上 下
48 / 74

【14】ー2

しおりを挟む
 暖かい夜だった。
 みるくを撫でながら、ここ一ヶ月の間に、いろいろあったなぁ…としみじみ思いを巡らせた。
 慎一に会って、まだ一ヶ月なのだと思うと、なんだか不思議だった。

 ほとんど氷とグレープフルーツジュースでも、アルコールを摂取した身体はふわふわと心地よく弛緩していた。
 ベンチの上でみるくを抱いていたら、いつの間にかうとうと寝てしまった。

 慎一の声で目を覚ました。

「どこにもいないから来なかったのかと思った」

 薄い毛布を二枚持っていて、和希とみるくにそれぞれ掛けてくれる。みるくは毛布から這い出して、上に乗って丸くなった。

 くしゅんと、タイミングを計ったように、くしゃみが出た。

「風邪ひいたか?」
「だいじょぶ、と思う。意外と丈夫なんだよ、僕」

 そっか、と笑って慎一が隣に腰を下ろした。
 時計を見るとまだ十二時前で、「お店は?」と聞くと、常連客が引けたので閉めてきたと言った。

「金曜の夜って、書き入れ時なんじゃないの?」
「たまにはいいだろ」

 和希を抱き寄せて髪に小さくキスをした。なんだか幸せな気持ちになって、慎一の肩に頭を預けた。

 小さな星がいくつか瞬いていた。

「田舎のほうに行くと、空一面が星なんだってな」

 慎一が言った。ぼんやりしたまま和希は答えた。

「林間学校で見たかも……。清里かどこかで」
「へえ。どうだった?」
「うん。すごかった……、たぶん……」
「たぶんて、なんだよ」

 慎一が笑う。和希が黙り込むと、肩を抱く力が少し強くなった。

 宿泊行事は苦手だった。家を出てから帰るまで、ずっと緊張していたように思う。

「俺は、そういうのには行ったことがない」

 慎一が言った。

「俺には親がいなかったからな。家族が一人もいなかった。親戚とも縁が切れてたらしくて、四つの時に施設に入った」

 和希が顔を上げようとすると、そのまま聞いてと言うように、ぽんぽんと軽く二回腕を叩かれた。

「高校に入るまで、施設にいた。本当は卒業までいていいんだけど、せっかく入ったのに、高校、すぐ辞めちゃったからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。 召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。 しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・ 本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。 ぜひ読んで下さい。 「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます 短編から長編へ変更しました。 62話で完結しました。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

ざまぁ!をされるつもりが… こんな展開、聞いてないっ

BL
そう、僕は姉上の戯言をいつものように聞き流していた。ここが乙女ゲームとやらの世界の中で自分は転生者なのだと。昔から、それはもう物心ついた頃には子守唄の代わりに毎日毎日、王太子がどうで、他の攻略者があーで、ヒロインがこんな子で、自分はそんな中でも王太子の婚約者でヒロインを苛め抜く悪役令嬢に転生したのだと、毎日飽くほど聞かされていた。 ───だから、僕はいつもと同じように気にも留めず聞き流していた。 それがまさか自分の身に降りかかる受難の始めになろうとは… このときはまだ思いもしなかった。 『…すまない、アラン。姉の代わりに殿下の… 王太子の婚約者を務めてほしい』 「は?」 呼び出された父の言葉に、一瞬 自分が何を言われたのか理解が出来なかった。 ───… これは王太子の婚約者だった姉上が平民と駆け落ちしたことにより、降りかかる僕の受難の物語である─。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...