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第二章
関所
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事前にベンから聞いた話によると、国境とは言ってもこの街道は主要道というわけではないので、衛兵は少ないそうだ。
国境を渡る時に気になっていたのが名前の件だ。
もし俺が追われているのなら、追手は俺の名も知っているだろう。
ベンに聞いた所、ヒースという名前は東側諸国ではかなりありふれている名前なようで、多分その名を名乗っても何も問題ないだろうとの事だった。
またそういった名前のお尋ね者も聞いたことが無いとの事だ。
まぁもし聞いたことがあるなら、そもそも馬車に乗せてくれなかったとは思うが。
逆に『コーヤ』という名前について聞いてみると、「それは名前ですか?」と聞き返されてしまった。
結局、今後もヒースのままで行く事になった。
見た目についても悩みの種で、一時は変装する事も考えていた。
しかし東側諸国のどこにも顔を隠す習慣は無いようだ。
逆に怪しまれるのでやめておいた。
ただ服装だけは当初から変わっている。
ベァナの父の服を借りてみると、それが丁度いいサイズだったのだ。
もう使われることも無いので自由に使っていいと言われ、お言葉に甘えて何着か持ってきていた。
「まぁ普通は名前を聞かれる事など、あまり無いとは思いますが」
トーラシア国境でのチェックはさほど厳しいものでは無いそうだ。
関所には数人くらいしか衛兵がおらず、通行人の人相を確認するくらいと言う話だったのだが……
実際に関所に来てみると様子が違っていた。
トーラシア側の兵士が数十人単位で常駐していたのだ。
行商人のベンが衛兵に訊ねる。
「あの、何かあったんでございますか?」
「ああ、どうやら北のメルドランで大きな事件が起こったらしくてな。フェンブル側からの要請で一部の関所の管理を全面委任されているんだ」
「事件と言いますと……」
「あまり大きな声では言えないのだが……第三王子のアーサー様が原因不明の病により急死されたようだ」
「それは……なんと……」
メルドランがますますきな臭い情勢になってきた。
「しかもその後、メルドラン軍の様子がどうにもおかしいようでな。フェンブルも有事に備えて軍の再編成を行っているそうだ。で、この関所は一時的にトーラシアに全権委任されているってわけさ」
フェンブル大公家とメルドラン王家は姻戚関係にある。
友好的だったはずなのだが、政変が起こった影響で北の守りを強化し始めている。
フェンブルの南に位置するここトーラシアは『連邦』という事もあり、国と言うよりは都市国家の集まりという体裁を成している。
そのため国境とは言ってもこの関所の管理は実質、近隣都市のダンケルドが行っている。ダンケルドの自警組織が前哨を兼ねて関所の管理を引き受けているのだ。
「まぁこの関所に兵隊が多いのはいざという時の為だからよ。あんたらはアラーニ村から来たわけだよな?」
「はい、そうでございます」
「んじゃ一応乗客の確認だけさせてくれ。おお、可愛いお姉ちゃんと……ん?」
関所の衛兵は俺を見て動きを止めた。
「あんたのその髪……出身はメルドランか、それともまさかグリアンか?」
やはり俺の見た目はこの辺りでは珍しいらしい。北で政変が起きているという話もあるし、メルドラン出身だと通行チェックが厳しいのだろうか?
