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わたしとあなたが繋がる方法
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「琴乃は放課後、用事ないよね?」
ラインを交換しないかと誘われた翌日。放課後、人目に付かない場所でこっそりするのがセオリーなのだと教えられたため彼女を誘う。
琴乃はうなずき、二人で昨日同様会話のほとんどない状態で歩き始める。
わたしはその状況だからこそ、昨日のことを反芻していた。
今まで、あれほど不要だと思ってほとんど利用してこなかったスマートフォン。通信料を払ってもらっているのに一切使わないのもどうだろうと思っていたが、それほど使いたいという気持ちにならなかった。
しかし、ラインの交換を誘われ、流れで肯定してしまったのだ。ここまで来たら腹をくくるしかないだろう。
わたしはカバーも何もつけていないそのままのスマホを手に取り、AppStoreを開いてラインをインストールする。
人生二度目のアカウント作成。震える指で作り終えると大きく息を吐く。手汗をびっしりとかいていることに軽い恐怖を感じた。
でも、これはやり直したのだから。今のわたしは星野丘学園高等部の雨宮紫苑。学年唯一の転校生。今までのわたしとは、違うのだから。
そう決意を固めてラインを入れたのだ。だから、きっと大丈夫。そう言い聞かせてスマホの電源を落とし、鞄の奥底にしまったのだった。
そんなことを思い出していたら教室から昇降口までの道のりなんて気付いたら歩き終えていた。
靴を履き替え、校外に出るタイミングで彼女は足を止め、ポケットに手を入れる。恐らく携帯を取り出そうとしているのだろう。
そんな彼女の手首を引き、一緒に校門をくぐる。
わたしは自転車のはずなのにと言いたげにぽかんとした彼女の表情を見て、下校方法を伝えていないということに気付いた。
「今日は歩きで来たの。だから途中までは同じ道なんだ~。」
「えっと、そうなの?じゃあ、途中まで一緒に帰ろうか。」
しれっとした顔で返すわたしに、やや驚いたような表情を見せたがまばたきをした後にはいつもの余裕のありそうな表情に変わっているのだから驚きだ。
すぐに自分の意志で歩き始め、わたしは掴んでいた手首を放した。
そしてまたお互い無言の空間に戻る。知らない人から見たら他人同士だとか行きずりの人だとかにしか見えない距離感。でもそれがどこか心地よさのようなものを感じてしまって。
転校して間もなくて分からないことが多い中で助けてもらったことに対しての感情もあるし、友達になってもらえないかという希望もある。それ以上に、彼女の素の笑顔をもっと見たい、もっと思うがままに感情を出したらどうなるのだろうかという好奇心が先行しているのだった。
だから、お互いに無言でも、それがいつか雰囲気が重くなることがあってもまたあの表情を見たいなと。そう思ったのだ。
隣を歩く琴乃の横顔を見ながら歩いていると、気付けば我が家に続く道への分岐点に差し掛かっていた。
わたしがそこで足を止めると、数秒後に琴乃も立ち止まる。
「じゃあ、わたしはこっちだから。…と、いうことで。ライン、交換しようか。」
と言いながらわたしは鞄の底に押し込めた携帯を取り出した。
裸のまま取り出されたわたしの携帯電話に琴乃は表情こそ大きく変えなかったものの、息を呑んで驚いている。
買い与えられてからほとんど使っていない携帯だし、通信料も勿体ないと言っているわたしがカバーを買うお金を出すわけが無い、という話だ。
そんなことを一々説明するのも時間の無駄だと思ったわたしはスマホを操作して自分のQRコードを表示させて彼女の方へ示した。
「これ、わたしのラインのQRコード!」
半ば戸惑いながらも琴乃はわたしのスマホに表示されるQRコードを読み込んだ。
「読み込み完了!よろしくね~~。あとで時間割は送っておくね。他にも、何か聞きたいこととかがあったら聞いてくれて大丈夫だからね。」
という彼女にわたしはラインを起動させ、文章を打ち込んだ。久しぶりのフリック入力。おぼつかない手つきで、一文字一文字打ち込んでいく。
初期のままの予測変換にやや戸惑いながら文章を完成させて、送信。
「ありがとう~!頼りにしてるね!じゃあまた明日~!」
