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第一章
目覚め。そして再び真の眠りへ
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人は眠っている間に記憶の整理を行っているというが、整理どころか様々な記憶が錯綜し、俺は一種のパニック状態になっていた。
キャンプに場に建てたテントの中が2DKだったり、その中で調理実習をしている同じクラスの女子が見たことも無い騎士だったり、またそんな状況なのに何の違和感も感じない自分が居たりと、多分自分の見た夢を憶えている人にとっては良くある光景だと思われるものだった。
しかもその展開のスピードが尋常でなく、感覚的には1時間くらいしか経っていないはずなのに、そこでは大作映画10本分くらいのエピソードが展開されていた。
もちろんそれらのエピソードに一貫性など、無い。
それでも物語の終盤になってくると目覚めが近いせいもあってか、次第にまともな話になっていく。
ただし話の内容はシリアスで、俺好みの話は皆無だった。
奴隷として連れていかれる獣人。
重い税を課せられ苦しみに耐えながら生活する村人。
渇水でゴーストタウンになった町など。
過酷な世界が次々と写し出されては、消えて行った。
あまりの辛さに息が苦しくなりハッと息を吸った瞬間……
俺は眠りから目覚めた。
眼前に広がる暗闇。
そしてそこにあったのは──
一面に広がる星空。
俺の記憶ではまだ昼過ぎくらいの時間に土手で……
「シロっ!」
蜘蛛の巣のかかったような寝起きの記憶を振り払い、俺は左手で抱えているはずの大事な相棒に首を向けた。
だがそこには相棒はおらず、乾いた地面が見えただけだ。
(ん、地面!?)
俺は土手に生えた草の上に寝転がっていたはずだが……
目が覚めた瞬間からおかしな部分は沢山あったのだが、一番感じたのは今まで経験した事のないくらい体が重いことだった。
体を自由に動かせないのだ。
なんとか体を起こして目の前を見ると、そこには焚火の炎があった。
俺は混乱する頭をなんとか鎮めながら、周囲を冷静に観察する。
辺りに人は居ないらしい。
それでは誰がこの焚火を?
焚火をよく観察してみると、くべられた木の表面がすべて炭化している。
ある程度時間が経っているようだ。
周りに誰も居ないという事もあり気持ちも大分落ち着いて来たので、自分の持ち物を確認しようとした所……
「着ていた服が違っている。しかもこれは……」
俺はあまりファッションへのこだわりが無いので、服もそれほど持っていない。だから一見して明らかに自分の服ではないとわかるのだが、不思議な事になぜか違和感は感じなかった。
夢の続きでも見ているのだろうか?
俺は焚火に向かってゆっくりと手を近づけた。
(これは……間違いなく火傷するな)
焚火の炎の熱さは本物だ。
夢の中でも暑さ寒さを感じる事は良くあるが、このように火傷をしそうな程の熱さを感じる事はあり得ない。
あと先程から気になっているのだが、自分の顔の下のほうに何か付いている。
目線を下に向けると、どうやら口の周りに無精髭が生えているようなのだ。
数時間でこれだけの髭が生える事も絶対にない。
俺は今までこういった状況になった時、あまり取り乱した事がない。
もしかするとこれが正常性バイアスというものなのかも知れないが、心理学までは詳しく勉強していないので詳しい事は不明だ。実際の所どうなんだろう。
もちろん心の中で驚きはしているが、いつも客観的に物事を見ていて、その後どうしたら良いのかという思考に意識が持っていかれるのだ。
「うーん……これは十中八九、寝る前の俺の体ではないな」
鏡が無いので顔の詳細までは確認は出来ないが、俺は自分の手を見て確信した。
まず手の大きさが少しだけ大きいようだ。
いつも見ているからすぐわかる。
更に手のひらを見てみると、各指の付け根にマメが出来ている。
これは野球でバットを振ったり、鉄棒競技を行った時に出来るようなものだ。