俺は旅の途中、ベンと相談して決めておいたセリフで応対する。
「ええ。メルドラン出身です。行商人の護衛などをして旅していますが、北のほうは物騒なので、穏やかなトーラシアで仕事を探そうかと」
「だよなぁ。それが利口ってもんさ! しかしどうしちまったんだろうなぁ、メルドランは……」
衛兵は馬車内の荷物を軽く検めただけで、関所を通してくれた。
俺たちの荷馬車はそのまま、関所近くの開けた場所に停留するようだ。
「ベンさん、グリアンというのは西の大陸にあるという国の事ですか?」
「ええ、そうです。グリアン人というのは黒い髪と瞳が特徴なのですが、様々な逸話が伝わっているので、各地で珍しがられるんですよね」
「それは……悪い噂ですか?」
自分のルーツかも知れない話だ。当然気にはなる。
「そういう人もいますし、そうでない人もいます。例えば有名な所だとグリアン王国の民の殆どが魔法を全く使えないはずなのに、稀にとても強大な魔法の使い手が生まれるとか」
「なるほど……確かに良いのか悪いのか良くわからないですね」
「そうなのです。だから呪われた民族だとか、神に祝福された民族とか、学者によって言ってる内容もバラバラなんですよ。他にも神々の戦いで勲功を上げた英雄の末裔だという話も……」
「もはや迷信としか思えない話です」
ベンは声を上げて笑った。
「そうですねぇ。でも一番良く聞く話は、グリアン人はどこに行ってもモテるって話でしょうか。ヒースさん格好いいですもんね。ベァナさんもそう思いませんか?」
人間、誰しも人生に三度はモテ期がやって来るという話がある。
そしてもし勘違いで無ければ、俺にとってのその第一期がこの異世界でやって来ているのではないかという、ちょっと期待をしていたのだ。
俺は恐る恐るベァナの様子を窺った。
彼女は笑顔で受け答えをした。
「まぁ人の好みは人それぞれですし、他の人の事は良く分かりませんね。それよりも、そろそろ夕食の準備を始めないと遅くなっちゃいますよ?」
確かにその通りだ。こういうのはあくまで主観の問題だ。
結局ベァナがどう思っているのは聞けなかったが、彼女が俺をどう思っていようが俺にとって大事な人であるのは変わりない。
とにかく調子に乗る事だけは避けるべしと、自分を戒める事にした。
「それじゃ調理は私がしますので、お二人は場所の確保をお願いいたします」
ベンはそう言って馬の世話をしに行った。
馬車の旅もまだ二日目だが、食事時の準備にも結構慣れてきた。
調理については、基本的には全てベンに任せている。
何しろ行商人の彼は旅の最中、街中でなければ毎度煮炊きをして来たのだ。
年季が違う。
俺はそんな彼の華麗な手際を、毎回具に観察していた。
「ヒースさん、野外活動に関係する事だと本当に真剣になりますよね」
ベンの一挙一動を観察していた俺を、更にベァナが観察している。
「そうかなぁ? なんでも真剣にやっているつもりなんだけど」
「武器や魔法の訓練をしている時より、今のほうが真剣な顔つきでしたよ!」
その話を聞いてベンが愉快そうに笑っている。
「自分にはこういう事しか出来ませんからね……さぁそろそろ食事も出来てきましたので、どうぞお召し上がりください」
村の野菜や肉を使った料理は格別だ。
またアラーニではあまり入手できない香辛料を使っているおかげか、ベンの作る料理は毎日飽きる事なく、違った味わいを楽しめていた。
俺たちがアラーニ村での出来事……ほぼボルタとジェイコブの話題ではあったが……談笑しながら食事をしていると、少し離れた場所に停留している別の行商人がこちらにやってきた。
ベンよりも若い行商人で、家族での行商らしい。
彼のキャンプからは子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
「こんばんは、突然申し訳ございません。あのもし余裕があったらで良いのですが、明かり用の油を少しお売りいただけないでしょうか」
「あ、もしかしてダンケルドからお越しですか?」
同じ商人同士という事でベンが対応する。
「ええ、そうなのです。多分ご存じかとは思うのですが、オリーブ産地のトレバーが渇水に見舞われたせいで住人が町を離れてしまい、その影響で植物油の流通に影響が出ているのです。」