わたしは琴乃に手を振り、そのまま曲がり角を曲がって我が家に続く細い路地へと進んだ。
琴乃から見えなくなった辺りまで歩いたところで足を止め、携帯の画面を眺めた。
『ここ三日、色々と助けてくれてありがとう。きっとこれからも沢山頼ることになると思うけど、良ければ助けてくれるといいな~!』
他の人の連絡先が一切登録されていなく、琴乃の連絡先しか登録されていない半ば専用のようになっているライン。
着せ替えなどを一切使われていない初期のままの背景には、先程わたしが送ったメッセージのみが表示されている。
そのメッセージには既に既読が付いていた。見るのが速い。
元の位置に戻すのも面倒くさくなったわたしはスマホをポケットに入れて歩き出そうとした途端にスマホが振動してラインが来たことを知らせる。
仕舞ったばかりの携帯を再度取り出し、ラインを起動させると琴乃からの返信が来ていた。
『ライン交換してくれてありがとう。慣れない環境、頼りにならない学校側のシステムで色々と大変だろうけど、一緒に楽しい学校生活が送れるように最大限サポートするつもりだからこれからもどんどん頼ってね~!』
返ってきた文章がとても琴乃のものとは思えず数秒固まる。クラスの女王様の元でへこへこ頑張っている彼女が作った文章として、これは演技の内なのかそれとも素なのか。おそらく前者だろう。
そんな面白みのない考えをしていても何にもならないだろう。
琴乃からの返信がじわじわと嬉しくなってきたわたしは、口角が緩むのが抑えきれない。
何となくそのトーク画面をスクショし、今度こそスマホを閉じてポケットにしまう。
帰宅し、私服に着替えてすぐに勉強机に向かった。一刻も早く勉強面で周囲に追いつかなければなるまい。
帰宅してから約四時間ほどぶっ続けで勉強して七時ごろ。母に夕食だと言われてダイニングに向かう。
今日学校であったこと─といっても大したことではないが、それを母に話しながら食事をする。
いつからか食事中テレビを付けなくなっていた。小さなころはテレビを見ながら父と母とわたしで談笑しながら夕食を食べるのが楽しみだった。
しかし今は父もいなくなりテレビも付けなくなり。急に静かになった夕食の場はとても空気が冷えていて、どこか居心地が悪い。
わたしは茶碗に残った数粒の米を箸で取りながら、母親の話に頷く。
お互いに空気の重さを払しょくしようと沢山話すため、そのせいでより物悲しい空気感になってしまう。ここ何年かのこの時間が本当に辛くて、重くて。そしてその原因がわたしに全てあるということが何よりも心に重く沈んだ。
その後そそくさと夕食を終え、勉強をするからと言って自室に戻ってくるとそのタイミングでちょうど携帯が鳴る。
携帯を開いて通知を確認する、だなんていう習慣がないため部屋に入るのがあと五秒遅ければ明日の朝まで今の携帯の通知には気づかなかっただろう、だなんて意味のないことを考えた。
携帯を開くと琴乃からのメッセージ。ラインを開くと放課後言っていた時間割の写真が添付されていた。
既読を付けてしまってから考えることではないが、既読の速さに惹かれていないだろうか。
もう時すでに遅しだなとすぐに割り切ってわたしはお礼の返信を打ち込んだ。
『丁寧にありがとう!明日から荷物軽くなりそうで助かる~~!』
返信を打ち込み、送信しようと紙飛行機ボタンに指を掛ける。逡巡の迷いと指の震え。それをぐっと堪えて返信した。
すると三秒も経たないうちに既読が付き、十秒ほどで返信が返ってきた。
『夜遅くになってしまって申し訳ない~~!でも喜んでもらえてよかった 毎日全教科持ってくるの大変だもんね!』
という返しにどう返信するのがベストなのかと文章を打っては消してを繰り返していると琴乃がおやすみと書かれたスタンプを送ってきた。
琴乃が助け舟を出してくれたように勝手に感じたわたしは、返すスタンプも持っていなかったためテキストで『おやすみ』と返信してそのままスマホを閉じた。
久しぶりのスマホの利用に悪い汗をかいている部分はややあるが、昔ほど強い拒絶反応は見せていない。少しずつ傷が癒えているのか、琴乃を信頼し始めているのか。
どちらが正解なのかは分からなかったが、それでも。
スマホを再度使い始めることのきっかけになったのは確かだった。
今は勉強面で追いつくことに必死にならなくてはいけないだろうが、それがひと段落すれば交友関係を広げる一つのツールとして、なら良いのかもしれない──とひと心地ついてベッドに倒れ込むのだった。
