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【5】-4
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花びら型やクマの顔が浮き出る複雑な型を光が抜いてみせると、汀の目が尊敬の色に輝いた。
砂を詰める量や詰め加減を丁寧に指導すると、汀の腕はみるみる上がっていく。
夢中になって遊んでいると、聡子が少し呆れたように声をかけた。
「そろそろ家に入ったらどう? 寒いでしょう?」
タイミングよく汀がくしゅんとくしゃみをする。
「中、入るか?」
「もっとあしょぶ!」
コツを掴みかけている汀は作業を続けたがった。
「だったら、上着着てきな」
光の言葉に、「あい」と嬉しそうに頷いて、聡子に駆け寄り大きな声でお願いする。
「サトちゃん、うわぎ、くだしゃい」
「汀の上着はあるけど、光ちゃんは寒くないかしら?」
聡子に言われて、汀が振り向く。
日中の温かさとクルマ移動であることに油断して、光はシャツの上にカーディガン一枚しか羽織っていなかった。
「ひかゆちゃん、しゃむい?」
「んー、今のとこ、まだ平気……」
言ったそばから、ひゅうっと冷たい風が吹き、光は思わずブルッと背中を震わせた。
それをじっと見ていた汀が、ととと、と戻ってきたかと思うと、光の手を引っぱった。
砂場の脇から立たせて、宥めるように言った。
「ひかゆちゃん。おうち、おはいり?」
「もう終わりで、いいのか?」
「ん。おちまい」
こくりと頷いて、それから光に「いいこね」と言うので、思わず笑いが込みあげた。
「よし。じゃあ、もうおうちに入ろうな」
外の冷たい水で軽く手を洗い、家に入ってから洗面所でもう一度よく石鹸で洗った。
「お湯はあったかいなー」
「あっちゃかいねー」
タオルで手を拭いてやりながら、汀に告げる。
「今日、パパ来れないんだけど、俺と一緒におうちに帰れるか?」
「みぎわ、ひかゆちゃんとかえゆ」
いい子だ。
軽く頭を撫でると、汀は嬉しそうに笑ってリビングに走っていった。
光がリビングに入ると、聡子が汀に白湯を飲ませているところだった。
軽く会釈して部屋を横切り、奥の和室に入って仏壇に手を合わせた。線香の煙がまっすぐ上がってゆくのを少しの間見てから「それじゃあ、そろそろ帰ります」と、立ち上がりながら聡子に告げた。
「あ。お夕飯、用意したの。食べてって」
「え、でも……」
「汀も喜ぶし。ね」
聡子がにこにこ勧め、汀も期待を込めて見上げる。
「清正の分はタッパーに入れたから、帰りに持っていってくれればいいし」
本気で勧めてくれているのがわかり、光はありがたく甘えることにした。
汀を預かることは聡子にとって嬉しいことなのだろう。
清正には姉もいるが、結婚した相手が転勤族で今は四国か九州にいると聞いた。
夫を亡くしてから聡子はこの家に一人で住んでいる。汀のいる賑やかな時間は、きっと大切なものなのだろうと想像した。
食事をしながら、聡子が聞いた。
「光くん、自分のおうちにも寄ってきたの?」
「あ、いえ。たぶん留守だし」
両親は数年前にリタイアし、父の故郷である兵庫に移り住んでいる。今は好きな仕事だけ請け負って、悠々自適の暮らしを楽しんでいた。
光が育った家は姉一家の住まいになり、何か用があれば寄るけれど、ふだんはほとんど行くこともなくなった。
聡子に聞かれるまま、自分の近況を話した。
プロダクト・デザインの仕事をしていると言い、簡単に仕事内容を説明すると、聡子は感心したように何度も頷いた。
砂を詰める量や詰め加減を丁寧に指導すると、汀の腕はみるみる上がっていく。
夢中になって遊んでいると、聡子が少し呆れたように声をかけた。
「そろそろ家に入ったらどう? 寒いでしょう?」
タイミングよく汀がくしゅんとくしゃみをする。
「中、入るか?」
「もっとあしょぶ!」
コツを掴みかけている汀は作業を続けたがった。
「だったら、上着着てきな」
光の言葉に、「あい」と嬉しそうに頷いて、聡子に駆け寄り大きな声でお願いする。
「サトちゃん、うわぎ、くだしゃい」
「汀の上着はあるけど、光ちゃんは寒くないかしら?」
聡子に言われて、汀が振り向く。
日中の温かさとクルマ移動であることに油断して、光はシャツの上にカーディガン一枚しか羽織っていなかった。
「ひかゆちゃん、しゃむい?」
「んー、今のとこ、まだ平気……」
言ったそばから、ひゅうっと冷たい風が吹き、光は思わずブルッと背中を震わせた。
それをじっと見ていた汀が、ととと、と戻ってきたかと思うと、光の手を引っぱった。
砂場の脇から立たせて、宥めるように言った。
「ひかゆちゃん。おうち、おはいり?」
「もう終わりで、いいのか?」
「ん。おちまい」
こくりと頷いて、それから光に「いいこね」と言うので、思わず笑いが込みあげた。
「よし。じゃあ、もうおうちに入ろうな」
外の冷たい水で軽く手を洗い、家に入ってから洗面所でもう一度よく石鹸で洗った。
「お湯はあったかいなー」
「あっちゃかいねー」
タオルで手を拭いてやりながら、汀に告げる。
「今日、パパ来れないんだけど、俺と一緒におうちに帰れるか?」
「みぎわ、ひかゆちゃんとかえゆ」
いい子だ。
軽く頭を撫でると、汀は嬉しそうに笑ってリビングに走っていった。
光がリビングに入ると、聡子が汀に白湯を飲ませているところだった。
軽く会釈して部屋を横切り、奥の和室に入って仏壇に手を合わせた。線香の煙がまっすぐ上がってゆくのを少しの間見てから「それじゃあ、そろそろ帰ります」と、立ち上がりながら聡子に告げた。
「あ。お夕飯、用意したの。食べてって」
「え、でも……」
「汀も喜ぶし。ね」
聡子がにこにこ勧め、汀も期待を込めて見上げる。
「清正の分はタッパーに入れたから、帰りに持っていってくれればいいし」
本気で勧めてくれているのがわかり、光はありがたく甘えることにした。
汀を預かることは聡子にとって嬉しいことなのだろう。
清正には姉もいるが、結婚した相手が転勤族で今は四国か九州にいると聞いた。
夫を亡くしてから聡子はこの家に一人で住んでいる。汀のいる賑やかな時間は、きっと大切なものなのだろうと想像した。
食事をしながら、聡子が聞いた。
「光くん、自分のおうちにも寄ってきたの?」
「あ、いえ。たぶん留守だし」
両親は数年前にリタイアし、父の故郷である兵庫に移り住んでいる。今は好きな仕事だけ請け負って、悠々自適の暮らしを楽しんでいた。
光が育った家は姉一家の住まいになり、何か用があれば寄るけれど、ふだんはほとんど行くこともなくなった。
聡子に聞かれるまま、自分の近況を話した。
プロダクト・デザインの仕事をしていると言い、簡単に仕事内容を説明すると、聡子は感心したように何度も頷いた。
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