やはり行商人の間ではその話題が一番ホットらしい。
「そうですか、それはお困りですよね。私は大丈夫なのですが……ヒースさん、少しお譲りしても良いですかね?」
「そうですね。うちは見ての通りウィスプを使っていて、あまり油を使わずに済みますので大丈夫です」
既に暗くなっているのでウィスプを出していたが、この魔法は術者からせいぜい1mくらいの距離までしか距離を置けない。フローティングウィスプなら動かせるが、それだと一個しか出せないので自分を照らせなくなってしまう。
「わかりました。我々も多くは持っておりませんが、油瓶を数本お譲りしましょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ベンは積み荷から小瓶を五本ほど持ってきて、値段交渉を始めた。
どうやらついでに様々な品の相場情報なんかも仕入れているようだ。
さすがは商人と言うべきか。
交渉がまとまると相手の商人は代金を取りに一度キャンプに戻り、代金と一緒に瓶に入った保存食のようなものを一緒に渡してきた。
「無理なお願いを聞いてくれたお礼と言ってはなんですが、これダンケルドで有名なお店のチーズ製品なんです。是非召し上がってみてください」
「わぁ、いいんですか? ありがとうございます!」
今まで静かにしていたベァナの目が輝いている。
健康な女子は時代や地域に関係なく、おいしいものに目が無いんだと思う。
どうやらチーズのオリーブオイル漬け、という食べ物らしい。
かく言う俺も興味深々なので、少しいただく事にした。
「なにこれ!? とても濃厚でおいしい! しかもこれ、何種類かハーブが入ってますね。バジルと……オレガノかしら。」
一足先に試食したベァナが喜びの声を上げる。
「おお。お口に合ったようで良かったです。昔からずっとある名物で、遠くから買いに来る人もいる人気商品なんですよね」
「なんていう方のお店ですか!?」
そう言えばアラーニにはお店という感じのものは無かったな。
こちらの世界では店名とかは付けないのだろうか。
「町の北門から入ってすぐ右手にある、アーネストさんという方のお店なのですが、オリーブオイル不足なので……まだ在庫があるのかはわからないです」
「ありがとうございます! とにかくダンケルドに着いたら絶対に行きましょうね、ヒースさん!」
「あいよ」
ベァナは元々、俺が一人で村の外に出る事を心配してついて来てくれたのだ。
そんな彼女にも楽しみが増えたのなら、それは俺にとっても喜ばしい事だ。
町に着いたら忘れずに寄るとしよう。
国境を渡る時に気になっていたのが名前の件だ。
もし俺が追われているのなら、追手は俺の名も知っているだろう。
ベンに聞いた所、ヒースという名前は東側諸国ではかなりありふれている名前なようで、多分その名を名乗っても何も問題ないだろうとの事だった。
またそういった名前のお尋ね者も聞いたことが無いとの事だ。
まぁもし聞いたことがあるなら、そもそも馬車に乗せてくれなかったとは思うが。
逆に『コーヤ』という名前について聞いてみると、「それは名前ですか?」と聞き返されてしまった。
結局、今後もヒースのままで行く事になった。
見た目についても悩みの種で、一時は変装する事も考えていた。
しかし東側諸国のどこにも顔を隠す習慣は無いようだ。
逆に怪しまれるのでやめておいた。
ただ服装だけは当初から変わっている。
ベァナの父の服を借りてみると、それが丁度いいサイズだったのだ。
もう使われることも無いので自由に使っていいと言われ、お言葉に甘えて何着か持ってきていた。
「まぁ普通は名前を聞かれる事など、あまり無いとは思いますが」
トーラシア国境でのチェックはさほど厳しいものでは無いそうだ。
関所には数人くらいしか衛兵がおらず、通行人の人相を確認するくらいと言う話だったのだが……
実際に関所に来てみると様子が違っていた。
トーラシア側の兵士が数十人単位で常駐していたのだ。
行商人のベンが衛兵に訊ねる。
「あの、何かあったんでございますか?」
「ああ、どうやら北のメルドランで大きな事件が起こったらしくてな。フェンブル側からの要請で一部の関所の管理を全面委任されているんだ」
