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【6】-2
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「んー、て言うか……」
事務所の開設に必要な手続きは、全て堂上がやった。
初期の資金繰りも任せた。光の自宅を事務所として登録したのも堂上だ。
独立というのはあくまで名目上のことで、実際のところは、光の事務所も堂上が所有する企業の一つと変わらない。従業員が光しかいないという、ちょっと変わった形態の事業所だと思えばわかりやすい。
他社の仕事を受けた場合の利益など、細かいことがどうなっているのかよくわからないが、堂上のすることなので、薔薇企画にも何かいいことがあるのだろう。
光にとっても、仕事さえ入ってくれば、会社勤めをするより割がいいことは確かだった。今度のようなことがなく、仕事量が同じ程度だったなら、収入は以前の何倍にもなるはずなのだ。
それより何より、自由なのが嬉しい。
会議に出なくていいし、残業規制もかからない。それが一番の魅力だった。
「なんていうか、俺は雇われ店長的なものなんじゃないかな。フランチャイズ店みたいな感じの……」
「店長なら、売り上げの管理くらいするだろ」
「そうか。そうだな」
だったら、どういう立ち位置になるのだろう。
今のところ、光は受注したデザインを完成させて納品するだけでいいのだ。それ以外のことが光にできるとは、堂上も期待していない。
「帳簿とか税金みたいなのは、きっと社長が何か考えて、やってると思う……」
ぼそぼそと告げると、剣呑な表情をしたまま、清正もぼそりと言った。
「あいつ、ゲイだよな」
いつからあいつ呼ばわりになったのだ。そうツッコミを入れると、ポイントはそこじゃないだろと、ポカリと頭を叩かれた。
「ゲイなんだろ」
「他人の性癖を軽々しく口にすることは……」
「急にまともなことを言わなくていい」
もう一度頭を叩かれて、本人が比較的オープンにしていることなので言ってもいいだろうと思い、ゲイ寄りのバイだと答えた。
以前口説かれたこともあるが、それは黙っておく。速攻で断ったし、堂上は笑って引き下がったし、仕事の上で後を引くことも一切なかったのだから、何もなかったのと同じだ。
わざわざ言うほどのことではない。
「……やっぱり、おまえ、しばらくうちにいろ。仕事が少なかったなら、当分入金も当てにできないだろうし、この残高じゃろくに食えないじゃないか」
「なんとかなると……」
「ならない」
会社勤めをしていた時にも、三回ほど同じ失敗をしている。
食事や服に贅沢はしないけれど、気に入った素材を見つけると値段を見ずに買い込むことがある。それが同じ月に何度か続いても、自分で気付かない。
電気やガスが止まって初めて、金がないことを知るのだった。
定期的な収入があったサラリーマン時代でもそうだったのだ。今の状況で、この残高は相当な緊急事態だと清正は言う。
「マジで孤独死あるから」
「う、うん……」
思っていた以上に自分がダメ人間だったことを急に自覚する。
「せめて仕事が安定して収支が落ち着くまで、俺に甘えろ」
「うん。ごめん、清正……」
事務所の開設に必要な手続きは、全て堂上がやった。
初期の資金繰りも任せた。光の自宅を事務所として登録したのも堂上だ。
独立というのはあくまで名目上のことで、実際のところは、光の事務所も堂上が所有する企業の一つと変わらない。従業員が光しかいないという、ちょっと変わった形態の事業所だと思えばわかりやすい。
他社の仕事を受けた場合の利益など、細かいことがどうなっているのかよくわからないが、堂上のすることなので、薔薇企画にも何かいいことがあるのだろう。
光にとっても、仕事さえ入ってくれば、会社勤めをするより割がいいことは確かだった。今度のようなことがなく、仕事量が同じ程度だったなら、収入は以前の何倍にもなるはずなのだ。
それより何より、自由なのが嬉しい。
会議に出なくていいし、残業規制もかからない。それが一番の魅力だった。
「なんていうか、俺は雇われ店長的なものなんじゃないかな。フランチャイズ店みたいな感じの……」
「店長なら、売り上げの管理くらいするだろ」
「そうか。そうだな」
だったら、どういう立ち位置になるのだろう。
今のところ、光は受注したデザインを完成させて納品するだけでいいのだ。それ以外のことが光にできるとは、堂上も期待していない。
「帳簿とか税金みたいなのは、きっと社長が何か考えて、やってると思う……」
ぼそぼそと告げると、剣呑な表情をしたまま、清正もぼそりと言った。
「あいつ、ゲイだよな」
いつからあいつ呼ばわりになったのだ。そうツッコミを入れると、ポイントはそこじゃないだろと、ポカリと頭を叩かれた。
「ゲイなんだろ」
「他人の性癖を軽々しく口にすることは……」
「急にまともなことを言わなくていい」
もう一度頭を叩かれて、本人が比較的オープンにしていることなので言ってもいいだろうと思い、ゲイ寄りのバイだと答えた。
以前口説かれたこともあるが、それは黙っておく。速攻で断ったし、堂上は笑って引き下がったし、仕事の上で後を引くことも一切なかったのだから、何もなかったのと同じだ。
わざわざ言うほどのことではない。
「……やっぱり、おまえ、しばらくうちにいろ。仕事が少なかったなら、当分入金も当てにできないだろうし、この残高じゃろくに食えないじゃないか」
「なんとかなると……」
「ならない」
会社勤めをしていた時にも、三回ほど同じ失敗をしている。
食事や服に贅沢はしないけれど、気に入った素材を見つけると値段を見ずに買い込むことがある。それが同じ月に何度か続いても、自分で気付かない。
電気やガスが止まって初めて、金がないことを知るのだった。
定期的な収入があったサラリーマン時代でもそうだったのだ。今の状況で、この残高は相当な緊急事態だと清正は言う。
「マジで孤独死あるから」
「う、うん……」
思っていた以上に自分がダメ人間だったことを急に自覚する。
「せめて仕事が安定して収支が落ち着くまで、俺に甘えろ」
「うん。ごめん、清正……」
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