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1、隣の席の転校生
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「京都府の学校から転校してきました、雨宮紫苑と言います。これからよろしくお願いします。」
高校二年生の初登校日、始業式を終えた私たちのクラスに転校してきた隣の席の彼女はそう述べた。
かれこれ同じ学校_星野丘学園で迎える五回目の始業式。新鮮さも新学期特有の浮つきも特になく、高校一年の時と何も変わらない足取りで新しい教室に入り、所定された席に着いて鞄を置く。
五年も同じ学校に通っていれば学年の人間なんて大抵把握できるため、クラスの人も友人か顔見知り。
始業式なんて形式行事、馬鹿馬鹿しいんだからさっさと家に帰らせてほしい…とため息を吐きながらクラスの名簿を見る。
ざっと名前を見ると当たり前だが知った名前ばかり。と文字を斜め読みしていると、初めて見る名前が目に留まる。雨宮紫苑・・・?聞き覚えのない名前だ。席順を見れば私の隣らしい。
顔を見ればどんな子だったか思い出せるはずとそちらを見るとまだ来ていない模様。始業式が終わっても尚席に居ないということは欠席なのだろうか。
「お~い琴乃!いや~始業式怠かったね~~」
大きく手を振ってこちらに来るのは流れで一緒に過ごしている蓮城寺奏多。やたらと短いスカートに校則ギリギリの化粧、教師に注意を受けない程度のギリギリの制服の着崩し方。いわゆるクラスの中心核、陽キャと呼ばれる人種。
春休み明けの重い頭で学校に来た身としては、出来る限り放っておいて欲しいのが本音だが、ある程度のコミニュケーションは取っておかねば教室内での立ち位置というものがある。
「いやそれな~?まじで始業式も同じ環境で五回もやれば飽きるっつーの笑」
重い頭を軽く振り、ぱっと口角を持ち上げて笑顔を作る。この人間関係も面倒くさいが、下手にクラスのトップの機嫌を損ねる方がずっと質が悪い。あくまでも最低限の保身のために、最低限の人間関係を作っておく、というのが私のセオリーだった。
席を立って奏多の方へ行こうとすると、少し離れた席から立ち上がる女子がまた一人。名を木ノ花莉佳という。奏多と並ぶクラスの女王様。それに仕えるのが私、という図が正しい力関係。友人関係と言うにはやや齟齬が生まれそうな関係だ。
「わかる~~!りかぁ、ずっと座ってて腰痛くなっちゃったぁ」
甘ったれた男子生徒にモテるように調整された声の高さに表情、仕草に現れていて異性の目から見れば可愛いものなのかもしれないが、同性の目から見れば痛々しい限りだ。
「ていうかさー、莉佳あの空席誰か分かる?あまみや・・・し、おん?」
奏多がクラス名簿を手にしながら。確かにこのクラスの中で一番顔が広いのは莉佳だろうと踏んだためか。
「んん~?あまみやしおんさんですかぁ?う~ん、りかは分からないかなぁ…。琴乃ちゃんはどう?」
低い身長や整った顔立ちを生かして上目遣いでこちらを見てくる莉佳だが、なぜ同性相手に色目を使うような真似をするのか私には謎でしかない。
「私も知らないんだよねー。莉佳ちゃんなら知ってるかと思ったんだけど…。まさかかとは思うけど、転校生とか?」
私は頭をフル回転させて二人の顔を立てるための最適解を導き出す。基本的に面倒事を避けるために多くの言葉を話さないスタンスで行こうと思っているが、こうして話を振られた時にノーリアクションを貫くことは出来ないため、半ば博打をする心持ちで言葉を発する。
「いやまっさかwwwだってうち中高一貫だよ?高等部から入ることも許されないようなエスカレーターどころかエレベーター式の学校だよ?wwそれが高二の始業式で転校生とかどういう風の吹き回しよ」
奏多のリアクションを見て、取り合えず地雷を踏みぬくことは無かったと心の中で一息つく。
「りかもあり得ないと思うなぁ?」
莉佳、奏多二人共から否定をされ、二人より上の立場に一瞬でもならなかったことに胸を撫でおろしていると教室のドアががらりと開き担任が入ってくる。
がたがたと机を揺らす音を立てながら席に着いた私たちを視認すると、担任が口を開いた。
「皆さん、おはようございます。これから一年間あなたたちの担任をする森中わかなです。」
と言いながら黒板に右肩上がりのはっきりとした字で自身の名前を書く。
そこそこ美人で若い。はきはきとした喋り方も柔らかそうな言葉遣い。男子生徒からの人気は高そうだが女子生徒からのヘイトはたまりそうなタイプだ。このクラスにおいて、もっとも大きい権力を握っているのは奏多と莉佳の二人であるため、このクラスと森中先生の相性は悪そうだった。
「色々お話したいことはありますが、まずはこのクラスの全員が揃ってから話さないといけないですよね。雨宮さん、入って。」
そう言うと控えめにドアが開いて一人の女子が教室に入ってくる。初めて見る顔だ。
「京都府の学校から転校してきました、雨宮紫苑と言います。これからよろしくお願いします。」
高い身長に整った目鼻立ち。膝丈より少し短いスカートや長袖ブラウスの袖口から覗く華奢で色白な手足。四年間飽きるほど見てきた制服も彼女が着るととても新鮮さを感じる。転校生のテンプレートのような自己紹介をしたその声は鈴が転がるような、だなんて表現では表しつくせない。全体的に見ても一部分を切り取ってもまるで作り物の整った外見は、第一印象にとても強いインパクトを与えた。