そう思って自分が寝ていた頭の辺りを見廻すと、そこには一人分らしい荷物と外套、弓と矢筒、そして一本の剣が立てかけられてあった。
一人分という事からして、この荷物の持ち主はきっと俺なのだろう。
考えるべき事は沢山あったが、感覚がこの体の体力的な限界を告げていた。
眠りから目覚めたばかりのはずなのに、半端無い疲労感が襲ってきていたのだ。
俺の意識がこの体に宿る前、彼はきっと過酷な状況に置かれていたに違いない。
考える事は横になっていても出来るので、俺は再び体を横たえて思案に耽ることにした。
もちろん危険な状況には違い無いのだが、今のこの体の状態では10mも走る事は出来ないだろう。
異常な速さの時間経過。
見たことのない土地。
相棒の消失。
鍛えられた肉体。
そして夢ではありえない、はっきりとした五感。
俺の中では既に答えが出ていた。
ただその答えが事実だったとして、今の俺に出来る対応策は何もない。
もしあるとするならば、真の危機に陥った時のために、この肉体を自由に動かせるようにする事だ。
今はこの体をゆっくり休めよう。
◆ ◇ ◇
<服>
服の起源は諸説あるが、最も古い説によるとその起源はなんと10万年以上前まで遡るという。この頃の「服」は動物の皮を体に巻くといったような原始的なものだったが、動物の皮に生息するシラミの遺伝子解析と人類発祥の研究により、その年代が導き出されたのだ。
服と呼べるものが歴史上確実に登場するのは紀元前2万年以上前の事で、先史時代の遺跡から針孔のある骨製の針が出土している。様々な遺跡の発見物から動物の毛皮を縫い合わせる目的で利用されていた事が推測されている。1964年、ロシアのスンギルでは約2万年前に服を着たまま埋葬された男性が発掘されているが、そのいでたちは皮で作られた帽子・シャツ・ズボン・靴といった現代と全く変わらない組み合わせのものであった。
布の登場はかなり後になってからで、確実なものとしては紀元前6500年前のユダヤ荒地で亜麻布の断片が発見されている。綿は紀元前5000年頃にインダス平原で、絹は紀元前3000年以上前の古代中国でそれぞれ見つかっているが、実際の起源は更に遡る可能性が高い。
キャンプに場に建てたテントの中が2DKだったり、その中で調理実習をしている同じクラスの女子が見たことも無い騎士だったり、またそんな状況なのに何の違和感も感じない自分が居たりと、多分自分の見た夢を憶えている人にとっては良くある光景だと思われるものだった。
しかもその展開のスピードが尋常でなく、感覚的には1時間くらいしか経っていないはずなのに、そこでは大作映画10本分くらいのエピソードが展開されていた。
もちろんそれらのエピソードに一貫性など、無い。
それでも物語の終盤になってくると目覚めが近いせいもあってか、次第にまともな話になっていく。
ただし話の内容はシリアスで、俺好みの話は皆無だった。
奴隷として連れていかれる獣人。
重い税を課せられ苦しみに耐えながら生活する村人。
渇水でゴーストタウンになった町など。
過酷な世界が次々と写し出されては、消えて行った。
あまりの辛さに息が苦しくなりハッと息を吸った瞬間……
俺は眠りから目覚めた。
眼前に広がる暗闇。
そしてそこにあったのは──
一面に広がる星空。
俺の記憶ではまだ昼過ぎくらいの時間に土手で……
「シロっ!」
蜘蛛の巣のかかったような寝起きの記憶を振り払い、俺は左手で抱えているはずの大事な相棒に首を向けた。
だがそこには相棒はおらず、乾いた地面が見えただけだ。
(ん、地面!?)
俺は土手に生えた草の上に寝転がっていたはずだが……
目が覚めた瞬間からおかしな部分は沢山あったのだが、一番感じたのは今まで経験した事のないくらい体が重いことだった。
体を自由に動かせないのだ。
なんとか体を起こして目の前を見ると、そこには焚火の炎があった。
俺は混乱する頭をなんとか鎮めながら、周囲を冷静に観察する。
辺りに人は居ないらしい。
それでは誰がこの焚火を?
