Wild Frontier

beck

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第二章

冒険者稼業

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 俺達はダンケルド近郊にある森を訪れていた。
 馬車が完成するまで、しばらく時間があったのだが……

「はつにんむー!」
「精一杯頑張ります!!」

 任務と言うのは冒険者ギルドからの依頼だ。
 ニーヴとプリムのテンションはとても高い。

「本当にすまん。少しでも旅費を稼がないとならない」
「何をおっしゃっているのですか。元々私たちが望んだ事ですし、あるじの為に働くのは当然の事です。ヒース様がお気になさることではありません!」
「おしごとがんばるー!」
 
 幼い娘二人にとって、ここは生きていくだけでも過酷な世界だ。
 年齢に関係なく、自分の出来る仕事をしなければ生きていけない。

 しかし彼女達にとっては、それはこの世界の常識だった。

「二人の意気込みはわかった。ただ冒険者として生きていくには魔物と戦う能力だけではなく、野外で生き抜く様々な知恵が無いといけない。まずはそれを覚える事!」
「はいです!」
「わかりました!」

 俺の得意分野である野外活動のスキルが、やっと役に立つ時が来た。

「まずは一番重要な火起こしからだな。火は野営には必須だ」
「火、ですか」
「調理や暖を取るだけでなく狼煙のろしにも利用出来る。また夜間は明かりとしてだけでなく、野生動物や魔物を遠ざける効果も期待出来る。ただ起こせるようになるまでかなり大変なのだが」

 俺も自然のものだけで火を起こせるようになるまで数日かかった。
 初チャレンジした日は朝からやっていたのに日が暮れるまで火を起こせず、結局ライターを使ってしまった。
 あの時の悔しさは今でも忘れられない。

 きっと彼女達も出来るようになるまで相当苦労するだろう。

 しかし人里がまばらにしか存在しないこの世界ならなおさら、こういったサバイバル技術を身に着けておく必要がある。

 そんな事を考えている俺を、プリムは不思議そうな面持ちで見ていた。

「火って、そんなにだいじなのですか」
「ああ大事だぞ。火さえ起こせるようになれば、生存確率が大幅に上がるのは間違いない」
「火がつけば、どんなほうほうでもいいですか?」
「そうだね。色々な方法があるけど、出来ればその辺で手に入るものだけで火を起こせるのが一番いい。もちろん火種は使っちゃダメだからね」
「はいです! ニーヴちゃん、やろう」
「それじゃ蔓と乾いた木を集めないとだね!」

 プリムとニーヴは俺の解説を聞く前に動き出した。
 解説する気満々でいた俺はその機会を逸してしまったのだが、とりあえず彼女達の行動を見守る事にした。

 自分たちで考えて行動する。
 物事に習熟するのに、これほど確実に身に付く方法は無いのだ。

 失敗したっていい。
 それは膨大な選択肢の中から「失敗」という選択肢を外す大事な作業なのだから。


 そんな思いをよそに、二人はその辺に生えているつる植物を集めると、その場であっという間に縄をい始めた。
 驚くべき事に、とても慣れた手つきだ。
 というか俺よりも全然上手で、とてつもない速さで縄をっていった。


 そこで俺は、自分が大きな見当違いをしていた事に気付く。


 彼女達は子供ではあるが、この世界の住人である。
 普段から煮炊き等で、火を使っていたはずなのだ。

 ライターなど無いこの世界で火を手に入れるには……



「火が付きました!」



 気付くとそこには、立派な焚火が出来上がっていた。



 もしかすると彼女達に教えられる事など、俺には何も無いのかもしれない……



    ◆  ◇  ◇



「それじゃ私が教えた通りの植物を集めて来てね。何種類かあるけど、全部集める必要はないからね。それとあまり遠くには行かないように」
「わかりました!」
「はいです!」

