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夜伽(2)
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ステファンは一瞬目を見開き、それから「ぶふっ」と盛大に噴き出した。
「おまえ、意味がわかってないだろう」
「い、意味……?」
たった今、夜伽とはそばにいることだと教えてくれたではないかと眉をひそめる。しかし、「夜、それなりの相手と二人きりですごすということが、どういうことか考えろ」と笑われる。
「それなりの、相手……?」
「そうだ。そういう相手と何をするのか」
一つしかないだろうと言い、それでも首をかしげるフランに、自分たちは一度は身体を重ねた仲だぞと言って笑う。
「つまり、おまえを食べるということだ。どうする? また食べられてみるか?」
今度はフランが目を見開く番だった。「えっ!」と言ったきり真っ赤になり、小さく左右に首を振る。ステファンは、わざとがっかりした顔を作ってフランを見下ろした。
「なんだ。違うのか。はっきり断られると傷つくな」
「そ、そうじゃなくて……」
フランは慌てて、ステファンが抱えた夏布団の端をぎゅっと掴んだ。
「や、やだとかじゃなくて……、あの、でも……」
「うん?」
顔を覗き込まれて、しどろもどろになってしまう。
ヒートの時のようにわけがわからなくなっている時ならともかく、冷静な今は、ヘンな格好でお尻を上げてステファンに向けたり、脚をいっぱいに開いたり、四肢をからめるようにステファンにしがみついたりすることなんてできそうにない。きっと無理だ。恥ずかしくて死んでしまう。
それも、お互い何一つ身に着けていない、裸の状態で……。
風呂に入れてもらったことを思えば、そこは問題ないような気もするが、それとはなんだか違う気がする。やっぱり恥ずかしい。
(ほ、本当に……、い、嫌なわけじゃない。でも……)
耳まで赤くして口をぱくぱくさせていると、ステファンがどこか困ったように笑う。空いた手でフランの髪をくしゃくしゃ撫でた。
「ばか。冗談だ」
「え……」
そう簡単にフランを食べたりしないと言われて、ホッとするのと同時に、少しだけ寂しいいような、がっかりしたような気持ちになった。
(恥ずかしいけど……、本当に、嫌なんかじゃ……)
ステファンに触れてもらった時のことを思い出すと、胸の奥に甘い何かが満ちてくる。それはとても幸せで心地いいものだった。
(僕……。どうすれば……)
本当に嫌ではないのだ。
けれど、フランが何も言えないでいるうちに、ステファンは布団を抱えたまま歩き出していた。
「眠れないなら、しばらくそばにいてやるぞ」
ドアを開け、フランを促して先に部屋に入れる。もぞもぞしたせいで乱れてしまったベッドが目に入って、ちょっと気まずくなった。なんでもないふうに魔法でさっとそれを整えたステファンは、軽い夏掛けをその上に広げた。その端を持ち上げて、「ほら」とフランを振り向く。
なんだか最初の晩を思い出す。どこに挟まればいいのかわからないと言ったフランを、ステファンは呆れながらもこうして布団に入れてくれたのだ。
「このところ、フランは考え事をしている時間が増えたな」
ふかふかの枕に沈んだフランの頭を、髪を整えるように撫でながら、ステファンが見下ろす。
「それだけ、成長したということか」
軽く口元を緩めるステファンを、フランは黙って見上げた。
ベッテたちが大事にしている絵姿の騎士よりも美しい。少し冷たく見えるシャープな頬のラインも、高くてまっすぐな鼻も、切れ長の目も、全部神様が作った芸術品のようだと改めて思う。濃い睫毛に囲まれた黒い瞳と、緩く波打つ長い黒髪が、なんだかきらきら輝いて見える。
「どうした?」
枕の上でフランは黙って首を振った。
「いつまでも目を開けていては眠れないだろう」
まずは目を閉じろと言われるけれど、フランはステファンの顔を見つめ続けた。ステファンの手がフランの髪を軽く撫で続ける。
(ステファン……)
美しくて、何でも知っていて、優しいステファン……。王弟であり、アルファであり、誰よりも強い。
だけど、とフランは思う。
(やっぱり、悲しかった……?)