焚火をよく観察してみると、くべられた木の表面がすべて炭化している。
ある程度時間が経っているようだ。
周りに誰も居ないという事もあり気持ちも大分落ち着いて来たので、自分の持ち物を確認しようとした所……
「着ていた服が違っている。しかもこれは……」
俺はあまりファッションへのこだわりが無いので、服もそれほど持っていない。だから一見して明らかに自分の服ではないとわかるのだが、不思議な事になぜか違和感は感じなかった。
夢の続きでも見ているのだろうか?
俺は焚火に向かってゆっくりと手を近づけた。
(これは……間違いなく火傷するな)
焚火の炎の熱さは本物だ。
夢の中でも暑さ寒さを感じる事は良くあるが、このように火傷をしそうな程の熱さを感じる事はあり得ない。
あと先程から気になっているのだが、自分の顔の下のほうに何か付いている。
目線を下に向けると、どうやら口の周りに無精髭が生えているようなのだ。
数時間でこれだけの髭が生える事も絶対にない。
俺は今までこういった状況になった時、あまり取り乱した事がない。
もしかするとこれが正常性バイアスというものなのかも知れないが、心理学までは詳しく勉強していないので詳しい事は不明だ。実際の所どうなんだろう。
もちろん心の中で驚きはしているが、いつも客観的に物事を見ていて、その後どうしたら良いのかという思考に意識が持っていかれるのだ。
「うーん……これは十中八九、寝る前の俺の体ではないな」
鏡が無いので顔の詳細までは確認は出来ないが、俺は自分の手を見て確信した。
まず手の大きさが少しだけ大きいようだ。
いつも見ているからすぐわかる。
更に手のひらを見てみると、各指の付け根にマメが出来ている。
これは野球でバットを振ったり、鉄棒競技を行った時に出来るようなものだ。
そう思って自分が寝ていた頭の辺りを見廻すと、そこには一人分らしい荷物と外套、弓と矢筒、そして一本の剣が立てかけられてあった。
一人分という事からして、この荷物の持ち主はきっと俺なのだろう。
考えるべき事は沢山あったが、感覚がこの体の体力的な限界を告げていた。
眠りから目覚めたばかりのはずなのに、半端無い疲労感が襲ってきていたのだ。
俺の意識がこの体に宿る前、彼はきっと過酷な状況に置かれていたに違いない。
考える事は横になっていても出来るので、俺は再び体を横たえて思案に耽ることにした。
もちろん危険な状況には違い無いのだが、今のこの体の状態では10mも走る事は出来ないだろう。
異常な速さの時間経過。
見たことのない土地。
相棒の消失。
鍛えられた肉体。
そして夢ではありえない、はっきりとした五感。
俺の中では既に答えが出ていた。
ただその答えが事実だったとして、今の俺に出来る対応策は何もない。
もしあるとするならば、真の危機に陥った時のために、この肉体を自由に動かせるようにする事だ。
今はこの体をゆっくり休めよう。
◆ ◇ ◇
<服>
服の起源は諸説あるが、最も古い説によるとその起源はなんと10万年以上前まで遡るという。この頃の「服」は動物の皮を体に巻くといったような原始的なものだったが、動物の皮に生息するシラミの遺伝子解析と人類発祥の研究により、その年代が導き出されたのだ。
服と呼べるものが歴史上確実に登場するのは紀元前2万年以上前の事で、先史時代の遺跡から針孔のある骨製の針が出土している。様々な遺跡の発見物から動物の毛皮を縫い合わせる目的で利用されていた事が推測されている。1964年、ロシアのスンギルでは約2万年前に服を着たまま埋葬された男性が発掘されているが、そのいでたちは皮で作られた帽子・シャツ・ズボン・靴といった現代と全く変わらない組み合わせのものであった。
布の登場はかなり後になってからで、確実なものとしては紀元前6500年前のユダヤ荒地で亜麻布の断片が発見されている。綿は紀元前5000年頃にインダス平原で、絹は紀元前3000年以上前の古代中国でそれぞれ見つかっているが、実際の起源は更に遡る可能性が高い。
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