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10,わたしとあなたは友達ですか?
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「良ければ、なんですけど。敬語、やめません?」
突然の彼女のその発言に、わたしの頭は綺麗にショートした。
昼休み、中庭の隅の方のベンチ。日陰のその場所は春先過ごすにはいささか肌寒い。お昼を一緒に食べないかと誘った結果、案内された場所。
そこで、そんなことを言われていた。
彼女の中で、「敬語をやめる」というアクションにどのような意味を持ち合わせているのだろうか。友達になることの暗喩なのか、それともただ意味はないのか、何か他の意味が存在しているのか。
恐らくわたしの考えすぎなのだろうが、きちんとタメ口で話して大丈夫と言う念押しをしてくれてとても安心しているわたしが居た。
いきなりタメ口にしてしまえば、「勘違いしてる」「空気読めない」と言われることがあるかもしれない。
クラスの女王様二人と近い場所にいる琴乃にそのようなイメージをつけられたらどうなるか分かったものでない。
などと考えながら完全に箸が止めて瞬きを繰り返す。
「え…と、良いんですか?」
悩んだ末に出てきた言葉がこれなのか。
ショートしきったわたしの脳内から吐き出された言葉は何故か質問返し。
琴乃の方を見てみればわたしのリアクションに驚きの表情を浮かべていた。
「え、はい。折角同じクラスになって、こうして割と長い時間を過ごしているのに敬語っていうのも堅苦しくて嫌だなと思って。」
驚きで固まっていたのも一秒にも満たない時間で、すぐに言葉を継いだ。滑らかな言葉のチョイス。
「確かに、そうですね…。タメ口でよろしくおね…よろしくね。」
出来る限り間を開けないで言葉を返そうとするが、途中まで敬語が飛び出しかけるのに気づいてあわてて語尾を直す。
琴乃はわたしの言葉にやや笑いながら
「良ければ名前も名字じゃなくて下の名前で呼びませんか?距離が遠くてよそよそしいの、なんか嫌だから。」
さらに爆弾を落としてくる。さらに距離を詰めてくる。
これは友達認定と見ても良いのだろうか?タメ口許可だけでなく下の名前で呼ぶことも許可されたなら本格的に友達として認定されかけているのではないか?
ということは何と呼べばいいのだ?『琴乃』?『琴乃さん』?『琴乃ちゃん』?
いきなり呼び捨てだと距離近づけすぎ?さんだとちょっと他人行儀?ちゃんはちょっと軽薄?
またしても色々と思考を巡らせてみるが、その前に言葉を発せなければならないことに気付く。
「わたしで、良いなら…。」
やっとのことで絞り出した言葉は語尾が弱々しくおどおどした雰囲気を与えてしまいそう。どうしてわたしはいつも発言全てに自信が無さげなのか。というかわたしで良いならって何だ。告白
琴乃……さんのはきはきしていてはっきりと言い切れる口ぶりを思い出して真似できないかと画策するもことごとく失敗してしまう。
「あの、すみ…ごほん。ね、ねぇ琴乃さん。どうしてここでお昼食べることにしたのか聞いても…いい?」
未だに全く敬語が抜けない。語尾をラフにしようとする軌道修正が一周回ってわびしさのような感情を抱く。
膝に置いたお弁当箱からふりかけのかかったご飯を一口食べている彼女は目を大きくして口内のものを咀嚼する。
「あはは、さんはつけなくても平気だよ。全然呼び捨てで大丈夫。
それで、ここを選んだ理由か~。実は全然そういうものなくて、ただ単に教室で食べるのが気まずかったからなんだよね~。」
とけらけら笑いながら。
というか教室で食べるのが気まずい、というのはやはり蓮城寺奏多と木ノ花莉佳の二人と別れてわたしと一緒に居るからなのか。
わたしが琴乃と過ごすことで、もしや琴乃のポジションが危うくなる可能性があるのかもしれない。
嘘だ。そんな心配は全部嘘っぱちだ。
わたしは莉佳と奏多から琴乃を引き離そうという下心がはっきりとあった。
確かにお昼を誘ったのは授業のときのお礼と職員室の場所を案内してもらうという目的。
しかし、少しずつ「転校生」という立ち位置を使って彼女の隣に躍り出ようとしているのもまた事実なのだった。
きっと彼女の隣に安定出来れば、あんな悲劇は起こらない。たとえ琴乃を踏み台のようにしても、わたしは安定した高校生活を送りたいのだ。
それに───。
結果的に琴乃のことを踏み台のように扱っても、わたしは今よりも彼女を幸せに出来るという自信がある。いや、道具のように扱うのだから幸せにしないとならないのだ。
「そう、なの?じゃあなんか申し訳ないことしちゃったのかな?」
確信犯めいたことをしているのに敢えてとぼけたリアクションを取る。
