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荒い息が整うと、ルイが話し始めた。
呪いは、ずいぶん遠い昔にかけられたもので、王子という立場と圧倒的な美貌を誇り、それを笠に着て、驕り高ぶっていたルイを戒めるためのものだった。
「僕は、傲慢で我儘で、愚かだった。ありがちな設定すぎて、恐縮だけど」
今さらである。
「雨の間だけ人の姿になれる。それ以外は醜いウシガエル。人の姿でいる間に運命の相手に出会い、本当に愛されなければ、呪いは解けない……。とてもオーソドックスな魔法だけど、解くのは本当に難しくて……」
最初のうちは簡単に考えていた。人の姿でルイが口説けば、たいていの者が恋に落ちたからだ。
けれど、ウシガエルになったルイを見ても愛してくれる者は一人もいなかった。
時代が進むと、誰もルイの話を信じなくなった。ルイを知っている者はいなくなり、何百年もの間、呪いを受けたまま生きてきた。
梅雨という名の雨の季節があると聞き、はるばる日本までやってきた。それからどれだけの年月が流れたかわからないという。
雨が降る日を待って、ルイは運命の相手を探し続けた。
最初からウシガエルの姿で出会ったのは、雫が初めてだったという。
「ウシガエルの僕にも雫は優しかった。最初にお礼に来た時は怪まれたけど、次の日には、雫はちゃんと話を聞いてくれた」
雫はいつも親切で、一緒にいるうちに、この人かもしれないと思うようになった。
性別は気にならなくなっていた。
「男性と交わるのは初めてだったけど、雫とならできると思った。というより……」
カエルのままのルイと番おうとしていると知った時、いてもたってもいられなくなったとルイは言う。
「その時にはもう、雫が欲しくて仕方なかった。そして、心から愛した相手に『好きだ』と言われた。あの瞬間、僕の魔法は解けた」
もう、ウシガエルに戻ることはない。
「よかった……」
しみじみと頷きながら、ふと首を傾げた。
「今、『好き』って言われた瞬間、魔法が解けたって言ったよね。もしかして、えっちは必要なかったの?」
ルイは黙って目を逸らした。
「……」
(まあ、いいか……)
あんな気持ちのいいことをされて、怒る道理はないだろう。
「あ、でも、ルイは、ハイドランジア王国に帰っちゃうの?」
お伽噺の中の国へ。
ルイは寂しそうに首を振った。とうの昔に国はなくなってしまった。長い呪いの間に、ルイだけが生き延びてしまったのだと言って。
また泣きそうになる麗しの王子を、雫はぎゅっと抱きしめた。
「僕がいるよ」
金色の髪をゆっくり撫で、自分が守るから大丈夫だと囁く。
「元の世界に戻れなくても、この世界できっとやっていける」
今の日本で生きてゆくにはさまざまな問題があるだろうが、カエルの姿に変えられていたことを思えば、些細なものだ。
何かと役に立ちそうな人材もいるしと、店長の顔を思い浮かべた。
窓を開けると雨はすっかり上がっていた。
ルイはカエルに戻らなかった。世にも美しい笑顔を雫に向けている。
実家から送られてきた桃の箱が床で光を浴びていた。
(こんなふうに……)
本が大好きで、それでも世の中の流れに抗えず、大切な書店を畳んだ両親。その二人も、今はこうして美味しい桃を作りながら、第二の人生を幸せに生きている。
新しい世界を見つけるのは楽ではないけれど、きっと道はあるはずだ。
梅雨の終わりを知らせるように、晴れやかな空に大きな虹がかかっていた。
☆おわり☆
最後までお読みいただきありがとうございました。
呪いは、ずいぶん遠い昔にかけられたもので、王子という立場と圧倒的な美貌を誇り、それを笠に着て、驕り高ぶっていたルイを戒めるためのものだった。
「僕は、傲慢で我儘で、愚かだった。ありがちな設定すぎて、恐縮だけど」
今さらである。
「雨の間だけ人の姿になれる。それ以外は醜いウシガエル。人の姿でいる間に運命の相手に出会い、本当に愛されなければ、呪いは解けない……。とてもオーソドックスな魔法だけど、解くのは本当に難しくて……」
最初のうちは簡単に考えていた。人の姿でルイが口説けば、たいていの者が恋に落ちたからだ。
けれど、ウシガエルになったルイを見ても愛してくれる者は一人もいなかった。
時代が進むと、誰もルイの話を信じなくなった。ルイを知っている者はいなくなり、何百年もの間、呪いを受けたまま生きてきた。
梅雨という名の雨の季節があると聞き、はるばる日本までやってきた。それからどれだけの年月が流れたかわからないという。
雨が降る日を待って、ルイは運命の相手を探し続けた。
最初からウシガエルの姿で出会ったのは、雫が初めてだったという。
「ウシガエルの僕にも雫は優しかった。最初にお礼に来た時は怪まれたけど、次の日には、雫はちゃんと話を聞いてくれた」
雫はいつも親切で、一緒にいるうちに、この人かもしれないと思うようになった。
性別は気にならなくなっていた。
「男性と交わるのは初めてだったけど、雫とならできると思った。というより……」
カエルのままのルイと番おうとしていると知った時、いてもたってもいられなくなったとルイは言う。
「その時にはもう、雫が欲しくて仕方なかった。そして、心から愛した相手に『好きだ』と言われた。あの瞬間、僕の魔法は解けた」
もう、ウシガエルに戻ることはない。
「よかった……」
しみじみと頷きながら、ふと首を傾げた。
「今、『好き』って言われた瞬間、魔法が解けたって言ったよね。もしかして、えっちは必要なかったの?」
ルイは黙って目を逸らした。
「……」
(まあ、いいか……)
あんな気持ちのいいことをされて、怒る道理はないだろう。
「あ、でも、ルイは、ハイドランジア王国に帰っちゃうの?」
お伽噺の中の国へ。
ルイは寂しそうに首を振った。とうの昔に国はなくなってしまった。長い呪いの間に、ルイだけが生き延びてしまったのだと言って。
また泣きそうになる麗しの王子を、雫はぎゅっと抱きしめた。
「僕がいるよ」
金色の髪をゆっくり撫で、自分が守るから大丈夫だと囁く。
「元の世界に戻れなくても、この世界できっとやっていける」
今の日本で生きてゆくにはさまざまな問題があるだろうが、カエルの姿に変えられていたことを思えば、些細なものだ。
何かと役に立ちそうな人材もいるしと、店長の顔を思い浮かべた。
窓を開けると雨はすっかり上がっていた。
ルイはカエルに戻らなかった。世にも美しい笑顔を雫に向けている。
実家から送られてきた桃の箱が床で光を浴びていた。
(こんなふうに……)
本が大好きで、それでも世の中の流れに抗えず、大切な書店を畳んだ両親。その二人も、今はこうして美味しい桃を作りながら、第二の人生を幸せに生きている。
新しい世界を見つけるのは楽ではないけれど、きっと道はあるはずだ。
梅雨の終わりを知らせるように、晴れやかな空に大きな虹がかかっていた。
☆おわり☆
最後までお読みいただきありがとうございました。
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