになったら、合間を見てセレナに剣術を教えてもらうようにしようか」
「はいです!!」
「ベァナはクロスボウの扱い方を二人に教えて欲しい。頼めるか?」
「わかりました。大丈夫です!」
クロスボウは技術提供のお礼として、マーカスから数張り譲り受けている。
襲ってくる敵はこちらの都合になんて合わせてくれない。
ホブゴブリンのように熟練した技能が無いと直接対峙するのが難しい敵もいるし、ハーピーや飛竜等、空を飛ぶ魔物もいるようだ。
その点クロスボウならば、手にしたその日から実戦参加が可能だ。
メンテナンスや補修に少し知識が必要な以外は、とても優秀な飛び道具である。
ただ遭遇戦になった場合、射手に敵が近づかないよう、盾役が必要である。
現状は俺とセレナの二人で前衛を務めれば良いのだが……
俺はクロスボウの訓練をベァナに任せ、セレナの元に歩いて行った。
「セレナ。頼みがある」
彼女はクロスボウの練習チームから少し離れた場所で、剣の手入れを行っていた。
「おおヒース殿、どうされましたか?」
「俺に剣術を教えて欲しい」
彼女は俺のセリフを聞き違えたかのように、驚きの表情を見せる。
「ええと、教わるとしたら私のほうだと思うのだが……もし私をからかっているのなら、いくら相手がヒース殿でも少し不愉快に感じますぞ」
「冗談でもふざけているわけでも無い。俺に剣術の基本を教えて欲しいのだ」
少し不機嫌そうな表情をしていたセレナだったが、俺が真顔なのを見て態度を軟化させる。
「何か事情があるのですな。お聞きしても宜しいか?」
◆ ◇ ◇
「なるほど。記憶を失ってしまったが故に、知識としての剣術は無いと」
「そうなんだ。今までうまく戦えて来たのは多分、記憶を無くす前の俺がかなりの実戦経験を積んでいたからだと思う」
「つまり、体で覚えていると?」
「多分な。記憶を無くした後に何度か魔物と戦ってきたのだが、相手の動きに集中していると、感覚というのかな、敵の動きに合わせて体が勝手に反応する。だから俺はその感覚を信じて、そのまま体を動かしているだけに過ぎん」
「それはもはやなんというか……達人の域ですぞ」
一時見せていた不機嫌な表情も消え、むしろ呆れた様子で話を聞いていた。
「しかし現状ちゃんと戦えているのだから、今のままで宜しいのでは?」
「ある動作を無意識に出来るようになるには、同じ動きを意識的に何度も行う必要があるよな?」
「そうだな。無意識で体が動くようになるには、かなりの鍛錬や実戦経験が必要だ」
「だから俺が現状、無意識でもこれだけの動きが出来るという事は、記憶を無くす前の自分が、とんでもない難敵達と沢山戦っていたからだと思うのだ」
「そう言えばヒース殿は、何者かに追われているとおっしゃっていましたな」
マラスの言葉を思い出す。
彼によると『王妃』と呼ばれる者の部下が俺を追っているらしい。
「ああ。正体はまだ解らないが、とある女性に追われているらしい」
「とある女性? ヒース殿はつくづく女子にモテるのだな」
モテるとか言う問題ではない。
その敵は俺のマナを目当てで捕まえようとしているのだ。
どんな実験をさせられるか分かったものじゃない。
「いやいや。そんな甘い話じゃない。結構厄介な相手だ」
「なるほど……念のため確認だが、その追手は斬ってしまって良い相手か?」
俺は当初、以前のヒースが何か悪い事をしでかしたせいで、何者かに追われているのかも知れないと思っていた。
しかし俺は自分を追っていたのが外道の集まりだと知り、心底安堵した。
少なくとも善良な人々と敵対していたわけでは無かったからだ。
「前にも話をしたと思うが、魔神信奉者の一味らしい」
「それならば安心だな。全力で斬れる」
俺は一瞬、身震いを感じた。
セレナが微かに微笑んでいるように見えたからだ。
彼女は決して好戦的なタイプでは無いが、きっと自分の腕を試す良い機会だとでも思っているのだろう。
しかしそれもこの世界では至極当然なこと。
ここは日本ではない。
殺らなければ自分が殺られる世界。
俺もそろそろ腹を括らないといけないだろう。
「以前の俺はきっとそういった危機へ対応するために、普段から鍛錬を怠らなかったんだと思う。もし今の動きで満足しているようでは、きっと腕が鈍ってしまう」
「なるほど。一理あるな」
「今の俺は過去に蓄えた財産を食い潰すだけの、ただの穀潰しに過ぎぬ」
「はは、穀潰しか! わたしも姉妹からそう言われていた時期があったな」
彼女は大農場主アーネストの娘であり、三人姉妹の次女である。
他の二人の姉妹、シンシアとベリンダは確かに従業員としては確かに優秀だった。
シンシアは頭が良く豊かな発想の持ち主だったし、ベリンダは農作物の知識が豊富で調理も得意だ。
そして二人とも性格こそ違うものの人当たりが良く、接客向きだった。
もちろんセレナも農作業などの手伝いは積極的に行っていたそうだが、商売や経営については性に合わなかったらしい。
中でも接客が一番苦手だと言う。
理由が容易に想像出来た。
そのせいもあり、剣術を習ってからは衛兵の詰め所にばかり通っていたそうだ。
本人曰く、実の父より断然、団長のシュヘイムを尊敬しているとの事。
アーネストもなかなか尊敬に値する人物だと思うのだが。
だから家業を手伝わない次女に対し、他の二人から不満が出ていたのだろう。
もっともそんな不満も、ゴブリン襲撃以降は一切言われなくなったそうだ。
「今でも気になるか?」
「いや全然。確かに以前は息が詰まる事もあったが、今ではこうして自分の居場所を見つける事が出来た。ヒース殿には本当に感謝している」
「それは俺のセリフだ。セレナが居なかったら旅立つ事も出来なかったのだからな」
彼女は俺の事情を一通り察したようだ。
笑顔でその場に立ち上がる。
「ヒース殿が困っているのなら、全力で手助けしよう。まぁ既に体のほうが覚えているのだから、難しい事は何もなかろう!」
こうして俺はセレナの空き時間を分けて貰い、改めて剣術修業をする事になった。
確かに今のままでも十分戦えている。
戦えてはいるが、俺が今まで対峙してきたその殆どは魔物だ。
魔物は動きも単純で、戦闘技術なんてものは持ち合わせていない。
しかしもし相手が人間だとしたら?
こんな世界だから盗賊やごろつきに遭遇する事はあるだろう。
魔術師のマラスでさえ、優れた短剣使いだった。
本職の剣士との戦いで、俺はまともに戦えるのか?
今の俺には全く予想も出来ない。
だからこそセレナとの修業から得るものは大きい。
備えあれば憂いなし。
不測の事態が起こる前に、出来るだけ準備をしておくべきだ。
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