「事件と言いますと……」
「あまり大きな声では言えないのだが……第三王子のアーサー様が原因不明の病により急死されたようだ」
「それは……なんと……」
メルドランがますますきな臭い情勢になってきた。
「しかもその後、メルドラン軍の様子がどうにもおかしいようでな。フェンブルも有事に備えて軍の再編成を行っているそうだ。で、この関所は一時的にトーラシアに全権委任されているってわけさ」
フェンブル大公家とメルドラン王家は姻戚関係にある。
友好的だったはずなのだが、政変が起こった影響で北の守りを強化し始めている。
フェンブルの南に位置するここトーラシアは『連邦』という事もあり、国と言うよりは都市国家の集まりという体裁を成している。
そのため国境とは言ってもこの関所の管理は実質、近隣都市のダンケルドが行っている。ダンケルドの自警組織が前哨を兼ねて関所の管理を引き受けているのだ。
「まぁこの関所に兵隊が多いのはいざという時の為だからよ。あんたらはアラーニ村から来たわけだよな?」
「はい、そうでございます」
「んじゃ一応乗客の確認だけさせてくれ。おお、可愛いお姉ちゃんと……ん?」
関所の衛兵は俺を見て動きを止めた。
「あんたのその髪……出身はメルドランか、それともまさかグリアンか?」
やはり俺の見た目はこの辺りでは珍しいらしい。北で政変が起きているという話もあるし、メルドラン出身だと通行チェックが厳しいのだろうか?
俺は旅の途中、ベンと相談して決めておいたセリフで応対する。
「ええ。メルドラン出身です。行商人の護衛などをして旅していますが、北のほうは物騒なので、穏やかなトーラシアで仕事を探そうかと」
「だよなぁ。それが利口ってもんさ! しかしどうしちまったんだろうなぁ、メルドランは……」
衛兵は馬車内の荷物を軽く検めただけで、関所を通してくれた。
俺たちの荷馬車はそのまま、関所近くの開けた場所に停留するようだ。
「ベンさん、グリアンというのは西の大陸にあるという国の事ですか?」
「ええ、そうです。グリアン人というのは黒い髪と瞳が特徴なのですが、様々な逸話が伝わっているので、各地で珍しがられるんですよね」
「それは……悪い噂ですか?」
自分のルーツかも知れない話だ。当然気にはなる。
「そういう人もいますし、そうでない人もいます。例えば有名な所だとグリアン王国の民の殆どが魔法を全く使えないはずなのに、稀にとても強大な魔法の使い手が生まれるとか」
「なるほど……確かに良いのか悪いのか良くわからないですね」
「そうなのです。だから呪われた民族だとか、神に祝福された民族とか、学者によって言ってる内容もバラバラなんですよ。他にも神々の戦いで勲功を上げた英雄の末裔だという話も……」
「もはや迷信としか思えない話です」
ベンは声を上げて笑った。
「そうですねぇ。でも一番良く聞く話は、グリアン人はどこに行ってもモテるって話でしょうか。ヒースさん格好いいですもんね。ベァナさんもそう思いませんか?」
人間、誰しも人生に三度はモテ期がやって来るという話がある。
そしてもし勘違いで無ければ、俺にとってのその第一期がこの異世界でやって来ているのではないかという、ちょっと期待をしていたのだ。
俺は恐る恐るベァナの様子を窺った。
彼女は笑顔で受け答えをした。
「まぁ人の好みは人それぞれですし、他の人の事は良く分かりませんね。それよりも、そろそろ夕食の準備を始めないと遅くなっちゃいますよ?」
確かにその通りだ。こういうのはあくまで主観の問題だ。
結局ベァナがどう思っているのは聞けなかったが、彼女が俺をどう思っていようが俺にとって大事な人であるのは変わりない。
とにかく調子に乗る事だけは避けるべしと、自分を戒める事にした。
「それじゃ調理は私がしますので、お二人は場所の確保をお願いいたします」
ベンはそう言って馬の世話をしに行った。
馬車の旅もまだ二日目だが、食事時の準備にも結構慣れてきた。
調理については、基本的には全てベンに任せている。
何しろ行商人の彼は旅の最中、街中でなければ毎度煮炊きをして来たのだ。
年季が違う。
俺はそんな彼の華麗な手際を、毎回具に観察していた。
