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第一章
決着
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来襲する魔物も途絶え暫くした頃。
東からボルタが合流した。
「そうか……ジェイコブの野郎がトラップを作動させに……」
ボルタは目に見えて落ち込んでいた。
村一番の相方が、自分の作ったトラップの不具合を直そうとして行方不明になってしまったのだ。
原因がどうあれ、責任を感じずにはいられなかったようだ。
「100%確実に作動する罠なんて誰にも作れませんよ。それに今イアンとショーンが迎えに行ってますから」
今回の戦いで重傷を負ったものは今の所誰も居ない。
ジェイコブが無事であれば被害はゼロという事になるが……
イアンとショーンが捜索に出てから大分時が経っていた。
「俺はこの村の生まれでなぁ、先祖代々この村の生活必需品なんかを作っていたんだが……こんな田舎だからか、俺が驚くようなモノを作れる職人なんか誰も居なかったんだよ」
普段は聞いた事の無い、ボルタの昔の話。
「そんな時だよ。鋳掛屋の娘の里帰りにあいつが一緒に付いて来たのは。いかにも都会に住んでいたような優男でなぁ、しかも娘が孕んで帰って来たもんだから村中大騒ぎだったな」
当時は本当に大変だったのだろう。
しかしそれも今では笑い話だ。
「当時からあいつの腕は確かだったんだ。村で必要になるのは今も昔も鍋の修理くらいだったんだが、あいつの修理した鍋は倍くらい長持ちしてなぁ。だから村に溶け込むのもあっと言う間だった」
「素材の知識に精通してないと、質の良い修理も出来ないですからね」
「そうなんだよなぁ。でも俺も当時は若かったし、村一番の職人っていう変なプライドがあったんだろうな。ある日、駄目出しするつもりで木工道具一式をあいつに発注してやったんだ」
木工作業をするには様々な金属製の道具が必須だ。
「まぁあいつの工房を見に行ったヒース殿ならわかると思うが、完成したその道具を使ってみたらよ、これがすごい業物でそりゃたまげたんだわ。普段俺が使っていた道具とは切れ味も耐久性も段違いでなぁ……」
ボルタはこちらを見てニッと笑って言った。
「……それまで使ってた道具はその時全部捨てちまったのさ」
「でもそれだけ認めてる割には、普段結構仲悪そうですが……」
俺は二人のやりとりから受ける素直な感想を述べた。
「あいつはよ、あれだけの腕と設備があるのに斧とか包丁くらいしか作らないんだよ。そりゃ村じゃ剣とか槍とかの需要が無いのはわかってるんだがよ……」
ボルタは少し寂しそうに呟いた。
「あいつはこんな村で小さく収まってるような職人じゃねぇんだよ……」
ボルタの話によると、ジェイコブとは今までその職人技術の話で何度か言い合いをした事があったらしい。
売れなくたっていいからここに武器工房を開けだとか、鋳掛けなら俺でも出来そうだからお前は廃業して大きな町で鍛冶屋を開けなど。
ボルタらしいと言えばそうなのだが、いくらなんでも無茶苦茶な話だ。
それでも口が悪く不器用な故の、彼なりの称賛方法だったのだろう。
ただ、互いの腕を認め合っている事は普段の会話から十分伝わって来た。
言い合っているように見えるのはあくまで表面的な部分である。
というのも、ジェイコブの話すボルタの印象も同じようなものだったからだ。
「だからよぉ。今回トリガーの部分だけとは言っても、あいつの生き生きした姿が久しぶりに見られてヒース殿には感謝してんだよ」
確かにジェイコブはクロスボウが完成した後も、試行錯誤を繰り返して他にも色々なものを制作していたようだ。
特にバネに関しては随分熱心に研究していた。
「……そうだヒース殿、あいつに剣を発注してやってくれないか?そうすればあいつの中で燻っている職人魂をもう一度呼び起こせるかも知れねぇ!」
俺にその代金を払えるだけの収入が無い事を告げようとしたところ、遠くの方から聞きなれた声で返事が返って来た。
「その注文は楽しそうだが……ちょーっと暫くは無理だな!」
ジェイコブだ。
彼はイアンに背負われており、ショーンも一緒だった。全員無事なようだ。
「ジェイコブ!……やっと戻ってきたか、この死に損ないめ!」
「いやー、本当に死ぬ寸前だったな……しかしボルタがいるって事は……ここは間違いなく天国じゃぁないな!」
「イアン、向こうにブリジットさんがいるので、そちらで手当てを!」
「ありがとうございます、ヒースさん」
日の入り直前の夕闇の中。
村の入り口近辺には既に篝火が焚かれ始めており、襲撃の余波を見越して交代で見張りが立てられた。
ボルタはイアンに背負われたジェイコブの背中を見えなくなるまで追っていた。
