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【15】-2
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堂上は人使いも荒いが、それ以上に自分がよく働く。
社内にいることは珍しいし、いたとしても、それはいなければならない理由があるからで、時間が空いていることなど、まずない。
急な面会がすんなり通る相手ではないのだ。
「名前を言っただけで、会うって即答されたぞ」
「マジか。なんで……」
「俺が、おまえにとって重要な人間だからだってさ。コンペみたいのがあるんだろ? そこでおまえに最高のものを作らせたいからだと言ってた」
コンペと自分がどう関係あるのか、さっぱりわからなかったけど、と清正は言った。
それから急に不機嫌な顔になった。
「光……、あいつに、口説かれたことあるだろ」
「え……? あ……、うん」
すっと目を逸らせてしまう。
「なんで黙ってた」
「だって、言うほどのことじゃないし……。てゆうか、おまえ、社長と何の話してんだよ」
「どう口説かれたのか教えろ」
「え。いいじゃん、そんなの」
そんな恥ずかしいこと言いたくない。
口を尖らせたが、清正は執拗だった。
「お、し、え、ろ」
ずいと迫られて、早々に降参した。たいした話ではないのだ。
「恋人になってくれないかってストレートに言われただけだよ……。速攻で『無理』って答えたし、社長もすんなり引いたし、それで終わり」
「本当にそれだけか」
「本当にそれだけだよ」
清正は何やらぶつぶつ「なんだよ。あの野郎、思わせぶりなこと言いやがって」と文句を言っている。
何を言われたのかと聞けば、「いろいろだ」と答えて口をへの字に曲げた。
「光をどう思ってるのかとか、ずっとこのままでいいのかとか、どこのお節介おやじだよってツッコミたくなるようなことを根掘り葉掘り聞いてきた。おまけに、俺が何もしないなら自分がどうにかしそうなことを匂わせて」
「なんだ、それ」
「あとは、へんなことも言った。『光が隠している一番綺麗なものを、見たくないか?』とかなんとか」
「俺が隠してる、一番綺麗なもの?」
「何を言ってるのかイマイチわからなかったけど、その一番綺麗なものとやらを、あいつは知ってるような口ぶりだったんだよ。それをあいつにだけ見せるわけにはいかないだろ」
一瞬、しんとなった後で清正が「ヤバイな」と右手で自分の口元を覆った。
「想像したら、鼻血が出そうに」
「バカか」
布団の上に身を乗り出して、清正の頭を叩いた。
清正は、それからもしつこく、堂上はまだ光を狙っているのではないかと繰り返した。
「それはないと思うよ」
「なんでだよ? 根拠はあるのか」
んー、と首を傾げてから、「想像なんだけど」と断って理由を口にした。
「さっき社長、出先だったんだろ? だから、井出さんが来たんじゃない?」
その通りだ、と清正が頷く。
「秩父にいるから、自分はすぐ行けないとか言ってた」
「じゃあ、やっぱりそうだよ」
堂上には決まった相手がいるのだと教えた。
「秩父に? 恋人が? 男か?」
秘密だと言ったが、「教えろ」とうるさいので、「ただの勘だよ」と念を押して、秩父にある村山の事務所に行くと、時々堂上の香水の匂いがするのだと教えた。
休みの日かその翌日には、たいてい残っていた。
恋人かどうかはわからないが、かなり親しいことは確かだ。
社内にいることは珍しいし、いたとしても、それはいなければならない理由があるからで、時間が空いていることなど、まずない。
急な面会がすんなり通る相手ではないのだ。
「名前を言っただけで、会うって即答されたぞ」
「マジか。なんで……」
「俺が、おまえにとって重要な人間だからだってさ。コンペみたいのがあるんだろ? そこでおまえに最高のものを作らせたいからだと言ってた」
コンペと自分がどう関係あるのか、さっぱりわからなかったけど、と清正は言った。
それから急に不機嫌な顔になった。
「光……、あいつに、口説かれたことあるだろ」
「え……? あ……、うん」
すっと目を逸らせてしまう。
「なんで黙ってた」
「だって、言うほどのことじゃないし……。てゆうか、おまえ、社長と何の話してんだよ」
「どう口説かれたのか教えろ」
「え。いいじゃん、そんなの」
そんな恥ずかしいこと言いたくない。
口を尖らせたが、清正は執拗だった。
「お、し、え、ろ」
ずいと迫られて、早々に降参した。たいした話ではないのだ。
「恋人になってくれないかってストレートに言われただけだよ……。速攻で『無理』って答えたし、社長もすんなり引いたし、それで終わり」
「本当にそれだけか」
「本当にそれだけだよ」
清正は何やらぶつぶつ「なんだよ。あの野郎、思わせぶりなこと言いやがって」と文句を言っている。
何を言われたのかと聞けば、「いろいろだ」と答えて口をへの字に曲げた。
「光をどう思ってるのかとか、ずっとこのままでいいのかとか、どこのお節介おやじだよってツッコミたくなるようなことを根掘り葉掘り聞いてきた。おまけに、俺が何もしないなら自分がどうにかしそうなことを匂わせて」
「なんだ、それ」
「あとは、へんなことも言った。『光が隠している一番綺麗なものを、見たくないか?』とかなんとか」
「俺が隠してる、一番綺麗なもの?」
「何を言ってるのかイマイチわからなかったけど、その一番綺麗なものとやらを、あいつは知ってるような口ぶりだったんだよ。それをあいつにだけ見せるわけにはいかないだろ」
一瞬、しんとなった後で清正が「ヤバイな」と右手で自分の口元を覆った。
「想像したら、鼻血が出そうに」
「バカか」
布団の上に身を乗り出して、清正の頭を叩いた。
清正は、それからもしつこく、堂上はまだ光を狙っているのではないかと繰り返した。
「それはないと思うよ」
「なんでだよ? 根拠はあるのか」
んー、と首を傾げてから、「想像なんだけど」と断って理由を口にした。
「さっき社長、出先だったんだろ? だから、井出さんが来たんじゃない?」
その通りだ、と清正が頷く。
「秩父にいるから、自分はすぐ行けないとか言ってた」
「じゃあ、やっぱりそうだよ」
堂上には決まった相手がいるのだと教えた。
「秩父に? 恋人が? 男か?」
秘密だと言ったが、「教えろ」とうるさいので、「ただの勘だよ」と念を押して、秩父にある村山の事務所に行くと、時々堂上の香水の匂いがするのだと教えた。
休みの日かその翌日には、たいてい残っていた。
恋人かどうかはわからないが、かなり親しいことは確かだ。
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