ラインを交換しないかと誘われた翌日。放課後、人目に付かない場所でこっそりするのがセオリーなのだと教えられたため彼女を誘う。
琴乃はうなずき、二人で昨日同様会話のほとんどない状態で歩き始める。
わたしはその状況だからこそ、昨日のことを反芻していた。
今まで、あれほど不要だと思ってほとんど利用してこなかったスマートフォン。通信料を払ってもらっているのに一切使わないのもどうだろうと思っていたが、それほど使いたいという気持ちにならなかった。
しかし、ラインの交換を誘われ、流れで肯定してしまったのだ。ここまで来たら腹をくくるしかないだろう。
わたしはカバーも何もつけていないそのままのスマホを手に取り、AppStoreを開いてラインをインストールする。
人生二度目のアカウント作成。震える指で作り終えると大きく息を吐く。手汗をびっしりとかいていることに軽い恐怖を感じた。
でも、これはやり直したのだから。今のわたしは星野丘学園高等部の雨宮紫苑。学年唯一の転校生。今までのわたしとは、違うのだから。
そう決意を固めてラインを入れたのだ。だから、きっと大丈夫。そう言い聞かせてスマホの電源を落とし、鞄の奥底にしまったのだった。
そんなことを思い出していたら教室から昇降口までの道のりなんて気付いたら歩き終えていた。
靴を履き替え、校外に出るタイミングで彼女は足を止め、ポケットに手を入れる。恐らく携帯を取り出そうとしているのだろう。
そんな彼女の手首を引き、一緒に校門をくぐる。
わたしは自転車のはずなのにと言いたげにぽかんとした彼女の表情を見て、下校方法を伝えていないということに気付いた。
「今日は歩きで来たの。だから途中までは同じ道なんだ~。」
「えっと、そうなの?じゃあ、途中まで一緒に帰ろうか。」
しれっとした顔で返すわたしに、やや驚いたような表情を見せたがまばたきをした後にはいつもの余裕のありそうな表情に変わっているのだから驚きだ。
すぐに自分の意志で歩き始め、わたしは掴んでいた手首を放した。
そしてまたお互い無言の空間に戻る。知らない人から見たら他人同士だとか行きずりの人だとかにしか見えない距離感。でもそれがどこか心地よさのようなものを感じてしまって。
転校して間もなくて分からないことが多い中で助けてもらったことに対しての感情もあるし、友達になってもらえないかという希望もある。それ以上に、彼女の素の笑顔をもっと見たい、もっと思うがままに感情を出したらどうなるのだろうかという好奇心が先行しているのだった。
だから、お互いに無言でも、それがいつか雰囲気が重くなることがあってもまたあの表情を見たいなと。そう思ったのだ。
隣を歩く琴乃の横顔を見ながら歩いていると、気付けば我が家に続く道への分岐点に差し掛かっていた。
わたしがそこで足を止めると、数秒後に琴乃も立ち止まる。
「じゃあ、わたしはこっちだから。…と、いうことで。ライン、交換しようか。」
と言いながらわたしは鞄の底に押し込めた携帯を取り出した。
裸のまま取り出されたわたしの携帯電話に琴乃は表情こそ大きく変えなかったものの、息を呑んで驚いている。
買い与えられてからほとんど使っていない携帯だし、通信料も勿体ないと言っているわたしがカバーを買うお金を出すわけが無い、という話だ。
そんなことを一々説明するのも時間の無駄だと思ったわたしはスマホを操作して自分のQRコードを表示させて彼女の方へ示した。
「これ、わたしのラインのQRコード!」
半ば戸惑いながらも琴乃はわたしのスマホに表示されるQRコードを読み込んだ。
「読み込み完了!よろしくね~~。あとで時間割は送っておくね。他にも、何か聞きたいこととかがあったら聞いてくれて大丈夫だからね。」
という彼女にわたしはラインを起動させ、文章を打ち込んだ。久しぶりのフリック入力。おぼつかない手つきで、一文字一文字打ち込んでいく。
初期のままの予測変換にやや戸惑いながら文章を完成させて、送信。
「ありがとう~!頼りにしてるね!じゃあまた明日~!」
わたしは琴乃に手を振り、そのまま曲がり角を曲がって我が家に続く細い路地へと進んだ。
琴乃から見えなくなった辺りまで歩いたところで足を止め、携帯の画面を眺めた。