潤んだ彼の瞳には、篝火の炎がいつまでも揺らめいていた。
東からボルタが合流した。
「そうか……ジェイコブの野郎がトラップを作動させに……」
ボルタは目に見えて落ち込んでいた。
村一番の相方が、自分の作ったトラップの不具合を直そうとして行方不明になってしまったのだ。
原因がどうあれ、責任を感じずにはいられなかったようだ。
「100%確実に作動する罠なんて誰にも作れませんよ。それに今イアンとショーンが迎えに行ってますから」
今回の戦いで重傷を負ったものは今の所誰も居ない。
ジェイコブが無事であれば被害はゼロという事になるが……
イアンとショーンが捜索に出てから大分時が経っていた。
「俺はこの村の生まれでなぁ、先祖代々この村の生活必需品なんかを作っていたんだが……こんな田舎だからか、俺が驚くようなモノを作れる職人なんか誰も居なかったんだよ」
普段は聞いた事の無い、ボルタの昔の話。
「そんな時だよ。鋳掛屋の娘の里帰りにあいつが一緒に付いて来たのは。いかにも都会に住んでいたような優男でなぁ、しかも娘が孕んで帰って来たもんだから村中大騒ぎだったな」
当時は本当に大変だったのだろう。
しかしそれも今では笑い話だ。
「当時からあいつの腕は確かだったんだ。村で必要になるのは今も昔も鍋の修理くらいだったんだが、あいつの修理した鍋は倍くらい長持ちしてなぁ。だから村に溶け込むのもあっと言う間だった」
「素材の知識に精通してないと、質の良い修理も出来ないですからね」
「そうなんだよなぁ。でも俺も当時は若かったし、村一番の職人っていう変なプライドがあったんだろうな。ある日、駄目出しするつもりで木工道具一式をあいつに発注してやったんだ」
木工作業をするには様々な金属製の道具が必須だ。
「まぁあいつの工房を見に行ったヒース殿ならわかると思うが、完成したその道具を使ってみたらよ、これがすごい業物でそりゃたまげたんだわ。普段俺が使っていた道具とは切れ味も耐久性も段違いでなぁ……」
ボルタはこちらを見てニッと笑って言った。
「……それまで使ってた道具はその時全部捨てちまったのさ」
「でもそれだけ認めてる割には、普段結構仲悪そうですが……」
俺は二人のやりとりから受ける素直な感想を述べた。
「あいつはよ、あれだけの腕と設備があるのに斧とか包丁くらいしか作らないんだよ。そりゃ村じゃ剣とか槍とかの需要が無いのはわかってるんだがよ……」
ボルタは少し寂しそうに呟いた。
「あいつはこんな村で小さく収まってるような職人じゃねぇんだよ……」
ボルタの話によると、ジェイコブとは今までその職人技術の話で何度か言い合いをした事があったらしい。
売れなくたっていいからここに武器工房を開けだとか、鋳掛けなら俺でも出来そうだからお前は廃業して大きな町で鍛冶屋を開けなど。
ボルタらしいと言えばそうなのだが、いくらなんでも無茶苦茶な話だ。
それでも口が悪く不器用な故の、彼なりの称賛方法だったのだろう。
ただ、互いの腕を認め合っている事は普段の会話から十分伝わって来た。
言い合っているように見えるのはあくまで表面的な部分である。
というのも、ジェイコブの話すボルタの印象も同じようなものだったからだ。
「だからよぉ。今回トリガーの部分だけとは言っても、あいつの生き生きした姿が久しぶりに見られてヒース殿には感謝してんだよ」
確かにジェイコブはクロスボウが完成した後も、試行錯誤を繰り返して他にも色々なものを制作していたようだ。
特にバネに関しては随分熱心に研究していた。
「……そうだヒース殿、あいつに剣を発注してやってくれないか?そうすればあいつの中で燻っている職人魂をもう一度呼び起こせるかも知れねぇ!」
俺にその代金を払えるだけの収入が無い事を告げようとしたところ、遠くの方から聞きなれた声で返事が返って来た。
「その注文は楽しそうだが……ちょーっと暫くは無理だな!」
ジェイコブだ。
彼はイアンに背負われており、ショーンも一緒だった。全員無事なようだ。
「ジェイコブ!……やっと戻ってきたか、この死に損ないめ!」
「いやー、本当に死ぬ寸前だったな……しかしボルタがいるって事は……ここは間違いなく天国じゃぁないな!」
「イアン、向こうにブリジットさんがいるので、そちらで手当てを!」
「ありがとうございます、ヒースさん」
日の入り直前の夕闇の中。
村の入り口近辺には既に篝火が焚かれ始めており、襲撃の余波を見越して交代で見張りが立てられた。
ボルタはイアンに背負われたジェイコブの背中を見えなくなるまで追っていた。
潤んだ彼の瞳には、篝火の炎がいつまでも揺らめいていた。
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