「ヒースさん、野外活動に関係する事だと本当に真剣になりますよね」
ベンの一挙一動を観察していた俺を、更にベァナが観察している。
「そうかなぁ? なんでも真剣にやっているつもりなんだけど」
「武器や魔法の訓練をしている時より、今のほうが真剣な顔つきでしたよ!」
その話を聞いてベンが愉快そうに笑っている。
「自分にはこういう事しか出来ませんからね……さぁそろそろ食事も出来てきましたので、どうぞお召し上がりください」
村の野菜や肉を使った料理は格別だ。
またアラーニではあまり入手できない香辛料を使っているおかげか、ベンの作る料理は毎日飽きる事なく、違った味わいを楽しめていた。
俺たちがアラーニ村での出来事……ほぼボルタとジェイコブの話題ではあったが……談笑しながら食事をしていると、少し離れた場所に停留している別の行商人がこちらにやってきた。
ベンよりも若い行商人で、家族での行商らしい。
彼のキャンプからは子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
「こんばんは、突然申し訳ございません。あのもし余裕があったらで良いのですが、明かり用の油を少しお売りいただけないでしょうか」
「あ、もしかしてダンケルドからお越しですか?」
同じ商人同士という事でベンが対応する。
「ええ、そうなのです。多分ご存じかとは思うのですが、オリーブ産地のトレバーが渇水に見舞われたせいで住人が町を離れてしまい、その影響で植物油の流通に影響が出ているのです。」
やはり行商人の間ではその話題が一番ホットらしい。
「そうですか、それはお困りですよね。私は大丈夫なのですが……ヒースさん、少しお譲りしても良いですかね?」
「そうですね。うちは見ての通りウィスプを使っていて、あまり油を使わずに済みますので大丈夫です」
既に暗くなっているのでウィスプを出していたが、この魔法は術者からせいぜい1mくらいの距離までしか距離を置けない。フローティングウィスプなら動かせるが、それだと一個しか出せないので自分を照らせなくなってしまう。
「わかりました。我々も多くは持っておりませんが、油瓶を数本お譲りしましょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ベンは積み荷から小瓶を五本ほど持ってきて、値段交渉を始めた。
どうやらついでに様々な品の相場情報なんかも仕入れているようだ。
さすがは商人と言うべきか。
交渉がまとまると相手の商人は代金を取りに一度キャンプに戻り、代金と一緒に瓶に入った保存食のようなものを一緒に渡してきた。
「無理なお願いを聞いてくれたお礼と言ってはなんですが、これダンケルドで有名なお店のチーズ製品なんです。是非召し上がってみてください」
「わぁ、いいんですか? ありがとうございます!」
今まで静かにしていたベァナの目が輝いている。
健康な女子は時代や地域に関係なく、おいしいものに目が無いんだと思う。
どうやらチーズのオリーブオイル漬け、という食べ物らしい。
かく言う俺も興味深々なので、少しいただく事にした。
「なにこれ!? とても濃厚でおいしい! しかもこれ、何種類かハーブが入ってますね。バジルと……オレガノかしら。」
一足先に試食したベァナが喜びの声を上げる。
「おお。お口に合ったようで良かったです。昔からずっとある名物で、遠くから買いに来る人もいる人気商品なんですよね」
「なんていう方のお店ですか!?」
そう言えばアラーニにはお店という感じのものは無かったな。
こちらの世界では店名とかは付けないのだろうか。
「町の北門から入ってすぐ右手にある、アーネストさんという方のお店なのですが、オリーブオイル不足なので……まだ在庫があるのかはわからないです」
「ありがとうございます! とにかくダンケルドに着いたら絶対に行きましょうね、ヒースさん!」
「あいよ」
ベァナは元々、俺が一人で村の外に出る事を心配してついて来てくれたのだ。
そんな彼女にも楽しみが増えたのなら、それは俺にとっても喜ばしい事だ。
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