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【23】-5

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 間違えるはずがない。
 初めて会った時から惹かれていた。玲はまだ子どもで、彼は遠い国のホテルで出会った若いポーターで、滞在客とスタッフとしての短い交流しかなかった。
 たった二週間。
 挨拶とささいな会話と笑顔だけの小さなやり取り。旅先から帰れば二度と会えないとわかっていた。彼はきっと、玲を忘れてしまう。
 幼い恋の記憶。自覚もないまま、大人になって初めて、あれが初恋だったと振り返り懐かしむような、淡い気持ち。
 大人になって。
 少しずつ冷静に考えることを覚えて、彼の容姿には誰でも惹かれるだろうこと、彼は誰にでも優しいのだということに気づいて、自分は幼かったと笑う。心の奥、思い出を集めた抽斗《ひきだし》に、そっとしまいこんで忘れる。
 どんなに好きだったか、どんなに離れたくなかったか、全部結晶のように小さな光に閉じ込めて、時々取り出して眺める。そんな想いだ。
 けれど、玲の記憶の一部は十二年間どこかを彷徨っていた。
 完全に戻ってきたのはほんの数時間前だ。
『好き……、大好き。トモ……』
 生身の感情がそのまま胸に残っている。
 好きで、好きで、どうしようもなかった気持ちが残っている。
 ドアの外にいる男は違う。十二年、思い出をゆっくりと昇華させながら生きてきたはずだ。そもそも十二年前の玲の恋心が一方的なものだった気がする。
「玲……?」
 それなのに、同じ優しさで玲の名を呼び、形は違っても、昔と同じように玲を甘やかす。
「どうして……?」
「聞いてるのは僕のほうだよ? どうして、出てくるのが嫌なんだ?」
 周防が小さく笑う。
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