そんなわたしの演技に彼女はすっかり騙されて笑顔を向けてくれる。約四年間、親族をだまし続けたこの演技に。
「ううん、そんなことないよ。私がOKしたんだから、気にしないで。
さてと、お昼食べ終わった?そろそろ職員室行こうか。」
という琴乃の問いかけにわたしは若干胸を痛めながらも笑顔を向けた。
「うん。食べ終わったから行こうか。」
木々豊かな中庭を出て、お弁当の包みを持ちながら琴乃の背を追いかける。
正面から見るか横からしか見ていない琴乃の後ろ姿はどこか新鮮だった。
やや明るい色味のロングヘアは歩くたびにさらさらと揺れ、高い身長や良いスタイル、歩き方の美しさも相まってうっとりしてしまうほどに美人だと思う。
勿論彼女の顔も綺麗だと思うが、周りに合わせるための派手なメイクが彼女の良さをかなり殺していると思う。確実にもっと綺麗になれるのに勿体ない。
「ここが、職員室。中庭から行ったから教室からの行き方が分からないか。ごめんね。今度また教室から職員室の行き方説明するから。」
立ち止まった教室の前でくるりと振り返る琴乃。
正直どのような道を通っていたのか一切見ていなかったため、これで覚えた?と言われても困った。再度案内してもらえるのはとても助かる。
「ありがとう。じゃあ数学の先生にちょっと言ってくるね。」
と言ってわたしは職員室の扉を開ける。
その直前で琴乃はわたしの袖口を掴む。
「ちょっと待って。」
そういうと彼女は職員室の扉の張り紙を指さした。
「私たちのクラスの数学の先生の名前は、永瀬先生。これは授業でも言ってたよね。それで、席はここ。中に入ってこの席に先生がいるかどうか確かめて。」
という彼女のアドバイスにわたしは頷き、職員室の扉を開けた。
「失礼します、高等部二年の雨宮紫苑です。」
永瀬先生との会話を終え、職員室を出た。
「お疲れさま。職員室、緊張した?」
と悪戯っぽい笑顔を向けてくる琴乃にわたしは笑顔を返す。
「う~ん、まぁやっぱりね。あの空気感とか、ちょっと。」
「じゃあ教室戻ろうか。そろそろ授業始まるから。」
という琴乃の言葉にうなずき、再度彼女の後ろを歩いた。
これだけ笑顔を向けられても、わたしには引っかかりがあった。引っかかりと言うか、確信していること。
琴乃がわたしに向けている笑顔も、言葉も、全部作り物なのではないかと。わたしは琴乃を利用しているようで、全くそんなことなくてわたしが琴乃の掌の手の上で踊らされているだけなのかもしれないと。
突然の彼女のその発言に、わたしの頭は綺麗にショートした。
昼休み、中庭の隅の方のベンチ。日陰のその場所は春先過ごすにはいささか肌寒い。お昼を一緒に食べないかと誘った結果、案内された場所。
そこで、そんなことを言われていた。
彼女の中で、「敬語をやめる」というアクションにどのような意味を持ち合わせているのだろうか。友達になることの暗喩なのか、それともただ意味はないのか、何か他の意味が存在しているのか。
恐らくわたしの考えすぎなのだろうが、きちんとタメ口で話して大丈夫と言う念押しをしてくれてとても安心しているわたしが居た。
いきなりタメ口にしてしまえば、「勘違いしてる」「空気読めない」と言われることがあるかもしれない。
クラスの女王様二人と近い場所にいる琴乃にそのようなイメージをつけられたらどうなるか分かったものでない。
などと考えながら完全に箸が止めて瞬きを繰り返す。
「え…と、良いんですか?」
悩んだ末に出てきた言葉がこれなのか。
ショートしきったわたしの脳内から吐き出された言葉は何故か質問返し。
琴乃の方を見てみればわたしのリアクションに驚きの表情を浮かべていた。
「え、はい。折角同じクラスになって、こうして割と長い時間を過ごしているのに敬語っていうのも堅苦しくて嫌だなと思って。」
驚きで固まっていたのも一秒にも満たない時間で、すぐに言葉を継いだ。滑らかな言葉のチョイス。
「確かに、そうですね…。タメ口でよろしくおね…よろしくね。」
出来る限り間を開けないで言葉を返そうとするが、途中まで敬語が飛び出しかけるのに気づいてあわてて語尾を直す。
琴乃はわたしの言葉にやや笑いながら
「良ければ名前も名字じゃなくて下の名前で呼びませんか?距離が遠くてよそよそしいの、なんか嫌だから。」
さらに爆弾を落としてくる。さらに距離を詰めてくる。
これは友達認定と見ても良いのだろうか?タメ口許可だけでなく下の名前で呼ぶことも許可されたなら本格的に友達として認定されかけているのではないか?
ということは何と呼べばいいのだ?『琴乃』?『琴乃さん』?『琴乃ちゃん』?
いきなり呼び捨てだと距離近づけすぎ?さんだとちょっと他人行儀?ちゃんはちょっと軽薄?