そして同時に私は思う。彼女はきっと、莉佳の…否、莉佳と奏多、クラスのトップ二人の機嫌を損ねてしまうのではないか…と。
高校二年生の初登校日、始業式を終えた私たちのクラスに転校してきた隣の席の彼女はそう述べた。
かれこれ同じ学校_星野丘学園で迎える五回目の始業式。新鮮さも新学期特有の浮つきも特になく、高校一年の時と何も変わらない足取りで新しい教室に入り、所定された席に着いて鞄を置く。
五年も同じ学校に通っていれば学年の人間なんて大抵把握できるため、クラスの人も友人か顔見知り。
始業式なんて形式行事、馬鹿馬鹿しいんだからさっさと家に帰らせてほしい…とため息を吐きながらクラスの名簿を見る。
ざっと名前を見ると当たり前だが知った名前ばかり。と文字を斜め読みしていると、初めて見る名前が目に留まる。雨宮紫苑・・・?聞き覚えのない名前だ。席順を見れば私の隣らしい。
顔を見ればどんな子だったか思い出せるはずとそちらを見るとまだ来ていない模様。始業式が終わっても尚席に居ないということは欠席なのだろうか。
「お~い琴乃!いや~始業式怠かったね~~」
大きく手を振ってこちらに来るのは流れで一緒に過ごしている蓮城寺奏多。やたらと短いスカートに校則ギリギリの化粧、教師に注意を受けない程度のギリギリの制服の着崩し方。いわゆるクラスの中心核、陽キャと呼ばれる人種。
春休み明けの重い頭で学校に来た身としては、出来る限り放っておいて欲しいのが本音だが、ある程度のコミニュケーションは取っておかねば教室内での立ち位置というものがある。
「いやそれな~?まじで始業式も同じ環境で五回もやれば飽きるっつーの笑」
重い頭を軽く振り、ぱっと口角を持ち上げて笑顔を作る。この人間関係も面倒くさいが、下手にクラスのトップの機嫌を損ねる方がずっと質が悪い。あくまでも最低限の保身のために、最低限の人間関係を作っておく、というのが私のセオリーだった。
席を立って奏多の方へ行こうとすると、少し離れた席から立ち上がる女子がまた一人。名を木ノ花莉佳という。奏多と並ぶクラスの女王様。それに仕えるのが私、という図が正しい力関係。友人関係と言うにはやや齟齬が生まれそうな関係だ。
「わかる~~!りかぁ、ずっと座ってて腰痛くなっちゃったぁ」
甘ったれた男子生徒にモテるように調整された声の高さに表情、仕草に現れていて異性の目から見れば可愛いものなのかもしれないが、同性の目から見れば痛々しい限りだ。
「ていうかさー、莉佳あの空席誰か分かる?あまみや・・・し、おん?」
奏多がクラス名簿を手にしながら。確かにこのクラスの中で一番顔が広いのは莉佳だろうと踏んだためか。
「んん~?あまみやしおんさんですかぁ?う~ん、りかは分からないかなぁ…。琴乃ちゃんはどう?」
低い身長や整った顔立ちを生かして上目遣いでこちらを見てくる莉佳だが、なぜ同性相手に色目を使うような真似をするのか私には謎でしかない。
「私も知らないんだよねー。莉佳ちゃんなら知ってるかと思ったんだけど…。まさかかとは思うけど、転校生とか?」
私は頭をフル回転させて二人の顔を立てるための最適解を導き出す。基本的に面倒事を避けるために多くの言葉を話さないスタンスで行こうと思っているが、こうして話を振られた時にノーリアクションを貫くことは出来ないため、半ば博打をする心持ちで言葉を発する。
「いやまっさかwwwだってうち中高一貫だよ?高等部から入ることも許されないようなエスカレーターどころかエレベーター式の学校だよ?wwそれが高二の始業式で転校生とかどういう風の吹き回しよ」
奏多のリアクションを見て、取り合えず地雷を踏みぬくことは無かったと心の中で一息つく。
「りかもあり得ないと思うなぁ?」
莉佳、奏多二人共から否定をされ、二人より上の立場に一瞬でもならなかったことに胸を撫でおろしていると教室のドアががらりと開き担任が入ってくる。
がたがたと机を揺らす音を立てながら席に着いた私たちを視認すると、担任が口を開いた。
「皆さん、おはようございます。これから一年間あなたたちの担任をする森中わかなです。」
と言いながら黒板に右肩上がりのはっきりとした字で自身の名前を書く。
そこそこ美人で若い。はきはきとした喋り方も柔らかそうな言葉遣い。男子生徒からの人気は高そうだが女子生徒からのヘイトはたまりそうなタイプだ。このクラスにおいて、もっとも大きい権力を握っているのは奏多と莉佳の二人であるため、このクラスと森中先生の相性は悪そうだった。
「色々お話したいことはありますが、まずはこのクラスの全員が揃ってから話さないといけないですよね。雨宮さん、入って。」
そう言うと控えめにドアが開いて一人の女子が教室に入ってくる。初めて見る顔だ。
「京都府の学校から転校してきました、雨宮紫苑と言います。これからよろしくお願いします。」
高い身長に整った目鼻立ち。膝丈より少し短いスカートや長袖ブラウスの袖口から覗く華奢で色白な手足。四年間飽きるほど見てきた制服も彼女が着るととても新鮮さを感じる。転校生のテンプレートのような自己紹介をしたその声は鈴が転がるような、だなんて表現では表しつくせない。全体的に見ても一部分を切り取ってもまるで作り物の整った外見は、第一印象にとても強いインパクトを与えた。
そして同時に私は思う。彼女はきっと、莉佳の…否、莉佳と奏多、クラスのトップ二人の機嫌を損ねてしまうのではないか…と。
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