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レンナルト(4)
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短弓の矢には強い毒が塗ってあり、彼らはそれを自分たちの脚に刺していたという。
「だから、黒幕の名はわからない。送り込まれた者たちは、名前だけでなく地位や所属もデタラメだった。身体的な特徴から調べさせたが、国の機関や軍の中に当てはまる者はいなかった」
誰かの私兵だろうと推測できただけ。
「レンナルトが疑り深くなるのも、無理はないんだ」
フランは小さく頷いた。
「死んだ兵士の名前はオロフ・ノイマンといった。二十二歳で暗黒城に来て、六年近く一緒に暮らした」
明るくて、気のいい男だった。そう言って、ステファンは黒い睫毛を伏せた。
「ここの見張りや使用人として送り込まれた連中は、中央であまりいい目に遭っていなかった者たちばかりだ。それでも、フレドリカの采配がよかったのか、一緒にいる間は、それなりにうまくやってた」
一回り年上だったノイマンはレンナルトのいい兄貴分で、よく懐いていたと続ける。
「兵士になった以上、命を落とすことがあるのは覚悟していただろう。それでも、ノイマンの家族は俺を恨んでいるだろうな……」
その事件の後、ステファンは城にいた者たちを全て中央やそれぞれの領地に返したのだが、レンナルトだけは、いくら言っても城を去ろうとしなかったという。
「フレドリカも残ると頑張っていたが、エミリアの安全のために王都に戻るように説得して、どうにか二人には帰ってもらった」
フランの手を軽く叩いて、「みんな、バカなんだ」とため息交じりに笑う。
「そんなわけで、あいつは今、一人であくせく城の仕事に追われている」
他に使用人がいないのは、ステファンを恐れて誰も暗黒城に寄り付かないせいではなかった。表向きの理由はそうでも、誰かが働きたいと言ってきても、ステファンのほうで受け入れる気がないのだ。
「王宮から送り込まれる人間にレンナルトが不信感を抱くのは、ある意味当たり前のことだ。だが、アマンダはカルネウスの命を受けてここに来ている。レンナルトが警戒しても無意味だ。事情を説明したほうがいいだろうな」
じっとステファンを見ていると、「フランにも」と言って少し笑ってみせる。
「アマンダは敵ではない」
「うん」
「だが、それを話せば、レンナルトとフランを俺の争いごとに巻き込むことになる」
フランは首を傾げる。
「巻き込むのは、嫌なの?」
「できれば巻き込みたくはなかった。だが、諦めてもらうしかないな」
何が起きているのかはわからないど、それがどんなことでも、フランは巻き込んでもらったほうがいい。知らないうちにステファン一人が危ない目に遭うのは嫌だ。
レンナルトも同じだろう。
「レンナルト……、僕の時は、あんまり気にしてなかったね」
「フランがが来ることは、最初から分かっていたからな」
前にもそう聞いた。
泉の部屋にある石が教えたのだとレンナルトは言っていたけれど……。
「ステファン、あの石って……」
フランが口を開くのと同時に、どこからかレンナルトの声が聞こえてきた。
「食事だよー。聞こえてたら、さっさと食堂に来てー」
「ああ。すぐに行く」
ステファンが答え、フランの手を取って立ちあがる。
なんだかまたタイミングを逃してしまった。わざと邪魔されているような気さえしてくる。
「ステファン……、この声って、どういう仕組みで聞こえるの? アマンダが、魔法じゃないって言ってたけど……」
ステファンはチラリとフランを見て、片方の眉を上げた。
「今はまだ、秘密だ」
「え……」
「あれは機嫌を損ねると一切仕事をしなくなる。厄介な道具だが、しばらくは機嫌よく働いてもらわねば困るからな」
かすかに眉を寄せると、ステファンが笑う。
「そんな顔をするな。厄介だが、替えの利かない大事なものだ。それに、とてもいい仕事をする」