またしても色々と思考を巡らせてみるが、その前に言葉を発せなければならないことに気付く。
「わたしで、良いなら…。」
やっとのことで絞り出した言葉は語尾が弱々しくおどおどした雰囲気を与えてしまいそう。どうしてわたしはいつも発言全てに自信が無さげなのか。というかわたしで良いならって何だ。告白
琴乃……さんのはきはきしていてはっきりと言い切れる口ぶりを思い出して真似できないかと画策するもことごとく失敗してしまう。
「あの、すみ…ごほん。ね、ねぇ琴乃さん。どうしてここでお昼食べることにしたのか聞いても…いい?」
未だに全く敬語が抜けない。語尾をラフにしようとする軌道修正が一周回ってわびしさのような感情を抱く。
膝に置いたお弁当箱からふりかけのかかったご飯を一口食べている彼女は目を大きくして口内のものを咀嚼する。
「あはは、さんはつけなくても平気だよ。全然呼び捨てで大丈夫。
それで、ここを選んだ理由か~。実は全然そういうものなくて、ただ単に教室で食べるのが気まずかったからなんだよね~。」
とけらけら笑いながら。
というか教室で食べるのが気まずい、というのはやはり蓮城寺奏多と木ノ花莉佳の二人と別れてわたしと一緒に居るからなのか。
わたしが琴乃と過ごすことで、もしや琴乃のポジションが危うくなる可能性があるのかもしれない。
嘘だ。そんな心配は全部嘘っぱちだ。
わたしは莉佳と奏多から琴乃を引き離そうという下心がはっきりとあった。
確かにお昼を誘ったのは授業のときのお礼と職員室の場所を案内してもらうという目的。
しかし、少しずつ「転校生」という立ち位置を使って彼女の隣に躍り出ようとしているのもまた事実なのだった。
きっと彼女の隣に安定出来れば、あんな悲劇は起こらない。たとえ琴乃を踏み台のようにしても、わたしは安定した高校生活を送りたいのだ。
それに───。
結果的に琴乃のことを踏み台のように扱っても、わたしは今よりも彼女を幸せに出来るという自信がある。いや、道具のように扱うのだから幸せにしないとならないのだ。
「そう、なの?じゃあなんか申し訳ないことしちゃったのかな?」
確信犯めいたことをしているのに敢えてとぼけたリアクションを取る。
そんなわたしの演技に彼女はすっかり騙されて笑顔を向けてくれる。約四年間、親族をだまし続けたこの演技に。
「ううん、そんなことないよ。私がOKしたんだから、気にしないで。
さてと、お昼食べ終わった?そろそろ職員室行こうか。」
という琴乃の問いかけにわたしは若干胸を痛めながらも笑顔を向けた。
「うん。食べ終わったから行こうか。」
木々豊かな中庭を出て、お弁当の包みを持ちながら琴乃の背を追いかける。
正面から見るか横からしか見ていない琴乃の後ろ姿はどこか新鮮だった。
やや明るい色味のロングヘアは歩くたびにさらさらと揺れ、高い身長や良いスタイル、歩き方の美しさも相まってうっとりしてしまうほどに美人だと思う。
勿論彼女の顔も綺麗だと思うが、周りに合わせるための派手なメイクが彼女の良さをかなり殺していると思う。確実にもっと綺麗になれるのに勿体ない。
「ここが、職員室。中庭から行ったから教室からの行き方が分からないか。ごめんね。今度また教室から職員室の行き方説明するから。」
立ち止まった教室の前でくるりと振り返る琴乃。
正直どのような道を通っていたのか一切見ていなかったため、これで覚えた?と言われても困った。再度案内してもらえるのはとても助かる。
「ありがとう。じゃあ数学の先生にちょっと言ってくるね。」
と言ってわたしは職員室の扉を開ける。
その直前で琴乃はわたしの袖口を掴む。
「ちょっと待って。」
そういうと彼女は職員室の扉の張り紙を指さした。
「私たちのクラスの数学の先生の名前は、永瀬先生。これは授業でも言ってたよね。それで、席はここ。中に入ってこの席に先生がいるかどうか確かめて。」
という彼女のアドバイスにわたしは頷き、職員室の扉を開けた。
「失礼します、高等部二年の雨宮紫苑です。」
永瀬先生との会話を終え、職員室を出た。
「お疲れさま。職員室、緊張した?」
と悪戯っぽい笑顔を向けてくる琴乃にわたしは笑顔を返す。
「う~ん、まぁやっぱりね。あの空気感とか、ちょっと。」
「じゃあ教室戻ろうか。そろそろ授業始まるから。」
という琴乃の言葉にうなずき、再度彼女の後ろを歩いた。
これだけ笑顔を向けられても、わたしには引っかかりがあった。引っかかりと言うか、確信していること。
琴乃がわたしに向けている笑顔も、言葉も、全部作り物なのではないかと。わたしは琴乃を利用しているようで、全くそんなことなくてわたしが琴乃の掌の手の上で踊らされているだけなのかもしれないと。
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