 ヒース様の元で働き始めてから初のお仕事。
 魔物と戦えない私たちにでも出来る、薬草集めだ。
 集める薬草は一種類だけではなくて、結構沢山の種類があった。

 それにしてもベァナさんの薬草への造詣ぞうけいはとても深く、本で聞きかじっただけの私とは違ってとても実践的だ。
 見分け方だけでなく採取のコツや注意事項についても教えてくれた。
 きっと普段から薬草を探して野山を探索されているのだろう。

 私たちは初めての探索という事もあって、プリムちゃんと一緒に行動する事に。

「ヒースさま、げんきなかった」
「うんそうだね。忙しい方だからきっと疲れてるんだと思うよ。ヒース様の分まで頑張って集めよう」
「うん、がんばろう!」

 プリムちゃんは私と違ってとても素直で、いつでも前向きだ。
 その性格のお陰もあって、私も元気でいられる。
 一緒に解放されて、そして同じご主人様の元で働けて本当に良かった。


 探し始めた周辺は採取し尽くされてしまったらしく、薬草は一種類も無い。
 元の場所をなるべく離れないようにしながら、別の場所を探す。

「ニーヴちゃん、これで合ってる?」
「えーと……これそうだね! 良く見つけられたね!」
「よかったです!」

 プリムちゃんはずっと奴隷だったので言葉を覚える機会が無く、その話し方から周りにはとても幼い印象を与えている。

 確かに考え方などに幼い部分もある。
 でも実際の彼女は場の変化などに敏感で、物事の飲み込みがとても早い。
 感覚でなんでもこなせてしまうのだ。
 実際、今までは私が足を引っ張ってしまう事のほうが多かった。

 でも生活環境が変わったこれからは、せめてプリムちゃんと同じ位にはヒース様の役に立ちたい。

「プリムちゃん。多分この薬草はあまり日の当たらない場所に生えていると思うので、わたしはもうちょっと奥に行ってみるね」
「あまりとおくに行かないようにって」
「この道からちょっと入った所なのですぐに戻れるとは思うけど……念のため目印を付けていこっか。長めの草をこうして結んでっと」

 ヒース様に教えて貰った、草で移動方向を知らせる手段だ。
 アーネスト農場の話もそうだけど、本当に色々な事を知っていらっしゃる。

 聞けばなんでも優しく教えてくれるし、剣術も出来て見た目も格好いい。
 ベァナさんもものすごい美人さんだけど、きっと他の男の人なんか目に入らないだろうなって思う。

 ただ二人の関係は詳しくはわからないが、恋人同士のようには見えない。
 今後二番手三番手の座を狙うためにも、その辺の事情は是非調べておきたい。

 私が将来の構想を描いている間に、プリムちゃんの作業も終わったようだ。

「これでだいじょうぶかな?」
「大丈夫! じゃ早速……あっ、あそこに生えているのそうだよね?」
「んー。たぶんそう!」
「やっぱり森の中のほうが沢山あるねー」
「たいりょうです!」

 場所を変えた事によって、薬草探しはとてもはかどった。


 しか今思えば薬草探しに没頭しすぎたのだろう。
 私たちは自分たちの足跡そくせきを残すことも忘れ、森の奥へと分け入って行くのだった。




    ◇  ◆  ◇




「ヒースさん、二人を見かけませんでしたか?」
「いや。近くに居ないのか?」
「遠くに行かないように伝えてはいるのですが、ここ一時間程姿が見えないのです」
「そうか。彼女達には定期的にこの場所に戻るように伝えているのだが……もう少しだけ待ってみて、戻らないようなら探しに出よう」
「はい……」

 ベァナは少し心配そうだ。

 ただあの子たちはこの世界で生まれ育っている。
 野山や森の危険性は十分知っているはずだ。




    ◇  ◇  ◆




 しかしその後一時間近く待ったが、二人は戻って来なかった。

 俺とベァナは手早く荷物をまとめ、娘達の捜索に向かった。


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