ステファンはひどく優しい笑みを浮かべてフランを抱き寄せる。そのまま軽く髪にキスを落とした。
「本物だ。感謝し、敬意を示さなくてはな」
「だから、黒幕の名はわからない。送り込まれた者たちは、名前だけでなく地位や所属もデタラメだった。身体的な特徴から調べさせたが、国の機関や軍の中に当てはまる者はいなかった」
誰かの私兵だろうと推測できただけ。
「レンナルトが疑り深くなるのも、無理はないんだ」
フランは小さく頷いた。
「死んだ兵士の名前はオロフ・ノイマンといった。二十二歳で暗黒城に来て、六年近く一緒に暮らした」
明るくて、気のいい男だった。そう言って、ステファンは黒い睫毛を伏せた。
「ここの見張りや使用人として送り込まれた連中は、中央であまりいい目に遭っていなかった者たちばかりだ。それでも、フレドリカの采配がよかったのか、一緒にいる間は、それなりにうまくやってた」
一回り年上だったノイマンはレンナルトのいい兄貴分で、よく懐いていたと続ける。
「兵士になった以上、命を落とすことがあるのは覚悟していただろう。それでも、ノイマンの家族は俺を恨んでいるだろうな……」
その事件の後、ステファンは城にいた者たちを全て中央やそれぞれの領地に返したのだが、レンナルトだけは、いくら言っても城を去ろうとしなかったという。
「フレドリカも残ると頑張っていたが、エミリアの安全のために王都に戻るように説得して、どうにか二人には帰ってもらった」
フランの手を軽く叩いて、「みんな、バカなんだ」とため息交じりに笑う。
「そんなわけで、あいつは今、一人であくせく城の仕事に追われている」
他に使用人がいないのは、ステファンを恐れて誰も暗黒城に寄り付かないせいではなかった。表向きの理由はそうでも、誰かが働きたいと言ってきても、ステファンのほうで受け入れる気がないのだ。
「王宮から送り込まれる人間にレンナルトが不信感を抱くのは、ある意味当たり前のことだ。だが、アマンダはカルネウスの命を受けてここに来ている。レンナルトが警戒しても無意味だ。事情を説明したほうがいいだろうな」
じっとステファンを見ていると、「フランにも」と言って少し笑ってみせる。
「アマンダは敵ではない」
「うん」
「だが、それを話せば、レンナルトとフランを俺の争いごとに巻き込むことになる」
フランは首を傾げる。
「巻き込むのは、嫌なの?」
「できれば巻き込みたくはなかった。だが、諦めてもらうしかないな」
何が起きているのかはわからないど、それがどんなことでも、フランは巻き込んでもらったほうがいい。知らないうちにステファン一人が危ない目に遭うのは嫌だ。
レンナルトも同じだろう。
「レンナルト……、僕の時は、あんまり気にしてなかったね」
「フランがが来ることは、最初から分かっていたからな」
前にもそう聞いた。
泉の部屋にある石が教えたのだとレンナルトは言っていたけれど……。
「ステファン、あの石って……」
フランが口を開くのと同時に、どこからかレンナルトの声が聞こえてきた。
「食事だよー。聞こえてたら、さっさと食堂に来てー」
「ああ。すぐに行く」
ステファンが答え、フランの手を取って立ちあがる。
なんだかまたタイミングを逃してしまった。わざと邪魔されているような気さえしてくる。
「ステファン……、この声って、どういう仕組みで聞こえるの? アマンダが、魔法じゃないって言ってたけど……」
ステファンはチラリとフランを見て、片方の眉を上げた。
「今はまだ、秘密だ」
「え……」
「あれは機嫌を損ねると一切仕事をしなくなる。厄介な道具だが、しばらくは機嫌よく働いてもらわねば困るからな」
かすかに眉を寄せると、ステファンが笑う。
「そんな顔をするな。厄介だが、替えの利かない大事なものだ。それに、とてもいい仕事をする」
ステファンはひどく優しい笑みを浮かべてフランを抱き寄せる。そのまま軽く髪にキスを落とした。
「本物だ。感謝し、敬意を示さなくてはな」
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