16 / 59
15.
しおりを挟む
部屋では一早くサーシャが動き出していたが、魔術に免疫のないであろうミシェルは座り込んだまま、ぼぅっとしている。
一先ずそのミシェルに構うことなくサーシャはジィルトに質問を続けていた。
「ジィルト様、先程は大変お見苦しいところを申し訳ございませんでした。それで、本来のご用件は何でございました?」
「あぁ。今回登城されたご令嬢方が姉上を入れて三人なので一人ひとりではなく、王陛下への謁見は全員になると伝えに来た」
「分かりました。因みにどちらのお嬢様方か伺っても?」
「一人は外の侯爵家の方で、もう一人が伯爵家の方だ。名前まではまだ知らされていない」
「ありがとうございます」
ジィルトの話を聞くやいなや、私の方へ向き直ったサーシャは一つ手を叩くと
「アンナ様」
「はい!」
「着替えますよ!」
「……はい?」
サーシャとは長い付き合いだが、この状況で着替えとは?
「待ってサーシャ。謁見でも失礼のない様にこのドレスで来たのよ。着替えなくても……」
「いいえ、お嬢様。他家のお嬢様方とご一緒のこと、断じてキャセラック家のご息女として、王陛下の御前にて一線を隔さねば!」
(……いえいえいえいえいえ。そんな一線作りたくもなければ、超えたくもなくてよ!)
「大丈夫よサーシャ。王たる者、小娘達のドレスなんて見てないわよ!それにお茶もお昼もまだだし」
「まだで良かったじゃないですか。コルセットを締めるのにも腕がなります。ミシェル、衣裳部屋でドレスを並べ始めてくれる?」
ミシェルに指示を出す。
呆けていてもさすがは王城侍女だ。「はい!」と返事とともに飛び上がり衣裳部屋へと駆けていく。
「サーシャ、聞いている?私、ドレスは着替えなくてもって」
「えぇ、聞いております。外でお茶をしたいと仰られてから、全っ部聞いております。私がお嬢様の我儘をお止め出来ず、あろうことか王子殿下の前で、はしたない姿をお見せすることになり、謁見にてまた何かあれば、これ以上の失態なんて旦那様や奥様に顔向け出来るはずがございません!」
語気を強め、一歩、一歩ずつ私に近づきながら
「よって、お嬢様をどこへ出しても恥ずかしくなく仕上げる私本来の侍女の仕事を全う致します!」
言い切ったサーシャの目は座っていて、アリアンナの両腕を掴む手は力が込められている。
これ以上彼女への反論は許さないと暗に語っている。
そんなサーシャの目から視線を反らすことも出来ず「……はい」とだけ小さく答えた。
(顔が…近いわ……サーシャ)
ただ一人ジィルトだけがサーシャからの安全地帯で立っていたのだが、本来の職務全うに向け、スイッチが入った彼女に見つかる。
「ジィルト様、いくら姉君とはいえ婦女子のお時間ですよ。ご退室をして頂かなくては」
「あ、あぁ」
さっきまでは確かに敬われていたはずなのに完全に邪魔者扱いなのもどうかとは思うが……八つ当たりの流れ矢が刺さった身としては、言われるまでもなく帰るつもりだったので
「……では、姉上」
簡単な挨拶を残し、扉へと向かう。
その背中にサーシャから容赦ない声が飛ぶ。
「あ、その水差しのお水、お湯にしていって貰ってもいいですか?」
「………」
自分より年上の侍女に呆れた目を向ければ、さぁどうぞと言わんばかりに微笑まれる。
姉が主という時点で、主が主なら侍女も侍女なのである。
またものろのろと水を熱湯に変える。
退出の一声を掛けようにも姉の周りを侍女達が忙しく小回りし、自分の事などすでに忘れているかのようだ。
ジィルトは無言で口を引き結び、廊下へ出るとこの日最大の溜息を辛うじて、扉を閉めた後に吐いた。
一先ずそのミシェルに構うことなくサーシャはジィルトに質問を続けていた。
「ジィルト様、先程は大変お見苦しいところを申し訳ございませんでした。それで、本来のご用件は何でございました?」
「あぁ。今回登城されたご令嬢方が姉上を入れて三人なので一人ひとりではなく、王陛下への謁見は全員になると伝えに来た」
「分かりました。因みにどちらのお嬢様方か伺っても?」
「一人は外の侯爵家の方で、もう一人が伯爵家の方だ。名前まではまだ知らされていない」
「ありがとうございます」
ジィルトの話を聞くやいなや、私の方へ向き直ったサーシャは一つ手を叩くと
「アンナ様」
「はい!」
「着替えますよ!」
「……はい?」
サーシャとは長い付き合いだが、この状況で着替えとは?
「待ってサーシャ。謁見でも失礼のない様にこのドレスで来たのよ。着替えなくても……」
「いいえ、お嬢様。他家のお嬢様方とご一緒のこと、断じてキャセラック家のご息女として、王陛下の御前にて一線を隔さねば!」
(……いえいえいえいえいえ。そんな一線作りたくもなければ、超えたくもなくてよ!)
「大丈夫よサーシャ。王たる者、小娘達のドレスなんて見てないわよ!それにお茶もお昼もまだだし」
「まだで良かったじゃないですか。コルセットを締めるのにも腕がなります。ミシェル、衣裳部屋でドレスを並べ始めてくれる?」
ミシェルに指示を出す。
呆けていてもさすがは王城侍女だ。「はい!」と返事とともに飛び上がり衣裳部屋へと駆けていく。
「サーシャ、聞いている?私、ドレスは着替えなくてもって」
「えぇ、聞いております。外でお茶をしたいと仰られてから、全っ部聞いております。私がお嬢様の我儘をお止め出来ず、あろうことか王子殿下の前で、はしたない姿をお見せすることになり、謁見にてまた何かあれば、これ以上の失態なんて旦那様や奥様に顔向け出来るはずがございません!」
語気を強め、一歩、一歩ずつ私に近づきながら
「よって、お嬢様をどこへ出しても恥ずかしくなく仕上げる私本来の侍女の仕事を全う致します!」
言い切ったサーシャの目は座っていて、アリアンナの両腕を掴む手は力が込められている。
これ以上彼女への反論は許さないと暗に語っている。
そんなサーシャの目から視線を反らすことも出来ず「……はい」とだけ小さく答えた。
(顔が…近いわ……サーシャ)
ただ一人ジィルトだけがサーシャからの安全地帯で立っていたのだが、本来の職務全うに向け、スイッチが入った彼女に見つかる。
「ジィルト様、いくら姉君とはいえ婦女子のお時間ですよ。ご退室をして頂かなくては」
「あ、あぁ」
さっきまでは確かに敬われていたはずなのに完全に邪魔者扱いなのもどうかとは思うが……八つ当たりの流れ矢が刺さった身としては、言われるまでもなく帰るつもりだったので
「……では、姉上」
簡単な挨拶を残し、扉へと向かう。
その背中にサーシャから容赦ない声が飛ぶ。
「あ、その水差しのお水、お湯にしていって貰ってもいいですか?」
「………」
自分より年上の侍女に呆れた目を向ければ、さぁどうぞと言わんばかりに微笑まれる。
姉が主という時点で、主が主なら侍女も侍女なのである。
またものろのろと水を熱湯に変える。
退出の一声を掛けようにも姉の周りを侍女達が忙しく小回りし、自分の事などすでに忘れているかのようだ。
ジィルトは無言で口を引き結び、廊下へ出るとこの日最大の溜息を辛うじて、扉を閉めた後に吐いた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる