上 下
28 / 74

【9】ー1

しおりを挟む
 月曜日、カウンターで食事をしていると、一組の男女が店を覗いた。
 慎一がやわらかな笑顔を向けて迎えると、女性のほうがわずかに目を見開いて頬を染めるのがわかった。

 二人は入り口近くのカウンター席に座った。
 和希が席を立とうとすると、「もう少し、いたら?」と慎一が笑う。

「待っててくれれば、戻ってくるし」

 和希は頷いて、椅子に座り直した。

 カップルらしき二人は慎一にいくつか質問をして、それぞれ別のカクテルを注文した。
 女性は何かシェイクするものをと頼んだらしく、慎一が銀色のシェイカーに酒を入れて振り始める。

 手足が長く、身体の線が美しい慎一が銀の容器を振る姿は、ドラマか映画のワンシーンのようで、レトロな店によく映えた。
 カクテルグラスに透明の液体が注がれる。縁に飾られた砂糖と底に沈むミント・チェリーがアンティークな照明に照らされて、キラキラ光った。

 その全てに、和希はすっかり見とれてしまった。
 男性の前にはマティーニが置かれた。オリーブを浸したその有名なカクテルは、さすがに和希も名前を覚えた。

「シャカシャカってするの、かっこいいね」

 戻ってきた慎一に言った。

「何?気に入った?」
「うん。シャカシャカするのも飲みたい」
「普通のレシピで、これが飲めるようになったらな」

 まだ色の薄いブルーのカクテルを指で示して、慎一が笑った。

 翌日からは、カップルの女性だけが、一人で店にやってくるようになった。

 シェイカーを振る慎一を見つめ、瞳をきらきら輝かせている。和希の後ろを通りながら、岩田が苦笑交じりに囁いた。

「ありゃあ、慎一に惚れたな」
「モテそうですもんね…、慎一」
「あの顔だからな。背も高いしさ。でも、慎一は絶対、客の女の子とは付き合わないよ。あのこも、何回か通った後で告って振られて、来なくなるな」

 いつものことだと岩田が笑う。

「だから、女の客が増えないんだ。気持ちよく酒が飲めればいいっていう、ちょっとくたびれた勤め人のおっさんばっかり残る。まあ、先代の時からそうだったし、変わらないほうが、俺たちはありがたいけどな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

僕を愛して

冰彗
BL
 一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。  ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。 その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ
ファンタジー
9/11 コミカライズ再スタート! 神様は私を殉教者と認め〝聖人〟にならないかと誘ってきた。 だけど、私はどうしても生きたかった。小幡初子(おばた・はつこ)22歳。 渋々OKした神様の嫌がらせか、なかなかヒドイ目に遭いながらも転生。 でも、そこにいた〝ワタシ〟は6歳児。しかも孤児。そして、そこは魔法のある不思議な世界。 ここで、どうやって生活するの!? とりあえず村の人は優しいし、祖父の雑貨店が遺されたので何とか居場所は確保できたし、 どうやら、私をリクルートした神様から2つの不思議な力と魔法力も貰ったようだ。 これがあれば生き抜けるかもしれない。 ならば〝やりたい放題でワガママに生きる〟を目標に、新生活始めます!! ーーーーーー ちょっとアブナイ従者や人使いの荒い後見人など、多くの出会いを重ねながら、つい人の世話を焼いてしまう〝オバちゃん度〟高めの美少女の物語。

年上の夫と私

ハチ助
恋愛
【あらすじ】二ヶ月後に婚礼を控えている伯爵令嬢のブローディアは、生まれてすぐに交わされた婚約17年目にして、一度も顔合わせをした事がない10歳も年の離れた婚約者のノティスから、婚礼準備と花嫁修業を行う目的で屋敷に招かれる。しかし国外外交をメインで担っているノティスは、顔合わせ後はその日の内に隣国へ発たなたなければならず、更に婚礼までの二カ月間は帰国出来ないらしい。やっと初対面を果たした温和な雰囲気の年上な婚約者から、その事を申し訳なさそうに告げられたブローディアだが、その状況を使用人達との関係醸成に集中出来る好機として捉える。同時に17年間、故意ではなかったにしろ、婚約者である自分との面会を先送りして来たノティスをこの二カ月間の成果で、見返してやろうと計画し始めたのだが……。【全24話で完結済】 ※1:この話は筆者の別作品『小さな殿下と私』の主人公セレティーナの親友ブローディアが主役のスピンオフ作品になります。 ※2:作中に明らかに事後(R18)を彷彿させる展開と会話があります。苦手な方はご注意を! (作者的にはR15ギリギリという判断です)

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

満月に囚われる。

柴傘
BL
「僕は、彼と幸せになる」 俺にそう宣言した、想い人のアルフォンス。その横には、憎き第一王子が控えていた。 …あれ?そもそも俺は何故、こんなにも彼に執心していたのだろう。確かに彼を愛していた、それに嘘偽りはない。 だけど何故、俺はあんなことをしてまで彼を手に入れようとしたのだろうか。 そんな自覚をした瞬間、頭の中に勢い良く誰かの記憶が流れ込む。その中に、今この状況と良く似た事が起きている物語があった。 …あっ、俺悪役キャラじゃん! そう思ったが時既に遅し、俺は第一王子の命令で友好国である獣人国ユースチスへ送られた。 そこで出会った王弟であるヴィンセントは、狼頭の獣人。一見恐ろしくも見える彼は、とても穏やかで気遣いが出来るいい人だった。俺たちはすっかり仲良くなり、日々を楽しく過ごしていく。 だけど次第に、友人であるヴィンスから目が離せなくなっていて…。 狼獣人王弟殿下×悪役キャラに転生した主人公。 8/13以降不定期更新。R-18描写のある話は*有り

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの
BL
オメガで生まれなければよかった…そしたら人の人生が狂うことも、それに翻弄されて生きることもなかったのに…絶対に僕の人生も違っていただろう。やっぱりオメガになんて生まれなければよかった… 今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そして今度こそ、今度こそ幸せになりたい。  幸せになりたいと願ったオメガと辛い過去を引きずって生きてるアルファ…ある場所で出会い幸せを掴むまでのお話。 R18の場面には*を付けます。

処理中です...