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第二十九話:アロン覚醒

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 二人で抜け出してしまったが言い訳はどうするか。正直に話すとアロンの正体を明かす必要が出てくるのではないか。最後まで隠そうとしていたし、俺の口からは言えない。かと言って、アロンはあの三人に積極的に話したがらない。俺の口先だけで乗り切れるものだろうか。
 考えがまとまらないうちに三人と合流する。やはり心配して待っていたようだ。腰に手を当て、怒りをあらわにしている女騎士にとがめられた。

「ソーサク、アロンとどこ行っていた?心配したんだぞ」
「……モノ・ヴァレルと戦う作戦会議かな」
「戦うって言ったて、ピノたちは後方支援しかできないぞ☆」
「いいえ、秘策があります」

 今まで俺の後ろにピタリと隠れていたアロンが前に出た。ここはアロンに任せてみるか。

「ヴァリアブルスレイザー。ファレーノ家に代々伝わる最強の魔法です。全てを貫き、破壊する最強の魔法。これを使えば、彼の魔王ですら倒せます」
「けどその魔法はファレーノ家しか使えないんじゃ……アロン?もしかして」

 すっとぼけるレタンと対照的に、ピノとカミシモが凶悪な笑みを浮かべた。

「やっと白状する気になったか」
「……待ってた」
「はい、アタシの名前はアロン・アール・ファレーノ。ファレーノ長女にして、英雄ダイン・アール・ファレーノの妹です。って、ピノさんもカミシモも気づいてたのね」
「えっえっ」

 レタン、気づいていなかったのか。

「そ、そんなわけないぞ。ちょっと、ほんのちょっとだけ気づくのが遅れただけだ」
「はいはい、それで?ピノちゃん質問。なんでさっき使わなかった。いや、使えなかったの?」
「確かに強力なんだけど、使いまでに時間がかかるの。なんせ昔の言葉で術を起動しないといけない上に、それを今の魔法で組みなおさなきゃいけないからね」

 あれだけ火球バンバン打ってれば無理か。どのくらい時間必要なんだろうか。

「沢山。しかもその間アタシの魔法の威力は弱くなる、でも心配はしていないよ。ゴーレム戦で分かったけど、みんな時間稼ぐの得意じゃん。任せたよ」

 簡単に言ってくれるなぁ。

「ふふ、いつものお返し」

 さっきあれだけ大口叩いたんだ。何とかしてみせるさ。

「分かった。作戦は俺に任せて。ピノさ、ここに書いてある物を用意してほしんだ。たぶんだけど、エイジンさんに言えば一発だと思う」
「ち、読めねえな、二人だけの暗号かよ。エイ、ジン?ああ、上司か。分かったよ、いつも一人だけ安全地帯に居やがって。今度こそ巻き込んでやる」

 小麦粉、乾燥した土など魔王との戦いで役に立つとは思えない物を書いて、メモの切れ端をピノに渡すと、どこか楽しそうに受け取った。物資はこれで揃うはずだ。

「ねえソーサク」

 アロンに呼ばれた。

「他に何か必要なものは?」
「うーん。あ、最強のエフェクト担当。できれば色んな魔法が使えて、昔英雄とか呼ばれてたような人がいいな」
「それならここにいるよ。前前職は魔法使いで、前職はカイジュウのエフェクト担当。君たちの仲間になりたいな」
「よろしく」

 改めてアロンと仲間たちが握手を交わす。最弱にして最強のメンバーがそろった。
 レタンが一番豪華で大きな宿を指さした。

「よし、兄上に交渉しに行くぞ」

 モノ・ヴァレル戦線、俺たちも参戦だ。



 レタンの顔パスで急襲騎士団の拠点となった宿に押しかける。
 騎士団の驚愕の視線を受けながら、折れた武器や空の瓶を描き分けて奥へと進む。
 レタンのお兄さんはベッドの上で上半身を起こし、指示を与えていた。俺たちを見ると手に持っていた書類を落とすも、すぐに厳かな顔つきになる。

「レタン、何しに来たんだ」
「兄上、お願いがあって参りました」

 左腕には包帯が巻かれているのに戦えそうな雰囲気を出している。さすがレタンが憧れるだけあるな。
 兄貴のプレッシャーを意図もせず、妹は真正面に立ち、見慣れたお辞儀をした。

「魔王モノ・ヴァレルと戦わせてください」
「ダメだ。君たちに勝てる相手ではない」

 今までならここで突き返された。だけど、今回の俺たちは一味も二味も違う。

「このお方がいてもですか?」

 レタンが避けてアロンが対峙する。
 騎士団長は赤いドレスに赤髪を見つめると、驚愕した表情に変わり、その口からはもしやとかすかに動く。
 アロンは胸に手を当て、ふうと息を整える。がんばれ、アロン。

「初めまして。アタシはアロン・アール・ファレーノ。今は亡き英雄、ダイン・アール・ファレーノの妹です」
「なんと、行方不明と聞いていたが、生きていたとは」
「おかげさまで。ところで、団長様、魔王モノ・ヴァレルの角、片方失われていましたがお気づきになられたでしょうか?」
「ああ、手負いだったこともあり、今のところ死者は出ていない。角を折った人に礼を言いたいよ」
「あれを折ったのはアタシです」
「なんと!」
「アタシたちはモノ・ヴァレルと交戦経験があり、敗北したとはいえ善戦しました。十分通用するかと思います」
「なら我々の騎士団と合流して……」

 騎士団長の言葉を遮るかのように、アロンは首を横に振った。

「嬉しいお誘いですがお断りします。モノ・ヴァレルはこれまで何度も人と戦ってきました。騎士と魔法使いを並べた戦いは向こうも熟知しているはずです。しかし、アタシはこの者たち、特にソーサクはこれまでの常識にとらわれない戦法を得意とします。アタシは彼らとの連携に勝機があると確信しています」
「……分かった。そこまで言うのなら口出しはしない。ただ、撤退ルートの確保や補給部隊、作戦に必要とあれば一緒に戦わせてくれないか。君たちを援助することはさせてほしい」
「いえ、その必要は……んソーサク?」

 ちょんちょんとアロンを突いて交代するよう合図する。
 騎士団は正攻法で、俺たちはいつもの作戦で負けた。なら、今回は一捻り必要だろう。

「ぜひお願いします。今回の作戦は人が多い方がいいですから」

 俺一人が不敵に笑う。疑問符を浮かべるアロン達が印象的だった。
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