「おまえ、意味がわかってないだろう」
「い、意味……?」
たった今、夜伽とはそばにいることだと教えてくれたではないかと眉をひそめる。しかし、「夜、それなりの相手と二人きりですごすということが、どういうことか考えろ」と笑われる。
「それなりの、相手……?」
「そうだ。そういう相手と何をするのか」
一つしかないだろうと言い、それでも首をかしげるフランに、自分たちは一度は身体を重ねた仲だぞと言って笑う。
「つまり、おまえを食べるということだ。どうする? また食べられてみるか?」
今度はフランが目を見開く番だった。「えっ!」と言ったきり真っ赤になり、小さく左右に首を振る。ステファンは、わざとがっかりした顔を作ってフランを見下ろした。
「なんだ。違うのか。はっきり断られると傷つくな」
「そ、そうじゃなくて……」
フランは慌てて、ステファンが抱えた夏布団の端をぎゅっと掴んだ。
「や、やだとかじゃなくて……、あの、でも……」
「うん?」
顔を覗き込まれて、しどろもどろになってしまう。
ヒートの時のようにわけがわからなくなっている時ならともかく、冷静な今は、ヘンな格好でお尻を上げてステファンに向けたり、脚をいっぱいに開いたり、四肢をからめるようにステファンにしがみついたりすることなんてできそうにない。きっと無理だ。恥ずかしくて死んでしまう。
それも、お互い何一つ身に着けていない、裸の状態で……。
風呂に入れてもらったことを思えば、そこは問題ないような気もするが、それとはなんだか違う気がする。やっぱり恥ずかしい。
(ほ、本当に……、い、嫌なわけじゃない。でも……)
耳まで赤くして口をぱくぱくさせていると、ステファンがどこか困ったように笑う。空いた手でフランの髪をくしゃくしゃ撫でた。
「ばか。冗談だ」
「え……」
そう簡単にフランを食べたりしないと言われて、ホッとするのと同時に、少しだけ寂しいいような、がっかりしたような気持ちになった。
(恥ずかしいけど……、本当に、嫌なんかじゃ……)
ステファンに触れてもらった時のことを思い出すと、胸の奥に甘い何かが満ちてくる。それはとても幸せで心地いいものだった。
(僕……。どうすれば……)
本当に嫌ではないのだ。
けれど、フランが何も言えないでいるうちに、ステファンは布団を抱えたまま歩き出していた。
「眠れないなら、しばらくそばにいてやるぞ」
ドアを開け、フランを促して先に部屋に入れる。もぞもぞしたせいで乱れてしまったベッドが目に入って、ちょっと気まずくなった。なんでもないふうに魔法でさっとそれを整えたステファンは、軽い夏掛けをその上に広げた。その端を持ち上げて、「ほら」とフランを振り向く。
なんだか最初の晩を思い出す。どこに挟まればいいのかわからないと言ったフランを、ステファンは呆れながらもこうして布団に入れてくれたのだ。
「このところ、フランは考え事をしている時間が増えたな」
ふかふかの枕に沈んだフランの頭を、髪を整えるように撫でながら、ステファンが見下ろす。
「それだけ、成長したということか」
軽く口元を緩めるステファンを、フランは黙って見上げた。
ベッテたちが大事にしている絵姿の騎士よりも美しい。少し冷たく見えるシャープな頬のラインも、高くてまっすぐな鼻も、切れ長の目も、全部神様が作った芸術品のようだと改めて思う。濃い睫毛に囲まれた黒い瞳と、緩く波打つ長い黒髪が、なんだかきらきら輝いて見える。
「どうした?」
枕の上でフランは黙って首を振った。
「いつまでも目を開けていては眠れないだろう」
まずは目を閉じろと言われるけれど、フランはステファンの顔を見つめ続けた。ステファンの手がフランの髪を軽く撫で続ける。
(ステファン……)
美しくて、何でも知っていて、優しいステファン……。王弟であり、アルファであり、誰よりも強い。
だけど、とフランは思う。
(やっぱり、悲しかった……?)
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