『ここ三日、色々と助けてくれてありがとう。きっとこれからも沢山頼ることになると思うけど、良ければ助けてくれるといいな~!』
他の人の連絡先が一切登録されていなく、琴乃の連絡先しか登録されていない半ば専用のようになっているライン。
着せ替えなどを一切使われていない初期のままの背景には、先程わたしが送ったメッセージのみが表示されている。
そのメッセージには既に既読が付いていた。見るのが速い。
元の位置に戻すのも面倒くさくなったわたしはスマホをポケットに入れて歩き出そうとした途端にスマホが振動してラインが来たことを知らせる。
仕舞ったばかりの携帯を再度取り出し、ラインを起動させると琴乃からの返信が来ていた。
『ライン交換してくれてありがとう。慣れない環境、頼りにならない学校側のシステムで色々と大変だろうけど、一緒に楽しい学校生活が送れるように最大限サポートするつもりだからこれからもどんどん頼ってね~!』
返ってきた文章がとても琴乃のものとは思えず数秒固まる。クラスの女王様の元でへこへこ頑張っている彼女が作った文章として、これは演技の内なのかそれとも素なのか。おそらく前者だろう。
そんな面白みのない考えをしていても何にもならないだろう。
琴乃からの返信がじわじわと嬉しくなってきたわたしは、口角が緩むのが抑えきれない。
何となくそのトーク画面をスクショし、今度こそスマホを閉じてポケットにしまう。
帰宅し、私服に着替えてすぐに勉強机に向かった。一刻も早く勉強面で周囲に追いつかなければなるまい。
帰宅してから約四時間ほどぶっ続けで勉強して七時ごろ。母に夕食だと言われてダイニングに向かう。
今日学校であったこと─といっても大したことではないが、それを母に話しながら食事をする。
いつからか食事中テレビを付けなくなっていた。小さなころはテレビを見ながら父と母とわたしで談笑しながら夕食を食べるのが楽しみだった。
しかし今は父もいなくなりテレビも付けなくなり。急に静かになった夕食の場はとても空気が冷えていて、どこか居心地が悪い。
わたしは茶碗に残った数粒の米を箸で取りながら、母親の話に頷く。
お互いに空気の重さを払しょくしようと沢山話すため、そのせいでより物悲しい空気感になってしまう。ここ何年かのこの時間が本当に辛くて、重くて。そしてその原因がわたしに全てあるということが何よりも心に重く沈んだ。
その後そそくさと夕食を終え、勉強をするからと言って自室に戻ってくるとそのタイミングでちょうど携帯が鳴る。
携帯を開いて通知を確認する、だなんていう習慣がないため部屋に入るのがあと五秒遅ければ明日の朝まで今の携帯の通知には気づかなかっただろう、だなんて意味のないことを考えた。
携帯を開くと琴乃からのメッセージ。ラインを開くと放課後言っていた時間割の写真が添付されていた。
既読を付けてしまってから考えることではないが、既読の速さに惹かれていないだろうか。
もう時すでに遅しだなとすぐに割り切ってわたしはお礼の返信を打ち込んだ。
『丁寧にありがとう!明日から荷物軽くなりそうで助かる~~!』
返信を打ち込み、送信しようと紙飛行機ボタンに指を掛ける。逡巡の迷いと指の震え。それをぐっと堪えて返信した。
すると三秒も経たないうちに既読が付き、十秒ほどで返信が返ってきた。
『夜遅くになってしまって申し訳ない~~!でも喜んでもらえてよかった 毎日全教科持ってくるの大変だもんね!』
という返しにどう返信するのがベストなのかと文章を打っては消してを繰り返していると琴乃がおやすみと書かれたスタンプを送ってきた。
琴乃が助け舟を出してくれたように勝手に感じたわたしは、返すスタンプも持っていなかったためテキストで『おやすみ』と返信してそのままスマホを閉じた。
久しぶりのスマホの利用に悪い汗をかいている部分はややあるが、昔ほど強い拒絶反応は見せていない。少しずつ傷が癒えているのか、琴乃を信頼し始めているのか。
どちらが正解なのかは分からなかったが、それでも。
スマホを再度使い始めることのきっかけになったのは確かだった。
今は勉強面で追いつくことに必死にならなくてはいけないだろうが、それがひと段落すれば交友関係を広げる一つのツールとして、なら良いのかもしれない──とひと心地ついてベッドに倒れ込むのだった。
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